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【トップ14】熱量ハンパなし! トゥールーズ、地獄のシーズンを超えて頂点へ
抜群のリーダーシップと勝負強さを発揮したトゥールーズFBトマ・ラモス。(Getty Images)

【トップ14】熱量ハンパなし! トゥールーズ、地獄のシーズンを超えて頂点へ

福本美由紀

 トップ14は今年もトゥールーズの優勝で幕を閉じた(6月28日)。
 延長にもつれ込んだ100分間の激闘の末、今季の欧州チャンピオンのボルドーを39-33で退け、トゥールーズが3年連続、通算で24回目のブレニュス盾(トップ14の優勝盾)をスタッド・ド・フランスで掲げた。
 この決勝戦のトゥールーズに見せつけられたのは、「王者の貫禄」というよりも、むしろ死に物狂いと表現したくなるほどの意地と気迫とエネルギーだ。

 4月のチャンピオンズカップ準決勝ではボルドーのFWに圧倒されたトゥールーズのFWが、この決勝では覚醒した。「自分たちが目標として掲げていたことだった。最近の試合では自分たちの基準を下回っていた。FW戦で優位に立てれば、ボルドーと互角に渡り合え、チーム全体を前進させられる。スクラムでも、ボールキャリーでも、毎回前に進んでいけた。心理的な面だけでなく、アタックのためのボールを獲得するという意味でも、大きな助けになった」とLOチボー・フラマンが言うように、スクラム、ラックを支配し、モール、コリジョンで前に出た。

 トゥールーズの猛烈なプレッシャーを受け、ボルドーはスクラムやラックでペナルティを繰り返した。トゥールーズはキックでもボルドーのペナルティを誘ってくる。キックオフでは、ボルドーWTBルイ・ビエル=ビアレの位置する右サイドのタッチライン際、22mラインに入った地点を狙った。ジャンパーとリフターが構えている裏に落とし、ビエル=ビアレ、また、その後にボールを受けた選手にプレッシャーをかけ、ターンオーバーに成功する。後半に選手交代したあとも同じ地点を狙い続けたことから、ビエル=ビアレではなく、その地点がボルドーの弱点だと特定していたのだろう。

 同点で迎えた延長線の後半には、ボルドーのFBロマン・ビュロスを狙って上げたハイパントが決勝点に繋がった。自陣の10m付近でボールを持ったFBトマ・ラモスは、敵陣22m付近で孤立していたビュロスを見逃さなかった。
ラモスが蹴るとわかると、WTBマチス・ルベル、CTBピタ・アキ、FLレオ・バノスが猛烈にボールを追いかけ、彼らの前にいたボルドーの選手2人を追い抜き、ボールをキャッチしたビュロスに飛びかかった。味方のサポートを待たざるを得なかったビュロスはペナルティを取られる。ラモスがPGを決めて36-33とする。決勝点となった。

 ボルドーの選手より先にブレイクダウンに入るスピード、その地道な仕事を繰り返すメンタルとフィットネスが求められた。選手たちはピストンのように行ったり来たりを繰り返した。
「泥臭くても勝てればそれでいい」というトゥールーズ、ユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)の言葉を実行した。

チームのオフィシャル「X」より


 準決勝で13回と多かったペナルティも、決勝では修正して8回に減らした。対照的にボルドーはディシプリンに泣かされた。
ボルドーのペナルティは17。さらにシンビンが2回(FLピエール・ボシャトン、LOギド・ペッティ)あった。20分間を14人で戦うことになり、その疲れが終盤に感じられた。

 それでも延長戦までもつれ込んだのは、やはりボルドーが少ないチャンスで確実にトライを取り切る力があったからだろう。トゥールーズのトライは3本ともFWのパワーで奪ったものだ(30分にNO8アントニー・ジュロン、38分と44分にFLジャック・ウィリス)。
 準決勝のあとに「ボールを保持できない。戦い方を変えなくては」と言っていたモラHCの口癖は「適応」。現在のトゥールーズにできることを確実に、最大の強度で実行した。

 一方のボルドーは、34分にSHマキシム・リュキュがキックでディフェンスの間に巧みに転がし、WTBダミアン・プノーが仕留める。41分にはリュキュがゴール前のラックから出したボールを、CTBヨラム・モエファナを通し、SOマチュー・ジャリベールに渡す。ディフェンスの間を突き抜けトライが生まれた。
 味方がパスで繋いだボールを受け取り、ステップでディフェンスを交わしながら、20mの美しいランを見せたペッティのトライは69分だった。ボルドーは自分たちのアタッキングラグビーを遂行した。

