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【パリ2024パラリンピック/車いすラグビー日本代表】金メダルの裏側。
金メダル確定の瞬間。全員でつかんだ勝利と栄光だった。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【パリ2024パラリンピック/車いすラグビー日本代表】金メダルの裏側。

張 理恵

「本当に頂点に届くんだ、無条件に最高の幸せってここなんだ、と感じた大会でした」
 史上初のパラリンピック金メダルを獲得した、車いすラグビー日本代表。
 歴史的快挙から一夜明け、重厚に輝くメダルを胸に掲げたキャプテンの池 透暢は、穏やかな笑顔を浮かべた。

 東京パラリンピック銅メダル(2021年)、世界選手権・銅メダル(2022年)、国際車いすラグビーカップ銅メダル(2023年)。いつしかチームに「準決勝の壁」という呪縛がはびこった。
 パラリンピックという大舞台でついにそれを打ち砕き、無敗の世界王者となった。

「粘り強くて、最後まで屈しない。丁寧で、精度が高い。個ではなく連係のすばらしさが際立つ、そんな日本ラグビーを見せたい」
 大会前、池は自分たちが積み上げてきたラグビーをそのように語っていた。

精神的、技術的にチームを引っ張る池透暢主将。背番号13は島川慎一。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 予選から5戦全勝、決勝では強豪・アメリカに48-41と圧勝した。
 試合ごとにゲームプランはあるが、つねに円陣で言い続けたのは「目の前の1プレー1プレーを丁寧にやっていこう。独りよがりのプレーではなく4人が連係したプレーをやり続けよう」ということだった。
 その根底にあるのは、「自分たちがやってきたことをコートで体現できれば、おのずと結果はついてくる」という揺るぎない自信だ。

 日本の戦いでまず目を引くのが、ディフェンスの強さだろう。
 たとえリードを奪われたとしても、「ディフェンスが効いている」という手応えが、簡単には崩れていかない安定感につながった。

 日本代表が、東京パラリンピック前から根気強く取り組んできたのが『2ハード2ソフト』と呼ばれるディフェンスだ。
 コート上4人のうち、2人が相手のボーラーに対してプレッシャーに行き、ボールを停滞させる(2ハード)、あとの2人はエリアを見て相手のパスコースを塞ぐなどボールの出しづらい状況を作る(2ソフト)。
 2ハードの部分で抜かれたら、即座に役割をスイッチして、ソフトだった2人がハードに転じる。それを繰り返しながら、相手のトライラインまでしぶとく絡んで時間を使わせ、あわよくばターンオーバーを狙う。

 この『2ハード2ソフト』で当時の世界チャンピオンだったオーストラリアを撃破し、パラリンピックの切符を勝ち取ったのが、昨年夏の「アジア・オセアニア選手権」だった。
 ケビン・オアー前ヘッドコーチと臨んだ最後の大会。オアー氏と築き上げた日本の強固なディフェンスは、世界を驚かせた。

 パラリンピックに向けて視界良好かと思われた。
 しかしそのわずか3か月後、岸 光太郎ヘッドコーチの初陣として臨んだ昨年10月の「国際車いすラグビーカップ」では、世界にゴリゴリに対策されてしまい、苦い思いを経験した。

 そこから重点的に取り組んだのは、よりプレーの細かい部分まで突き詰めること。
 例えば、車いす操作であればセンチ単位でこだわり、相手の車いすに当てるアングルも運動物理学的に追及した。そして、オフェンスでは2on2の連係を強化し、さらなるチームプレーの確立に努めた。

チーム最多79得点(5試合)をマークした橋本勝也は日本のエースとして存在感を放った。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 障がいの比較的軽い「ハイポインター」と呼ばれる選手は、スピードやパワーがあるため、主にポイントゲッターの役割を担う。日本のハイポインターは世界トップクラスのパフォーマンスを誇り、今回メンバー入りした4人のハイポインターはそれぞれ異なる武器を持つ。

 1対1でも突破できる強さを備えているが、今大会ではどの試合においても、障がいの重い「ローポインター」と連動して、バスケットボールの「ピック・アンド・ロール」のような動きで、多少時間をかけてでも確実にボールを運んでいるのが見てとれた。
 まるで入門書にある“お手本”のような2on2、あるいは2on1で上がり、次々とトライを重ねた。

