Keyword
現地時間2月21日に行われたシックスネーションズ第3節。カーディフのプリンシパリティスタジアムで、ウェールズはスコットランドに23-26で惜敗した。
直近の大会成績は13連敗と苦しむウェールズは、難敵スコットランド相手に現状のアイデンティティをハードに示しきった。
スコットランドもまた、ウェールズの粘りとハートあるプレーに苦戦しながらも、最後は地力を見せて寄り切った。
両チームに心動かされた好ゲームを、3階席の上の方から見つめることができた。
◆ウェールズの奮闘。
試合の序盤、ハイタックルによるシンビンで14人となったウェールズは、自陣でのピンチを守り切る。
ピンチのあとにチャンスあり。その直後、したたかで、巧みな9番、名手トモス・ウィリアムスの好判断がスコアを動かした。
自陣10メートル付近でペナルティを獲得すると、P→GOの判断で一気に敵陣22メートル内に侵入、サポートについた13番のエディ・ジェームスへパスすると、ジェームスは思い切りよく縦に切り込んだ。
この試合へのメッセージを感じさせる強気の選択に、ウェールズファンの歓声が地鳴りのように呼応する。この好判断からの攻撃でフェイズを重ねながら、フォワードは力強く前に出て、バックスは迷わず走り、じわじわとゴールラインに迫った。

前半9分、最後は1番のリース・カレがトライ。ゴールも成功し、ウェールズが7-0と先制した。14人ということを忘れるほどのモメンタムあるアタックだった。
13分にはスコットランドに1トライを許し、7-5とされるも、その後もウェールズはボールキャリアが鋭く強く前に出ながらゲインを繰り返す。18分にはフォワードとバックスが一体となった攻撃を連続し、最後は11番ジョシュ・アダムスがトライ。14-5と差を広げる。
開閉式の屋根が閉じられたプリンシパリティスタジアムに、ウェールズファンの熱気がこもっていく。
ラグビーの真剣勝負の只中に、ウェールズの心の歌『カロン・ラン』、炭鉱とラグビー文化に根差したマックス・ボイスの『ヒムズ・アンド・アリアズ』が響き渡る。
歌声はウェールズをさらに後押しした。
ウェールズは30分、ペナルティゴールで3点を追加する。キッキングゲームで優勢に立ちながら、相手のミスを逃さず、多くの時間を相手陣で戦う。
シンプルで迷いのないアタックには明確な意思があり、規律と粘りあるディフェンスで我慢強く抵抗した。個の闘志がチームの意思に昇華され、規律高く勇敢に戦い続けたウェールズは、前半を17-5で終えた。

◆焦りの見えないスコットランド。
一方のスコットランドは、ミスが頻発し、フラストレーションのたまる内容でありながら、焦りは見えなかった。
そのゲームメイクの中心にいたのが、10番フィン・ラッセル。世界で有数、極上のラグビーセンスとスキルセットを併せ持つラッセルは、プレー判断とスペースの攻略にそつがない。
相手の流れを切り、勝負どころで流れを引き込むゲームメイクが、この試合際立っていた。
前半13分、スコットランドにとって数少ないチャンスの一つとなったラインアウト。
この時、ウェールズは12番のジョー・ホーキンスがハイタックルによる一時退場中。14人のウェールズディフェンスに対し、ラッセルはシンプルで効果的な、理にかなったアタックをチョイスする。
スコットランドは一度モールを形成し、ディフェンダーを内側に寄せたあと、ハーフからの長いワンパスで4人のディフェンダーを切る。ラッセルが外側に大きく出来たスペースにボールを運ぶと、最後は14番カイル・ステインがトライを奪った。
前半のスコットランドのスコアはこのトライのみとなり、5-17とビハインドで終了する。
後半に入ると、ウェールズがペナルティゴールで3点を追加し、スコアは5-20まで開いてしまう。
この厳しい局面で、ラッセルは決定的な仕事をする。スコットランドがゴール前まで攻め込みラックを重ねると、この10番はラックの背後でふてぶてしく相手のディフェンダーを終始観察し、最後は自身がフォワードとバックスのディフェンスの切れ目に入った。ミスマッチを突く形でインゴールに持ち込み、トライした。直後のゴールキックも成功させ、12-20と差を縮めた。54分だった。
直後の57分、ペナルティゴールによる3点で再度スコアを離されたスコットランドだったが、この直後のキックオフで、フィン・ラッセルはまたしても魅せる。
自身がキッカーとなるキックオフを素早いリスタートで左奥のスペースに蹴りこむと、そのボールから目を切ったウェールズの選手の背後に落とし、バウンドさせる。
跳ね返りのボールはトップスピードでチェイスした23番ダーシー・グレアムの胸に吸い込まれるように収まり、そのまま左サイドにトライ。難しい角度のゴールキックもラッセルが成功させ、19-23となった。
スコアされてから15秒後の電光石火のトライに、うしろの席のウェールズファンは後頭部を手で抱え、それまでおとなしかった隣のスコットランドの女性は立ち上がって叫ぶ。
勝敗の行方がわからないカオスな展開になり、両者の心理のコントラストがスタジアムで交錯した。

