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【コラム/中村知春のアニキにっき】選んだ道と、選ばれなかった経験と。
東京五輪の落選メンバーとシュークリームで慰めあう/2021年。(本人提供、以下同)

【コラム/中村知春のアニキにっき】選んだ道と、選ばれなかった経験と。

中村知春

 みなさんは人生において「選ばれなかった経験」を覚えているだろうか?
 進学、就職、恋愛、スポーツ。人生は自分が選んできた道で成り立つとはいうものの、振り返れば自分という存在そのものは、こういった「選ばれなかった経験」からつくられているのではなかろうか。

 アスリートとしてはそれなりに選ばれたり選ばれなかったりする経験を積んできた。最近はコーチングの勉強もして、選手を選ぶ側の気持ちも多少学んだつもりだ。どちらの視点も理解できるいま、もっと早く気づいておけばよかったな、と思うことがひとつある。

 それは選手としての価値というものは「株価」のようなものだ、ということ。
 コーチの方針や戦略、チーム状況や対戦相手などの内外的要因によって相対的に評価され、価値が変動するからだ。

 一方で、人間そのものの価値は積み重ねによる絶対値である。大きな怪我をすれば選手としての価値は一旦下がるが、その経験を乗り越えたとき人間としての価値は上がっている。

 つまりコーチが変われば評価も変わる。人からの評価に一喜一憂するのではなく、自分の絶対値をあげる努力を普段からすることが大切なのだ、と。

 さらに言えば、ホンモノのチームプレーヤーかどうかの基準は、コーチの求めるものに合わせて自分を変えられるかどうかだと、私は思う。客観的視点で自分に足りないものを考え、自己を変化させられる選手は強い。市場を読み解くように課題を俯瞰で捉えて、チームというパズルを完成させるピースになれるかどうか。そんなことを、過去の選ばれなかった経験から私は学んだ気がする。

東京五輪落選メンバーと合宿離脱後、その足で旅行に行った。


 先週末、サクラフィフティーンがアメリカから初の勝ち星を挙げた。長い合宿を重ね、疲労も溜まった中でのアウェーでの勝利。今年のW杯への期待が大きくなるゲームであった。本番に向けてまたすぐに合宿が始まる。メンバー争いもおのずと白熱してくる時期にさしかかってくるであろう。

 選ばれる選手がいれば、そうでない選手が必ずいる。ただ、選ばれなくても試合に出られなくても、命を取られるわけではないのだ。届かなかった自分を責めるかもしれないが、どうかいっときの評価にとらわれないでほしい。仲間と切磋琢磨し、夢を本気で追いかけた時間が、すでに人間としての価値をピカピカに磨き上げている。
 アスリートにとっての4年は短いようで長い。この4年という単位に私たちは人生を懸け、マラソンのように走り切る。終わったからといってまた次へとすぐ走り出せるものではない。

 人生を懸けた4年間が評価されても、されなくても。

 たかがラグビー、と笑い飛ばし、
 されどラグビー、と前を向けるかどうか。

 それがラグビーに生きる人生なのだと、私は思う。

 女子W杯開幕まであと3ヶ月とちょっと。
 サクラフィフティーンというパズルを完成させる選手は、果たして誰なのか。4年間の集大成に挑戦するすべての選手達に、期待と応援を込めて見守っていただきたいと切に願う。

【プロフィール】
中村知春/なかむら・ちはる
1988年4月25日生まれ。162センチ、64キロ。東京フェニックス→アルカス熊谷→ナナイロプリズム福岡。法大時代まではバスケットボール選手。ナナイロプリズム福岡では選手兼GMを務める。リオ五輪(2016年)出場時は主将。2024年のパリ五輪にも出場した。女子セブンズ日本代表70キャップ。女子15人制日本代表キャップ4





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