 こうした連係、そして、その精度の高まりは、基礎の徹底や、攻守におけるシステムの構築によるものだけではない。
「コミュニケーションがとれているのが、以前の日本代表とはすごく違うところ。とにかく小さいことでもコミュニケーションをとるようにしている」

 パラリンピック3大会連続出場のベテラン、乗松聖矢が言うように、タイムアウト等でプレーが中断するたびに、また、ピリオド間のインターバルでも、常にあちこちで会話が繰り返される。
 その会話は、今年出場した国際大会ごとに密になっていった。

 キャプテンの池は、会話の回数だけでなく、その内容や質にも大きな変化が現れたと語る。
「以前は経験豊富なハイポインターが意見を言うだけだったが、今は(若手選手の多い)ローポインター側からも、こうした方がいいんじゃないか、もっとこういうふうに動いてほしいという要望がどんどん出るようになった。プレー中にもローポインターが積極的に声を出してくれるから、ハイポインターはボールを持ってアグレッシブにいける。それにメンタル的なサポートもしてくれている。これは、合宿で毎晩、映像を見ながら熱心に勉強したローポインターたちの努力によるもの。チームの底上げにもつながった」

チームに勢いを与えるプレーをする池崎大輔。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 パリ・パラリンピックの5試合すべてでスタメン出場した小川仁士も、その若手ローポインターのひとり。
 東京パラリンピックでは「チームの戦力になれず情けない気持ちで終わった」と振り返る小川。東京からの3年間で、パフォーマンスの向上以上に努めたのが「ラグビーを知る」ことだった。
「日本のラグビーをしっかりと頭の中に入れる作業をした。その作業によって(コート上の)僕以外の3人の考えが分かるようになり、チームプレーもうまくいくようになった」

 東京大会では5試合でトータル13分05秒だったプレータイムが、パリでは59分07秒と飛躍的に伸び、目標どおり「3年前との違い」を見せつけた。
 若手選手たちのラグビーIQ、そしてコミュニケーションの高まりは、試合の中での修正力においても大きな力を発揮した。

 そして忘れてはならないのが、試合に臨むメンタルの作り方だ。
 思いが強いほど、感情は高ぶってしまう。ほかにも要因はあったけれど、自国開催のパラリンピックで金メダルを獲りたいという思いが「空回り」したのが東京大会だった。
 今回のパリ代表12人のうち11人が、その悔しい経験をした。

「勝つということに意識を強く持ちすぎず、いつも通り、平常心でプレーをする」
「全員との調和がすごく大切。闘志を燃やしまくるのではなく、冷静さを持ち、確実に相手をしとめていく」
 経験から導かれたチームのメンタル。それが、大一番となった準決勝で逆転勝利を呼び込み、金メダルを大きくたぐり寄せた。

「仲間の力を信じる。チームを信じる。団体競技、しかも1点を争う競技の中で、誰かひとりのミスが起きるかもしれない。そのミスさえも受け入れなくてはいけない。仲間がミスをしても、最後の最後まで『自分たちは絶対に勝てる』と、確信のある自信を心の奥底で持ちながら、適切なパフォーマンスができる熱さで最後まで遂行し続ける。そして1試合が終われば、勝利の喜びを一度忘れて一回沈み、適切な感情で、また次の試合に臨む。それをすべてクリアしたときに頂点、金メダルというものが見える。今回、私たちはそれが見えた」

 池は言葉を続けた。
「でも、戦うまでは、僕らにはほんとに正解は分からなかった。でも、正解にすることができた。
世界の頂点に立って見えた景色は、僕の今まで見た一番美しい光景だった」

 史上初のパラリンピック金メダル。
 日本の車いすラグビー史に刻まれた、新たな歴史の1ページは、そうやって作られた。

金メダルの日本。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【パリ2024パラリンピック 試合結果(日本戦)】
<予選ラウンド>
日本 ● 55 – 44 ◯ ドイツ
アメリカ ◯ 42– 45 ● 日本
カナダ ◯ 46 – 50 ● 日本
<準決勝> 
日本 ● 52 – 51 ◯ オーストラリア
<決勝>
日本 ● 48 – 41 ◯ アメリカ

銀メダルのアメリカ。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【最終順位】
金メダル 日本
銀メダル アメリカ
銅メダル オーストラリア
4位 イギリス
5位 フランス
6位 カナダ
7位 デンマーク
8位 ドイツ

銅メダルのオーストラリア。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

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