フランス代表はオーストラリア戦(11月22日)の勝利で2025年を締めくくったが、この11月のシリーズで露呈した不安を払拭することはできなかった。
初戦の南アフリカ戦(11月8日)は、60分を過ぎるまで僅差ではあるがフランスがリードしていた(17-13)。しかし、64分にWTBルイ・ビエル=ビアレがシンビンで10分間の退場となった途端に崩れ、17-32で敗北を喫した。
ファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)は「彼らは今シーズン10試合目を戦っていたが、私たちは2週間前に集まったばかり。練習も5回だけで今季最初の試合」と語り、準備期間の短さを敗因に挙げた。
しかし、60分まで奮闘していた姿よりも、最後の20分のエネルギーも気持ちも切れてしまったイメージだけが強く残った。「長いシーズンを終えた直後の夏のテストマッチで、フランス代表の選手に疲労が溜まっていることは理解できるが、シーズンが始まったばかりの11月で、なぜこんなに疲労が溜まっているのか?」、「トップ14開幕から9連戦ですでに疲労が溜まっているのか?」、「トップ12にするべきなのか?」という声が、メディアやファンの間でも上がった。
次戦のフィジー戦(11月15日)は34-21で勝利したが、早い時間帯にCTBピエール=ルイ・バラシ、さらに交代で入ったエミリアン・ガイユトンが相次いで脳震盪で途中退場となり、FLオスカー・ジェグーが急遽CTBに入るというアクシデントもあった。序盤20分で21-0とリードしながら、後半の初めには同点に追いつかれ、71分のCTBニコラ・ドゥポルテールのトライまで緊張が続いた。試合終了の笛が吹かれた時、フランスの選手たちに笑顔はなかった。
この日もガルチエHCは「今日は私たちにとって2試合目。相手は10試合目。今回も6月にシーズンを開始したチームとの対戦だった」と現地中継局のマイクに訴えた。
しかし、この日のフィジーの23人のメンバー中、8人はパシフィックネーションズカップに出場していない。さらに6人は、フランス代表選手と同じようにトップ14で今季すでに6〜8試合に出場している。
しかもフランス代表のシリーズ初戦の前週(11月1-2日)、プロテクトされた23人のフランス代表選手が、パリ郊外のマルクッシの合宿所のテレビの前でトップ14を観戦していた時も、この6人のフィジーの選手はそれぞれのクラブの試合に出場していたのだから、説得力に欠けた。
最終戦でオーストラリアに48-33で勝利した直後、ガルチエHCは「4年前と比較すると、私たちは完成度も劣り、強さも劣っている。様々な理由で4年前と同じレベルにない」と現状認識を示した。
4年前の2021年11月、フランス代表は連勝街道をスタートさせ、2023年2月に当時の世界ランキング1位のアイルランドに敗れるまで(19-32)、14連勝という記録を達成した。
その間にニュージーランドを破り(2021年11月、40-25)、シックスネーションズでグランドスラムも収め(2022年3月)、南アフリカにも勝利した(2022年11月、30-26)。

一方この秋、レ・ブルーはフィジー戦でようやく4連敗に終止符を打ったものの、かつての強みであったディフェンスは脆くなり、簡単にラインブレイクされる状況が散見された。この3回のテストマッチだけで12トライを許し、2020年1月のガルチエ体制発足以来、1年間でこれほど多くのトライを許した年はない。
オーストラリアのディフェンダービートンの数は22に上り、レ・ブルーのディフェンスの甘さがうかがえる。ガルチエHCは「問題は特定したが、まだ修正できていない」と認めており、「ディフェンスでの立ち位置と、ミスをせずにタックルを継続する能力が課題だ」と分析している。
平均失トライ数は1試合あたり1.9から3.1に増加し、特にオフサイドの多さが懸念されている。
さらに高かった規律も低くなり、不用意なペナルティを繰り返した。南アフリカ戦で13、フィジー戦で11、オーストラリア戦で12と、規律の問題は改善されなかった。FBトマ・ラモスは「1週間ずっと、自分たちの規律の悪さについて話しているのに、試合開始から1分足らずでペナルティを取られてしまう」と苛立ちを隠せない。
ペナルティは失点に直結する。CTBガエル・フィクーは、ペナルティからキックで攻め込まれ、ラインアウトモールで3トライを決められた点を挙げ、「モールディフェンスは非常に難しくなってきている」と分析している。
