logo
【ニュースが止まらない/仏・トップ14】ノヌーの価値。暴言、ファンとの衝突も。
トゥーロンのCTB、マーア・ノヌー。43歳。ニュージーランド代表キャップ103。(Getty Images)

【ニュースが止まらない/仏・トップ14】ノヌーの価値。暴言、ファンとの衝突も。

福本美由紀

 トップ14の第7節(10月18日-19日)。一つの変化が見られた。
 フランスプロリーグ運営団体のLNRは今季開幕時、レフリーへのリスペクトを示すため、試合前に両チームの選手が「花道」を作ることにした。
 しかし、そのレフリーを迎え入れるセレモニーを早くも廃止した。

 この「花道」形式は、レフリーは「居心地が悪い」と言い、チームからは「試合前の時間が長くなる」と不評だった。トンネルから出てきた選手はキックオフの位置につき、最後にレフリーが試合球を持って入場するという以前の形式に戻された。
 形式だけのリスペクトは必要ないだろう。

 前節を終えてスタッド・フランセとともに首位に並んでいたポーとトゥールーズの直接対決は、終始リードされていたポーが80分を過ぎてから逆転に成功し、満員御礼のホームで30-26の劇的な勝利を収めた。スタッド・フランセもカストルに24-29で敗れたため、ポーが単独トップに躍り出た。

 今季好調のトゥーロンはホームでラシン92に45-21と快勝した。試合後の会見でトゥーロンのピエール・ミニョニHCは、「おそらくこれまでで最も完成度の高い試合だった」と評した。

 ミニョニHCは、この試合には2つの目標があったと語っている。一つは「先週のクレルモン戦での不甲斐ないパフォーマンスを挽回するために、サポーターの前で素晴らしい試合をすること」、そしてもう1つは、マーア(ノヌー)のトゥーロンでの100試合目を祝うために素晴らしい試合をすること」だった。

 43歳のノヌーは、今季、これまで2試合出場して2トライを挙げていた。この試合でもパワフルなランを見せてトライを挙げ、トップ14での最高齢トライの記録を更新中だ。

トゥーロンのラシン92戦メンバー。クラブの公式Instagramより


 ミニョニHCはノヌーを称賛し、「彼を軽視する人がいるが、彼は尊敬されるに値する。今日100試合目を迎え、43歳でこれほどのプレーをするというのは非現実的だ。彼は毎日、プロフェッショナリズム、そして求められた時に応える能力を示している。私が一緒にプレーしていたタナ・ウマンガも40歳だったが、こんなことは滅多にない。マーアは試合に先発出場しなくても、途中出場するたびにチーム全員に影響を与えている」と述べた。

 これは、2週間前のテレビのラグビー番組でのセバスチャン・シャバルの「若手の活躍の場を奪っているのではないか。どこかの時点で次に進まなければ」という発言に対しての反論でもある。

 チームメイトのPRダニー・プリゾは「レキップ」に語っている。
「練習は朝7時からなのに、彼は朝5時30分には到着している。練習を終えてみんなが帰る頃になっても、まだ体幹トレーニングをし、ストレッチをおこなっている。その後、アイスバスに入って、若手選手とミーティングもしている」と語り、「しかも、その若手選手たちはノヌーのことをYouTubeのハイライトでしか知らなかったんだよ」と驚きも見せている。

 この試合は、今年の1月4日に右膝の前十字靭帯の断裂という大怪我を負ってピッチから離れていたFLシャルル・オリヴォンの復帰2戦目となった。ゲームキャプテンの予定だったLOデイヴィッド・リバンズが体調不調のため欠場することになり、急遽キャプテンに任命されたが、チームの先頭に立ちピッチに入る姿は従来通りの貫禄を感じさせた。カメラが彼の後ろ姿をアップで捉える。背負う番号は「4」。トゥーロンはLOの負傷者が出ていて、少し微妙な状態なのだ。オリヴォンがLOでプレーするのはプロのキャリアでは2度目のこと。前回は2021年5月に遡るが、この日も穴埋め以上の働きを見せ、ミニョニHCは「LOでプレーするためのあらゆる能力を備えている」と称賛し、今後のオプションとして期待を寄せた。

