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野口竜司[埼玉パナソニックワイルドナイツ]の、深いキックキャッチング論。
1995年7月15日生まれ、30歳。枚岡中→東海大仰星→東海大→埼玉パナソニックワイルドナイツ。日本代表キャップ14
2026.02.16
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野口竜司[埼玉パナソニックワイルドナイツ]の、深いキックキャッチング論。

田村一博

 熊谷ラグビー場で、松田力也が野武士のエンブレムを付けずに戦う初めての試合だった。

 2月14日、埼玉パナソニックワイルドナイツ×トヨタヴェルブリッツがおこなわれた。
 試合後の記者会見で金沢篤ヘッドコーチが「相手はキックを多用してくるだろうと予想していた」と言うように、ホストチームは、2シーズン前までこのスタジアムの主のような存在だった10番のキックを警戒してキックオフを迎えた。

 2023-24シーズンを最後に、活躍の場をワイルドナイツからヴェルブリッツに移した日本代表キャップ39を持つ司令塔は、移籍1年目の昨季第5節、古巣との試合で10番のジャージーを着た。しかし、その時は福岡が試合地(ミクニワールドスタジアム北九州)だった。

ヴェルブリッツの高橋汰地とハイボールを競り合う。(撮影/松本かおり)


 今季開幕から7戦を終えた時点でリーグワン、ディビジョン1で唯一の全勝チームとなったワイルドナイツ。ヴェルブリッツは開幕戦で勝った後に6連敗と最下位に沈んでいる。
 12位のチームが首位に挑む中で、巧みなキック力を持ったスタンドオフを2試合ぶりに起用するなら、ワイルドナイツ側の予想は当然だった。

 バックスリーのキック処理が試合の流れに大きく影響を及ぼすと見られる中で、存在感を示したのがワイルドナイツの15番を背負った野口竜司だった。ハイボールキャッチの名手として知られている。
 2022年6月25日におこなわれたウルグアイ戦を最後に国際舞台からは遠ざかっているが、日本代表のキャップを14持つ30歳は、この日も安定したプレーでチームの勝利に貢献した。

 先制したのはワイルドナイツも、個々の能力が高いヴェルブリッツはブレイクダウンなどコンタクトシチュエーションでボールを奪い取るシーンもあった。後半7分の時点で14-5とリードした。
 結果的にはそこから、ホストチームの青いジャージーが高い集中力を発揮。最終的には26-20とワイルドナイツが勝利した。勝者の巧者ぶりをあらためて感じさせる展開だった。

 この試合で野口は、相手が蹴った7回のキックに対応した。3回は長いキックをしっかり確保。コンテストキックは4回だった。
 そのうち前半開始すぐに蹴られたものに関しては競ってボールがこぼれるも、後半の3回はしっかり確保した。2回はクリーンキャッチ。競り合ってこぼれ、イーブンボールとなったあとに自分たちの手に入ったものが一つあった。

インターセプトから走り、キック、チェイスで敵陣深くに入るシーンもあった。(撮影/松本かおり)


 自陣に攻め込まれていた前半8分過ぎ、相手SO松田のパスをインターセプトし、大きくゲイン。キックで敵陣ゴール前までチームを進め、その後のトライ(12分の先制トライ)を呼ぶきっかけを作ったプレーもあった。
 しかし、この人の価値をあらためて感じさせたのはキックのシーンだった。

 最後尾にいるフルバックは広い視野で相手を見ている分、キックを蹴る機会の多い相手の10番、9番が、空いているスペースを探し、目線を向けている先が分かりやすい。
「そこから予測して動き出しを考えたりしています」と話す。

 この日の相手10番、松田はかつてのチームメートだけに考えていることや傾向を知っていそうではあるが、「(松田のしてくることが)よく分かるというよりは、流れの中で判断しています。誰がどうというよりは、いろんな選手の動きを読んたり、ディフェンスしてきた中での経験則として動けている感覚はあります」とする。

 高めてきた職人芸の原点は10代だ。「高校(東海大仰星)時代から考えてはいました。ただ、やるレベルがどんどん上がっていく中、対応力という点でグッと伸び出した、考え出したのは(東海大を経て)パナソニックに入ってからだと思います」と歩んできた道を振り返る。

「それまでも判断や予測はありましたが、レベルが上がるとそう判断させない選手がいたり、10番だけでなく15番、13番、12番といろんな選手が蹴ってきたりする。そういう中で予測する力は、リーグワンやトップリーグに入ってから大きく変わりました」

