logo
【ラグビー日本代表と征く欧州2024/DIARY⑬】終わった。けれど、あっさり終わってはいけない。
イングランド戦を終えて観客の声援に応える為房慶次朗、下川甲嗣、松岡賢太(左から)。(撮影/松本かおり)
2024.11.28
CHECK IT OUT

【ラグビー日本代表と征く欧州2024/DIARY⑬】終わった。けれど、あっさり終わってはいけない。

田村一博

 何度か脇の道を歩いたことはあったが、中に入ったのは、この日が初めてだった。
 イングランド×日本のテストマッチがおこなわれた11月24日(日)の昼頃は、トゥイッケナム(アリアンツスタジアム)にも近いリッチモンドクラブのグラウンドに行った。

 この日は、恒例の『奥記念杯』(OKU MEMORIAL TROPHY RUGBY MUCH)がおこなわれていた。
 奥克彦さんは、ラグビーを通して日英両国の絆を強めてくれた方だ。故人は在英日本大使館の外交官だった2003年にイラクで凶弾に倒れた(当時45歳)が、その遺志は、この記念杯の毎年の開催を通して継承されている。

奥記念杯の第1試合のメンバーたち。(撮影/松本かおり)
力強い走りからのロンジャパのトライ。(撮影/松本かおり)


 今回は、前夜食事をしたロンドンジャパニーズ(クラブ)の知人に誘ってもらい観戦した。数試合ある中の、初戦の前半を眺めた。
 テストマッチが16時10分のキックオフのため、はやくグラウンドを離れなければいけなかったのが残念。いろんな方が真面目に、楽しくボールを追っていた。

 年に1回の記念試合だからと足を運んだ方もいて、思いがけない再会、出会いもあった。
 かつて神戸製鋼でプレーしていたレジ・クラークさん(現在RHINO CEO)や、スコットランドで奮闘中の忽那健太さん。日本ブラインドラグビー協会の橋本利之会長らと話す。
 数日前に会った玉井希絵さんもやって来た。

 同クラブは、あの平尾誠二さんがプレーしたクラブでもある(石塚武生さんも選手、コーチとして留学経験あり/ともに故人)。女子代表の加藤慶子さん(15人制で7キャップ、7人制で23キャップ)が所属していたことも知っていた。
 クラブハウスに、同クラブ出身の各国代表選手の名前が刻まれているボードがある。その中に「Hattori R.」とあった。服部瑠奈さんのことらしい(1998年にWTBで2キャップ/名古屋レディース)。知らなかったなあ。

元女子日本代表、服部瑠奈さんの名前が刻まれたリッチモンドクラブのボード。


 スタジアムには、クラブの近くからシャトルバスが出ていた。乗車時間は10分ほど。キックオフ3時間前とあり乗客は少なかったが、到着してみれば、トゥイッケナム周辺には、すでに多くの人たちがいた。
 テストマッチの日はお祭り騒ぎだ。

 試合前、以前オンラインで取材したことがあるチェコ(プラハ)在住で、現地クラブでプレーし、U15チェコ選抜にも選ばれた三浦蒼真くんがお母さんと観戦に来ていると連絡があったので待ち合わせた。
 初対面で、想像していたより大きくて驚く(CTB)。将来が楽しみだ。一緒に写真を撮るのを忘れ、残念。

 プレス控え室はそれほど広いものではないが、丁度おこなわれていたスコットランド×オーストラリアの中継を流してくれたりしていて快適。試合日はメディア用に温かい食事も提供してくれる。嬉しいなあ。
 デザートのケーキもおいしい。

スタジアム入りする選手たちを歓迎するのがトゥイッケナムのスタイル。(撮影/松本かおり)


 このメディア控え室から、試合中に座る席、メディアトリビューンが遠い。4階席のそこに行くには、メインスタンド側からバックスタンド側へぐるりと回る感じ。通路には飲食ブース等もいろいろ出ているので、人混みをかき分けながら行くと約10分かかる。スケールが大きいスタジアムと実感する。

