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熱くて強い。ウェールズ代表の勝利への意欲、北九州への思い
写真左上から時計回りにLOベン・カーター、マット・シェラット ヘッドコーチ代行、CTBジョニー・ウィリアムズ、HOデウィ・レイク主将。(撮影/松本かおり)

熱くて強い。ウェールズ代表の勝利への意欲、北九州への思い

田村一博

 キックオフの7月5日、14時頃、スタジアムの気温は34度近くになると予想されている。

 同日、ミクニワールドスタジアム北九州で日本代表と戦うウェールズは、自国を発つ前に36度、湿度87パーセントに設定した室内でバイクを漕いで体を苛め、その後、疲労がたまった状態でグラウンドトレーニングをおこなう日々を重ねた。

 日本に到着したのは6月26日。それ以降、2019年のワールドカップでもキャンプ地とした北九州市で練習を重ね、人工的には作れぬ独特の蒸し暑さの中に身を置いてきた。
 7月4日、試合前日には全員で試合会場を訪れ、軽く体を動かした。バックスの選手たちはキックを蹴ったり、受けたり、感覚を確かめていた。

 練習後に取材を受けたベン・カーターは、日本代表戦にLOで先発する(4番)。ウェールズ代表キャップを12持つ24歳は、怪我のためシックスネーションズ2025を全休。テストマッチは2024年6月22日の南アフリカ戦(13-41)以来となる。

試合前日のウェールズ代表。スタジアムを訪れ、体を少し動かした。(撮影/松本かおり)


 海辺にあるスタジアムについて「とてもきれいで眺めもいい。試合が楽しみ。怪我で離脱していた状況から戻ってこられて嬉しいし、コンディションもいい」と話したカーターは、「ウェールズでも準備をしてきましたし、日本でも練習を重ねて暑さにも慣れてきている」とした。
 そして、ヒート・チェンバーと呼ばれる施設→外の練習の過酷さを「これまでやってきた中でいちばんきついと言っても過言ではない」と表現した。

 現在ウェールズ代表はテストマッチ17連敗中。2023年ワールドカップのプールステージ最終戦の対ジョージアに43-19と勝利してから、笑顔でフルタイムを迎えたことがない(2023年11月のバーバリアンズ戦には勝った)。

 そういう状況の中だからカーターは、「勝利は必須条件」と言う。
 長い期間勝てない理由について「自信を欠いている」と話す24歳は、「相手どうこうでなく、自分たちのゲームをするための準備をしてきました。ディフェンスにプライドを持って戦います。連敗を止めよう、という気持ちが自分たちのモチベーションになっている」とした。

 自分の持ち場でもあるラインアウトは、勝敗の鍵を握るものでもある。
 そして「日本のスクラムは細かなところにもこだわって、時間をかけて作っている印象ですが、こちらも全員でひとつになり対抗する」。セットプレーで勝機を引き寄せるつもりだ。

 試合2日前の記者会見には、マット・シェラット ヘッドコーチ(HC)代行らが出席した。
 同HCは2025年2月途中から現職に就いている。前任のウォーレン・ガットランドHCが今季のシックスネーションズで初戦のフランス戦に0-43と大敗した後、2戦目のイタリア戦にも15-22と惜敗。テストマッチ14連敗となったところで解任されて大役を任されることになった。

ウェールズ協会の公式「X」より

 ユナイテッド・ラグビーチャンピオンシップ(以下、URC)のカーディフでヘッドコーチを務めていたシェラットHC代行は、同協会が求めていた「チームをまとめ、若い選手を成長させることができる人物」として任命され、実際にその方向性でチームを動かしている。

 日本戦の先発15人中6人のキャップが1ケタ。23人に広げると、それが10人に増え、キャップを持たない選手も1人いる。
 その一方で108キャップのNO8タウルペ・ファレタウや54キャップのPRニッキー・スミス、61キャップのWTBジョシュ・アダムスが先発し、40キャップのPRガレス・トーマス、57キャップでバックローのアーロン・ウェインライトがベンチスタートと、80分を通して経験豊富な選手が常にピッチにいるメンバー構成となっている。

 シェラットHC代行は暑さ対策もあり、「60分から80分の時間は、とてもきつい展開となる。15人ではなく、23人で戦うイメージでメンバーを選んだ」と話した。
 FW6人、BK2人でベンチメンバ―を組んだことも、ゲームを通しての選手の出し入れについてイメージが明確になっているからだろう。

 3週間の準備期間に、選手同士のコンビネーションも高まったと感じているHC代行はチーム内での会話を通して、選手たちの胸の内も伝わってきたという。

「彼らのモチベーションを聞きました。みんな揃って、ウェールズのために勝ちたいと言います。ひとつの時代の終わりでもあり、新たな時代の始まりと感じているのでしょう」

 指揮官は日本チームについてリーチ マイケル主将の名前を挙げ、「経験豊富で、周囲を落ち着かせるところは、ウェールズ代表キャップ108のNO8ファレタウと似た存在だと思う」と高く評価した。
 また、LOワーナー・ディアンズ、CTBディラン・ライリーの存在についても触れた後、WTBを活かせるかどうかは、両チームにとって重要とした。

108キャップのNO8タウルペ・ファレタウ。(撮影/松本かおり)


 シェラットHC代行にとっては今回が初めての来日。ウェールズと北九州の親密な関係については聞いていたものの、空港到着後からホテルに入るまでも多くの人たちの歓迎を受けて、最初から「気持ちがたかぶりました」と笑顔を見せた。

「皆さんフレンドリーで優しく、いろんな人が話しかけてくれます。街にもウェールズのシャツを着ている人たちがいる。2019年(ワールドカップ)の力ですね。そして、それがいまでも続いていることが凄い」

 今回のツアーで主将を務めるHOのデウィ・レイクは、初戦への意気込みを「大事な試合。チームの中でも、勝つことがどれだけ重要か、と話してきました。今後に向けたいいスタートにしたい」と思いの強さを口にした。

 同主将は北九州での試合を観戦するために家族が来日することを伝えた後、「その目の前でいいパフォーマンスをしたいし、チームメートのため、(勝てなかった)この18か月、いろんなことがあったにもかかわらずサポートし続けたファンのためにも勝ちたい」と言葉を続けた。

 長く怪我に苦しんでいた13番のジョニー・ウィリアムズにとっては、今回の日本代表戦が2023年のワールドカップ以来のテストマッチ。同選手も、チームと勝利への熱い思いを改めて口にした。

 不振にあえぐチームの状況を外から見ているしかなかった同選手は、「この2年、チームが沈んでいる状況を見ながら、自分も一緒にプレーしたいと思ってきました。どんな状況であれ、ウェールズのジャージーを着たい気持ちは変わらなかった」と話し、「リーダーシップを発揮したい」。

 赤いジャージーに赤パンツ、赤いストッキングと、全身赤でピッチに立つレッドドラゴンの勝利への意欲が強く伝わる80分となるのは約束されている。
 満員の観客が両チームの国歌を歌う光景が、もうすぐ世界に発信される。



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