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【日本 22-31 ウェールズ】ジャパン、連勝ならず。ピッチ上の実際が伝わる選手たちの言葉、体感。
前半終了間際、PR竹内柊平がトライを奪う。(撮影/松本かおり)
2025.07.13
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【日本 22-31 ウェールズ】ジャパン、連勝ならず。ピッチ上の実際が伝わる選手たちの言葉、体感。

田村一博

 前半を終えて10-21。残り20分の時点で22-24と迫った。
 1週間前(7月5日)の北九州では同じ時間帯に7-19と14-19。そこから24-19と勝利をつかんだ。

 7月12日、ノエビアスタジアム神戸(兵庫)。日本代表の2週連続の逆転勝ちを頭に思い浮かべた人もいただろう。
 しかしこの日はウェールズが31-22と勝利。レッドドラゴンは同国史上最悪のテストマッチ連敗記録を18で止めた。

 前半、ウェールズに勢いを与えたのはWTBジョシュ・アダムスだ。
 開始9分、コンテストキックのこぼれ球を2度続けて手にしたウェールズは、さらにターンオーバーから攻め、ボールを動かす。
 FBブレア・マレーからWTBジョシュ・アダムスにつなぎ、背番号11が約30メートルを走り切った。

勝利が決まった瞬間、ウェールズは歓喜の表情。テストマッチ連敗記録を18で止めた。(撮影/松本かおり)


 ウェールズは28分に中盤のラインアウト後のモールで圧力をかけてPKを得ると日本のゴール前へ。FWで攻め立て、最後はSHキーラン・ハーディがトライラインを越える。

 そして36分にハーディが挙げたトライもアダムスが演出した。
 中盤のはやい仕掛けのラインアウトから攻めたウェールズは、センタークラッシュ後、左に振り戻す。バックスがパスをつなぎ、外でボールを受けたアダムスが巧みなランコースでビッグゲイン。最後はサポートのハーディに渡して攻め切った。

 SOダン・エドワーズの3つのコンバージョンキックも全て決まり、ウェールズは21得点。
 日本は24分にSO李承信が決めたPGのみの3点だけだった。

 試合後、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)は、多くの局面で「前半はコンテストできていなかった」と話した。
 第1戦を経て相手が対策を練っていることに加え、コンテストキックを蹴っても成熟度が足りない。勝ちはしたが、いいスタートを切れなかった前戦の課題はそのままだった。

【写真上】前週はベンチ入りも出場のなかったHO江良颯(左)とPR木村星南が途中出場で揃って初キャップ。ファーストスクラムで相手反則を誘い、笑顔に。(撮影/松本かおり)
【写真左下/右下】江良のオフロードパスを木村が受け、前進するシーンも。(撮影/松本かおり)


 指揮官は前半37分、フロントロー3人をすべて入れ替える。「勝利は程遠い状況だった。自分たちの思う通りにいっていないときは、何かを変えないといけない」と思い切って判断した。

 采配は当たった。
 3人入れ替え後のスクラムで日本は相手のコラプシングを誘う。
 そこからPKで敵陣深くに侵入し、ラインアウトで初キャップのHO江良颯が正確にスローし、確保すると、CTB中野将伍が縦に走り込んで前進。次のフェーズではPR竹内柊平がボールキャリーでコリジョン。一度倒れた後、すぐに立ち上がってピックゴー。トライラインを越えた。
 日本は10-21としてハーフタイムを迎えた。

 後半の日本はキックよりボールを動かして攻めるようになり、自分たちのテンポで試合を進めた。
 PGで加点されて10-24とされるも、19分に反撃に出る。中盤でのLOワーナー・ディアンズのキックチャージがきっかけとなった。

LOワーナー・ディアンズはSHのキックに毎回プレッシャーをかけ、それがチャージ→トライにつながる局面もあった。(撮影/松本かおり)


 相手SHのボックスキックに対し、思い切り体を伸ばして圧力をかけた。
 転がるボールをCTBディラン・ライリーに渡して前進。そこから大きくボールを動かしてトライラインに迫る。10フェーズ目にディアンズ自身がボールを押し込んだ。

 22分にはCTBライリーが持ち前のスピードを見せた。
 じわじわと自陣に入られる状況の中で相手のハンドリングエラーで地面に弾むボールをかっさらい、約60メートルを走り切った。
 SO李のコンバージョンキックも決まり、スコアボードには22-24の数字が並んだ。

 しかし、お互いにとって大事なラスト20分を制したのはウェールズだった。日本は自陣で戦う時間が多く、大事なブレイクダウンでの反則も複数あった。
 ラスト10分、疲労は日本の方が大きく見えた。結果、精度を欠いた。