一方で、ガルチエHCはアタック面の進化を強調し、「4年前と比較すると、当時の平均トライ数は1試合あたり3.2だったが、2025年では1試合あたり4トライ」であり、「アタックに関して言えば、世界のトップ3に入るチームだとさえ言える」と主張した。
「レキップ」紙のデータによると、敵陣22メートル内に入った回数は今年のシックスネーションズより少ないものの、22メートル内に入った1回あたりの得点は3.3点で、キルター・ネーションズシリーズ参加国で最多であり、フランスのアタック効率の良さを示している。
しかし、オーストラリア戦で約50点、7トライを奪ったにもかかわらず、「個人技に頼っていて、組織的なアタックが見られない」、「アタックのプランはあるのか?」との批判は多い。ガルチエHCは記者会見で「今年、オーストラリアから50点を取ったチームが他にあるでしょうか?」と逆に記者たちに問い返したが、今年のシックスネーションズでトライ数の記録(30)を樹立した時と比べると、今シリーズのアタックは消極的に感じられたのも事実である。
ガルチエ体制の初期はラックなどのカオスな状態からターンオーバーして一気にトライを取り切るスタイルを得意としていたが、2023年にレフリングの指針がアタック側に有利になったことで、ラック内でのスティールの数は1試合平均8.1から4.3に減った。
これに適応するため、今年のシックスネーションズではボールを保持し続けてアタックを仕掛ける場面が以前よりも多く見られている。
元フランス代表SHのジャン=バティスト・エリサルドは「今回も新しいアタックのシステムは見られた」と解説している。フィールド中央でFWが細かいパスを繋ぎ、ディフェンスラインを突いて数的有利を生み出す戦術が、オーストラリア戦のトマ・ラモスのトライに繋がったと分析する。
この場面がもっと多く見られなかったのは、「ラックで優勢になれず、早い球出しができなかった」、「タイミングがずれたり、パスが繋がらなかったりと、連携が取れていなかった」ためだという。
ガルチエHCは「11月のシリーズ中に何かを導入しても、すぐに機能するわけではないことを我々は知っている。練習し、試合で試し、次の大会になってようやく検証されることがよくある。ですから、我々が導入したことの中には、完全には機能しなかったものもあるが、慌てないでください。それは普通のことです。たとえ相手に分析され、解読される可能性があっても、それは機能するはずです」と理解を求め、「強いフランス代表は冬に見ることができる」とも言っていた。
また、エリサルドは「この3戦で選手の焦りを感じた」とし、ボールをキープするか、相手にボールを持たせて次の機会を狙うかという判断にストレスを感じているように見えたと考察する。
そこで頭に浮かぶのが、アントワンヌ・デュポンの不在だ。
エリサルドは「デュポンはプレーを加速するか、ボールを手放すかという判断が誰よりも早くできる。また、試合中に感じるチームメイトのストレスを自信に変えることができる存在」だと言う。
さらに、フィールドプレーでも爆発的な力を発揮するHOペアト・モヴァカ、ブレイクダウン、ディフェンス、アタック、全ての分野で陰の仕事を黙々と、完璧にこなすFLフランソワ・クロス、そしてディフェンスの要でありながらアタックでも相手のラインにぶち当たって道を開き、チームを前に進めるCTBヨラム・モエファナの不在も響いた。彼らは2か月後のシックスネーションズには復帰が見込まれている。
懸念材料として、ウイニ・アトニオ(35歳)が今もセットピース、フィールドプレーでのハンドリングにおいてもナンバーワン右PRで、彼に代わる選手が見つかっていないことが挙げられる。
今シリーズ全3試合で3番のジャージーを託されたレジス・モンターニュ(25歳)について、「わずか2年前までプロD2でプレーしていたレジス・モンターニュが成し遂げたことに非常に満足している。彼は力をつけてきており、我々は彼を信じています」とガルチエHCは評する。
モンターニュは、昨季グルノーブルからクレルモンに移籍し、トップ14のレベルに慣れてきたばかりのところで、夏のNZ遠征に招集されて国際試合のレベルを初体験した。引き続きシックスネーションズでも彼が起用されるのか注目される。
今回のシリーズで、FLアントニー・ジュロンがようやく、膝靱帯を負傷する前のレベルを取り戻すことができたことが確認された。
