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クワッガ・スミス[静岡ブルーレヴズ]◎青への愛。母国への誇り。
1993年6月11日生まれ。32歳。180センチ、99キロ。南アフリカ代表キャップ63。元セブンズ南アフリカ代表。(撮影/松本かおり)

クワッガ・スミス[静岡ブルーレヴズ]◎青への愛。母国への誇り。

田村一博

 13回のタックル成功に3回のターンオーバー。1月17日にヤマハスタジアムでおこなわれた三菱重工相模原ダイナボアーズ戦で、56分間の出場ながら静岡ブルーレヴズの今季2勝目に貢献した。

 南アフリカ代表キャップ63を持つクワッガ・スミスは、今季が同チームのキャプテン3季目(2022-23シーズンの共同キャプテンも含めると4季連続)。2025-26シーズンは第2節以降のすべての試合に先発出場を果たしている。
 チームは5戦で2勝3敗と負けが先行も、先の勝利をきっかけに上昇気流に乗りたい。

 2018年度から静岡に暮らし、現在32歳。スミスは今季序盤戦を振り返り、「勝てる試合はもっとあったと思います。しかし、勝ち切ることができなかった。それが正直なところです」と話す。

 攻め切れない。勝ち切れない。その要因に目を向けて修正、練習した結果がダイナボアーズ戦では出た。チャンスに全員で反応し、攻めた。求めていた光景だ。
「チームとしてのポテンシャルは高いと思っていますし、細かいところをしっかり直していければ、もっと勝てると思っています」

セブンズ代表の経験もあり、ランも得意。レフリーとのコミュニケーションも主将の大事な仕事。「そこは英語で話しています。日本のレフリーも、世界を目指す上で話せる人も多いので」。レヴズにいる間に言葉を覚えても、代表活動で長く日本を離れている間に……を繰り返していると笑う。(撮影/松本かおり)


 来日して今季が9年目。トップリーグ/リーグワンの通算出場試合数は67になった。
「最初の何年かは、自分のベストを尽くすことだけを考えていました。しかしキャプテンになると、もっと責任が伴う。しかし、やらなければいけないことも増えると、経験を重ねただけ自分の考えもまとまる」
 成長の足を止めないから、インターナショナルの舞台でも活躍し続けられる。

「自分のプレーを通してリードできるキャプテンでありたい。アクションで見本になる」と言う。
「常にたくさん喋るのではなく、必要な時に必要なことを話すキャプテンでいたいと思います」

 長く日本でプレーしてきて、この国の変化も体感している。
「私が来た頃、ゲーム(の展開)ははやかったけどハードではなかった。でもいまは、リーグの規模も大きくなって、フィジカルさは高まり、ゲーム数も増えた。昔のスーパーラグビーと似てきています。全体的なクオリティーが上がりました」

 チーム愛と地域への愛着については、「このチームで本当にたくさん成長させてもらいましたし、このエリアが大好きです。チームに長くいる選手たちも同じように、特別な気持ちを持っています。お金より価値のあるものがここにある。間違いなく第二の故郷です」と語った。

 ワールドクラスの選手たちが日本ラグビーの中で成長できる理由を、「インターナショナルとは確かに違うラグビーですが、日本のラグビーははやいので、フィットネスは上がる。その分、ディシジョンメイクもはやくしないといけない」。
 文化が違う中でプレーするだけでも、それは人としての成長につながると考える。

「高いパフォーマンスを出さないといけない。そんなふうに考える責任感も人を強くするし、違う文化を持つ人たちとのプレーも刺激になる」

静岡の穏やかな気候も気に入っている。「北海道、白馬、石垣島など、国内のいろんなところに行きました」。地元(静岡)での釣りも楽しみのひとつ。(撮影/松本かおり)



 日本でのシーズンを終えてインターナショナルの舞台に戻る時、あらためて調整は必要なのか。
「スプリングボックスで言うなら、タクティカル(戦術的)な要素がとても高いので、そこへの対応は必要です。でも、南アフリカ代表は2019年(ワールドカップ)以降、システムに大きな変化はないので、(自分自身の)切り替えはそこまで難しくありません。コーチが求めていることを理解し、遂行するだけです」

 2025年11月1日にロンドンでスプリングボックスと戦った日本代表の選手たちは、日本でプレーする南アフリカ代表の選手たちのパフォーマンスが、リーグワンで戦っている時と比べて何倍もの強度と感じたそうだ。
「南アフリカ代表のいまのラグビーは、6年をかけて作りあげてきたものです。なので、長く代表でプレーしている選手たちは、自分の仕事を明確に理解しています。個人がそれぞれの強さで戦うのではなく、システムの中に一人ひとりが当てはまり、仕事をする。だから日本代表が一人ひとりがより強いと感じたのは、そのシステムの中で、全員がひとつの絵を見て、(チームとしての)ひとつのプレーをしたからだと思います」

