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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑬】JPN 23-24 WAL。惜しい。でも、敗因から目は逸らさない。エディーは沸騰
敗戦に涙するHO佐藤健次。それを励ますのはサム・グリーン。(撮影/松本かおり)
2025.11.18
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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑬】JPN 23-24 WAL。惜しい。でも、敗因から目は逸らさない。エディーは沸騰

田村一博

 試合後の取材を終え、ウェールズの劇的勝利に熱狂したプリンシパリティスタジアムを出たのは午後10時過ぎだった(11月15日)。

 軽く喉を潤して、寝て、翌日はジョージアへの移動。ロンドンに一度出なければならず、さらにヒースロー空港までの電車がストで麻痺していたため早めの移動。
 トビリシへは21時過ぎのフライトだったが慌ただしかった。

 ウェールズの22番、ジャロッド・エヴァンズがPGを決めたのは82分30秒過ぎ。日本代表は23-24で逆転負けを喫した。
 勝敗が決した瞬間の歓声がまだ耳に残っている。記者席は1階席の真ん中。低い位置でピッチ全体を見渡すことができず、見辛い点もあったが、ファンの近くで臨場感があった。歓声が上から降ってくる感覚だった。

両代表チームは馬に先導されたバスでスタジアム入り。(撮影/松本かおり)


 11月15日におこなわれたウェールズ代表×日本代表は、ホームチームがラストプレーのPGを決めて逆転で勝利したから、カーディフの街には夜遅くまで若者たちの姿があふれていた。

 トライ数はウェールズが3つで日本が2。前半は7-7だった。
 後半はほぼ交互に得点し、21分時点で日本が20-14とした時が最大得点差で競り合い続けた。

 7月に来日した時は、1勝1敗。そのときのスコアは、日本が勝った初戦が24-19で2戦目は22-31。今回の対戦前のワールドランキングはウェールズが12位で日本が13位。ポイント数も僅差と、すべての面から両チームの実力が接近しているのは明らかだった。

 ただ、数か月前の結果や数字は関係なかったと思う。すでに2試合体をぶつけ合った日本代表の選手たちには、南アフリカやアイルランドと戦った時のような、チャレンジの空気は少しもなかった。
 互角以上にやりあえるのは分かっていたから、勝ちたい意志がプレーを支配していた。真っ向から勝負を挑み、攻防に没頭していた。

 先制点は前半6分のウェールズ。日本側のオフサイドで得たPKを蹴り込み、ラインアウトからの攻撃で前へ出た。
 FWで攻め立てておいて、機を見て外へ。SOダン・エドワーズが個人技でタックルを外してインゴールへ入り、エドワーズはGも成功。7-0とした。

前半15分のWTB石田吉平のトライは、CTBチャーリー・ローレンスからFB矢崎由高、石田と渡って生まれた。(撮影/松本かおり)


 日本は13分過ぎに相手キックの競り合いでボールを確保して好機をつかんだ。
 自分たちのキックでもボールの再獲得に成功し、ボールを手にしたCTBディラン・ライリーが前進してHO佐藤健次がチャンスを広げた。そしてFWがさらに杭を打つ。

 右への攻撃は、CTBチャーリー・ローレンス、FB矢崎由高の効果的なランニングでさらに有利な状況ができて、最後はラストパスを受けたWTB石田吉平が走り切る。10番の李承信のGも決まって7-7となった。

 日本代表は前半25分と30分にシンビンを受け、14人、13人となる時間帯もあった。しかし、全員がよくコネクトして守り、SH齋藤直人、SO李も、うまくキックを使って危機管理をおこなった。
 数的不利だった時間に失点しなかったのは成長した点だった。

 前半最終盤のブレイクダウンで、ウェールズWTBジョシュ・アダムスが故意に日本選手を痛めつけたと判定されて20分レッドカードの判定を受けた。結果、日本は後半の半分を相手より一人多い状況で戦うことができた。

 その間に日本が得た得点は13点。後半8分、16分にPGで加点し、20分にはラインアウト後のモールからFWが攻め続け、最後はN08マキシ ファウルアがトライラインを超えた。
 李のGも決まり、相手が14人のうちに点を重ねてみせた。

後半20分のマキシ ファウルアのトライ。(撮影/松本かおり)