 勝負を決めた後半35分のウェールズのトライも、ダイレクトタッチによる、自陣22メートルライン付近からの攻撃で生まれた。
 ウェールズは一連のアタックでよくボールを動かし、8フェーズ目でゴールポスト左に背番号10が躍り込む。Gも決まり、ファイナルスコアを刻んだ。

後半22分、ディラン・ライリーがトライ。Gも決まって22-24と迫った。(撮影/松本かおり)


 悔やまれるのは前半のゲーム展開だ。ジョーンズHCは前述のように「ラグビーはコンテストゲーム」と強調し、特に前戦で優位に立ったスクラムでうまく組ませてもらえなかったことについて言及。「有利に進められるところを取り上げられた」と話した。

 その点についてHOの原田衛は、「うまくプレッシャーをかけられなかった」とした。
「相手がちゃんと組もうとしていなかった」ことも理由だ。「マイボールの時は押そうと思っていましたが、スクラムの数も少なかった」と振り返る。
「(そういう)運もある」と言い、フロントローの入れ替えはよかったと思うと話した。

 バトンを引き継いだ竹内は、スターターの状況を見て対応した。
「相手は先発の3番も前の試合から代わり、(お互いの)距離も違っていました。乗っかられている感じもあったので、(相手と)詰めて、自分たちの形で組もうと話しました」

 リーチ マイケル主将が「2試合連続で試合のスタートが良くなかった。改善しないといけない」と話した前半序盤についてSO李は、2戦とも「最初の20分、敵陣で戦い、モメンタムを得ようとした」という。

SO李承信は地元でのテストマッチ。気持ちの入ったプレーを見せるも、勝利は手にできなかった。(撮影/松本かおり)


「(そのプランが)ダメだったらキックに切り替える。(SHの齋藤)直人さんをはじめ、いいコントロールができていたと思いますが、(ハイボールを)コンテストした後のルーズボールが相手に渡ったとき、(ウェールズは)動かしてきた。それにアジャストできなかった」と、キック後の結末がうまくいかなかったと振り返った。

「もっといろんなバリエーションのキックで対応できたらよかった」と続けた李は、キックを多用した前半を、チームとしてテリトリー重視のプランがあったからとした。
 ただ、前半の終盤から積極的にボールを動かしはじめたらいいテンポが出た。司令塔は、蹴るところと攻めるところの「バランスの取り方を成長させないといけない」と反省した。

 伝統国(いわゆるティア1国)相手に連勝し、歴史を変えたかった日本。しかし、そのターゲットを射程圏内に入れることはできても実現には至らなかった。
 リーチ主将は「連戦で勝つことの難しさを感じました。後半走り勝つ自信はあったが、小さなこと(多発した小さなミス)で大きく変わる。チームにとって学びになった」と話し、ウェールズの前週との変化については、「ボールを持って継続してきたし、ディフェンスでも上がってきた」と体感を言葉にした。

この日も攻守に一貫性のあるプレーを出し続けたリーチ マイケル主将。(撮影/松本かおり)


 ジョーンズHCは、才能ある若い選手たちに対して一貫性を求めた。

「多くの若い選手たちは第1戦、初めてのビッグゲームにアドレナリンが出て、テンション高く試合に臨んだと思います。そんな試合を終えた後、すぐに2戦目が待っている。感情をリセットして、(新たな)試合に向かうのは難しい。切り替え、一度勝った相手への気持ちを作り直さないといけない。そこも苦戦した原因となりました。学びにもなりました。2戦目は(初戦より)さらに高い強度でスタートを切らないとと言ってきたのに、そうできなかった。経験値のある選手は、1試合目で勝とうが負けようが、何があろうと、次の試合でも安定したパフォーマンスを出せるものです」

 チームは大きな可能性を秘めているもののまだ成長の過程。一進一退の状況にある。

 しかし、ウェールズとの2連戦で1勝を挙げたことは、このチームにとって大きい。HO原田は、「去年は(強豪には)勝てなかったけど勝った。ディフェンスにも粘りが出てきたと思う」とチームの変化を口にした。
 LOディアンズは、「昨年は全員、超速ラグビーは初めてだったけど、いまは多くの選手が経験者で、新しい選手たちを引っ張っていけている」とチーム内部の空気を語った。

 今季活動開始前にHCが「まだ山の麓」と言っていたチームの現在地は、何合目まで登っただろうか。
 ウェールズとの2試合は、もどかしい状況をブレイクスルーする試合になっただろうか。
 8月30日のカナダ戦から始まるパシフィックネーションズカップでの戦いで、マオリ・オールブラックス、ウェールズと戦って出た課題を解消した姿を見せることが、次への一歩目となる。

試合後、SH齋藤直人に話しかけるエディー・ジョーンズHC。(撮影/松本かおり)







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