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地域と人の、熱、温かさに支えられ。復活の玉名高校ラグビー部(熊本)が花園予選出場。
7月に玉名高校を訪れたときのチームフォト。個性の集まり。部員は3年生が男女1人ずつ(現在はすでに引退)、2年生が男子2人、女子1人、1年生は男子11人。花園予選には済々黌のジャージーを着て、パンツ、ストッキング、ヘッドキャップは自分たちのものを着用してプレー(各校ともストッキングは自チームのものを使用)。(撮影/松本かおり)

地域と人の、熱、温かさに支えられ。復活の玉名高校ラグビー部(熊本)が花園予選出場。

田村一博

 すでに全九州高校大会熊本県予選を、開新、八代農との合同チームで戦い(5月)、6月には全国高校セブンズの県予選にも出場している。
 しかし今回は花園の予選。これまでとは違った気持ちも湧くのではないか。

 熊本県立玉名高校が11月2日、熊本県民総合運動公園ラグビー場で熊本西と戦う。今回は、済々黌、東海大熊本星翔、東稜と合同チームを組んで試合に臨む。

 玉名は、今年59歳のチームを率いる仲山延男先生(監督)が高校生だった頃に創部した、長い伝統を持つラグビー部だ。先生が高校1年生の時、仲間と愛好会として発足させたラグビー好きの集団は、2年生で同好会となり、3年時に部に昇格した。

玉名地区のラグビーリーダーであり、玉名高校ラグビー部を導く仲山延男監督。将来も継続的に地域のラグビーを活性化する活動を続けるつもり。「いまグリーンベルトラグビースクールの4年生、5年生の人数が多いので、そこまで高校ラグビー部の活動を続けていければ、いい流れになると思います」。(撮影/松本かおり)


 しかし、同校ラグビー部の灯は2006年で一度は消えた。部員不足の影響で休部となり、いつしか廃部状態に。歴史を築いてきたOBたちは寂しかった。
 その証拠に、現在のチームが復活への道を歩み始めたときにはラグビー部から巣立っていった者たちがすぐにジャージー一式を揃えてくれた。寄付金も募り、それは活動をサポートするものになった。

 復活は、仲山先生が玉名高校附属中学校(以下、附属中)へ赴任したのがきっかけだった。
 初年度(2019年)、高校ラグビー部復活の気持ちを周囲に伝えるも、うまくことは進まなかった。しかし翌年、中学ラグビー部創設が実現する。仲山先生の情熱を応援する人が後押ししてくれた。

 2020年の附属中ラグビー部創部メンバーは、2025年の今年、高校3年生になって玉高(タマコー)復活の先頭に立つ者たちとなった。
 6月のセブンズ大会まで主将を務めていた西崎輝百(あきと)は中学から6年間を仲山先生とともに過ごした。高校3年間キャプテンシーを発揮し、仲間と新しい部の歴史を重ねた。

 1995年の玉名中(市立)赴任の年、同好会として活動していたものを部に昇格させ、玉名に中学ラグビーの灯を点けた仲山先生は、しばらく県内のいろんな中学で教壇に立つ(社会科)。その後、生まれ故郷に戻った。
 そして前述のように附属中ラグビー部を創部させた。しかし、同中学の卒業生が玉名高校入学と同時にラグビー部生活を始められるわけではなかった。

 附属中での最初の教え子のひとりである西崎も高校入学時、ブランク期間を余儀なくされた。1年生の途中に同好会として活動できるようになり、2年生時はそのまま合同チームとして活動。部昇格は3年生になってからだ。今年はセブンズ大会に単独チームで出場し、他チームと力を合わせながら毎大会を戦っている。

玉名高校の校門、校舎。写真右下は年季の入ったスクラムマシーン。(撮影/松本かおり)


 今年は勧誘活動を熱心におこなった結果、11人の1年生も入った。同好会としての期間も、全員で目の前のことに全力で取り組んだからこそいまがある。
 OBたちが作ってくれたジャージーは、単独で参加できた6月のセブンズ大会まで着用を待った。自分たちの知らない時代に歴史を重ねてくれていた先輩たちの思いを背負って走った。

 7月上旬、玉名の練習を訪れる機会があった。西崎主将はテストにおいて、校内で1番になったこともあるそうだ。大学ではAIを研究し、大手メーカーで自分の力を活かす希望を持っていた。数学が得意科目。聡明なリーダーだった。

 FLとして、自分のタックルでチームに影響を与えることを考えてきた主将は、自分が先頭に立ち続けられたのは「仲間がいたから」と言った。
「人数は少なくても、みんなでいつも全力でやってきました。それが認められて、部に昇格もできたと思っています」

 西崎からバトンを受けた現在の主将、2年生の金井亮介は、感性豊かな少年だった。附属中出身で、中学入学と同時にラグビーを始めた。陸上競技で伸ばしたスピードを活かして順調に成長。しかし、高校入学時にはまだラグビー部はなかった。同好会の扱いに「寂しかった」と当時を思い出す。