 しかし日本が残念だったのは、得点を挙げるたび、その直後に失点もしたことだ(8分のPG加点後の11分と、20分のトライでの加点後の23分)。
 それも、自分たちのトライ後のリスタートのキックオフを受けた後にペナルティ。せっかく生んだモメンタムを自ら手放し、PK→ラインアウト→モールから攻められて2トライを与えた。いずれも、ミスや防ぎようのある反則がきっかけになったことも悔やまれる。

 試合後のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチは、その点について、「キックオフを2回ミスしてウェールズに14点を与えてしまった。選手は、ミスをしようと思っているわけではないが、プレッシャーが影響してのミスなのか、感情面が理由なのか、戦術面、あるいはスキルが問題なのか、検証して直さないといけない」とした。

 後半24分に20-21と逆転された日本代表だったが、26分にはウェールズがキックオフレシーブの際に軽率なペナルティ。その機会にSO李がPGを決めて23-21とする幸運に恵まれた。

 残り14分を攻め勝つ、あるいは守り勝てば、史上初の敵地でのティア1国(ハイパフォーマンスユニオン)撃破となるはずだったが、それが難しかった。
 足りなかったのは経験値なのか、プレーの精度なのか、それとも、他にあるのか。

 その14分間、日本代表は多くの時間をウェールズ陣で過ごしたのに勝てなかった。
 追加点を得て息の根を止められそうな状況もあった。

ゲームをコントロールしたSH齋藤直人。(撮影/松本かおり)


 例えば後半30分過ぎ、ウェールズのトライライン5メートル前でラインアウト。そこはモール内でノックオンをして逸機。その後のスクラムで反則し、盛り返された。

 後半33分過ぎは、ウェールズに攻め込まれながらもこぼれ球を足にかけて一気に敵陣22メートルライン付近まで前進した。
 その後のラインアウトからの攻撃でもフェーズを重ねて前進するも、ターンオーバーされてしまう。

 後半36分過ぎのラインアウトはキャッチ後のデリバリーが乱れて、ボール保持者が外へ出された。
 しかし、自陣22メートルライン付近のラインアウトから攻めたウェールズのボールをインターセプトして攻撃権を取り戻す。残り2分、ラックから出たボールをSH齋藤はウェールズ陣深くに弾道の低いキックを蹴る。ボールがうまく弾めば、チェイスしたWTB植田和磨に入り、決定的なトライとなるところだった。

 あの場面でキックを蹴ったSH齋藤には、そう判断する根拠が明確にあった。2分という時間は、SHがFWを動かし、ワンパスでクラッシュ、またワンパスでクラッシュと繰り返す、ピストンの動きでボールを保持し続けるには長すぎると判断。
「あの時間帯で勝っていて、敵陣22メートルの中。キックが(トライに結び付かず)もし外に出ても、敵陣奥深い位置でのラインアウトでの再開となるので(自分たち有利と)大丈夫と判断しました」

 齋藤は試合後、ジョーンズHCと話した時、「あそこはボールを持っているのがベストだったのではないか」と言われたそうだ。
 本人は、「(今後)同じことを繰り返さないようにしないといけない」とした。

 ウェールズは、そのラインアウトから8フェーズを重ねて日本陣に入り、ハリー・ホッキングスのハイタックルでPKを獲得。その後、ラインアウトからモールを組んで20メートル以上前進してPG機を得た。
 それを決めての逆転勝利だった。

勝利を決める逆転PGを決めたウェールズのジャロッド・エヴァンズ。(撮影/松本かおり)


 約2年ぶりのホームでの勝利を手にした白ジャージーのレッドドラゴンは、勝ったけれどふらふらだった。
 80分を通して攻め勝ったのは日本。残り数メートルを走り切れていたら。あれが反則とされなかったら。あのボールが跳ね上がっていたら、というシーンもあった。
 つかんでいた竜の尻尾を引きずり下ろせず、最後の最後に離してしまった。

