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宣言通り。自分たちから先に殴りにいった。
イングランドで開催中のワールドカップは、プールステージの第2ラウンドが終わった。
8月31日にエクセターでニュージーランド代表と戦った日本代表は、1週間前に戦ったアイルランド戦の重い敗戦(14-42)から気持ちを切り替えてこの日の戦いに臨み、前戦とは違う好スタートを切った。
大会2連覇中の相手と大舞台で戦えることに、高揚感を口にする選手たちが何人もいたこの試合。
サクラフィフティーンの選手たちは、わくわくして迎えた試合で先に得点し、ファンの気持ちも熱くした。
前半4分、この試合で今大会初先発となったWTB畑田桜子が右サイドにトライを挙げた。
立ち上がり、自陣深くまで攻め込まれたピンチに相手反則を誘い、逃れる。ラインアウトからのアタックでうまく防御裏へのキックを使い、再獲得して敵陣に入った。さらにPKを得て、相手22メートルライン近くでのラインアウトでボールを確保した。
モールで圧力をかけた後、右に攻める。⑧齊藤聖奈、⑩大塚朱紗、⑫弘津悠とつないだボールは背番号14に渡り、畑田は最終的に、ディフェンダーのタックルを受けながらトライラインの向こう側にボールを置いた。

この試合のファーストタッチできっちり責任を果たした畑田は、「最初からアグレッシブにいく」の気持ちで試合に臨んだチームの空気を口にした。
敵陣への侵入も、ディフェンスで相手ボールを取り戻したのがきっかけだった。守りも攻めも、攻撃的な姿勢でいけたから先制点が生まれた。
自分たちから仕掛けられなかったアイルランド戦が「悔しかった。気持ちを切り替えてプレーし、みんながつないでくれたボールでした。トライを取り切る責任があった」と畑田は話した。
この試合のキックオフ直前の、相手のハカに対し、サクラフィフティ―ンは長田いろは主将を先頭にV字型に並び、途中から横一線になってブラックファーンズを見つめた。
相手を揺さぶるのが目的でなく、自分たちの戦う意志を表現するものだったという。
7月、レスリー・マッケンジー ヘッドコーチは弘前サクラオーバルズを指導するリンダ・イトゥヌ氏をチームに招いた。元ブラックファーンズの経験がある同氏に、ハカとはなにか、そこに込められた思いや挑戦の気持ちを伝えてもらった。
それを知った上で試合に臨むマインドを作ってほしかった。

そんな準備の時間を経てこの試合を迎えるにあたり、主将はNO8齊藤やHO公家明日香に対し、「相手をリスペクトしながらも、強く戦う意志を見せたい」と相談し、今回のようなV字シェイプからの動きをすることにした。
仲間の肩に手を置いて、「コネクトし続けた」まま相手から視線を外さず、自分たちの闘志に火をつけた。それが試合の入りを良くした。
2019年ワールドカップ(男子)の準決勝、イングランドがオールブラックス戦の前に見せたものと共通点があった。
前半25分までに0-21とされた前戦と違い、最高の立ち上がりを見せたサクラフィフティーン。前半の得点は先制トライだけに終わるも、ラインアウトなど、アイルランド戦で出た課題を修正してきたことを感じさせた。
しかしハーフタイムは5-38と差をつけられて迎えた。
許した6トライは、アウトサイドを走られるものが多かった。強いボールキャリーによって、内側に杭を打ち込まれ、外に大きくボールを動かされるとスピードあるランに翻弄された。WTB畑田は、相手のスピードを脅威に感じ、相手との距離を詰めるタイミングに迷いが生じたと振り返った。
「上がるか待つか迷い、見てしまいました。もっとアグレッシブに行けばよかったのですが、(相手が)嫌な深さにいて、届かないかな、と感じました」
もっと声を出してFWを外へ動かし、ディフェンスラインの幅を広げればよかったと反省した。

ただサクラフィフティーンは、差を開かれて後半に入る展開となるも、ふたたび立ち上がりに集中力を見せた。
相手の好走を止めてPKを得たこときっかけに敵陣に入ると、ラインアウト→モールから反則を誘い、トライラインに迫った。
さらにモールで圧力をかけ、最後はラック横のスペースにSH津久井萌が飛び込んだ(後半7分)。
この日、敵陣に入った時のFWを中心とした攻めに迷いはなく、その後もラインアウトから攻勢に出るシーンはあった。
後半27分もPK→ラインアウト→モールから相手反則でペナルティトライを得た。
しかし、前半同様にブラックファ―ンズのスピードあるアタックに対応できず、4トライを奪われていては勝ち目はなかった。特に、得点後すぐの失点でなかなか大きな波は自分たちにこなかった。
中途半端なキックが相手にとってのチャンスボールになるシーンも多かった。試合後、観客から多くの拍手が届けられたものの、拮抗した時間を長くすることはできなかった。
ファイナルスコアは19-62だった。

この日、前戦でうまくいかなかったラインアウトを修正できたのは、日本本来のテンポでプレーしたからだ。
LO佐藤優奈はアイルランド戦について「プレーのチョイスは悪くなかったが、(普通にプレーして)相手にチャンスを与えてしまった」と語り、ブラックファーンズ相手には「自分たちのペースでやりました」。練習からどう戦うか繰り返しておこなったことで、状況に応じた動きを全員が素早く理解。すぐにサインも決まり、相手より先に仕掛けたことが結果に結びついたという。
モールやラックからのショートサイドへのアタックや、防御裏へのショートキックなど、積極的に仕掛けていったのは、前戦とは大きく違うところ。準備してきたことを出して戦えていた。
そのことは、試合後の選手たちの表情からも伝わってきた。長田主将も、「前回は保守的になってしまったので、この試合は、自分たちから仕掛けにいこう、と。FWは(相手と体をぶつけた)1発目でいけると感じたので、強気でいき続けました。前の試合は出せなかった悔しさが残りましたが、きょうは自分たちの準備してきたことを出せた」。
ただ今大会2連敗となって目標としていた8位以上(準々決勝進出)がなくなり、「スコアされたシーンは自分たちの粘り強いディフェンスを出せなかった。目標に届かず悔しいです」と悔しさをにじませた。

残るスペイン戦(9月7日/ヨーク)を「勝ち切ることが次のサクラフィフティーンにもつながる。大事な試合」と位置付けて、全員で進化し続ける。
マッケンジーHCも目標に届かなかったことについて「残念」と言い、「選手たちはもっとショックを受けていると思う」と戦いを終えた選手たちの気持ちを思いやった。
この日の試合に関しては、「キックからランをさせない準備をしてきたが(何度も走られ)、キッキングゲームでナイーブだった」。攻めれば前に出られるシーンも多かったので、もっと攻めればよかったし、前に出た状況で蹴るべきだったと分析。
そして、相手をテリトリーとキックのマネージメントに長けていると認め、「こちらがオンでない時にそこを突いてこられた」と力の差を認めた。
CTB古田真菜は、「きょうの前半と後半の入りをアイルランド戦の最初から出せていたら」と、初戦で自分たちの力を出し切れなかったことが、この大会での自分たちの大勢を決めてしまったことをあらためて悔やんだ。
しかし大会連覇中の相手にも積み上げてきたものが通用すること、自分たちのスタイルがエキサイティングなことは、多くの人が見つめる2戦目に示すことができた。
ラストゲームのスペイン戦に完勝して、自分たちのスタンダードの高まりを示す。
