再浮上なるか。
今季の関東大学リーグ戦1部にあって、前年度最下位の関東学院大が最終節を残して3勝3敗で勝ち点20。8チーム中4位で、2011年度以来となる大学選手権出場(進出枠は上位3傑)の可能性を残す。
2006年度まで10年連続で選手権の決勝に進み、通算6度の日本一に輝いた「カントー」。2007年度の不祥事、2012年度以降で計3度の2部降格を乗り越えたいま、往時の魅力をそのままに好ゲームを繰り返している。
大胆な展開と果敢な防御が光る。
3年の丸尾瞬は、ナンバーエイトからフッカーに転じたばかりもスクラムで奮闘。もともとの長所であるコンタクトの強さとフットワークの鋭さもアピールしながら、フォワードリーダーとして集団をモチベートする。

「チームで選手権に行きたい思いが高まっていて、それが勝利に繋がっています。練習中から『我慢しよう』と、ミスが続いた時は『シンプルなプレーを』と言い合っています。(ボールを)継続すれば点を取れる」
話をしたのは11月9日、栃木・足利ガスグラウンドでのことだ。リーグ戦第5戦目で、戦前まで1勝3敗だった法大を29-14で下していた。
この日は序盤にミスがかさんで前半12分までに0-14とされるも、ハーフタイムまでに17-14と勝ち越した。
再三訪れたピンチは、2年の庄司晴太、3年の大島昌之の両フランカー、4年センターの安藤悠樹の好タックルでしのぎ、終盤に加点した。多彩なスキルとコンビネーションがさく裂した。
安藤はこうだ。
「ジュニアメンバー(控え組)に法政さんの動きをしてもらって(トレーニングに)取り組んできて、その成果が随所に出ました。(劣勢の時間帯も)皆、前向いて、『やってきたことをやれば追いつく』と話していた」
今年度は、東京サントリーサンゴリアスでアナリストを担う築城康拓氏を招聘。攻撃戦術とエリアごとのプレー選択を整理していた。丸尾は頷く。
「このエリアだったらこのプレーを…。この相手にはこのプレーが効く…。そういった分析をしてくれるのが大きいです」
黄金期のOBでもある榎本淳平監督は、地に足をつけながらも手応えを語る。
「きょうは入りがよくなかった。浮足立っていました。でも、それも経験です。本人たちは『おそらくここを勝ったら次の景色が見える』という認識でいたと思います。ただ、そんなに甘くはないじゃないですか。現実に引き戻されたのが(先制された)最初の時間帯でした。そこからスイッチを入れ直し、プレッシャーをかけられた。よくコミュニケーションを取って(改善できた)。成長していますよね」

看板はラリー・ティポアイ-ルーテル。身長192センチ、体重116キロのナンバーエイトだ。法大戦では貴重なスティールを繰り出し、豪快な突進を重ねた。
試合後、会場の入り口付近で単独取材に応じた。雨の降る肌寒い日だったが、タンクトップ姿で「大丈夫」。最初に示したのは、ライバルを讃える言葉だった。
——フル出場したきょうの80分間を振り返ってください。
「最初の入りがあんまりよくなかった。でも、やってきたことはできていた。…で、法政、すごく強かったです。やっぱり、これが法関戦ですね」
口をついたのは「法関戦」。2000年代の関東大学リーグ戦で上位争いを繰り広げていたカードでもある。サモア出身で10歳からニュージーランドに移住の21歳は、歴史を軽んじない。
来日は2019年。岡山・倉敷高で最初の留学生ラグビー部員となった。3年時はチーム史上初の全国大会出場を果たした。その年度末には、高校日本代表候補のエキシビションマッチでもプレーした。
卒業後は復権を期す関東学院大へ入り、いまに至る。1部復帰2季目の今シーズンは、安藤とともに共同主将を託される。
責任感で動く。
——ラリー選手が感じた通り、法大は強烈なタックルで関東学院大を苦しめていました。もっともあなた自身は、足元へ突き刺さられながらも倒れずにそのまま前進することが多かった。パワーを発揮する秘訣は。
「足は、ふたつある。…(詳細は)教えないでください、皆さんに。秘密です!」
——10月12日、一昨季までリーグ戦6連覇の東海大に敵地で激突。この時、前半27分で退きました。しかし、その後すぐに復帰していますね。
「湘南鎌倉(総合)病院の先生たちに本当に助けてもらいました。リハビリとかで。酸素カプセルにも入っています。チームとは練習していますけど、フルコン(タクト)は抜けることも」
——満身創痍ながら、本番では献身します。
「痛くても、心があるので。あとは、復活させる気持ちが非常にあります。最後までやりたい。大学選手権が見えてきた。あとふたつの試合がある(16、29日にリーグ戦の残り2つを控える)。全力で頑張る。…皆、調子いいですしね」
——確かに。今回も、攻め続けて点を取れなかった直後でも、慌てた様子がなかったです。
「そう。最後まで落ち着いている。1分の間にミスがあっても、試合はあと79分ある。我慢するしかない」
——主将として意識することは。
「背中で引っ張ることですね。安藤選手が喋ってくれるし、ラリーはやることを全力でやるだけ」

ちなみに10月の東海大戦を20-31で落とすと、複数の記者を前に際立つ発言を残した。
自身が怪我で抜けたことで、対戦校を助けたのではといった主旨を軽い口調で述べたのだ。ほぼそのまま各所に載った。
当時について触れると…。
「その時に感じたこと(を伝えた)。言い過ぎという部分もある。相手に失礼。申し訳ないです」
——若くて明るいラリーさんが威勢のよい台詞を発すること自体、さほど悪い印象は与えないような気がします。
「本当に申し訳ないです。東海大さんに」
リスペクトの心を重んじる。
卒業後はリーグワン1部で戦う。加わる予定のクラブには世界的選手もいるかもしれず、「若い頃から見てきた選手と練習ができる。嬉しいです」と微笑む。
日本代表入りへも意欲的だ。エディー・ジョーンズ ヘッドコーチの謳うコンセプトを踏まえて語る。
「超速ラグビー、ですよね。大学まではフィジカルキャラ。プロに行ったら、スペースへ走る!」
もっともいまは、学生ラストイヤーに集中する。
——この先、どんなプレーヤーになりたいですか。
「カントーを復活させた男になりたいな」

混とん状態のリーグ戦で揉まれる。11月16日には神奈川・ギオンアスリートパークでそれまで1勝の立正大に10-20で敗れた。3位の流経大との勝ち点差は4となった。
勝ち点は勝ったら5、負けたら1、引き分けたら3ずつ積み上げられ、7点差での敗戦や3トライ差以上での勝利があればボーナスポイントとしてそれぞれ1ずつ与えられる。
残る最終戦で流経大が勝つか引き分ければ、関東学院大の結果にかかわらず流経大が3位となる。
一方、流経大が負け、関東学院大が最終戦に勝てば勝ち点25で並んで4勝同士となり、関東学院大が3位となる。
勝ち点が同じチーム間での順位を決める際は「全試合の勝利数」「当該チーム同士の勝ち点」の順で見比べる決まりがあり(その他6項目)、関東学院大は流経大との直接対決を制して「当該チーム同士の勝ち点」で上回っているためだ。
関東学院大は11月29日に現在最下位の日大と、流経大は同30日に首位の東海大とそれぞれぶつかる。関東学院大としてはボーナスポイントつきの勝利で勝ち点を26とし、天命を待つのがベストだ。