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松永美穂、32歳で初キャップ。女子日本代表、カザフスタンに90-0と大勝
後半12分、松永美穂がファーストタッチでトライを挙げた。(撮影/松本かおり)
2025.05.15
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松永美穂、32歳で初キャップ。女子日本代表、カザフスタンに90-0と大勝

田村一博

◆「爆速」遂行で14トライ。

 チームが掲げたテーマは『爆速』。とんでもないスピードで攻め、守るイメージだ。

 5月15日に福岡・ジャパンベースで始まった『女子アジアラグビーエミレーツチャンピオンシップ2025』の第1戦で、女子日本代表が女子カザフスタン代表に90-0(前半:31-0)と圧勝した。14トライを奪った。

 先制トライを、目指すスタイルで挙げた。キックオフから5分後、CTB小林花奈子がインゴールに入った。
 この日は青いジャージーを着たサクラフィフティーンがボールを手にしたのは、小林のタックルから。全員で前へ、前へとディフェンスで圧力をかけて相手を押し下げておいて、背番号12のタックルでボールをこぼさせた。

キャプテンの責任を果たし、トライも3つ。プレーヤー・オブ・ザ・マッチの向來桜子。(撮影/松本かおり)


 そこから攻撃に転じ、トライに結びつけたシーンを振り返った今田圭太ヘッドコーチ代行は、「ボールを持たないまま前に出て、最後に(奪い返して)トライできた」。
 ファーストトライで、やりたい形を出せたことが嬉しかった。

 向來桜子主将も試合直後のインタビューで、「相手よりはやく動いて攻め、守り、ポジショニングする。強いインパクトを与えるプレーを出し続ける。爆速をやれました」と話した。
 そして、80分を通して力強く攻め続けられた理由を、一人ひとりが「スーパーストロングボールキャリーの意識を持って(迷わず)勝負できたから」とした。

「前半はハンドリングエラーも少なくなかった」(主将)と反省するも、後半はそれも減り、一方的な展開とした。
 カザフスタンのナタリヤ・カメンドロヴスカヤ主将(PR)は、「日本の運動量に圧倒されて終盤には疲れも出た」と完敗を認めた。

 小牧日菜多、小鍜治歩、町田美陽らフロントローがよく動き、FW全体を引っ張った。BKも最後まで攻める意思を持ち続け、途中出場選手も含めて全員でつかんだ女子日本代表最多得点テストマッチ勝利。
 5月25日には、同じ場所で香港代表と戦う。

写真左上から時計回りに、WTB香川メレ優愛ハヴィリ、FL向來桜子のタックル、FB/SO西村蒼空、CTB安藤菜緒。(撮影/松本かおり)


◆ファーストタッチでトライ。


 試合出場登録の23人全員がピッチに立ったこの試合では、初キャップを得た選手たちが5人いた。
 その中でも松永美穂は32歳での初キャップ。トライも2つ挙げて、最高のデビュー戦とした。

 YOKOHAMA TKM所属。173センチ、72キロの長身を生かし、15人制ではLOとして活躍する。この日は後半10分、4番の中村沙弥との入れ替えでピッチに出た。
 その2分後だった。デビュー戦のファーストタッチは、右スクラムからの攻撃の3フェーズ目。ブレイクダウン横のスペースに走り込んでパスを受け、そのままインゴールへ入った。

 後半36分には、敵陣深い地域で味方がボールを得たところをサポート。すでに走れなくなっている相手を尻目によく動き、ショートパスを受けてトライラインを越えた。
 何度もラインブレイクし、タックルも。ラインアウトでのスティールにも成功し、プレータイムは30分ながらチームへの貢献度は高かった。

 試合後の松永は穏やかな表情だった。
「試合に出たら思い切りやろうと思っていました。とにかくスペースに走り込んでチームに勢いを与えようと思ってプレーしました」

5人の初キャップ選手たち。左から、FB西亜利沙、NO8水谷咲良、HO小島晴菜、PR吉田菜美、LO松永美穂。(撮影/松本かおり)


 所属チームでは先発出場が多い。特にセブンズでは個々に任されるスペースなどが広く、負担が大きいから「緊張するのですが、15人制で、ベンチスタート。リラックスして国歌斉唱に臨めたし、試合の流れ、相手チームのプレーも(前半に)見られたので、落ち着いて試合に入れました」と振り返る。

 自分が見せたパフォーマンスについて、「自分としても満足なプレーができてホッとしました」と話す一方で、「きょうの相手と戦えても、世界(の強豪)には通用しません。私はアタックの方が得意で、きょうは守るシーンがあまりなかったので、もっとフィジカルの強い相手と戦うことを想定してディフェンスに磨きをかけないといけないと思っています」と気を引き締めた。

◆ラグビー年齢は、まだ若い。


 成城学園に学んだ中高生の頃、東京女子体育大学時代は、バスケットボ―ルに打ち込んでいた。
 ラグビーを始めたのは23歳の時。サッカーをしていた兄・翔太さんがサッカーからアメフトに転向した後、オービックで日本一の栄冠をつかんだ姿を見たのがきっかけだった。

「それで自分も他のスポーツをやってみようと思い、東京オリンピックも目指せるラグビーをしようと考えました」

 東京フェニックス(当時)、千葉ペガサスを経て、TKMに加わったのは2019年。それまでセブンズだけだったラグビーの幅が15人制にも広がった。
 その時から6年。ラインアウトジャンパーを務めるようになったのは昨年だから、32歳とは言っても、15人制について分からないこと、知らないことはまだまだある。

 だからいま、「(15人制の)理解が進んできて思うように動けるようになって、ますます面白くなってきています」と目を輝かす。

セブンズ代表キャップは2022年に3つ得た松永美穂。「すべてを教えてくれた人」とTKMの長谷部直子ヘッドコーチに感謝。(撮影/松本かおり)


 2019年のレスリー・マッケンジー体制発足時、最初の15人制代表候補合宿に呼ばれたことがあった。
 しかし、それっきり。今回まで声がかかることはなかったから「諦めたこともありました」。

 しかし、「頑張っていたらいつか(チャンスが)巡ってくるかも」といつも胸に秘めていたから、こんな最良の日を迎えることができた。
「実際に呼ばれた時にはビックリしたんですけどね」

「歳を重ねてからのデビュー戦だったので、サクラフィフティーンの(実績がある)選手たちともコミュニケーションを取りながらプレーできました。そうだったから、自分の良さを出せたと思います」

 5月25日の香港戦まで10日ある。その間に自分ができることを高めて、次は先発をつかみたい。
「やれることは、人より動くことです。それと、スペースに入り込むのは得意かな」
 バスケット歴は14年。ラグビー年齢がそれに追いつく頃には、もっと武器が増えるかも。


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