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皆さんは厄年と言われる年齢をどうお過ごしになられただろうか?
厄年の起源は平安時代頃に遡り、江戸時代に定着していったものらしい。
地域の共同体の中で様々な役割を与えられる「役」の回ってくる年齢になった、ということが語源であり、厄年と言われる年齢は社会の中で役割が変化していくとともに、身体的、精神的な変化も訪れやすいため、注意せよ、という先人の教えである。
お寺や神社へ厄払いに行ったり、そもそもそんなに気にせず過ごしたり、人によっていろいろだろう。
しかし、どこの神社にも厄年の看板が掲げてある。楷書体の太字で、これから3年間あなた厄年でっせ、とあんなにもぎょうぎょうしく言われたら、日常にあった不運な出来事をあぁ厄年だからか、と結びつけがちになってしまいそうだ。
ともあれ、良いこともあれば悪いことも起きるのが人生だから、あまり厄に縛られずに生きたい。それが本音である。
そもそも女性の30代は前厄と後厄の前後1年間を合わせたらほぼ厄年である。厄に前と後までつけないでいただきたいところだし、それならば年男年女だって前後2年間くらいかけてありがたがってもらわなければ割に合わない。

まぁそんなことはさておき、30代に2度訪れる本厄の年は私の場合、東京オリンピックとパリオリンピックにバッチリ重なっていた。4年に1度のオリンピックに2回も合わせてこないでほしいところだ。
もし役所みたいな組織に猶予申請できるものならしたかったが、こればっかりは、もう抗いようがない。
古代ギリシャ発祥の平和の祭典のテンポと、東の果ての日出る国の厄年のテンポが重なることで困る人はあまりいないのだろう。
しかし、少数ではあるがきっと、日本の30代女性アスリートたちの中には、私のようにビクついている人はいる。ただでさえ、年齢的に30代のオリンピックは貴重である。経験者としては、オリンピックが厄年に当たる女性アスリートをみんな新橋あたりに集めて、大丈夫大丈夫、と背中をさすってあげたい気持ちだ。
大厄と言われるビッグウェーブを極力うまく乗り越えられるように、とはいえそんなに気にし過ぎないように、厄除けに行ったりしながら、それなりに気をつけて生活していたつもりだった。
まぁ結果的に、大厄の32歳の年、パンデミックでオリンピックが延期となった。
後厄の33歳で、オリンピックメンバーから落選となった。
そもそもこの期間は世界中が等しく苦労した時期である。そんな時期にオリンピックが、とか、自分の都合の厄年が、と云々とは言うつもりは全くないし、実力不足を認める他はない。

しかし、まぁ割とそんなこともあって、自分的には正直、再度迫りくる女性の30代2度目の本厄の年にビビリにビビリまくっていた。次のオリンピックでまた本厄が回ってくるとなると、いくら日常的に靴下が裏表でも気にならない私でも、韓国で購入したボディークリームがボディーソープだったことに使い終わるまで気がつかないような鈍めな私でも、どうしても気になってしまう。
というかベーブ・ルースとかバリー・ボンズ級のパワーヒッターがネクストバッターズサークルでぶんぶん素振りしているような恐ろしさを常々感じていた。
もはや何が起きても仕方ないし受け入れようとは思っていたし、表向きは、さも気にしていないような、「次のオリンピックはメンバーに入っても入らなくてもどちらに転んでもやり切ったと思えると思います」、なんてスカしていたが、裏ではめちゃくちゃ熱心に厄除けに行っていたのだった。
そして迎えた本厄36歳でのパリオリンピック、ありがたいことにメンバーに入ることができた。叶った夢も叶わなかった夢も、全部が美しく思えたし、4年に1度の夢の舞台をあらためて噛み締めることができた。翌年の後厄の年齢で腎臓が割れる怪我はしたけれど、ラグビーをやる以上は多少の怪我はつきものであるし、気の持ちようとモノの考え方である。
さて、ミラノ・コルティナオリンピックが先日閉幕した。努力が結果に実った競技にも、望んだ結果とならなかった競技にも、戦い抜いたすべての選手とスタッフの4年間に敬意を表したい。
厄年と重なってビビり倒した前回のパリ五輪を思い出して今月はこんなコラムを書いてみたが、今回の冬季五輪でも本厄にあたる年齢で金メダルを獲得した選手もいらっしゃる。本物は、厄年には左右されないのだ。

冒頭の話に戻るが、厄年は「役割が回ってくる年」である。自分のためだけではなく、周りのために自分の力や時間を使う年齢ということであろう。与えていただいた機会や環境に感謝し、ラグビーって素敵なスポーツだな、と多くの人たちに思っていただけるよう役をまっとうできたらば本望である。
2026年で厄年が明けた私だが、このコラムを書いているからなのか、通販サイトで厄除けに効果がある赤パンツがオススメに出てくるようになった。せっかくなので1着買ってみようと思う。
新橋で30代女性アスリートたちに夜な夜な赤いパンツを配る不審者がいるらしい、という都市伝説が聞こえてきたら、それはきっと、わたしだ。