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今季のジャパンラグビーリーグワン1部における優勝候補のひとつは、クボタスピアーズ船橋・東京ベイだ。
12月20日、千葉・フクダ電子アリーナ。リコーブラックラムズ東京との第2節では、相手より12も多い16の反則(フリーキックを含む)を犯しながらも50-28と快勝。自ら苦しい展開に持ち込みながらも、終始、推進力、圧力を示し、開幕2連勝を飾った。
旧トップリーグ時代の2016年に就任したフラン・ルディケヘッドコーチは、穏やかに話す。
「(途中まで)接戦でした。ハーフタイムには自分たちの勢いをどう取り返すか、いかにレフリーにクリーンな絵を見せるか、どれだけ精度を高めるかについて修正しようとしました。そして終盤、やりたいラグビーをして勝ちを得られました」
後半6分からの10分間は、イエローカードで数的不利の状況だった。日本代表でもあるナンバーエイトのマキシ ファウルア主将は、その厳しい時間帯について聞かれた。
「コントロールできることはコントロールする。レフリーのコールを尊重して、自分たちのやることを、やる。(1人減って)14人になっても自分たちのプロセス、システムを信頼して戦っていき、できるだけ時間を(ゆっくりと)使う」

昨季は準優勝に終わった。目指すは3シーズンぶりの頂点である。
各国代表の猛者、ルディケのいた南アフリカ発の大型選手、大学ラグビーシーンをわかせた若手組らが一枚岩をなすこの隊列にあって、新たな色を加えるのがショーン・スティーブンソンだ。
身長190センチ、体重92キロの29歳はこの日、2戦連続で最後尾のフルバックで先発した。
前半15分、自陣中盤の右側で球を得るや、大外へ膨らみながら前進した。左側にいた味方へオフロードパスを送り、さらに大きなブレイクを招いた。
続く20分には左端のスペースを破る。敵陣中盤まで約30メートル駆け上がり、防御を引き寄せながらのさばきでインサイドセンターのリカス・プレトリアスの勝ち越しトライを演出した(直後のゴール成功で14-7)。
その後もしなやかな走りとハンドリングスキルを披露しながら、勝負どころのキック合戦でも光った。
29-28とわずか1点リードで迎えた後半23分、自陣10メートル付近左でスタンドオフのバーナード・フォーリーが高く蹴り上げる。
その弾道をスティーブンソンが追い、向こうの捕球役と競り合う。まもなく、こぼれ球の争奪戦でカウンターラックを仕掛ける。ペナルティキックを手繰り寄せた。
敵陣ゴール前へ進んだスピアーズは、約2分後、自慢の強力フォワードのパワーを活かして36-28とスコアを広げる。

それだけにとどまらない。プレー再開後のエリアの奪い合いにおいて、スティーブンソンが特大のキックを2つ続けて放つ。
後者は敵陣10メートルエリアの左に飛んだ。落下地点にいたブラックラムズのスクラムハーフ、TJ・ペレナラ主将はキャッチし損ね、スピアーズは自軍のラインアウトをもらった。
現チーム2年目のペレナラは悔やむ。
「タッチラインの外で捕って投げる(クイックスロー)か、フィールド内でキャッチするかの判断で迷いがありました」
ここからスピアーズは右へ、左へ、さらに右へとテンポよく展開した。30分までに43-28とした。
殊勲のスティーブンソンは、今年度からスピアーズに本格的に加入。前年度は母国のニュージーランドのチーフスに在籍しながら、期限付きでスピアーズのゲームに臨んで違いを示していた。いまはより周りとの連係を深める。
スタンド下の取材エリアで、その心境を語った。

——感想は。
「序盤のリコーさんのプレッシャー、私たちの遂行力の足らなさでうまくいきませんでした。ただ、最後に盛り返して結果を残せた。タフなシチュエーションで(やるべきことを)やり続けられました。全体としてはよかったです」
——ずっといい走りが見られています。
「この2試合はいい形です。きょうは相手が蹴り出さなかったのもあってランニング、自分のボールタッチ数が増えました。次戦へもいい状態で臨めるようにしたいです」
——ペレナラ選手の落球を誘ったロングキックはターニングポイントになりました。
「イグジッドの(陣地を挽回する)キックについては、自分の準備してきたことができたという意味でハッピーです」
——周りとのコミュニケーションについては。
「自分の仕事をしつつ、(この日両ウイングを務めた)木田晴斗、根塚洸雅の手伝えることを手伝っています。フットワーク、キックゲーム、スペースへの球の運び方…。彼らが(継続的に)代表に選ばれるようヘルプ(助言)します。またスタンドオフのフォーリー、両センターとも細かく調整しています」
過去にニュージーランド代表1キャップを得たが、それは2023年のこと。その後はテストマッチの舞台からは離れている。

ワールドラグビーの規定上、選手は原則として生涯で1か国の代表チームでしか戦えない。
しかし2022年から、そのルールが緩和されている。最初に代表入りしたチームから3年以上離れたプレーヤー(最後のキャップ獲得から3年以上空白期間がある場合)は、自身、親、祖父母の誰かが生まれた国に限って代表にチャレンジできる。
スティーブンソンはサモアにルーツを持つ。サモア代表は、2027年のワールドカップオーストラリア大会で日本代表と同じ予選プールEへ入る。
スティーブンソンがジャパンの脅威となる可能性はあるか。本人が応じた。
「私の家族にも似た質問をされました。資格がもらえるのは来年8月(の予定)。最短であるとすれば、来年末のツアー参加からでしょう。ワールドカップでサモア代表と日本代表が同じプールに入ることもわかっていますし、その舞台に出られるなら出たい。サモア代表でやりたい気持ちはあります。ただ、いまはリーグワンの優勝を見据えます」