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【Just TALK】「僕も皆も教えられたことがないような教え方をしている」。堀江翔太[埼玉パナソニックワイルドナイツ/FWコーチ]
日本代表キャップ76の経験を使いながら、スクラムの深部を選手たちに伝える。1月21日に40歳になった。(撮影/松本かおり)
2026.01.24
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【Just TALK】「僕も皆も教えられたことがないような教え方をしている」。堀江翔太[埼玉パナソニックワイルドナイツ/FWコーチ]

向 風見也

 ラグビー日本代表76キャップ(代表戦出場数)を誇る堀江翔太は、現在、一昨季までプレーした埼玉パナソニックワイルドナイツでコーチを務めている。

 おもな担当はスクラムだ。繰り返して言う。

「怪我なく、長く現役をやってほしい。どのチームに移籍しても、代表に行っても使える身体の使い方で」

 現役時代はワールドカップに4度出場。自身3回目となった2019年の日本大会ではジャパン史上初の8強入りを果たした。

 スクラム先頭中央のフッカーにあって、セットプレー、突進、ステップ、ハンドリング、キック、タックル、スティールと各種の領域でハイパフォーマンスを披露してきた。

 38歳になる約1か月前からの国内リーグワン1部・2023-24シーズン開幕を前に、その年度限りでの引退を発表。公言通りのタイミングでスパイクを脱ぎ、次のフィールドでは身体操作のメソッドを伝える立場となった。

 首の手術をした2015年から佐藤義人トレーナーを信頼。独自の鍛錬法で故障のリスクを減らし、コンタクトの強度を高めていた。自身が29歳で出会ったこの取り組みを若者にもシェアし、スポーツ界をより豊穣にすることを目指した。
 
 壮大なキャリアプランを微修正したのは昨季終了後。それまでもアンバサダーという立場で助言を送っていたワイルドナイツで、フルタイムの指導者となった。予定と異なる道を歩むことにしたのは、クラブに打診されたからだ。

 誘いを受けるべきか否かを選手ではない数名の関係者に相談したところ、「やったほうがいい」と背中を押された。

「皆が喜ぶんだったら、取りあえずやってみます、と」

 振り返れば2015年、世界各国のクラブからオファーがあったなかでスーパーラグビーへ日本から初参戦のサンウルブズとの契約を決めた。

 サンウルブズは、代表強化の後押しが期待されながらも発足前から存亡の危機に立たされていた。戦うと決めた堀江自身が「泥船」と認めたそのグループにあって、始動した2016年には初代主将を務めた。

 当時を思い返し、今回のコーチ転身について聞かれる。

——縁のある場所から助けを求められると、手を差し伸べるのが堀江さんらしいです。

「はははは! そうすね。…自分が思うようなコーチ像は、ない。いろいろなチームに入ってきたなかで『コーチにこんなことを話してほしかったな』というようなことを言っているだけ。めちゃくちゃモグリのコーチです。ただ、『チームを強くするにはこういうことをせなあかんよね』ということを現場、現場で言っていけたら」

 いまは佐藤氏が編む「STA」を念頭に置き、スクラムを教える。

現役時代ともに戦ったチームメートたちに、コーチとして接する。「みんなが協力してくれるお陰です」。(撮影/松本かおり)


「僕は、佐藤さんと出会った後に組んでいるスクラムのほうが(姿勢などが変わったため)安定し、身体の痛いところもなくなったので、それを教えている感じ」

 フォワード8人全体が同じ高さで密着すべしという全体構造については、日本代表時代に学んだ長谷川慎氏(現静岡ブルーレヴズアシスタントコーチ)の哲学を参照。一方、ひとりずつの姿勢の取り方は「STA」をベースに落とし込む。

「少し、慎さんの考え方という部分は頭のなかにはありますけど、(個々の)組み方は完全に佐藤さん(流)の組み方です。力の入れ方、身体の使い方(が肝)。いくら頑張って押しても、身体の使い方が間違っていたら力は前に伝わらないよと、(初期段階の)ミーティングで話しています」

 概略についてこう話したのは8月下旬。前置きはこうだ。

「たぶん、僕も皆も教えられたことがないような教え方をしているので、それが成功するか、失敗するかもわからない」

 季節は過ぎ、12月中旬。リーグワン新シーズン開幕から、常にパックを安定させる。

 1月20日、埼玉の拠点で取材に応じた。

——「失敗」とは映りません。

「僕が言ったことを選手が理解し、表現してくれている。選手が賛同してくれなかったら、うまくいかない。表現しようという姿勢に、非常に助けられています」

——コーチとして公式戦5つを経験しました。

「難しいところもありながら、です。自分の経験を踏まえて佐藤さんから教わってきた身体の使い方をメインで伝えていますが、そういうスクラムコーチに僕は出会ったことがない。(自身の)モデルがないというか…。だから毎試合、毎練習、模索しながら…という感じです。