「でも、そこから階段を昇るように部となっていく時間を経験できました。その中で自分も変化したと思います。仲間を増やそうと1年生を熱心に誘ったり、そういうのって、大人になっても忘れない出来事だと思います」
 将来は獣医学部に学ぶことを考えている。

左上から時計回りに、西崎輝百 前主将(3年)、金井亮介 現主将(2年)、東結菜(3年)、坂本英貴(2年)。(撮影/松本かおり)


 新旧キャプテン以外にも個性派がいた。
 坂本英貴(えいき)は生徒会長。「(附属中時代も含めて)この学校に5年います。もっといい学校にしたいと思い立候補し、選挙の結果選ばれました」と、こころざしを口にした。

 幼い頃から続けているラグビーが好きだ。父も仲山先生の指導を受けていた。そんな縁もあるから、高校進学時に「もっと仲間を集めて入部しようと思っていたのですが、それがうまくいかなくて、今年は新人勧誘を頑張りました」と話す。

 まわりに指示を出したり、ともに動くことが好きで、将来は経営や経済について学び、組織をマネジメントする仕事に就きたいと考えている。「来年は15人制に単独チームとして出たい」という目標を達成するための方策も、この人の頭の中にはありそうた゜。

 来春高校を卒業する女子部員、東結菜(ひがし・ゆいな)は、現在、立命館大でプレーする兄が幼い頃から玉名地区のラグビーの中で育った影響を受け(高校は大分舞鶴)、同じ道を歩んだ。
 普段は玉高ラグビー部で練習し、セブンズの熊本女子選抜チームで試合に出場している。「人の命に関わる最前線の仕事をしたいので、将来は助産師になりたいです」と話す心優しき人のポジションはSH。人と人をつなぐ才能に恵まれているように感じた。

 仲山先生とともに玉高ラグビーを復活させ、上向きにしてきたそれぞれには、共通している未来図がある。一人ひとり違う夢を持って生きている。ただ大学進学やその先の就職で地元を離れることになっても、将来は玉名に戻りたいと4人は考えていた。

 それが本当に実現するか否かは別として、自分が育った場所を、そんな風に思えるなんて素敵。そしてその感覚は、きっと恩師の情熱が原点にあると感じる。

取材に訪れた日は近くにある九州看護福祉大学での練習。体の専門家のアドバイスを受けながらのトレーニングだった。(撮影/松本かおり)


 玉名高校に学び、楕円球を追う青春時代を過ごした若き日の仲山先生は、福岡教育大学に進学し、その後地元に戻る。いくつものラグビー部を作り、指導をしてきた。
 ラグビーのコーチングを学ぶことにも熱心。そんな素養を持っている指導者だけに、競技性を追って他の地域に自ら出ていっても不思議ではない。

 しかし先生は、「自分が生まれ育った地域です。そこがラグビーの盛んな場所になるのがいちばん嬉しいじゃないですか」とシンプルに答える。
 教え子たちは、わざわざ口に出してそう言うことはなくても、熱い思いのまま行動し、ラグビーと、目の前にいる自分たちにただただ愛情を注いでくれるこの人が好きだ。だから、尊敬する恩師と未来の自分を重ね合わせる。

 教員として地元に戻り、玉名中、附属中にラグビー部を創設しただけでなく、2005年にはグリーンベルトラグビースクールを開校した先生は、今年になって、さらに同スクールの卒業生らが多く所属する玉名GBクラブも作った。結果、玉名は、幼稚園生(年中)から大人までラグビーを楽しめる地域となった。

 そんなことをやってのけるバイタリティーについて先生は、菊池川の河川敷に立つゴールポストが、自分を突き動かすエナジーを与えてくれていると言う。

玉名ラグビー人たちの心の故郷、ゴールポストの立つ菊池川河川敷。グリーンベルトと呼ばれる。(撮影/松本かおり)


 それは30年前、玉名中ラグビー部での最初の教え子たちの保護者が卒業時に立ててくれたものだ。それぞれが自分の得意分野を持ち寄って手作りで完成させた。ゴールポストがあるお陰でみんなは自然と、そこをラグビー場と呼ぶようになった。
 そして、それがあるから、玉名にラグビーが根付いた。地域のラグビーの歩みをひもとけば、それは明らかだ。

 仲山先生はその場所があるから自分も頑張れるし、みんなが戻ってきてくれると思っている。玉高がふたたび歴史を積み上げ始めたのも、そこで育った子どもたちがプレーの場を求めてくれたから。
 情熱の人は、そんな流れが続くように、玉名のラグビー環境をこれからも整えていくつもりでいる。

 今年久しぶりに花園予選に出たチームが、来年以降も順調に階段を昇っていくことを約束しているものは何もない。ただ1年生部員が多いのは明るい材料。来春も大勢仲間が増えるなら単独チームとしての大会出場も見えてくる。
 ラグビー部復活の次のニュースを待つ人が多い街に暮らしているのって、うらやましい。
 



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