 スミスは、「スプリングボックスはブルーレヴズほど練習しません」と言う。
「もっとショートでシャープです。その代わり、限られたチャンスの中で、どう取り切るかを考える。分析など、オフフィールドでやることはたくさんあります。相手の映像を見たり、やってくることの予想も。そこは普段、日本のチームでやっていることよりもやっています」
 昨秋の日本代表戦に向けても変わらなかった。
「試合の1週間、2週間前から、パシフィックネーションズカップの映像を見て、チームと各選手の強みは分かっていました」

 リーグワンでプレーしている間も、スプリングボックスからの特別なトレーニングメニューを渡されることはないのか。
「例えば今シーズンなら、リーグワンが始まって3月ぐらい、シーズン中盤までは自由にプレーさせてくれます。ただ、その後は(代表チームの)オンラインミーティングが始まり、自分の(日本での)プレー内容をチェックした結果を伝えてくれます。タックルやパスなどについて具体的なフィードバックを受けながら、自分のパフォーマンスを分析した結果をもとに話し合う。そしてシーズン後に南アフリカに戻った後、あらためて(その時の課題について)話し合う」

相手のボールを奪い取るプレーは、「いろんなコーチからの教えのお陰」。高校時代から得意になった。(撮影/松本かおり)



 ラッシー・エラスムス体制自体の進化がスプリングボックスを、より高めている。
「ラッシーは2018年に現職に就任し、それからチームに関わり続けています(HC→ディレクター・オブ・ラグビー→HC)。そういう状況もあるので、何かを変えていくというより、当時のシステムをベースに、そこに新たなものを付け加えたり、先に進めていく。キック中心だった2019年にやっていたことを、タクティカル(戦略的な)ゲームに進化させました。もっと強くならないといけない、と。そこにトニー・ブラウンら新しいコーチも入ってきて、アタックのマインドセットを植え付け、オプションも増えた。それまでのプランを使いながら、アタックオプションをもっと進化させた。変えるのではなく、(相手を上回るために)やらなければいけないことを良くしていった」

 噛み砕いて言うと、「トニー・ブラウンはニュージーランド人で、日本でもコーチをしていたのでランニングプレーが好きです。ラッシーとのいい関係性を築いて、キックとランの、全体のバランスが洗練されたと思います。「いつ走るか、いつキックするか、という判断が明確になった」

 時間をかけて作り上げた選手層の深みも、スプリングボックスが長く最強を維持できている理由になっているという。
「ラッシーはおそらく、ここ2年ぐらいでスプリングボックスに50人ほどの選手を起用しているでしょう。結果、スコッドの中に競争を生み、若い選手に経験を与えている。そうなると、誰かが怪我しても、若い人が入ることができる。シニアメンバーは、毎試合に出なくてよくなって、出た試合で全力を出すことに集中できるんです」

 世界最強国の中で、180センチ、99キロの男が欠かせぬ戦力になっている事実に、勇気をもらう日本のプレーヤーも多い。
「確かに私は大きくない。それでインターナショナルレベルで戦うなら、ハードワークをするのは前提です。その上で自分の強みを理解し、それを最大限に生かす」
 各自の役割が明確なスプリングボックスなら、「そこに集中しながらも他の人のプレーを学び、(チームがやろうとしていることを実現するために)バランスをとる」。そんなふうに考え、実践できるから頼られる。

1月17日、ダイナボアーズに勝利した後、ファンの声援に応える。(撮影/松本かおり)



「自分の能力を使い、相手に対し、どこで勝つのかを考える。相手が大きくても遅いかもしれない。その場合、自分がいいランナーなのか、いいフットワークの持ち主なのか、そこを突き詰める」
 ただ、考え過ぎないことが大事。
「その瞬間に何をすべきか考える力こそ重要。頭の中でいろんなプランを考えることは誰でもできる。そうではなく実際のゲームの中で、いま何をしないといけないか、何ができるかを判断し、それを実行できるか、です」

 この人のプレーをできるだけ長く日本で見続けたい。
 そう思う人も多い中で、次回ワールドカップが開催される2027年は、スミスの中でも人生の中で何かを判断すべきタイミングと考えているようだ。

「先のことは、まだ分かりません。いまは目の前のシーズンに集中しています。ただ次のワールドカップは健康でいられるなら、ゴールの一つになる。あと2シーズンをベストな形で過ごせれば、ワールドカップでもプレーできると思っています。それ以外はまだ何もゴール設定はしていません」

 ブルーレヴズで優勝することも、必ず果たしたい夢の一つと言っていた。
 ファンの笑顔を楽しみにする人だ。その言葉に嘘はない。




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