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【Feel in Mexico vol.2/若きコーチ、世界を歩く、書く】メキシコ代表、テストマッチ前日。みんな熱い!
カメラを構えていると「写真撮ってくれない?」と選手が寄ってきてくれた。(撮影/中矢健太、以下同)

【Feel in Mexico vol.2/若きコーチ、世界を歩く、書く】メキシコ代表、テストマッチ前日。みんな熱い!

中矢健太

 前回、「ラグビーの『ラ』の字もない」と書いたメキシコでの1週間。だが、5月3日にはメキシコ代表vsジャマイカ代表の試合がメキシコシティで行われると聞き、それを見逃すわけにはいかなかった。テストマッチまでの間、ケレタロやカンクン、キューバなどにも足を伸ばし、5月1日、メキシコシティに戻ってきた。

 人伝いに取材を申し込んだところ、メキシコ代表ヘッドコーチの許可が降り、前日のキャプテンズランを見学することができた。キャプテンズランはメキシコシティ中心部から車で小1時間ほどのメキシコ国立自治大学内、ロベルト・スタジアム(Roberto stadium “Tapatio” Mendez)で行われた。5月3日の本番と同じ会場だ。

【写真左上】ウォーミングアップ
【写真右上】チームマネージャーのチャーリー。左胸に貼ったテープに白蛇を描いているのは「これは他国のチームのウェアだから、エンブレムを隠して自分で描いたんだ」
【写真左下】キャプテンズランを見つめるコーチのジェームズとテリー
【写真右下】背中には「RUGBY MEXICO」


 15時半ごろ、ジャマイカ代表と入れ替わって、メキシコ代表の選手たちがグラウンドに現れた。チームのトレーニングウェアは赤色、背中には “RUGBY MEXICO” の文字。エンブレムは白蛇だ。マヤ文明では重要な神として崇拝されている。メキシコ国内に多く残るマヤの遺跡にも、白蛇があしらわれているのをよく目にする。

 メキシコ代表がこの試合にかける思いは強い。チームマネージャーを務めるチャーリー(Carlos Prieto)が教えてくれた。

「直近のおよそ4年間、コロナで代表活動は完全に停滞していました。やっと昨年から再開し、我々はケイマン諸島代表との2連戦に勝利しました(2024年6月:20-10、12月:45-15)。それがRAN(Rugby Americas North)による北米トーナメントの予選で、今年は準決勝、決勝が開催されます。その準決勝こそが、明日のジャマイカとの試合なのです」

 RANは北米大陸におけるラグビーユニオンの統括団体で、アメリカやカナダをはじめ、メキシコ、ジャマイカ、バハマなど21か国で構成される。そのうち一部の国々が今回のトーナメントに参加しており、北米の中で北部、南部に分かれてテストマッチが組まれている。準決勝の組み合わせは、北部がメキシコ×ジャマイカ、南部はトリニダード・トバゴ×バルバドス。後者は5月31日、トリニダード・トバゴにて開催される。

 このトーナメントで優勝したチームは来年、ヨーロッパに遠征することが決まっている。そこではポーランド、チェコとのテストマッチが組まれる予定だ。メキシコにとっても、長い活動停止期間を抜け出し、世界ランクを上げる絶好のチャンスだ。

メキシコ代表ヘッドコーチとして2シーズン目となるジェフェリー。自身も代表でのプレー経験がある。


「私自身もメキシコ代表として長くプレーしてきました。今はチームマネージャーとして関わっていますが、この10年で一番強いチームだと断言できます。ベテランと若手のバランスがとても良く、調和が取れています」
 チームの年齢は幅広い。上はロックのトム(Tomas Vessey)で36歳。下はプロップのブライアン(Bryan Aguirre)、19歳。トレーニングを見学していると、確かにチーム全体のバランスが良く、コーチの声に呼応して全員で声を掛け合っているのが印象的だった。

 ただ、キャプテンズランといえど、1時間半にわたってみっちりトレーニングをこなしていた。というのも、選手は全員アマチュアで、平日は仕事がある。コーチやスタッフも、半分以上はボランティアだ。会社員、経営者、フィジオ(理学療法士)。それぞれ、ラグビー選手とは別の職業を持っているので、チームとしてなかなか集まることが難しい。この日は金曜日で、休暇を申請してキャプテンズランに参加していた選手もいた。

 ヘッドコーチのジェフェリー(Jefferey Clarke)は、メキシコの男子15人制代表を率いて2シーズン目を迎える。自身もかつてはメキシコ代表としてプレーした。フォワードコーチのルイス(Luis hernandez)も同様だ。そこにニュージーランド出身のジェームズ(James Lowrey)が加わり、ディフェンス、ラインアウトをコーディネートする。

【写真左】明日のジャマイカ戦に出場すれば代表最多25キャップを獲得するミサエル
【写真右上】この北米トーナメントで引退を決めているベテランのミゲル
【写真右下】10番でキッカーも務めるクリスチャン


 バックスはフランス7人制代表のレジェンド、テリー(Terry Bourahoua)がアシスタントコーチを務める。テリーは同時にメキシコ男子7人制代表のヘッドコーチも兼任している。彼がデザインしたであろう、グラウンドを広く使った1次アタックをバックス陣は念入りに擦り合わせていた。

 注目は、リザーブに入った大ベテランの2人だ。

 17番に入ったフッカーのミサエル(Mizael Loredo)は、この試合に出場するとメキシコ代表史上最多となる25キャップを獲得する。というのも、これまでのテストマッチは年間2試合前後しか組まれず、コロナ禍で代表活動も停止。積み重ねた25キャップは、ティア1のチームとはまた違った重みがある。

 2013年のブラジル戦でデビューを果たし、ユース時代を合わせると16年間、代表のジャージを着て身体を張ってきた。明日のゲームは、今まで以上に気持ちが入る。

「ジャマイカにはいつもいい選手がいますし、明日の試合も本気で勝ちにくると思います。でも、明日は僕たちのホーム。簡単にはいかせません」

 もう一人は22番、スタンドオフのミゲル(Miguel Carner)。ミゲルは3週間前、すでに所属クラブのファイナルを終えて引退を決めており、このトーナメントがラストダンスとなる。

 このジャマイカとの一戦に勝ち、そして決勝でも勝って、ラグビー選手としてのキャリアを終えたい。



「15歳の頃から代表チームでプレーしてきました。ある時は重いケガを負って、約7年にわたって代表を離れた時期もありました。それでも、こうしてプレーする機会をヘッドコーチのジェフェリーが与えてくれて、本当に光栄ですし、誇りに思います」

 ミゲルも、チームのバランスに手応えを感じている。

「(明日の試合に向けて)自信はあります。いい選手が揃っていますし、中でも10番のクリスチャン(Christian Alvarez)は本当に、本当にスキルフルな選手です。私も交代で試合に出た時は、自分にできるベストを尽くすだけです」

 メキシカンラグビー。待ち望んだ夜明けへの一歩となるか。

◆プロフィール
中矢 健太/なかや・けんた
1997年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。ラグビーは8歳からはじめた。ポジションはSO・CTB。在阪テレビ局での勤務と上智大学ラグビー部コーチを経て、現在はスポーツライター、コーチとして活動。世界中のラグビークラブを回りながら、ライティング・コーチングの知見を広げている。

試合会場はUNIVERSIDAD(大学)
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