 この勝利でトゥーロンは8位から5位に浮上した。9月21日のトゥーロン対ラ・ロシェルが激しい嵐のため11月8日に延期された。そのため、トゥーロンとラ・ロシェルは1試合少ない状態だが、この試合にトゥーロンが勝っていれば、ポーと同点首位になっていた可能性もある。

 現在、1位のポー(勝ち点23)から、12位のクレルモン(勝ち点14)までは、1試合で大きく順位が入れ替わる可能性があり、今後の展開がまだ予想できない状態だ。しかし、13位のモントーバン(勝ち点3)、14位のペルピニャン(勝ち点0)とは大きく差が開いており、上位12チームを「トップ12」と皮肉らる声もある。

 モントーバンは昨季プロD2のレギュラーシーズンを6位で終え、大方の予想に反して、プレーオフでコロミエ、ブリーヴ、グルノーブルとトップ14昇格に向けて強化を進めてきたチームを破って優勝した。しかし、プロD2残留を目標にしていたクラブで、6月8日に昇格が決まってからではリクルートもできず、厳しい1年になることが予想されていた。
 プロD2にプレーオフは適切なのか?
 レギュラーシーズンで1位のチームが昇格する方が適切ではないかという声も上がっている。

 第7節を終えてまだ勝ち星はないが、モンペリエ戦での引き分け(22-22)で勝ち点2を、カストル戦では敗れたが(28-32)、5点差以内の敗戦で与えられるディフェンディングボーナス1を獲得した。積極的に攻めるラグビーを実行しようとするが、ミスが多く失点も多い。クレルモンには84点と大量失点を許した。

 フィールド外では、昨季獲得したプロD2の優勝盾が盗まれるという事件が発生した。モントーバンが所在するタルヌ=エ=ガロンヌ県の農業組合連合が主催する農業見本市で展示するために貸し出していた9月20日から21日の夜にかけて盗難に遭って以来、国家憲兵隊の捜査にも関わらず見つかっていない。
 この状況を受け、農業組合はLNRにレプリカを制作するための見積もりを依頼。費用は12,000ユーロ(約211万円)に上ると見込まれており、農業組合が全額を負担すると報じられている。

 また、キャプテンのFLフレッド・ケルシーの発言が騒動の的にもなった。9月3日、ウェブサイト「RugbyPass」に掲載されたインタビューの中でケルシーは、2012年から2014年にモンペリエで指導を受けたファビアン・ガルチエ代表HCについて極めて率直に語った。

「彼は僕が指導を受けた中で、議論の余地なく最高のコーチだった。キャリアの中で良いコーチに恵まれてきたが、それでも彼が最高だ。だが、同時に彼は人間的には最低のクズでもあった」(現在はサイト上のインタビューからこの発言は削除されている)

昨季、プロD2の優勝盾を掲げるモントーバンのキャプテン、フレッド・ケルシート。トップ14の公式Instagramより


 事態が炎上したのは9月22日、フランス協会がこの問題を取り上げ、モントーバンに対しケルシーの出場停止処分を通知し、フランス協会の懲戒委員会が招集されたと書面で伝えた時だった。ケルシーは弁護士を立て、9月25日には出場停止処分が解除された。ただし、その2日後のモンペリエとの試合には出場しなかった。

「フレッド・ケルシーの容認できない発言を鑑み、我々は協会の懲戒委員会に付託することを選択し、一般規則に則り、委員長が暫定的に出場資格を停止することを決定した」とフランス協会のシルヴァン・ドゥルー事務総長は説明する。そして、「その間にLNRと協議した結果、LNR側がこの案件について管轄権があるとの見解を示したので、LNRの懲戒委員会に本件が委ねられた」と付け加えた。

