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Just RUGBYの立ち上げから1年。
写真記事「Just SCENE」を始めたのは、2024年10月。
それからまだ3回(vol1, vol2, vol3)しか書けていないが、今回1年目を迎え、番外編を書くことになった。
日々出会うささやかな「好きだな」から、強く心に刻まれたものまで、いくつか。

リーグワン決勝。
リザーブから登場したラピース。
昔のラグビー選手はジャージの襟を立てていたというが、
実際見ると、こんなにもかっこいいものなのか。
これは残さないといけない。

リーチ マイケルの胴上げ。
自分の段取りが悪くて、持って行った脚立を使えず、下から腕をめいっぱい伸ばして撮っていた。”棒リーチ”はあまりうまく撮れなかったのだが、この”回転リーチ”を。
驚いている表情が見えるのがお気に入り。

4月5日、熊谷ラグビー場の記者会見場で。
この日出場100キャップを達成したワイルドナイツ坂手主将、会見前のスマイル。
真摯に、丁寧で、よどみなく質問に応える姿は大学時代からずっとだ。
ちょっと完璧すぎると思っていたけど、いつからか、カッコいいなぁ、に変わった。
悔しさから言葉に詰まる時もある。そのまっすぐな姿にまた心を動かされる。

花園での準々決勝サンゴリアス×スピアーズ。
サンゴリアスは今季はなかなか勝てなかったが、この日は最後までスピアーズを追い詰めた。
試合後の記者会見でのサンゴリアス、堀越主将。
表情に惹き込まれた。

釜石の試合ではいつも楽しみにしていることがある。
スタジアムの売店だ。
普段、試合前に売店へはなかなか行けない。早く着いても店が開いてないし、開いてからは行列に並ぶ時間がない。ただ、釜石は、売店エリアが広大で、店がすごく多いので、買える。
仕事じゃなかったら、好きなだけ売店で買い物して、丘に座って試合を見たい。

3月8日のこの試合は復興祈念試合。釜石がドコモに勝った。
鵜住居のスタンドは喜びであふれた。試合後はそのままグラウンドで子どもたちがラグビー体験。
選手はジャージのまま、ボランティアの方々とお客さんをお見送り。





スタンドの写真を見てふと気づいた。釜石のファンって、赤をとりいれている人は多いけど、みんな割と普段着とか、思い思いの格好だ。地元の人たちが多く来ているからなのかもしれないけど。
スタジアムが一色に染まっていない。それもまたいいな。

秋の欧州遠征。日本代表がフランス代表とサン・ドニでテストマッチ。
試合前の演出は2023年のワールドカップ並みか、それ以上かもしれなかった。
暗転し、赤や青に染まる観客席をバックに入場したジャパン。
ここまでの歓待は想像していなかったんじゃないか。
写真を撮る側としては、コロコロ変わる照明が難しい。
ただ、これまで撮ったことのない試合前写真にはなった。
きっと写真や映像でどう映るか、そこまで考えられているのだろうから、そのこだわりには脱帽する。



パリから場所を移してシャンベリー。
日本代表が試合をしなければ、きっと一生来ることはなかった。
スタジアムの向こうにはアルプス山脈。
2024年秋の欧州遠征は、この小さな街で過ごした数日間がとくに思い出深い。

イングランド・トゥイッケナムでも、初めて試合を撮った。
フランスのラグビー熱が圧倒的だと思っていた。だけど、ここはまた別格だった。
地鳴りのように低く響く歓声に、呑み込まれそうだった。爪痕は残していたと信じたいが、高い高い壁を感じた。



試合前、いつか撮りたいと思っていた、選手の会場入りの俯瞰を撮れて一安心していたら、試合前にカメラマンが集合しなければならない部屋を見つけられず、キックオフに間に合わないかもしれないピンチに陥った。たくさんいる会場スタッフの人に聞いても、その部屋を誰も知らない。広いコンコース、人も多くて、かき分けながら汗だくで走った。前日練習にも行っていたので、もう大丈夫だという慢心があった。慣れないスタジアムでは何が起こるかわからない。なんとかギリギリ、試合前アップの最後の方に間に合った。





パリでもロンドンでも、地元クラブの試合にお邪魔した。
草ラグビーチームも、立派なクラブハウスを持っている。
試合前から、グラウンド脇でアフターマッチの準備が始まっている。それ担当の人がいる。
ハムやチーズ、ワインが並んで、試合もだけど、そっちが気になってきてしょうがない。
パリジャパニーズの焼きそばは大人気だった。


欧州遠征の前に、オリンピックでもパリへ行った。
記事を見てくださって気づいた方もいると思うが、グラウンドレベルで撮影できていない。
競技期間中の6日間、自分の座席、もしくはコンコース。ベストの場所を探しながら、
普段使っているような大きな機材は持ち込み禁止のため、使い慣れない機材を使って撮った。
ただ、どんなに小さなカメラでも警備の人によっては「ダメ」と没収されてしまうかもしれない。日本を出る前から、かなり対策を練った上で、荷物検査では毎回ドキドキした。
サン・ドニは本当に満員だった。サクラセブンズはそんな大観衆の中で3勝。最後も勝って9位で終えた。
代表引退を示唆していた中村知春選手は、最終戦後、スタジアムをぐるっと歩きながら涙をおさえられずに、胸いっぱいの表情をしながら、声援の一つひとつに応えていた。


最後、スタンドから、私も大きな声で「ちはるさーん!」と呼んでみた。
何度目かで気づいて、こちらへポーズをとってくれたけれど、後日話した時に驚いたのが、
脳震盪気味だったらしく、その時の記憶がないのだという。そんな過酷な状況の中だったのだ。



男子は開催国のフランスが金メダルを獲ったのでもう大変な盛り上がりだった。





Just RUGBYにはチームルポのコーナー「WHO WE ARE」がある。
私にとってはいまのところすべて、これまでに行ったことのないチームだ。
宮崎の日南振徳高校へは、宮崎駅からJR日南線で約70分かけて飫肥駅までいき、
そこから徒歩で20分強歩いた。いまは合同チームなので、その日最初にいた部員は5人。
天気がどうなるかわからないので、出会って5分も経たないうちに集合写真を撮る。
あまりにも息がぴったりで、堂々としていて驚いた。

取材で中学や高校にいくと、選手が練習中、ちょっとソワソワしている時がある。
普段の練習の邪魔をしてしまって、申し訳ないと思う。
万が一それで怪我でもしてしまったら、ということも考える。
その日、集合写真で一番ノリが良くて、練習中も楽しげだった選手が途中で足を痛めた。
恐れていたことが…と思った。外でバケツに足を突っ込む背中がしょんぼりしていた(この記事のトップ写真)。
するとカメラに気づいてこうなった。

とくに遠くへ行く時はいつも、もう2度と来れないかもしれないと思う。
卒業後は就職、という高校生もいるので、ラグビーの撮影をできるのもこれきりの人がいるだろう。
後日撮り直しにも行けない。本当に一期一会。
そういう出会いの連続に、身を置けていることは幸せだ。

撮影・文◎松本かおり
フリーランスのフォトグラファー。都立駒場高校→専修大学文学部卒。中・高はバスケ部。大学1年時、所属のサークル「専大スポーツ」でラグビーと出会う。大学4年時の2010年、『ラグビーマガジン』にアルバイトで入り、約14年間専属のような形で撮影、編集に携わる。現在は『Just RUGBY』を中心に撮影。使用機材はCanon。