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王国の人たちに耳の痛い話。ヘッドコーチ退任に揺れるNZラグビーをエディーが斬る
その発言が世界の注目を集めるエディー・ジョーンズ日本代表HC。(撮影/松本かおり)

王国の人たちに耳の痛い話。ヘッドコーチ退任に揺れるNZラグビーをエディーが斬る

松尾智規

「理解し難い」
 元オールブラックスの指揮官、スコット・ロバートソンの衝撃の退任劇について、現在日本代表を率いるエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)が熱く語った。
 1月15日のロバートソンの突然の退任から10日以上が過ぎた。しかしニュージーランド(以下、NZ)ラグビー界は依然として落ち着かない状況にある。

 勝率74パーセントという数字だけを見れば、ロバートソン氏の退任は説明がつかない。NZラグビー協会(以下、NZR)が下した決断は、単なる結果論ではなく、より深い構造的な問題に踏み込んだものに見える。
 世界中で大きな話題を呼んでいる中、ジョーンズ氏が1月25日、NZのラジオ番組に出演し、自身の視点からこの退任劇とNZラグビーの状況について話した。NZ国内のラグビー関係者、ファンにとって耳に痛い、率直な見解だった。

◆退任の背景について「理解がし難い。解任理由を話すべき」。


 NZのラジオ番組「Weekend Sport」に出演したジョーンズ氏は、「ロバートソン退任についてどれくらい驚いたか」という問いに対し、「2年という国際キャリアと、彼が積み上げた成績を考えれば大きな驚きだ。すべての詳細はわからないが、理解し難い」と率直に語った。

 また、「74パーセントの勝率で今回の結果はフィールド上の結果だけの問題ではない、と考えられますか?」という問いには、「間違いなくそうです」とはっきりと答えた。
 その上で、「私が嫌なのは、NZRが表面上の情報は喜んで(メディアと)共有する一方で、本当の退任理由を明かしていない点です」と指摘。「もし裏で情報(今回でいうアーディ・サヴェアの将来が不透明など)を流したりしているなら、正直に『退任理由はこれです』と言うべきだ」と強い言葉を使った。
 まさにNZRのその姿勢自体が、今回の騒動を必要以上に大きくしている要因。ジョーンズ氏の的を射たコメントには納得がいく。

オールブラックスHCとしての最後の指揮となった、2025年11月22日のウェールズ代表戦でのスコット・ロバートソン氏。(Getty Images)


◆ピッチ上の評価。オールブラックス下降の要因を分析。


 話題は近年のオールブラックスのパフォーマンス評価に移る。
「正直に言うと、NZ(オールブラックス)は、しばらく下降気味だと思います。まだ良いチームです。しかし、おそらく2019年頃から、NZラグビー全体に少し衰退が見られていると感じます」とジョーンズ。
 その要因として「ひとつは、新しいタレントの供給が十分ではないことと、もうひとつは現在のプレースタイルの調整も関係していると思う」と述べた。
「(現在の)ゲームは明らかに、よりパワーコンテストになり、以前よりもプレーする時間(ボール・イン・プレーの時間)が増えています。(それに伴って強度の高い内容も)40分だったものが60分になったような感じです」と説明し、「NZは伝統的に継続性を重視するチームなので、ここ最近はうまく対応するのに苦労していると思います」

◆タレントの流出問題。


 ジョーンズ氏はさらに、「タレントの流出」にも踏み込んだ。過去のオールブラックス黄金期と現在の世代の間の「ギャップ」について説明した。
「彼ら(オールブラックス)は、2011年から2019年まで80パーセントの勝率と、世界で最も支配的なチームでした。(そういう時は)その後、次の世代の選手が入ると前の選手との間にギャップが生じることがある。
 若手選手はチームが苦戦すると、自身の潜在能力を存分に発揮できるようになるのに時間がかかる場合があります。いま、それが起きているのかもしれません」

 さらに、ラグビー・リーグ(13人制)のウォリアーズ(NZで唯一のラグビー・リーグのプロチーム)の存在が、若手選手にとって「オールブラックス以外の現実的で魅力的な選択肢」になっていることにも触れた。名声や経済的な成功が、より早い段階で手に入る環境がある中で、従来のように「自然と代表(オールブラックス)を目指す一本道が揺らいでいる」という見方だ。

 若い才能の流出について、ジョーンズ氏の母国の例を挙げ、「オーストラリアでは、この問題に真剣に取り組まず、ラグビー低迷の原因になった。NZも同じ道を歩まないように真剣に検討する必要がある」と警鐘を鳴らした。
 NZにも以前から流出はあったが、ここ最近は加速した感もある。例として、昨年クルセイダーズのディベロップメントメンバーで、プレシーズンマッチに出場し将来を期待されていた選手(ハリー・インチ/SO)が、のちにラグビー・リーグ(13人制)に転向し、ウォリアーズと契約した。