 両チームともキッカーは100%の成功率(ラモス9/9、リュキュ7/7)で、ここは互角。しかし、ゲームの主導権は常にトゥールーズが握っているように感じられた。
 その中心にいたのがラモスだった。FBの位置から絶え間なく攻撃を仕掛け、SOに代わってからは完璧なタイミングでゲームを組み立てる。常に声を張り上げてチームに指示を出し、味方を鼓舞する姿は、まさに勝利への執念をむき出しにした「闘神」だった。
 アントワンヌ・デュポンを失ったフランス代表でもそうだった。勝利に向かって味方を率いる姿は際立っていた。

 5月17日のトップ14、ラシン92戦での敗戦(35-37)後、円陣でモラHCは選手たちに厳しい言葉を投げかけた。
「今日、ラシンの激しさをまとも食らった。ボールを一つも奪えず、ラックを7つも失った。各自が自分自身を見つめ直し、8日間で違うマインドセットで戻ってこい。さもなければ、チャンピオンズカップを譲ったように、トップ14の優勝も他チームにくれてやることになるぞ」
 翌週はチャンピオンズカップの決勝戦だった。今年はその舞台に進出できず、1週間の休暇が与えられていた。

 ふくらはぎの負傷でチャンピオンズカップ準決勝に続き、この試合もスタンドで観戦していたラモスも円陣に入り、目を大きく見開き、唇を噛み締めていた。6月1日のリヨン戦で復帰してきたラモスは頭を短く刈り上げていた。戦闘モードだった。

 バイヨンヌとの準決勝のハーフタイム、ロッカールームではラモスが、「反則が多すぎる。次かその次にはイエローカードだ。相手は1回か2回しか反則してないのに、俺たちは7回も8回もしてる。前半は全然ダメだ。20分の時点で相手に不安を抱かせるはずだったのに、不安を抱いているのは俺らなのか? あいつらは全然不安なんて感じてないぞ!」と檄を飛ばした。

 フラマンが語る。
「プレッシャーの大きな試合を戦い慣れ、テストマッチの経験も豊富な選手に僕たちは恵まれている。彼らはチームの中で真のリーダーでもあり、落ち着きやエネルギーを伝えてくれ、適切なタイミングで適切な言葉をかける。それが、こういう大事な局面で大きく影響する。そして、真っ先に頭に浮かぶのがトマ(ラモス)。この勝利は、彼のおかげと言っていいでしょう。彼がチームを引っ張ってくたから」
 デュポンの不在を、ラモスがリーダーシップで埋めたと言えるだろう。

 そして、SHのポジションでデュポンの代役という大役を見事に務めたポール・グラウ(27歳)も称賛に値するだろう。世界最優秀選手アントワンヌ・デュポンがいるトゥールーズでSHでいるということは、なかなか簡単ではない。決して超えることができないであろう、傑出した選手の代役を務め、その傑出した選手と比べられ、負ければ自分の責任とされる。

 イタリア代表のマルタン・パージュ=レロ(26歳)は、「このポジションだと現役でプレーできるのは10年か12年だから、時間を無駄にできない。ラグビーが本当に大好きだから、4試合に1回とか5試合に1回しか出場できないなんて考えられない。家族、友人、そして僕が心から愛するクラブから遠く離れるのは辛い決断だったけど、これが現状なのだから」と話したことがある。13歳から育ったスタッド・トゥルーザンを2023年に離れ、リヨンに移籍した。
 昨年の夏にバイヨンヌに移籍したバティスト・ジェルマン(24歳)は、「1年間のレンタル移籍から帰ってきたら3番手になっていた。あまり信頼されず、重要な試合では用無し。レンタル移籍の前はそういう大切な試合にも出ていたのに」と、より多いプレー時間を求めて昨年の夏に活躍の場を移した。

 しかし、グラウは非常にうまくやってのけている。2022年に2部リーグのアジャンからトゥールーズに加入した。初年度は怪我が続き、15試合出場したうち10試合、先発で起用された。デュポンが代表で不在の期間や、デュポンを休ませたい時だ。
翌年は28試合中19試合で先発出場し、デュポンがワールドカップ、そして7人制代表の試合で不在の期間を支えた。チームに馴染み、時には「デュポンがプレーしているようだ」と言われることも出てきた。フィジカルが強く、デュポンとスタイルが似ているのだ。しかし、あくまでも「デュポンの影武者」だった。