 この日はコンテストキックを競り合う局面に強い選手が相手にいた。ヴェルブリッツの右WTB、高橋汰地(たいち)だ。
「試合の分析を見ている中で、汰地の競り合いがすごく上手いというのは分かっていました」と言い、「入る角度などを変えてコンタクトしてきます」と認識し、14番サイドへのキックには特に集中力高く対応した。

最後まで競る試合となった(26-20でワイルドナイツの勝利)。写真左上は先制トライを挙げたワイルドナイツCTBヴィンス・アソ。写真右上はヴェルブリッツFL奥井章仁。後半6分にトライを挙げた。写真左下はヴェルブリッツのNO8姫野和樹主将。写真右下はプレーヤー・オブ・マッチに選ばれたFLラクラン・ボーシェー


 相手がこのサイドであれば、どちらの足を上げてジャンプしてくるのかを知っておいて、自分がどちらの足を上げるか決めておいた。「自分も同じ側の足を上げてしまうとレゴ(ブロック)みたいにハマってしまうことがあるので、逆足を上げてやってみよう、と(試みました)。ブロックできれば相手との距離も取れるので」。

 今回の試合の中で高橋とのマッチアップは2回だったか。試合開始直後は、頭の中に描いていた動き通り、相手と逆足を上げてジャンプ。後半も含め、両機会ともお互いにキャッチできなかった。
 ただ、「クリーンキャッチさせなかったのはよかった」。一度は、こぼれた球を味方が手にして攻めた。改良を続け、自身を進化させる意欲は尽きない。

 キックの使い方、そのチェイス、キャッチの重要性が高まる現代のラグビー。そんな状況の中で考え続ける。
「キックのカバーや予測は、ずっとフルバックをやってきた経験則として自分の中で染み付いている部分があります。動き出しなどに関しては良くなっているし、今後も良くなり続けることはできると感じています」

 高橋と対峙して、上げる足を変えたらいいのではないかと考える。実行してみる。その結果を受けて、また考え、練習する。
 尽きることのないそのサイクルの繰り返しを、自分の中にある「伸び代」とポジティブにとらえる。

 キャッチングについては、2つの点を重要視する。キックボールの落下地点を予測して相手より先にポジショニングする。ベストのタイミングでのジャンプ。それらを意識して練習を繰り返す。

 対戦相手を分析し、相手のスクラムハーフのキックの種類や動きを頭に入れて準備もする。
「例えば、キヤノンなら後ろ向きで蹴ってくる人もいる。そういうフォームを練習でやってもらうこともあります」

 当たり前のように取り組んできたことなので「人一倍(量を)やっているとは思っていませんが、感覚を上げていきたいと思っているので……練習あるのみ、です」。

「クリーンキャッチできないと僕の中では成功とは言えない」との覚悟がある。
「フォワードが前で体を張ってくれている。その分、うしろに蹴られたのであれば、(獲得率は)自分のタックル成功率と(同じくらいにしないといけないと)考えないといけないと思っています。絶対に捕りたいという思いがある。もっと精度を上げていきたいです」

 キック、そして、その後の攻防の重要度が増している。競り合いの結果、芝の上に転がったボールをどちらのチームが確保するのか。トレーニングや戦い方の研究や整備の範囲は、その領域までに広がっている。

ハードなタックルでもチームに貢献した。相手ボールを奪い取るスティールもあった。(撮影/松本かおり)


 この日の試合でも、ワイルドナイツがそこで上回ったことが、勝利の天秤を傾けさせる要因の一つとなった。
 野口がワイルドナイツの方針を説明する。「チームとして、しっかり下がって(できるだけ多くの選手が)オンサイドの状態でプレーに参加できるようにしようとしています」。
 全員にその意識と動きがあるから、「自分たちは思い切って競りにいける。もしうまくいかなくても、ディフェンスが戻ってくれているから安心できます。きょうも、こぼれ球をチャンスにつなげられるシーンがありました」。

 過去、たくさんのキックが飛び交う中でクリーンキャッチ100パーセントという試合があったかどうか把握していない。
 完璧なキャッチが必ず勝利に直結するわけではないが、「おもにキックでプレッシャーをかけてくるチームに対し、すべてキャッチできれば、自分たちに有利な展開に持ち込めるのは確か。だから、もっともっと練習しないと」。
 この人が、いつも信頼あるパフォーマンスを出せる理由がそこにあった。



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