 メディアトリビューンのデスクは、珍しく日本の報道陣用に最前列が用意されていた。ハーフウェイラインあたり。最高。
 各席には試合映像を映し出すモニターが設置してあるので、プレー確認にも便利だ。

 試合結果はご存知の通り、14-59と日本代表が圧倒された。
 スタンドの雰囲気はテストマッチの緊張感が漂うというよりは、お祭りの様相。ファンは早い時間帯から歌い出し、盛り上がっていた。

ど真ん中の席。嬉しい。


 試合後の記者会見では、現地記者から、発売後話題になっている元イングランド代表SH、ダニー・ケアが書いた書籍に書かれているエディー・ジョーンズ ヘッドコーチについての箇所(追い詰めるような指導)に関する質問が本人にぶつけられる。
 同HCへの質問は、試合のことより、そのことについての方が長かったような。

 ミックスゾーンで日本代表の選手たちへ取材をすると、それぞれの選手が現状に危機感を持っていた。
 不満や批判でなく、不安や、じれったい感覚(PR竹内柊平は20分超の熱血トーク!)。それぞれの思いは、今後このチームが前へ進むために、チーム全体で共有すべきだろう。
 2024年の代表活動終了とともに、はいオシマイ。また来年ね、ではいけない。

 日本からはパリ往復のエアチケットを買っていたので、翌日(11月25日)の午前中にロンドンを離れ、ユーロスターでパリへ向かう。
 余裕を持って出発したつもりも、バスや電車が定時通りに運行することはあまりないので、毎度ギリギリになる。

 ロンドンとパリは鉄道で3時間程度の移動なのに時差が1時間ある。なんだか1時間損した気になる(西からスペインのマドリード、ロンドン、パリと並んでいるのに、マドリードとパリは同じ時刻という不思議)。

 パリ北駅からホテルまで地下鉄移動。ロンドンでも同じだったが、大荷物での地下鉄は本当に大変。古い作りなのでバリアフリーは皆無。日本の地下鉄の快適さをあらためて知る。

 夜はいつものラグビーの店でビールやハム、チーズ、タルタルなどなど。食事はロンドンよりパリの方がおいしいなあ。
 そして、パリの方が暖かく、物価もやや安く感じた。実際のところはどうなんだろう。

食事はロンドンよりパリが上だな。


 11月26日の午前にシャルル・ド・ゴール空港を出発して香港経由で東京へ。香港までは11時間強。香港→羽田は約3時間と、偏西風の影響で往路より、だいぶ短いのが嬉しい。
 翌27日、羽田に到着。真っ先に向かうのは、毎回決まっている。ウォシュレットは、日本が世界に誇ることができるものの一つだと思う。

 9月6日に日本を発って3週間、日本代表の取材をたくさんできた。選手たちの胸の内を知ると、不安で揺れていることも分かった。
 2024年シーズンの日本代表活動を、どう評価し、今後どうしていくのか。日本ラグビー協会は、検証のプロセスを明確にして、その結果を公にしないといけない。

 イングランド代表は、この秋のオータムネーションズシリーズの4試合で32万6783の観衆をトゥイッケナムに集めた。
 日本代表は、6月の国立競技場でのイングランド戦から国内で7つのテストマッチを戦い、その合計が17万7407人だった。

 世界の強豪が来日すれば、放っておいても巨大スタジアムがフルハウスとなる時代は終わっている。
 テストマッチの価値を高めるのは、相手ではなく日本代表にかかっている。どれだけエキサイティングなパフォーマンスを見せて、強豪国に迫り、勝つか、に尽きる。

 元選手に悪口を書かれた気分はどうですか、と自分たちの代表指揮官が問われてばかりの会見は、もうご免だよ。

帰国したらこうなるよなあ。




ALL ARTICLES
記事一覧はこちら