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ロンドンから北へ約3時間のところにあるヨークは、歴史的建造物が多く、落ち着いた街。気温は20度に届くかどうかで、過ごしやすい。
天気はここでも、一日の中でころころ変わる。長い時間、からっと晴れ渡る日は、いまのところない。
サクラセブンズのメディア対応がない9月3日と4日は、デスクワークとパブ巡りで過ごした。
イングランド北部では13人制のラグビー・リーグもそこそこ盛んで、パブでも、その放映をしている店があった。
昼間に街に出ると、練習を終えて散策するサクラフィフティーンの選手たちの姿を見ることができた。
FWの選手たちが集団で歩いていると、さすがに目立つ。9月7日のスペイン戦を終えたら帰国。日本で待つ所属チームの仲間たちへのお土産を買っている選手もいた。
9月5日は、チームの練習公開と、スペイン戦出場メンバー発表会見に加え、選手の取材対応があった。
練習会場は郊外の大学のグラウンド。9月1日のニュージーランド戦(今回のワールドカップの第2戦)、試合開始20数秒で負傷交代した西村蒼空が他の選手たちより先にグラウンドに出て走っていた。
最終戦は、ふたたび15番で先発する。今回こそ出し切ってほしい。

メンバー発表会見でレスリー・マッケンジー ヘッドコーチ(以下、HC)は「ベストメンバーを選んだ」と選手選考の基準は明確だった。
3年間チームが積み上げてきたものを体現できる選手たち。スペイン戦に出たい気持ちを強く押し出し、自分をプッシュしている選手。そこに今大会出場機会のなかったフレッシュな選手も加えたようだ。
23番のジャージーを着る香川メレ優愛ハヴィリについては、大会前に日本で戦ったスペインとの第2テストマッチ(秩父宮)での2トライが印象深い。HCも、「スペイン戦でどれだけできるかすでに証明している」と話し、期待を寄せていた。
長田いろは主将(FL)は、「若い人が見て、感動したり、サクラフィフティーンに入りたいと思うような試合をしたい」と情熱を伝えた。
大会前に2回対戦している相手との戦いはやりにくさもあるけれど、「自分たちにフォーカスして、サクラスタンダードを示す」ことに全力を尽くす。
チームは先制パンチを受けたアイルランド戦(14-42)、先に殴りに出たニュージーランド戦(19-62)を経て、最終戦は、最初から殴りかかって、最後まで勝ち切る展開に持ち込む。
マッケンジーHCも、自分たちは終盤に盛り返すチームではなく、最初から向かっていくチームを目指してきたし、スペインに対してもそう戦うとした。
LO吉村乙華(おとか)とSH阿部恵も取材陣に対応した。
吉村は今大会、3戦連続で5番を背負うことになった。前節のニュージーランド戦では8回のボールキャリーと12タックルでチームに貢献。持ち前のパワーでチームを前に出す。
アイルランド戦ではチーム全体が気負いすぎて乱れたラインアウトも、ニュージーランド戦では修正した。

チームが自信を持つモールについて、哲学を口にする。
「モールって、毎回毎回どのシーンでも、同じものはないんです。戦術や意思疎通(など大事なもの)もありますが、実際に体をぶつけてやらないとわからないことが多い。なので、実戦的な練習を毎日やってきたことが生きていると思います」
スペイン戦に向け、「セットピースを安定させ、いいボールを出したい。日本で戦ったテストマッチのときと同様に、フォワードから勢いをつけていきたい」と話した。
「(今大会の)スペインは日本で戦った時とは違うチームになっています。モメンタムが上がっている。負けないように自分たちから仕掛けていきたいと思っています」
アイルランド戦、ニュージーランド戦と、それぞれ後半5分、後半13分までプレーし、櫻井綾乃と代わっている。
バトンを渡す19番のことを「ベテランでハードワーカー」と尊敬する吉村は、そういった存在がいるから「すべてを出し切っても大丈夫と思ってプレーできるし、すべて出し切ることができている」と話す。
誰もひとりで戦っていない。
「(スペイン戦は)ここにいる32人だけでなく、ここに来られなかった人たちの分の責任を持って戦います。いい内容というだけでなく勝ちたい」
そして、「こういう責任を背負って試合ができることが嬉しい」とした。
阿部はスペイン戦について「最後の試合に勝って終われるよう、80分間、一つひとつのディテールにこだわってプレーしていきたい」と話した。
後半からピッチに立った過去2試合の準備では、リザーブ組とノンメンバーでスターターにプレッシャーをかけ、15人がいい状態で試合に臨めるようにすることに注力した。

