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【竹内柊平を追う/下】低く前に出る。上を見て歩む。古賀一[福岡大2年/PR]
ぎんなんリトルラガーズ、福岡工業高校でラグビー愛と地力を蓄えた古賀一。小柄もパンチ力がある。(撮影/松本かおり)

【竹内柊平を追う/下】低く前に出る。上を見て歩む。古賀一[福岡大2年/PR]

田村一博

 2007年のワールドカップにも出場し、日本代表キャップ17。都城泉ヶ丘高校から福大、安川電機へと進み、NZでの2季のプレーを経てコカ・コーラへ入った。
 人とは違う道を歩み、花を咲かせた西浦達吉監督(49歳)のもとで力を積み上げている。

 九州学生リーグの福岡大学ラグビー部2年生のプロップ、古賀一(はじめ)は170センチ、101キロと小柄も、低いスクラムと強いボールキャリーを武器としている。
 今季は開幕から3戦連続で先発出場。チームは3連敗とまだ勝利をつかめていないけれど、古賀自身は1番、1番、3番の背番号でスターターを務めた。最前列で体を張っている。

8人でまとまって組むスクラムを意識して毎日を過ごす。(撮影/松本かおり)


 西浦監督も176センチ、110キロとサイズに恵まれたわけではなかった。しかし、低さと自分の組み方を追求して世界と伍して、トップリーグで100試合出場を果たした努力家だった。
 その人が、「まじめでナチュラルに体が強い。フロントローならすべてのポジションでプレーできて、上を目指す気持ちがある」と古賀を評価する。

 2025年度シーズンの開幕戦、西南学院大学戦は後半途中から雷雨となった。結果、試合は中断され、そのまま試合終了(成立)となる。福大は不運にも敗れたが、古賀はスクラムをコントロールし、鋭いボールキャリーを見せるシーンもあった。

 試合後は、「セットプレーやコンタクトでは勝てたと思うのですが、チーム力が足りず、(点を)取れるところで取れなかったのが課題です」と敗れた悔しさを飲み込んだ。
 スクラムに関しては、「春から力を入れてきたところです。積み上げてきたものは出せたと思います」とした。

 西南学院大学戦、1番のジャージーを着ていた古賀は、後半は右プロップの位置に入った。福大はその最初のスクラムでコラプシングを取られる。
「自分としてはそう思いませんでしたが、判定は判定です。(あとで)確認し、練習で修正します」と成長の足を止めない。

 小1の時、母の勧めもあり、ぎんなんリトルラガーズに入った。
「最初はちょっと怖かったのですが、コンタクトプレーがおもしろくなってから、みんなとやるラグビーが楽しくなり、はまっていきました」

1年生だった昨季も順位決定戦を含めた全7試合に出場した。(撮影/松本かおり)


 中学まで同じクラブで楕円球を追い、福岡工業高校へ進学する。ラグビー部に入り、松井裕平監督に鍛えられた3年間は充実していた。
 チームの仲間と花園の芝を踏むことはできなかったが、機械工学科に学び、3年時は主将。県の選抜チームにも選ばれ、国体優勝も経験できた。高校時代は主にフッカーとしてプレーしていた。

 福岡大学への進学は、教員を目指せることと、「地元でプレーし、親やお世話になった人たちにも恩返ししたかった」と、両方の気持ちを満たせるから決めた。
 そして、「福岡から全国へ行きたい」とも考えた。

 大学進学後、1年時は3番、今年は1番と、フッカーも含めてフロントローの位置でオールラウンドにプレーしているのは、さらに先のステージでのプレーも目指しているからだ。普段からリーグワンの映像も頻繁に見て、自分の気持ちをプッシュする。
 埼玉パナソニックワイルドナイツの稲垣啓太に憧れる。

 元日本代表の監督は、すぐ近くでアドバイスをくれる自分にとってのスクラムドクター。「スクラムを組むときの自分のクセとか課題を見てくれています。1対1で語りかけてくれるので、すごく勉強になるし、将来につながると感じています」

「低さを使って前に出る」ことを武器にしているが、求められるのはフォワード全体の一体感。「しっかり8人で組むことが大事なのに、一人で組んでしまい(味方の)2番と割れることがあるんです。監督のアドバイスもあり、そういったことを練習で気づかせてもらっています」。

 視線を将来に向け、体重をいまより約10キロ増の110キロにしたいという。西浦監督も、「その重さにいけば、また変わる」と背中を押す。
 食事と補食、そしてウエートトレーニングで、小さくてもパワーがあり、コリジョンに強い選手になることを目指す。

2024年度から福大の指揮を執る西浦達吉監督。日本代表キャップ17。(撮影/松本かおり)


 日本代表の3番として存在感を大きくしている竹内柊平(九州共立大卒)は、同じ九州学生リーグから羽ばたいた人。自分も同じような階段を昇りたいと憧れる。
 竹内は183センチ、115キロと自分よりかなりサイズは大きいが、スクラムで粘り、よく走り、接点で強い点は、「真似していきたいし、ああなりたい」。

 古賀も「ボールキャリーは得意です。ヒットしてからも足を掻いて、1メートルでも前へ出ることを意識しています」と、チームが奮い立つような、モメンタムを生むプレーを心がける。
 まずは今季の残り試合に全力を注ぎ、チームを浮上させたい。

 高みを目指す意志を持ち続けることは簡単ではないけれど、仲間たちの頑張る姿に触れたり、高いレベルのラグビーを見て、自分の向上心を焚き付けることもある。

「ラグビーで生きていけたら最高です」と言う声は小さくとも、夢は大きく持たないと何も始まらない。
 そんな生き方を実践した人が監督を務めているのは、古賀にとって幸せなことだ。


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