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釜石の街がワンチームに。シーウェイブス、全勝ライナーズを止める。
会心の勝利をファンに届けたシーウェイブス。中央は河野良太主将。(撮影/松本かおり)
2026.03.08
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釜石の街がワンチームに。シーウェイブス、全勝ライナーズを止める。

田村一博

 キックオフのほぼ24時間前。表情は柔らかも、気持ちが入っていた。
 日本製鉄釜石シーウェイブスのトウタイ・ケフ ヘッドコーチ(以下、HC)は、リーグワン ディビジョン2の首位、開幕からの全6戦に勝利してきた花園近鉄ライナーズとの対戦を前に言った。

 前シーズンは、その強敵のFWコーチを務めていた。
「ライナーズには非常に優れた選手たちが多い。個人の輝きを背景に(今季の)全試合に勝ってきました。しかし、チームとしては私たちが彼らを圧倒できると思っています。そこに勝機があると考えます」

 2011年3月11日に起きた未曾有の出来事から15年が経とうとしている。3月7日のシーウェイブス×ライナーズは、東日本大震災復興祈念試合としておこなわれた。
 ケフHCが「チームとして勝つ」と話したのは、試合前日の追悼式でのことだった。

試合前日の追悼式。シーウェイブスの選手たち(写真左上)は、釜石祈りのパークを訪れて黙祷、そして献花。トウタイ・ケフHC(写真右下)は東日本大震災時の津波の高さを示す場所へ足を運んだ(写真右上)。(撮影/松本かおり)


 試合会場となる釜石鵜住居復興スタジアムの最寄駅のすぐ前、『うのすまい・トモス』にある釜石祈りのパークに、選手全員とスタッフが集まったのが試合前日の正午だった。
 釜石祈りのパークは、震災で犠牲になった人たちを慰霊、追悼する施設。震災前は鵜住居地区防災センターが建っていた場所だ。

 震災により釜石では、死亡者、行方不明者、震災関連死と見られる方が1064人いた。そのうち鵜住居では約600名の方が亡くなり、祈りのパークに以前建っていた施設では約160名が犠牲になったことを講和者がシーウェイブスに話した。
 選手たちは1003人の犠牲者の名が刻んである芳名板の前に立って黙祷し、一人ひとりが献花した。翌日の試合が持つ意味を誰もが理解しているような表情だった。

 スタジアムのあった場所には以前、鵜住居小学校と釜石東中があったことも、あらためて伝えられた。
 長くチームに所属している選手たちにとっては聞いたことがある話も、新しく加わった選手たちもいる。毎年繰り返し、いい伝えるべきことだ。

 ケフHCは、「明日がどういう意味を持った試合か。それは理解しています。選手たちも全員が、試合の重要性をよく認識している。毎試合そうですが、彼らは(明日も)100パーセントの力を出し切ってくれるでしょう」。

 河野(こうの)良太主将も言った。
「震災から15年という節目の年に、復興祈念試合をさせてもらえる。いつも応援してくださるファンの方もそうですし、震災を経験した方たちもたくさん見に来てくれると思います。その方たちに僕たちがラグビーをしている姿を見てもらって、何かを感じてもらえたらな、と思います」

熱気があったスタジアム。【写真左・右上】4325人のファンが足を運んで声援を送り続けた。【写真右下】多くの人が足を止め、耳を傾けた「語り部」の活動。釜石の高校生が約3分、震災について語るもの。(撮影/松本かおり)


「試合をやる以上は勝ちを目指します。勝つことが一番」と言ってキャプテンは続けた。
「勝敗だけでなく、グラウンドの中で最後まであきらめずに戦う姿勢や、体を張り続ける姿をチームとして大事にして戦いたい」

 169センチのファイターは、大きな体躯のアタッカーが多いライナーズとの戦いを睨み、ハードタックルをし続けることを誓った。
「それがチームからも求められているところでもあるので。僕が率先して強い選手に対してタックルし、チームを乗せていければいいかな、と思います」

 24時間後、指揮官と主将の言葉は現実のものとなった。
 夜遅くから明け方に降った雨も上がり、雲が去った3月7日の13時のキックオフ。ただ、強い風が吹いていた。
 シーウェイブスはその風を背中から受けて前半をスタートさせた。

 前半6分、先制点を許した。202センチ、125キロの巨漢、LOサナイラ・ワクァにラックの近くを縦に走られ、タックラーたちが何人も弾き飛ばされる。豪快に走り切られて0-7とされた(SOマニー・リボックのGも成功)。
 全勝チームの、個々の高い能力を見せつけられたシーンだった。

 ただ、この日のシーウェイブスは全員が意思統一して動けていた。ブレイクダウンへの集まり。モール時に力を集めて押す。ボールを動かしながらスペースを作り、それを見つけ、攻略する今季のスタイルが随所に見られた。

苦しい時間帯も全員で守ったシーウェイブス。写真上はボールを奪い取ったPR髙橋璃玖。写真左下は巧みにゲームをコントロールしたSOミッチェル・ハント。写真右下は途中出場、昨年の主将だったSH村上陽平。気仙沼出身。(撮影/松本かおり)


 前半12分、PGで反撃開始。相手反則からPKで前進し、ラインアウト後のモールを押してオフサイドを誘う。SOミッチェル・ハントが3点を加えた。
 26分のトライは、相手のロストボールからアンストラクチャーの攻撃に持ち込み、パスとランで防御を動かした。空いたスペースにCTBヘルダス・ファンデルヴォルトがショートキックを蹴った。
 そのボールを手にしたWTB髙居海靖がトライラインに迫り、ラックから出たボールを受けたHO西林勇登がインゴールに入った。Gも決まり、10-7と逆転した。