 また、昨年U20ニュージーランド代表を経験したLO/FL/NO8ランダル・ベイカー(横浜キヤノンイーグルス)や、これからが楽しみな選手として見られていたWTB/FBティージェイ・クラーク(東芝ブレイブルーパス東京)らが、NZ国内で経験を積んでオールブラックスを目指す道ではなく、日本のリーグワンでのプレーを選択するケースがある。20代前半という早い段階でNZラグビーの育成ラインから離れる選手が珍しくなくなっている。まさにジョーンズ氏が警鐘を鳴らしたことに当てはまる。

◆タレントの流出問題。


 ジョーンズ氏は、オールブラックスのシーズン終了後の匿名アンケートやレビューにも違和感を示した。「(指導力のある)コーチがある日突然、(成果を上げられない)悪いコーチになることは稀です」と述べ、「評価はシーズン通じて継続的におこなうべきだ」と考える。
「パフォーマンスディレクターや協会の強化部門は、チーム環境を常時評価し、問題があれば早期にフィードバックや支援をおこなう責任がある。最終的な総括だけで結論を出すのではなく、プロセス全体を管理することが求められる」とジョーンズ氏は考えている。

1月26日に発表されたオールブラックスHC選考プロセスに関する声明。NZ Rugby公式『X』より


◆プレーヤーパワー(選手の影響力)と商業化の影響。


 プレーヤーパワーについては、昔から存在している現象で、選手の関与は本質的に重要だと指摘。ただし、匿名アンケートなどが間接的に意思決定に反映されるのはリスクがあるとして警鐘を鳴らす。
 商業化については2022年までクリスティアーノ・ロナウドが在籍したマンチェスター・ユナイテッドの例を引き合いに、ブランド価値の拡大が、チームや現場にプレッシャーとして影響を及ぼす可能性があると示唆した。 
 インタビューの最後には「オールブラックスのヘッドコーチ職に興味はありますか」の面白い問いかけがあった。それに対して、笑いながら「全くないよ」と即答。そう聞かれたことに若干嬉しそうにも取れる受け答えに思えたが、「NZには素晴らしいコーチが多い。NZ人で十分でしょう」と、NZ国内のコーチングのレベルの高さを認めた。

 約10分間の短いインタビューだったが、濃い内容だった。
 ジョーンズ氏はNZラグビーの現状と課題について、今回の騒動だけを見て判断をせず、全体を見て分析している。現在日本代表を率いる指揮官は、元イングランド代表HCであり、2度のワラビーズHCと、3か国を渡り歩いてきた。その経験をもとに、自身の視点も交えて話した。
 オールブラックスの針路を占う上で、ロバートソン退任の議論は避けて通れないテーマであり、ジョーンズ氏の分析は、今後のNZラグビーを考える上で重要な視点を投げかけてくれた。

 ジョーンズ氏のコメントは、現在率いる日本代表の育成面についての問題ともリンクしているようだった。
 日本代表は2019年に史上初のワールドカップ・ベスト8に進出するも、2023年にはプールステージを突破できなかった(いずれも前体制、ジョセフHC時代のもの)。それを踏まえて2024年から2回目の指揮を執るジョーンズ氏は現在、若手育成に重きを置いているように見える。
 混乱の中にいるNZ国内において、メディアやラグビーファンそしてNZRは、今回のコメントをどう受け止めるのか興味深い。

 ジョーンズ氏のラジオ出演の翌日の1月26日には、NZRがオールブラックスの新ヘッドコーチ選考プロセスを発表した。5人の選考パネルには最近引退したオールブラックス選手1名が含まれる。また選考基準は、国際レベルでのヘッドコーチ経験を持つNZ人に限定される。最終決定は理事会が下す予定だ。

 後任候補の中で有力視されているのが、前日本代表HCのジェイミー・ジョセフ氏(オールブラックスXVのHC/現ハイランダーズHC)だ。
 ただ右腕のトニー・ブラウンは、南アフリカ代表のアシスタントコーチとして2027年のワールドカップまで契約しているため、オールブラックスのコーチングスタッフに入ることはないと見られている。この人の存在が、ジョセフ氏の行方に影響するのか注目の的になっている。

 そして現ワラビーズHCのジョー・シュミットは、7月までの任期後も2027年ワールドカップまでワラビーズとオーストラリアラグビーに忠誠を誓うとNZRに伝えたと報道されている。
 また、元ワラビーズHCのデイブ・レニー氏(コベルコ神戸スティーラーズHC)の名前も引き続き挙がる。ジョセフ氏とレニー氏が2人ともコーチングスタッフに入る可能性も否定はできない。

 あと2週間ほどでスーパーラグビー・パシフィックが始まる。その前にオールブラックスのHC騒動は落ち着いているだろうか。引き続き、この話題から目が離せない。



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