 きょう(練習の密度が濃くなると言われる火曜日)も、8対8で思いっきり組まなかったりしているんです。普通は週に2回ぐらい組むんですけど。

 先週からそうです。フォーカスすべきところ(の落とし込み)をメインにして、木曜は8対8で組みます」

——週の前半に、ゲームで求められる形を明確化する。

「(実際にいい形だったスクラムを振り返って)なぜ、ここでプレッシャーをかけられたのかを皆にわかりやすく説明して、『これが、次も必要なんだよ』と。

固定概念には引っ張られたくない。毎映像、毎映像を見ながら、次にどうしたらうちのスクラムがよくなるかを考えてやっている感じです」

——トレーニングの前に、2人一組での準備運動をしていました。ひとりが首にゴムバンドをかけ、背筋を伸ばして腰を落とす。もうひとりにゴムバンドを引っ張られるなか、姿勢を保ったまま腰の軸を左右に回旋させていたような。

「あれはもう、首と背中を繋げる(というイメージ作り)。スクラムには(構造上)ねじりも入るので、そこも。

身体の使い方、ですね。怪我なく長く現役をやってほしいですし、どのチームに移籍しても、代表に行っても使える身体の使い方をしてほしい」

——直近の2試合では、相手の圧を受ける場面がありながらも途中から形勢逆転する流れが目立ちます。

「それも、僕のなかでの教えていることのひとつ。現場で初めて起こることが、絶対にある。予想外、想定外のことがあったらどう修正をかけるか。これは現場しか絶対にできない。僕もある程度は上(試合中のコーチ席)から教えられますが、1本目のスクラムと2本目のスクラムの間にはコーチは介入できない。だから練習でも組むたびに『何がよくて何が悪いか』を話すようにしています」

——選手同士で改善するための力を育てているのですね。

「特にフッカーには『1、3番(両脇のプロップ)の特徴を理解し、どうしたらこいつらの力を発揮できるかに頭を働かせなあかん』と伝えています。坂ちゃん(坂手淳史主将)は、そのスクラムワークがぐんぐんよくなった。1、3番の情報を聞きながらどう修正するかを、理解している」

東京サントリーサンゴリアス戦に向けて準備を進める1月22日のスクラム練習。(撮影/松本かおり)


 修正力が見えたのは1月17日。神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場での第5節だ。

 後半開始早々、対する横浜キヤノンイーグルスがフッカーにニュージーランド代表8キャップのリアム・コルトマンを投入。スクラムで好プッシュを仕掛けた。一時、ワイルドナイツが押し込まれるシーンが増えた。

 しかし、時間が経てばその構図は変わった。ワイルドナイツが安定感を取り戻し、試合も50-21で制した。

 堀江が言葉を選んで解説する。

「あれは、坂手が3番(右プロップ)のポジショニングを、変えたという感じです。その後、僕も映像を見て(プッシュされた時は)『こういう現象が起きて、ここ(の繋がりを)割られたんだよ』、『数センチずれるだけでこんなに変わる』と細かく話しました。(肝は)セットアップのタイミングというところですね。あまり多くを話すと、あれなんですけど。はははは」

——そういえば、引退時にやろうと思っていた活動はどれくらいできていますか。

「今年も何回かはやっていきたいです。まぁ、いまは僕のスクラムコーチの活動が身体の使い方(の追求)にも繋がっている。相乗効果もある。

 コーチって、大変というか…。選手とトントンかな。コーチは朝からウェイトをすることもないし、試合での負荷、緊張感もない。ただその分、ひとつひとつ責任を持ってミーティングの内容を考えたり、ずーっとラグビーのことを考えたり。どっちがどっちではない。トントンです。

 もっとこうしていたらな、わかりやすく言えたらな、というの(反省)はあります。僕の経験で教えているので、『ここまではわかっているだろうな』と思っていたところ、『あ、これを教えていなかった。もっと事細かく教えないといけなかった』と気づいたことが何回かあって。『これを教えていない』がちゃんと(試合に)出る。『あ、ここは俺のせい』と。(詳細は)めっちゃ細かくて、僕も覚えていないくらいなのですが、バインドの手の位置、立ち位置、駆け引きとかで。僕も、たまに自分で(スクラムに)入って教えたりしています」

 ここまで開幕5連勝中。1月24日には本拠地の熊谷ラグビー場で、東京サントリーサンゴリアスとの第6節に挑む。

「試合前は(選手の頃と)違う緊張感がある感じ。もし選手ができなかった場合は、僕の教え方が足りなかったと思っちゃうので」と苦笑し、今後の目標を明かす。

「もちろん優勝することが大事。また、どうすれば自分たちの理想のスクラムが組めるかも、それぞれが移籍しても代表に行っても活かせるような身体の使い方も(テーマに)掲げている。チームでも、個人でも、毎試合、毎スクラムで成長してほしいですね」









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