 10月15日、「フランスラグビーの最重要利益を侵害した」として、ケルシーはLNRの懲戒委員会からの呼び出しを受けた。下された処分は、厳重注意と執行猶予付きの3000ユーロ(約52万円)の罰金。LNRは無罪にせず協会の面子を保ち、出場停止や除名のような重罪にせず選手のキャリアを守った。

 ケルシーの発言は品位を欠いているし、褒められたものではないが、あくまでもケルシーの個人的な意見だ。フランス協会として「フランスラグビーの最重要利益の侵害」と大義名分を掲げて大げさに処分するよりも、ガルチエHCが個人として「公然侮辱」で訴えを起こしていた方が、「権威で個人の発言の自由を抑える」というイメージが付かずに済んだのではないだろうか。

 ちなみに、スタッド・フランセやモンペリエ、トゥーロンを指導していた頃のガルチエHCを「厳しすぎた」、あるいは「侮辱的であった」と批判する声はこれまでもあった。ガルチエ自身もそれを否定せず、時には辛辣すぎたり、見下すような態度を取ったりしたことを認めている。
 現在は代表チームで、自身が選んだ優れた選手だけでチームを作れるということもあるが、彼自身も年齢とともにまるくなった。選手への要求は厳しいものの、選手との関係を築く努力も感じられる。

 モントーバンよりもさらに緊迫した空気に包まれているのはペルピニャンだ。勝利も引き分けもディフェンディングボーナスもまだなく、7連敗中である。
 昨季、入替戦で勝利して残留を決め、今季はクレルモンから、フィジー代表のベテランバックローのペゼリ・ヤトや、ボルドーでキャプテンを務めていたFLマアマドゥ・ディアビらが加入し、チームに経験をもたらすことが予想されていた。さらにスコットランド代表のFLジェイミー・リッチーも獲得し、トップ6とまではいかないが、より安定したチームになるだろうと期待もされていた。

 しかし、開幕前にLOポソロ・トゥイランギが右脚疲労骨折で、そして開幕節に司令塔のSOジェイク・マッキンタイヤーが右膝前十字靭帯を負傷。昨年同様、主力が次々と怪我に倒れた。アルゼンチン代表のNO8ホアキン・オビエドの不在も痛かった。

 5連敗した後、2人のコーチがクラブを去った。その後のリヨン戦では、闘志を見せて60分まで食らいついていたが(19-23)、力尽き、その後3トライを許して最終スコア19-44で敗れた。

 第7節では、加入したばかりのジェイミー・リッチーをゲームキャプテンに任命したが、相手は前節トゥールーズに大敗を喫したボルドー。その大敗の様子をコーチ席で恨めしそうに見つめていたSOマチュー・ジャリベールが、ペルピニャンのスタジアムでマスタークラスのゲームコントロールを見せた。
 新しく加入したオーストラリアのユーティリティBK、ジョーダン・ペタイアも後半から初出場したが、彼までボールが渡らない。ペルピニャンは12-27で敗れ、またしてもディフェンディングボーナスも取れなかった。

 試合後の会見でフランク・アゼマHCは、「ボールをキープし、トライを決めたい。仕掛けもしたし、ラインブレイクもしたが、ハンドリングエラーやラインアウトでボールを失い、アタックを継続できない。その半分でも確実にできていれば、もっと有利な状況に立てたはず。結局、また30点近く失点した。私たちは本当に最後までやり遂げているのだろうか? 試合開始2分で自陣ゴール前に追い込まれ、危険に晒されてイエローカードをもらってしまう。あまりにも簡単すぎる。シーズン初めからずっとこんな調子だ。毎週、進歩している点は見えるが、求められる基準に達していない。最下位にいるのは偶然ではない」とフラストレーションを感じていた。

悩み多きペルピニャンのSO、トリスタン・テダー。クラブの公式Instagramより


 一方、ペルピニャンの一部の過激なサポーターもクラブを悩ませている。
 去る9月20日に、ペルピニャンのホームのスタッド・エメ・ジラルで行われたラシン92戦で、選手同士の小競り合いが発生し、そこへ数人のサポーターがプラスチックのカップやビールを選手たちに投げつけ、さらに1人のサポーターが柵を飛び越えて闖入(ちんにゅう)した。このサポーターは警備員によってすぐに取り押さえられ、小競り合いに加わることはなかった。

