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8月30日、日本代表がパシフィック・ネーションズカップ(以下、PNC)でカナダ代表と対戦する。会場は仙台・ユアテックスタジアム。日本とカナダの対戦はもうすぐだ。
現在、私はカナダ・アルバータ州エドモントンのクラブでプレーしている。日々の練習や週末のリーグ、そして7月の代表戦を現地で追いかける中で見えてきた「カナダラグビー」の姿をお届けしたい。
カナダにラグビーが根づいたのは19世紀後半、英国系移民のコミュニティからだと言われる。以後、代表は長く世界の舞台を踏み、ラグビーワールドカップには、第1回大会である1987年から2019年まで連続出場。1991年大会では準々決勝に進み、当時はそのフィジカルの強さを世界に刻んだ。
日本とは深い縁がある。1930年にラグビー日本代表が初めて結成され、カナダに遠征した。この時、ブリティッシュコロンビア州代表と対戦したことを初めてのテストマッチ(日本代表キャップ認定試合)としている。
2007年RWCでは12-12、2011年RWCでも23-23。2大会連続のドローは、互いが拮抗した良いライバル関係にあった証拠だ。

ただ近年は苦しい。2023年大会の南米予選でチリに敗れ、史上初の本大会不出場。以降は世界ランキング20位台を推移し、かつての安定感は揺らいでいる。
コロナ期の活動停滞や地理的制約も響き、選手供給パイプラインの細りと競技基盤の脆さが露呈した。アメリカのプロリーグMLR(Major League Rugby)におけるカナダ唯一のプロクラブだったトロント・アローズは、2023年末で活動停止となった。背景として、主要オーナーの逝去後に投資環境が厳しくなったことがある。国内のトップレベルの受け皿が一時的に消えたインパクトは小さくない。
現在の土台は「州(プロヴィンス)」。各州協会がリーグを運営し、地域に根差したクラブがその州内に存在する形。クラブはセミプロ、アマチュア色が強く、選手たちは日中は働きながら、夜に練習、週末に試合という生活が一般的だ。
試合出場給や食料等、スポンサー等による支援を提供しているクラブも存在している。特に、優秀な選手は州の選抜に上がり、代表強化のスパーリング相手を務めることもある。私が所属するクラブ(St.Albert)からも今夏、アルバータ州の代表に2人選ばれ、カナダ代表のトレーニングマッチに出場した。
地理と気候が競技力に直結する点は、日本と似て非なるところ。BC州(バンクーバー周辺)は通年で芝のコンディションが良く、強豪クラブが密集する。アメリカのMLRに挑む選手はここから巣立つことが多い印象だ。
一方でアルバータは冬季の気候が厳しく、屋内施設頼みの時期もある。シーズンがBCとずれるため、夏はBCの選手が実戦機会を求めてアルバータのリーグに顔を出すこともある。
文化面では「クラブ=地域の社交場」という色が濃い。クラブハウスとバー、グラウンドとジムが一体化し、地元企業のスポンサーがクラブを支える。観戦は、オーストラリアやニュージーランドのスタイルに近く、泥臭くフィジカルに前進するプレーが好まれる傾向がある。


現在のカナダ代表は40名強のスコッドで構成されている。半数以上がアメリカのプロリーグMLRのチームでプレー。それ以外は、BCリーグやアルバータ州のクラブチームでプレーしている選手が多い。一部海外組や大学生も存在する。
直近では、7月にエドモントンで代表戦2試合が、8月にカルガリーでPNC第一戦のアメリカ戦が行われた。
7月12日は、世界ランク23位(7月11日時点)のベルギーと対戦し、18-25で敗戦した。前半は競ったものの、後半は要所でペナルティとミスが重なり、追い上げ切れなかった。同18日には世界ランク16位のスペインに23-24と惜敗した。最後は自陣での反則からロングレンジのPGを決められて逆転負け。試合内容は改善し、NO8のマシュー・オウォル(Matthew Oworu)が2トライと躍動するも、試合運びと試合終盤の規律が課題として残った。
8月22日は、世界ランク16位(8月18日時点)のアメリカと対戦し、34-20で勝利。2021年ぶりにカナダ代表に復帰したテイラー・アードロン(Tyler Ardron)が4トライの大活躍。過去最低クラスの世界ランク25位に沈み、直近2試合で2連敗のカナダが、格上のアメリカに対して嬉しい勝利となった。

アタックは1-3-3-1のポッドを活かした戦い方をベースとしている。7月の2試合では、10番の選手からのポッドに、10番の内側に1人、外側に2人立たせる特徴的なポッドを活用。9番からのポッドよりも10番からのポッドを積極的に活用していた。
8月のアメリカ戦ではその比率は減り、9番からのFWの3人ポッドへのアタックも比較的多く見られた。また、10番のクーパー・コーツ(Cooper Coats/今回の日本戦には欠場)と15番のピーター・ネルソン(Peter Nelson/今回の日本戦は10番)の2人がダブル司令塔のような形でプレーしていた。
エッジには足とパワーのある第3列の選手を立たせ、カウンターやファーストフェーズで強く前に出す場面が多い。特にサイズのあるFWと接点の強度を強みにし、ゴール前ではモールやピック&ゴーを使ってくる傾向にある。
キックの比率は試合によって異なり、ベルギー戦では自陣からも展開し、スペイン戦では自陣からはコンテストキックを用いていた。
ディフェンスはゾーンで外に流しつつ、CTBの外でズレが出やすい時間帯がある。2戦とも前半は互角だが、後半に失点が増えた。

最注目はNO8/FLのマシュー・オウォル(Chicago Hounds/Back Row)。188センチ、111キロのサイズに加え、7人制代表のバックグラウンドを持つ身体能力の高いボールキャリアだ。7月のスペイン戦は2トライ。ベルギー戦でも8番、アメリカ戦では6番で先発し、外側のキャリー役として機能していた。今回の日本戦でも8番を背負う。
キャプテンは7番のルーカス・ランボール(Lucas Rumball)。接点とワークレートで試合を支配し、要所のターンオーバーで流れを引き寄せるタイプだ。
アメリカ戦で4トライを奪ったテイラー・アードロン(Tyler Ardron)も脅威ではあるが、日本には渡航していない。

7月や8月の代表戦から、カナダ代表は速い展開や継続に課題があるように見られた。南半球のチームや日本のようなハイスピードの継続プレーの前では、横幅で守り切る前に外側にズレが生まれる可能性が高い。
また、セットプレー、コンタクトプレーは強味も、細かいスキルと再現性のある継続には日本に分がある。逆に言えば、日本が無用な消耗戦に巻き込まれると、カナダの土俵に引きずり込まれる可能性がある。
カナダは歴史と情熱のあるラグビー国だ。W杯の記憶、州クラブが支える文化、そしていま再構築のまっただ中にある強化現場。8月30日の仙台は、その情熱を示す場になる。
【プロフィール】
おおたけ・かずき
1996年愛知県名古屋市生まれ。早稲田GWRC、University of Washington Husky Rugby Club、Seattle Rugby Club、Kenya Homeboyz、Kenya Wolves等を経て、現在カナダ・アルバータ州のラグビーチームでプレー中。13人制ラグビー日本代表(キャップ3)。早稲田大学スポーツ科学部、法学部、University of Washingtonを経て、外資系戦略コンサルティングファームの東京オフィス、ケニアオフィスなどに勤務したのち、独立。