 試合後のスタッツを見れば、各領域で日本代表がウェールズを圧倒している。
 ポゼッションは日本57%、 ウェールズ43%で、テリトリーは67%と33%と、さらに日本が圧倒した。
 他にも日本が圧倒したのは、ボールを扱った数は439回と285回、ボールキャリーは186回と95回、ランメーターは1084メートルと627メートルで、パスの数は222と163(オフロードは9と4)、ラック/モール数は124と83。
 いつもなら、防戦にまわる方が多いタックル数も、この試合では124と214。ウェールズの方が上回っていることからも、どれだけ桜のエンブレムが押していたか伝わる。

 SO李は、「自分からのシェイプで相手のタイトファイブを走らせて、(その結果できた)スペースにボールを動かそうと思っていました。そこはうまくいった」と試合の入りについて語り、数的不利の状況についても、試合をコントロールして凌ぎ切ったと振り返った。

互いの気持ちがぶつかり合った80分。(撮影/松本かおり)


 チームは前半から積極的に攻める意思でつながっていた。バックスリーは戦前に掲げた「相手の大きなフォワードに対し、スピードやクイックネスで勝負していこう」のテーマ通り、ボールを持てばよく仕掛けた。
 ただ前半15分に自らトライを挙げたWTB石田は、チャンスを作った数に比べてトライを取り切れた数が少なかったことについて言及。「(チャンスに)全員がスイッチオンする必要がある」と訴えた。そして、「もっと結末にこだわって練習していかないといけない」
 ディフェンダーの裏に出ることが多かったWTB長田智希も同意見だ。

 試合内容で圧倒しながら、それが勝利に結びつかなかった。
 マイボールラインアウトの獲得率は高かったが、相手ボールラインアウトからのモール対応で後手に回った。スクラムも、3番で先発の為房慶次朗、バトンを受けた竹内柊平らが言うように、自分たちの低さや組み方に持ち込めないとプレッシャーを受けた。
 せっかく攻め込んでも、そのせいで大きく戻されることもあった。規律の乱れも、モメンタムで上回る時間の長さを勝利に結びつけられない理由になった。

 試合後のジョーンズHCは、沸騰した頭から酷い言葉が出ないように、ブラックジョークを並べた。
 現地紙に紹介されたように「kill someone」(誰かを殺したくなった)の言葉で、失望の大きさを表現。「ひどい気分だ」と会見を切り出した。

ウェールズ代表WTBルイス・リース=ザミットのボールをスティールしようとするWTB長田智希。(撮影/松本かおり)


 最後の最後に逆転を許した展開に、熱気が詰まっているプリンシパリティスタジアム独特の空気にも触れた。
「あのプレッシャーに耐えなければいけないのに、最後、私たちはそれができなかった」
 その一方で、「試合の最初から勝ちにいく姿勢を貫いたチームを誇りに思う。若いチームが、良いアプローチを見せた」とも言った。
 イングランドのHC時代にはいろんな物を投げられたと話し、今回はその時と比べると優しいが、そういう空気の中でプレーすることも選手たちを前に進める要素になるとした。

 試合内容では日本の方が良かったのではないかとの質問を受けても、「多くの人たちが覚えているのはスコアだけ。それがすべて。ウェールズと(HCのスティーブ)タンディにおめでとうと言いたい。彼らにとって良い勝利だった。もっと良くなっていくでしょう」と相手を称えた。

 ただ、そこでは紳士的に振る舞うも、レフリングについては私見を述べた。まず、失点のきっかけとなった竹内のブレイクダウン内のプレーについて、「そう判断するなら、他にもあっただろう。一貫性のなさがラグビーを台無しにする」。

 さらに、シンビンの多発についても、「ウェールズのものも日本のものも意図的なものはなく、(どれも)無謀でもなかった。もっと常識的なアプローチが必要。ラグビーは15人でやるスポーツ」と、ワールドラグビーに向けてのメッセージを発した。

約2年ぶりのホームでの勝利を喜ぶウェールズファン。(撮影/松本かおり)


 南アフリカ代表のLOフランコ・モスタートがイタリア戦でレッドカードを受けたことも引き合いに出し、そのジャッジに対して「滑稽なレベル」。
「(15人同士の時間が短かった、この日のウェールズ×日本で)もし私が観客だったら、ウェールズ協会に返金を求めるよ」と言ったのに続き、「まあ、ウェールズ協会にはそんな(金銭的な)余裕はないだろうけどね」とも付け加えた。

 ラグビー熱狂地での勝利は、チームを大きく前進させるはずだった。


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