しかし今回自分が9番のジャージーを背負うことになり、コーチと、自分らしいプレーを出せるように準備してきた。
強みを「強気なプレー」とする。
「アタックではしっかり前に出て、味方を生かす。ディフェンスでは、自分が入らないといけないところでは入り、フォワードをオーガナイズし、動かしたいと思っています」
津久井萌との競い合いが、両者の力を高める。「ふたりとも負けず嫌い」と認め、「私の方が強気。ライバル心が強いかな」と秘めた闘志をのぞかせる。
147センチ。国内外を問わず、自分より大きな相手と常に戦っている。気持ちが強くないと抗えない。
以前、大きな相手が向かってくるシチュエーションについて、「怖いですよ。でも、逃げない。そこで引いたら、大きなものを失うので」と言ったことがある。
だから、自分の武器を作り、それで戦う。
「私の場合、パスを極めたら他の部分をカバーしてくれると考えたから、そこを磨きました。逆に小さくなかったら、それほどパスにこだわっていなかったかもしれません」
前回ワールドカップに続き、今回が2度目の大会出場。まだ勝利を手にしていないだけに、次戦へ、「積み上げてきたものを出せるのがこの23人。スタートから、やってきたことを全力で出し切る」と力強く話した。
「大きな相手が疲れてきた時に仕掛け、スピードで戦う」と、サイズなんて関係なくなる。
それは、日本ラグビーが世界と戦うときに貫くべきものでもある。
【RWC2025 スペイン戦 女子日本代表登録メンバー】
①加藤幸子 (横河武蔵野アルテミ・スターズ/セコム/164、90/25/32)
②公家明日香(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA/後藤衛生コンサルタント/164、78/30/24)
③北野和子(PEARLS/住友電装/167、92/25/24)
④佐藤優奈(東京山九フェニックス/山九/170、76/26/26)
⑤吉村乙華(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA/埼玉縣信用金庫/174、83/24/31)
⑥川村雅未(横河武蔵野アルテミ・スターズ/東京リゾート&スポーツ専門学校/173、 75/26/24)
⑦長田いろは◎(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA/関東食糧/168、70/26/42)
⑧ンドカ ジェニファ(北海道バーバリアンズディアナ/メディカルシステムネットワーク/168、80/24/16)
⑨阿部 恵(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA/アールディーシー /147、55/27/34)
⑩大塚朱紗(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA/ワンロジスティクス/163、65/26/38)
⑪今釘小町(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA/オキナヤ/ 158、60/23/32)
⑫弘津 悠(ナナイロ プリズム福岡/九州風雲堂販売/169、71/24/19)
⑬古田真菜(東京山九フェニックス/NTTファシリティーズ/167、70/27/38)
⑭松村美咲(東京山九フェニックス/早大3年/169、72/20/14)
⑮西村蒼空(PEARLS/長工/167、68/24/23)
⑯谷口琴美(横河武蔵野アルテミ・スターズ/エヌケイエス/163、75/30/28)
⑰峰 愛美(日体大4年/163、77/21/14)
⑱永田虹歩(PEARLS/誠文社/162、80/24/31)
⑲櫻井綾乃(横河武蔵野アルテミ・スターズ/NTTファシリティーズ/167、73/29/25)
⑳齊藤聖奈(PEARLS/エイワテック/164、72/33/52)
㉑津久井 萌(横河武蔵野アルテミ・スターズ/リベスト/153、53/25/44)
㉒山本 実(YOKOHAMA TKM/169 、70/28/40)
㉓香川メレ優愛ハヴィリ(ナナイロ プリズム福岡/セルソース(株)/171、75/24/5)
※カッコ内は所属チーム、在籍先、身長・体重、年齢、キャップ数の順。◎はキャプテン
【RWC2025 女子日本代表試合日程】
プールC/日本、ニュージーランド、アイルランド、スペイン
8月24日(日) 日本代表 14-42 アイルランド(ノーサンプトン)
8月31日(日) 日本代表 19-62 ニュージーランド(エクセター)
9月7日 (日) vsスペイン(ヨーク/現地時間12:00キックオフ)