また、同じく膝靱帯の手術を受け、1年ぶりに代表復帰したFLシャルル・オリヴォンも復帰戦となったフィジー戦にLOで出場し、リーダーシップを発揮した。また、ビエル=ビアレをサポートし、トライを仕上げる姿を見て、「キング・シャルル、3度目の大怪我から完全復活!」とファンは感動した。
しかし、続くオーストラリア戦にFLで先発出場した際、開始5分で相手のNO8ハリー・ウィルソンのタックルを受け、頭部にショックを受けた。
「シャルル(オリヴォン)は、衝撃を受けた直後から気分が優れず、そのことをレフリーに伝えた。でもレフリーはディフェンスの観点から問題ないと判断したため、僕たちはそれ以上強く主張しなかった」とSHマキシム・リュキュが当時の様子を語る。
このプレーはビデオ判定されず、オリヴォンはフィールドに残った。ゲームの流れに合わせて動いてはいるが朦朧としている。最終的に10分後にオスカー・ジェグーと交代した。
後半にスタッド・ド・フランスのスクリーンにオリヴォンの姿が映し出された際、左目の上が腫れ上がっているのが確認された。現在はプロトコルに従って競技復帰を目指している。

また、希望を感じさせる若い戦力の台頭もあった。豊富な運動量でどこにでも現れるFLオスカー・ジェグー(22歳)が評価を上げた。ピンチヒッターでCTBもこなし、先発ではなくても、23人のメンバーには今後も入るのではと言われている。
そして、ありあまるエネルギーでボールを持っていない時も走り回り、鋭い嗅覚でフィジー戦、オーストラリア戦でそれぞれ2トライをあげたCTBニコラ・ドゥポルテール(22歳)への期待もさらに高まっている。
ジェグーとドゥポルテール、さらにLOユーゴ・オラドゥは2023年のU20チャンピオンシップで優勝した世代であり、ビエル=ビアレと共に2003年生まれの選手が定着し始めた。
鮮烈な代表デビューを果たしたのが、オーストラリア戦の後半、ガエル・フィクーに代わって出場したCTBカルヴィン・グルグ(20歳)だ。ピッチに入って7分で敵のディフェンスを突破した。
「あれ、止められなかった!」と少し驚いたと試合後に語っている。
「突破したら、とにかくフィニッシュしなければならない。サポートを探したら、左にルイ(ビエル=ビアレ)の赤いヘッキャが見えて、彼にパスを出さなくちゃ」と思いながらボールを持って走ったそうだ。その顔には喜びが溢れていた。
50メートルを全速力で駆け抜けて、放たれたパスは鋭く、正確で、美しかった。ビエル=ビアレがトライラインを超える前に片手を突き上げて祝ってしまった。
グルグは12歳でトゥールーズに入団し、フレデリック・ミシャラク、クレマン・ポワトルノー、そしてロマン・ンタマックに続く逸材と言われている。
2023年に18歳でトップ14デビューしたが、左足の膝裏を通り、脚全体に血液を供給する膝窩動脈にできた血栓が見つかり手術を受けた。2024年の夏には血液をサラサラにするための化学療法を受け、さらに2025年1月には損傷した動脈の代わりに、太ももから採取した静脈を使って新しい動脈を作り、縫合するという手術を受け、ようやく昨季終盤にエスポワールの試合でフィールドに帰ってくることができた。
その後U20チャンピオンシップに参加し、今季はトップ14開幕から7試合に出場、早くもセンセーションを巻き起こしている。

そして、オーストラリア戦の1週間後(11月29日)、トゥールーズでデュポンが戦列復帰した。50分、トゥールーズは22-3でリードしていた。しかも対戦相手のラシン92は1人レッドカードで退場になっている。復帰戦に好ましい状況だった。
ピッチに入ってすぐに、プレーできることが嬉しすぎて、自陣トライゾーンから、キックで陣地を回復せずにボールをパスでまわした。結果、それが敵のトライに繋がってしまったものの、そのあとは8か月もピッチを離れていたとは思えない判断と動きでチームを指揮した。本人も「まだ上げていかなければならない部分はあるが、感触はいい」と満足そうだった。
まもなくチャンピオンズカップが始まる。シックスネーションズに向けて徐々に調子を上げていくだろう。2月には主力が揃い、ガルチエHCが言うように「強いフランス代表」を見せ、2027年W杯に向けて勢いをつけることができるだろうか?
フランスは初戦でアイルランドをホームのスタッド・ド・フランスで迎え撃つ(現地時間2月5日)。