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きついですよ。
そう呟く表情が明るいのは、猛練習にヘトヘトになりながらも、それが心地いいからだ。
日本代表の宮崎合宿中、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチの声が何度も響いた。
練習中、そして試合形式の攻防の途中に、「コターキー」。視線の先には、194センチ、110キロの32歳の姿があった。
コベルコ神戸スティーラーズでの2023-24シーズンの試合出場は3試合だけ。それなのに5月、菅平での代表候補合宿に呼ばれ、6月の宮崎合宿にもバックアップメンバーとして招集された。
菅平に呼ばれたとき、最初は「きついと聞いていたので、呼んでもらったことはありがたく思いましたが、正直きついな、と少しブルーな気持ちもありました」と本音を吐露する。
しかし、山を降りる日には、「本当に来てよかった」と変わっていた。
「年齢的に、最近は体の衰えを感じていました。でも合宿に参加し、エディーさんが言うように、限界なんてない、これからでも成長できると実感しました。本当に来てよかった」
胸の中のブルーは、赤く変わっている。やる気に火がついた。
だから6月になって日本代表のバックアップメンバーに入り、宮崎合宿に参加することになって喜んだ。
「本当に嬉しかった。菅平で年齢に関係なく成長できる幅は無限と教えてもらい、自分でも、それに気づけたことは大きかった。またエディーさんのもとでトレーニングをしたいと思っていました」
ハードワークが続く日々に、ふらふらになりながら必死についていく。心が折れそうになった時、「コターキー」の声が聞こえる。
「一貫して厳しい声が飛んできますが、いいことは褒めてくれる」
その声にモチベーションが高まる。
「期待に応えられないようなことはしたくない」と、力を振り絞って走り続けている。
序盤に1試合と、終盤に2試合。それだけに終わった今季を振り返る。
両膝の調子が悪かった。その影響もあり、体にキレが出ず、もともと自信のあった短い距離のスピードも落ち、ラインアウト時のジャンプもままならない。
もう若くない。悶々としていた。
デイヴ・レニーHCからは、よくハードワークはしてくれていると評価される一方で、インパクトあるプレーが足りず、起用に踏み切れないと説明があった。
「めげずに準備しておいてほしい」の言葉に従い、出番を待った。
そんな自分を「あまあま。甘かった」と自嘲する。
あれができない、これができないは、「それらのプレーをちゃんとできるようになるトレーニングをしていなかっただけでした。そのくせ勝手に諦めていた。みっともなかった」と言う。
本気で練習に取り組んでいるつもりだった。しかしそれも「頑張った気になっていただけでしたね」という。
若い頃は、自分なりの頑張りでどうにかなっていた。しかし年齢を重ね、それでは足りないのに、精一杯と勝手に線を引いていた。
試合機会のない状況に酒量も増えた。シーズン終盤に2試合出て、モチベーションは、「来シーズンも頑張るか」程度だったかもしれない。
「年齢のこともあり、(試合に出られないのは)ちょっとずつ諦めも出てきていました。今回、ジャパンに呼んでもらったことで目が覚めていなければ、いつの間にか消えていたかもしれません」
代表活動では、ジョーンズHC以外にも自分を成長できる機会をもらっている。
スポットで指導にあたっているヴィクター・マットフィールド コーチ(元南アフリカ代表LO/2007年W杯優勝)はラインアウトのスペシャリストだ。その細やかなアドバイスに驚いている。
足の運び。セットの位置。そしてジャンプの仕方。
「これまでやってきたものがゼロに戻るくらい全部違うんです」
前に一歩踏んで飛ぶ動作ひとつをとっても、足の運びによってまったく違うパフォーマンスとなる。
「桑野(詠真/静岡ブルーレヴズ)と、確かにこっちの方が大きく、はやく動けるしいいな、と。自分で正しいと思っていたことに、まだ良くなる可能性があった。感動しているし、その部分だけでも成長ですよね」
その桑野とはLOのコンビを組んで、6月29日におこなわれるマオリ・オールブラックス戦に出場する。
キャップ11。2021年11月のポルトガルとのテストマッチに出場して以来の国際舞台だ。
この試合で活躍し、再びテストマッチに出場することこそ、大きな気づきを与えてくれた指揮官への恩返しとなる。
「全身全霊でやっています」と言いながら、「でも、これも『つもり』になっているだけかもしれない。だから、やった気にならないようにしないと。とにかく目の前のことを本気でやろうと思います。まだできる」と笑顔で自分にベクトルを向ける。
その気持ちは、もし代表活動から外れ、所属チームに戻っても持ち続ける。
「プロとしてやっています。いま、できるだけ長くしたいと思っています。エディーさんに38歳までやれる、と言われていますし」
つい数か月前の、弱っちい自分が懐かしい。