 ペルピニャンは、この事件を断固として非難し、闖入したサポーターに対し刑事告訴をおこなった。このサポーターは翌日、警察の勾留施設で一夜を過ごしており、法的措置に直面する可能性がある。クラブによると、この人物はシーズンパス会員でも、エメ・ジラルの常連でもないということだ。

 また、カップやビールを投げ込んだ者に対しても告訴しており、監視カメラの映像を身元確認のために提出している。

 さらに、「熱狂は良し、リスペクトも」というスローガンを掲げた広報キャンペーンをおこない、秩序を乱す行為と戦うため、サポーターグループとの間で新たな規約を交わした。

 LNRは本件で、まず選手間の小競り合いに対して罰金5000ユーロ(約88万円)(うち2000ユーロは執行猶予付き)を科した(ラシンも同額の処分)。サポーターの闖入に対しては罰金5000ユーロ。カップやビールの投げ込みに対しては罰金4万ユーロ(約700万円)と、ホームゲームの2試合をホーム以外の中間地点でおこなうペナルティー(うち1試合は執行猶予付き)を科した。

 さらに、ボルドー戦の2日前の会見でSOトリスタン・テダーがSNSや街中での一部のサポーターから受ける心ない振る舞いについての想いを吐き出した。
「街にも行かないし、レストランにも行かない。どこに行こうと、人々はいつも何か言ってくる。ここだけでなく、トゥールーズでも、バイヨンヌでも、どこでもあることだけど。僕たちは素晴らしい職業を持っている。でも人々は僕たちも彼らと同じ人間だということを忘れている」

『レキップ』によると、この発言には選手やスタッフも驚いたようだ。
 開幕以来の連敗で自分たち自身に直接影響が及んだり、家族の一部が標的になったりする問題を訴えているものの、熱狂的で、時には暴走することもある。
 しかし、16番目の選手としての絶大な力となってくれるサポーターを怒らせることは避けたかった。

 ボルドー戦のあとアゼマHCは、「これは皆に影響を与えているが、私に関しては街を歩くのを妨げるものではないと言っておこう。もし誰か私に何か言いたいことがあるなら、直接私に言えばいい」と事態の収拾を図ろうとした。

「今夜の観客は非常に良かった。常に私たちを応援してくれた。トリスタンには多くのフラストレーションがあるのだろう。彼には伝えたいメッセージがあったのだ。なぜなら、行き過ぎた行為は存在するから。しかし、私は一部の心ない人たちと、サポーター全体をひとくくりにしたくはない」

ペルピニャンの熱狂的なファンたち。クラブの公式Instagramより


 ところが翌朝、主要なサポータークラブのひとつである「ペーニャ・トラブカイレス(Penya Trabucayres)」が「X」に投稿した。
「カタルーニャ(ペルピニャンはフランス領カタルーニャ)のサポーターの態度を糾弾したトリスタン・テダーの発言と、今シーズン開幕以来の彼のひどいパフォーマンスは受け入れられない。ペーニャは彼に謝罪を要求する」

 チームはグラウンド上だけでなく、外の領域でも非常に重い状況に対処しなければならない。今週末、ペルピニャンはモントーバンとの極めて重要な一戦を控えている。ペルピニャンの地方紙「ランデパンダン」によると、約800名のサポーターが約260キロ離れたモントーバンに駆けつけることが見込まれている。

 ペーニャ・トラブカイレスは、「7連敗にも関わらず、800人ものカタルーニャのサポーターがチームを応援するためにモントーバンに集結する。愛には言葉と証拠があり、これが我々の証拠だ。今度は選手たちが彼らもクラブを愛していることを証明する番だ」と選手に奮起を促す。

 絶対に負けられない、この恐怖の一戦を勝ち取るのはどちらになるのだろう。チケットはすでに完売と発表されている。

【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大-神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。

ALL ARTICLES
記事一覧はこちら