 昨年9月には、ボルドーやラシン92からも声がかかっていたが、トゥールーズとの契約を3年延長。そして今年の3月、デュポンの負傷による長期離脱でグラウのポジションが変わった。トゥールーズの1番手のSHになったのだ。大きなプレッシャーを感じたことだろう。

アントワンヌ・デュポン不在の中で輝きを放ったSHポール・グラウ。(Getty Images)


 決勝トーナメントの試合は今季が初めてではないが、昨季のグラウの準決勝、決勝でのプレー時間は、チャンピオンズカップで0分、8分、トップ14で1分、10分だ。
 今季は背中に9番をつけてキックオフからピッチに立ち、トップ14の準決勝は75分、決勝は100分戦い切った。

 バイヨンヌとの準決勝のあとモラHCは、「もしかしたら違う選択肢もあったかもしれない小さなキックパスを除けば、ポール・グラウはまさにXXLサイズ級の、とてつもないパフォーマンスを見せた。ポールにとって本当に嬉しいこと。もしアントワンヌ・デュポンがポールと同じような試合をしたら、マン・オブ・ザ・マッチになっただろう」と絶賛した。

 決勝のあとには、「ポールはライオンのような男だ。時にはミスもあったけれど、信じられないようなプレーを見せてくれた。彼にはアントワンヌ・デュポンという友人がいてね、その友人が僕に彼をスカウトするように強く勧めてくれたんだ。彼の言葉に耳を傾けて本当によかったよ」とグラウ加入の裏話までモラHCは披露した。グラウとデュポンはU17のカテゴリーで3年間、同じクラブで共にプレーして以来の親友なのだ。

 グラウは「アントワンヌ(デュポン)の代役を務めることができて嬉しかった。自分にできる限りのことをした。みんなが素晴らしい試合をして、そして勝利を手にすることができた。それが一番大切なこと」と重責をまっとうし、ホッとした表情だ。

 最もホッとしているのは、モラHCではないだろうか。ラモスがPG3点を追加し、延長戦終了のホーンが鳴ると、両手で顔を覆って涙していた。彼はこの決勝戦の前に今季を「地獄のようなシーズン」と表現していた。まずデュポンが戦列離脱し、そしてチャンピオンズカップ準決勝前にはHOペアト・モヴァカ、ラモス、FB/WTBブレア・キングホーンまで負傷で倒れた。

 今年1月には、FBメルヴィン・ジャミネが2022年にペルピニャンからトゥールーズに移籍する際のサラリーキャップ規定違反をめぐる報道があり、クラブを揺るがした。

 そして、この2024-2025シーズンが始まる前にも、トゥールーズは悲劇に見舞われていた。
 昨年7月、ちょうど昨季の欧州チャンピオンとフランス国内チャンピオンの2冠達成の祝祭の余韻に浸っていた頃、トゥールーズのOBで現在はスタッフとしてチームに帯同している元LOジョー・テコリの奥さんが交通事故で急逝した。彼女はテコリと同様、チームと身近な存在だったという。

 さらに8月にはU18フランス代表の南アフリカ遠征に参加していた、メディ・ナルジシが海で遭難し行方不明となった。彼はトゥールーズのジュニア部門に所属しており、プロの練習に参加し始めたばかりだった。

「人生には取るに足らないものがある、ラグビーも取るに足らないものだ」とモラHCは中継局のマイクに声を詰まらせながら語り始めた。
「ラグビーは私たちの情熱ですが、スポーツです。今夜、素晴らしい2つのチームが、勇敢に、手に汗握るスペクタクルを繰り広げたと思います。たとえラグビーの質が最高級ではなかったとしても。しかし、私たちには失った人がいて、身近で大きな悲劇を経験し、困難の中で築き上げてきました。メディ(ナルジシ)の家族に深く思いを馳せています。悲劇を語るつもりはありませんが、これらは私たちにとって重要なことでした。試合の枠を超え、ラグビーの枠を超え、ライバル関係の枠を超えています。確かなことは、私たちは人生に刻まれるような瞬間を経験してきたということです。そしてこの24回目のブレニュス盾は、今後の再建に役立つでしょう」







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