Keyword
えっ。
俺はもっと戦いたい。暴れたい。そんな思いを胸に、一度ピッチを出た。
日本製鉄釜石シーウェイブスのLO畠澤諭(はたざわ・さとし)は、3月7日に釜石鵜住居復興スタジアムでおこなわれた花園近鉄ライナーズ戦に5番のジャージーを着て先発していた(30-22で勝利)。
脳震盪疑いでHIA(ヘッドインジャリーアセスメント)対象とされたのは前半14分だった。その数分前のラインアウト後のモールで相手の頭とぶつかったような気はするが影響は感じなかった。しかしスマートマウスガードが異常値を示したようだ。プロトコル通りに一時退出となった。
「モールは、今週力を入れて準備してきたところです。自分の仕事を全うすることに必死でした。負けないように前に出たとき、頭とぶつかったかもしれません」
その結果のHIAだった。
全力で押したモールは前進し、相手オフサイドを誘う。SOミッチェル・ハントのPGで3点加点することにつながった。
一時退場となった時は「えっ、えっ、という感じでした。やれる。(何の影響もないから)勘弁して、という感じでした」と振り返る。
13分後(前半27分)にピッチに戻ることができてホッとした。後半21分までプレーした。
30-17とリードしている時にベンチに下がった。スコアは、やがて30-22となる。相手の必死の追い上げにも屈することなく、そのまま勝った。
その瞬間をピッチサイドで見つめた。「めちゃくちゃ嬉しかった」と胸の内を素直に吐露する。
「東日本大震災復興祈念試合です。釜石や東北の皆さんに勝利を届けようと(チームで)言っていて、それを体現できた。チームの自信につながる試合になりました」

試合を振り返る。モールを全力で押した。タックル時にペナルティとされたシーンもあったが、切り替えた。
「大きな相手に対し、ドミネートするタックルをしよう、と。やり切れました」
トウタイ・ケフ ヘッドコーチ(以下、HC)は戦前、この試合から始まる6連戦(6週末連続での試合)における初戦の重要性を選手たちに説いた。
「この試合に勝ったら(あとは)負けないぞ、と。勝とうよ、って言ってくださった。相手は1位のチームですが、同じ人間。チャレンジャー精神でやった結果がこうなりました」
チャレンジする。
その言葉はまだ27年の人生だけど畠澤にとって、転機のたびに大切にしてきたものだ。
決断しなければ、温かい人たちが大勢いる地で、熱烈な応援を受けて歯を食いしばることもなかったかもしれない。
シーウェイブスでは、今季が2シーズン目。その前は静岡ブルーレヴズで2季プレーした。2022年の4月に入社、入団。ただ、磐田を拠点に活動しているチームではリーグワンの公式戦に出場したことはない。
シーウェイブスに移籍後、2024-25シーズンはレギュラーシーズンの全14戦のうち11試合に出場して10戦先発。入替戦の2戦にもベンチから出場した。
今季はここまで、全6試合のすべてに先発出場を果たしている。
社員選手として活動していた前所属チームから移籍したのは自分の意志からだ。「試合に出たかった」。
ブルーレヴズでは外国出身選手や先輩たちの存在もあり出場機会を得られなかったから、悔しくて、悶々としていた。
「それで、自分の出身地でもある東北のチーム、釜石でチャレンジしようと思いました」

立命館大卒業直後から過ごした磐田での日々を、「(それまで経験したことのない)新しいことばかりで、ついていくのに必死で、学ぶべきことがたくさんありました」と振り返る。
「セットプレーを強みにしているチームですから、スクラムやラインアウトの技術やマインドセットについて、本当に多くのことを教わりました」
それが、いま生きている。
移籍と同時にプロ選手として活動している。安定した生活から結果がすべての身となるには大きな決断も必要だったが、「どちらかと言ったら、(仕事と)2つより1つのことに集中してやるほうが自分には合っています。選択は間違いではなかったと思う」と言い切る。
「試合に出ることで、自信や学びをたくさん得ることができるので、いま、釜石に来てよかったと思えています」
地元の人たちの応援も力になっている。充実した日々を送っている。
「ただ、それを継続していくのが大事だと思っています」
コンディションを整え、より鍛える。深く考える。プロ選手としての自覚も芽生えている。
先に、人生の転機があるたびにチャレンジ精神を持って生きてきたと書いたのは、移籍の件だけではない。
仙台(宮城)の出身。小4の時に仙台長町ラグビークラブ(SRC Jr.)に入るも、中学ではバスケットボールに取り組む。新潟の開志国際高校でもそれを続けていた。
ラグビーの世界に戻ったのは、高校2年時にラグビー部ができた時だった。
思うような日々を送れていなかった時に、以前プレーしていた楕円球のクラブが創部したから、あらためて飛び込んだ。現在、三重ホンダヒートに所属しているフレイザー・クワークは当時のチームメート。青春時代の思い切りが、道を切り拓いた。
ちなみに「ケビン」のニックネームが誕生したのも高校時代のことだった。
「菅平での夏合宿の試合の時、対戦相手の選手が、こっちを見て留学生が(3人)いると言ったんです」
それで仲間たちが面白がって、呼びやすい外国の名前を付けた。以来、その愛称はついてまわっている。

今季全試合に出場する充実は、新しく就任したケフHCの存在が大きいと話す。
「ケフ ヘッドコーチになってから以前とやり方がガラッと変わって、自分の役割が明確になったんです。僕だけではなくて、みんなもそうだと思います」
ボールを動かしてスペースを攻めるため、FWのポッドシェイプなど、はやくセットすることを全員が徹底している。その中で、「フィジカル面で相手に絶対に負けるな」と自分に向けての言葉も投げてくれる。
「周囲の外国出身の選手たちがやれないプレー、ローチョップタックルなどで、チームに貢献したいと思います」
193センチ、114キロが低く刺さってきたらたまらない。そんなプレーで欠かせぬ存在になる。
オーストラリア代表60キャップを持つレジェンドの言葉には力がある。「自分に足りないものがあると感じている時、ケフさんは、それをズバッと言ってくれるんです」。
マインドセットの大切さを全員に伝えてくれるから、「チーム全体がいい方に向かっていると感じています」。
そんな感覚があるから、以前はこのチームで活躍し、もっと高いレベルへ這い上がりたい気持ちもあったが、いまはこのHCのもとで「もっと学びたい。このチームとともに、さらに強くなってディビジョン1に上がりたい」の気持ちだ。
HCが言った「この試合に勝ったら(あとは)負けない」の言葉は、おまじないではない。選手たち自身が成し遂げていくことだ。
指揮官はライナーズ戦後の記者会見で、「私たちがこのリーグで、誰にでも勝てる可能性があることを示したと思います。きょう、全員でそれを証明した」と言った。
そう信じて次節(3月15日/レッドハリケーンズ戦)も、鵜住居に笑顔を溢れさせる。