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8年前と同じように躍進するには、その時と同じ初戦の相手、ニュージーランド(以下、NZ)に勝つことだ。
準備してきたことをその14分間に出し切って勢いに乗りたい。
7月24日、パリ五輪のラグビー競技が始まる。
大会の開会式は同26日。その前に始まるのはラグビーとサッカーだけだ。
その中でも男子セブンズ代表のNZ戦は、日本選手団の中でもっとも早い試合開始となる(現地時間:24日18時/日本時間:24日25時)。
多くの人の目も集まる。勝利の意味は大きい。
リオ五輪(2016年)の初戦でNZに勝つなど4位となったチームを超え、メダルを手にしたい男子セブンズ日本代表。今回のチームで主将を務めるのは石田吉平だ。
横浜キヤノンイーグルスに所属する24歳は、小柄(167センチ)も、キレのあるランニングを得意としている。
日本を発つ前に催された記者会見で、「大きな相手に対しても勇敢に立ち向かう姿を見せたら、たくさんの人たちを魅了できる。ラグビーを見たことがない人にも、僕たちの戦いで勇気を与えられたら、と思っています」と話した石田は、サイモン・エイモー ヘッドコーチ(以下、HC)からキャプテンに指名された。
指揮官の思いを聞いた時、「任せられた以上は全力。しっかり責任を持ち、覚悟を決めてやる」と決断したと話す。
チームの先頭に立つ上で、自分なりのリーダーシップを発揮しようと思った。
「ハードワークすることが自分の取り柄だと思っています。チームの中でいちばんハードに動いて、チームを鼓舞し続ける存在になることを意識してきました」
言葉で発信するより、誰よりチームが目指していることを体現する存在でいようと誓った。
コロナ禍で開催が2021年にずれ込んだ東京五輪に、明大3年の夏に出場した。
チームは韓国に勝っただけの12チーム中11位に終わる。石田自身も5試合中3試合に出たものの、すべて後半に入ってからの出場。僅かなプレータイムだった。
ピッチに立った時間の長さ、実際のパフォーマンスとも、納得がいかなかった。
その時の感情を、「大会が終わった時に、悔しいという気持ちも湧かなかった」と回想する。
ただ、そこで投げ出さなかった。
すぐに切り替えてパリを見た。
「次のオリンピックでは、自分が核になって戦う。結果を残す」と決意した。
「自分の中のスタンダードを変えないといけない。これくらいでいいや、とか、今日はこんなもんでいいか、という考えをなくしました。スタンダードを世界レベルにしないと活躍できない、と気づきました」
エイモーHCは石田主将を、「こんなに練習する選手を見たことがない」という表現で高く評価する。
その言葉を受け、「何か特別なことをしているというわけでなく、一日一日やり切るという意識が当たり前になり、いい習慣が身についているのかもしれません」と話す。
合宿時、チーム全体での練習以外にも自分を鍛える時間を作るようにした。
朝、練習後と、インディビデュアルな領域を伸ばす。
「日本人の中でも小さい体です。それで世界の舞台で戦う。負けたくないので、フィジカルトレーニングやスキルトレーニングに取り組んでいます」
ここでもスタンダードは世界。「日本のレベルで上手くても世界では活躍できない」と自分に厳しい目を向ける。
「空いた時間があったらラグビーに時間を費やす」のが当たり前になった。
ハードワークを貫くのは、それが自分の素の姿だからだ。
所属するイーグルスには、東京五輪で主将を務めた松井千士がいる。チームに戻った際、先輩は良き話し相手になってくれる。
チームの状態や主将としての振る舞いなどについて相談すると、アドバイスが返ってくる。
そのやり取りの中で、「気負いすぎず舞台を楽しんで。自分のスタイルを出したら、みんな、ついてきてくれるから」とパリ五輪へ向け、言葉をもらった。
「背負いすぎることなく、いつも通りにやろう」と決めた。
いろんな経験をして、タフになっている。
明大4年時はキャプテン。人生初めての大役だった。名門チームの先頭に立ち、想像していた以上の重圧を感じた。
チームは大学選手権準々決勝で敗退。敗戦の瞬間、ピッチに膝をついてうなだれた。
そんな辛かった出来事も、いまの自分を支えている。
「背負い込みすぎていました」という2年前の自分。「当時を思い出し、どうしてうまくいかなかったのか、のちに考えました。そういうことも、いまに生きています」という。
まずは自分。
それが、リーダーとしてやるべき第一歩で重要なことと気づき、いま、揺らぐことのない信念となっている。
五輪に臨む今回のチームは、昨秋(2023年)アジア予選を突破した後、なかなか結果を残せていない。
しかし、着実に実力を蓄えてきた自信はある。『Fast and Brave』だったチームスローガンを、予選突破後は『Faster and Braver』とした。
各大会で勝利を重ねることはできなかったが、自分たちの強みを最大限に活かす、チャレンジングな戦い方は確実に完成に近づいている手応えがある。
まずは初戦。優勝候補のNZには、リスクを負って挑むぐらい極端に戦わないと勝ち目はない。
人から見れば異様に見える戦い方を、自分たちのものにする時間を過ごしてきた。はやい出足で圧力をかける。動き続ける。黒衣が脅威に感じることを勇敢に、14分間、絶え間なく続けるつもりだ。
「リスクがあるということは、ハマれば相当な力になる。そう信じています。相手が舐めてくるなら、それもチャンス。すべてのことをチャンスと考えて戦います」
東京の結果で、セブンズ熱を下げてしまったかもしれない。
今大会には背番号2で臨むキャプテンは、セブンズのステータスを高めたいという大義も胸に大舞台へ立つ。