 36分にはFB落和史のカウンターアタックからチャンスを作り、CTBトンガ モセセがトライ。SOハントがそのGと41分のPGを決めて、シーウェイブスは20-7とリードしてハーフタイムを迎えた。
 後半に入って風向きが変わった時間帯があった。ライナーズSOリボックのキックが思うように飛ばない。3分、敵陣のラインアウトからモールを押してFWで攻め込み、最後はFL髙橋泰地がトライラインを越えた。

 25-7とリードを大きくしたシーウェイブス。しかし、7分、10分と、それぞれキックカウンターからあっさり走り切られ、攻め切られる。スコアはあっという間に25-17となった。スタジアムの空気が重くなりかけた。

 しかし、シーウェイブスの選手たちの気持ちは切れなかった。全員が体を張る。ケフHCが言っていたように、誰もが100パーセントの力を出そうと必死だった。
 差を詰めて、ライナーズがさらに襲いかかってこようとした後半10分過ぎ。中盤でSOリボックが縦に出る。それをNO8サム・ヘンウッドが倒す。そこに途中出場のPR髙橋璃玖がすぐに仕掛け、ノットリリース・ザ・ボールを誘う。
 FL河野主将がモールから5点を追加したのはその直後、敵陣に入った後の攻撃からだった。

前節の試合でチームキャップが50に達した河野良太主将は、この日でリーグ通算キャップが50に。いつものように体を張り続けた。写真上は後半16分のトライ時。写真下は、お祝いに駆けつけた家族と。(撮影/松本かおり)


 貴重なトライを挙げた河野主将は、トライを返されて30-22と再度迫られていた75分過ぎ、試合前に誓っていた通りの一撃を見せた。
 反則からPKで自陣深くに入られ、フェーズを重ねられていた。ラックから出たボールを受けたLOパトリック・タファに背番号7が鋭く刺さり、ノックフォワードさせた。攻撃権を取り戻し、数分後のフルタイムをそのままの点差で迎えた。

 試合終盤から勝利の瞬間、歓喜の瞬間のあと、スタジアムには選手たちへの大きな声援が響いていた。
 前戦のレッドハリケーンズ大阪戦(14-15)で出た反則多発&スクラムでの劣勢を修正しての勝利に、選手たちの表情も明るかった。

 試合後の会見でケフHCは、「結果に満足しています。取り組んできたことがうまく機能したことを見ることができて良かった」と、穏やかに話した。

 首位を走る相手にチーム一丸となって立ち向かい、手にした勝利の価値について、こう喜んだ。
「私たちがこのリーグで、誰にでも勝てる可能性があることを示したと思います。きょう、全員でそれを証明したと思います。ただ、大事なのは一貫性。いつも自分たちの良いプレーを出せたら、どのチームにも勝てる」

全勝がストップしたライナーズ。写真左は先制トライの LOサナイラ・ワクァ。写真右のCTBピーター・ウマガ=ジェンセン共同主将は、「風の影響は間違いなくありましたが、前半、風下に立ちながら1トライ差に抑えられました。ハーフタイムの時点ではチームとしてよくやったという印象でした。後半は風上に立てて良かったのですが、そこで判断を誤ってしまったのだと思います。それ以降のゲームマネジメントがしっかりできていませんでした」と悔やむも、勝者を称えた。「釜石は本当に良いラグビーをしたと思います。私たちもそこから学びました。記念すべき試合の一部になれたことを大変光栄に思います。実は、私は過去の歴史で何が起こったのかを知らないままここに来ました。しかし、数日の間に多くのことを教えてもらい、この街がそこ(震災)から復興を遂げたということを知りました。シーウェイブスの今回の1勝は、復興しようとしているこの街に希望を与えるものになったのではないでしょうか」。(撮影/松本かおり)


 河野主将も「試合前、チームのみんなにはプライドを持って最後まで体を張り続けて戦おうという話をしました。それをしっかり80分間体現することができた結果」と言った。
 気負いすぎずにプレーできたことも勝因のひとつ。
「チームとしていい準備をしてきたので、それを出すこと、先のことは考えず、目の前のプレーに集中しようと話して試合に臨みました」
「気持ちは熱くなっても頭は冷静にやろうと常に話している」そうだ。

 前シーズンはクラブキャプテンを務めていた河野主将。チームメートとともに地域とのつながりについて考える時間も少なくなかっただろう。だから、「こうやっていま、僕たちがラグビーをできていることは当たり前ではない。いろんな方たちの支えがあってプレーできています」という言葉が素直に出る。
「きょうは、そういった思いをグラウンドで表現、体現して、ファンの方々に思いが伝わればいいな、と思って試合に臨みました。そうなっていたら、嬉しいですね」

 感謝の気持ちが溢れ出た。
「このホームスタジアムで試合をさせてもらえることは、僕たちにとって、本当に大きなアドバンテージです。きょうはスタンドが埋め尽くされるぐらい大勢の方(4325人)に見に来ていただいた。試合中の釜石コール、何度も僕たち選手たちに聞こえていたし、しんどい状況でも声援のおかげで最後まで諦めずに体を張り続けることができました」

 チーム釜石で得た勝利だった。

スタジアムグルメも、釜石鵜住居復興スタジアムでの試合開催時の魅力。魅力的な約70店がファンを喜ばせた。(撮影/松本かおり)




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