◆残り10分の実力。規律の差が勝負を分けた。
残り20分、両チームのファンから熱気がほとばしり、会場の熱気はこの日最高潮に達した。スコアはそのまま動かず、残り10分に。
最もタフなこの時間帯、最後に勝負を分けたのは規律の差だった。
これまでペナルティ少なく粘り強く戦ってきたウェールズだったが、スコットランドの攻撃の圧力にペナルティを連続してしまい、自陣ゴール前での戦いを強いられてしまう。
最後はラインアウトモールからトライを許し、74分、23-26とついにスコアをひっくり返されてしまった。
残り時間、最後の勝負所はスクラムだった。力を振り絞り、お互いの意地がぶつかりあうバトルは、スコットランドが上回った。
ウェールズ23-26スコットランドでノーサイド。ウェールズは74分までリードしながら、最後の6分で苦汁をなめた。
シックスネーションズで3年ぶりの勝利をつかみかけていたウェールズは、またしても厳しくタフな結果をつきつけられ、直近の大会戦績はこれで14連敗となった。
しかし、レッドドラゴンは敗れたものの、最後まで覚悟と意思を持ち、粘り強く戦い続けた。俺たちはここにいる。誇りを取り戻すための歩みの一歩を進めた。
何度倒れても、何度でも立ち上がる。それがラグビーであり、ウェールズだ。この国はラグビーを手放さない。

◆マエストロ、フィン・ラッセル。
ハードなプレーの連続で、選手たちの息は上がり、視野も狭くなる。そんな厳しいコンディションの中、相手のプレッシャーを平面で受けながら、まるで立体的にグラウンドを見ているかのように判断・実行できる選手はスペシャルだ。
ラッセルはまさしくこの能力の持ち主であり、この日もスタンドから見下ろすように試合をコントロールしていた。
前半34分、5-17とスコットランドが苦しんでいた場面。
スコットランドはボックスキックの再獲得に失敗し、ウェールズ15番ルイス・リース=ザミットにこぼれ球を拾われると、自陣深くにキックで戻される。
頭を越されたスコットランドは、その後のキッキングゲームで後手に回り、陣地を後退させられる。ラグビーの原理原則が身体化されたような反応をするウェールズファンは、キックで敵陣に侵入するプレーに歓声で後押しをする。その時だった。
試合映像で34分2秒、ラッセルは自陣22メートル内で相手キックを捕球した際、「マーク!」とコール。フェアキャッチを選択し、一度プレーを止めた。
相手とかなりの間合いがある中でのフェアキャッチ。そのまま蹴り返せばいいところ、なぜそうしたのか。その瞬間は理解できなかった。
しかし、プレーが再開されると、その意図がじわじわと見えてきた。
フェアキャッチを選択し、プレーを一旦切ることで、ウェールズファンは静まった。キッキングゲームで後手を踏んだスコットランドは、一度地に足をつけて仕切り直した。

もしもそのままタッチに蹴り出していれば、流れのままウェールズボールのラインアウト。赤い歓声はさらに大きくなり、スコットランドは自陣で苦しい時間を過ごしただろう。
押し込まれかけていた流れを、そこで断ち切った。ラッセルは、何事もなかったかのように試合を再開した。
会場の空気やチームメイトの息遣いを感じながらのフェアキャッチだったとしたら、まるでマエストロ(指揮者)だ。
完全アウェーのプリンシパリティスタジアムで、相手、スペース、味方、場の空気感を読みながらタクトを振るった。
会場の雰囲気までコントロールしてしまうラッセルのプレーは、1階席や2階席では捉えにくかったかもしれない。
3階席、それも上の方は、その凄みを堪能できる幸運な場所だった。
【プロフィール】
古屋龍太郎(ふるや・りょうたろう)
1994年福岡市生まれ。九州から関西、関東へと移りながら、各地でCTB、WTBをプレー。