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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/東芝ブレイブルーパス東京×コベルコ神戸スティラーズ】前年度王者の猛追も、前半の勢いを守り切ったチャレンジャー。
前半27分で20-0、ハーフタイムを20-7で迎えた。後半7分に27-7となり、後半28分に27-28、後半31分に34-28とスコアは動き、最終的に34-33となった。(撮影/松本かおり)

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/東芝ブレイブルーパス東京×コベルコ神戸スティラーズ】前年度王者の猛追も、前半の勢いを守り切ったチャレンジャー。

今本貴士

 昨シーズンの東芝ブレイブルーパス東京×コベルコ神戸スティーラーズの戦いは、2試合とも王者となったブレイブルーパスが勝利を収めた。
 その結果を踏まえて迎えた今回の試合(2月15日/秩父宮ラグビー場)は、スティーラーズが1点差(34-33)を守り切って勝利を収める結果になった。

 最後まで勝負の行方が分からなかった試合を分析的視点で見ていこう。

◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。


〈基本構造とシェイプの運用〉
 10番のリッチー・モウンガは個人で場面を打開できる稀有なプレイメーカーだ。そんな存在が10シェイプを使い始めると、モウンガを抑えるかポッドを抑えるか、ディフェンスに迷いが生まれ、さらに効果的なアタックにつながるという循環を作ることができる。

 しかしこの試合では、その戦術が必ずしもうまくいったわけではない。10シェイプはその構造上、ラックができた位置から一定量後退した位置で選手がボールを受けることになる。スティーラーズは10シェイプに対してしっかりプレッシャーをかけるディフェンスを仕掛けた。ブレイブルーパス側は、思ったよりも前に出られなかった。

 個人的には、ラックから直接FWがボールを受ける9シェイプの方がある程度効果を示していたようにも見えた。ブレイブルーパスのポッドには単純なキャリー以外にもティップオンという小さなパスで相手ディフェンスからズレることのできるオプションがあり、そのパスを使った大きなブレイクも見られていた。

 また、9シェイプはそこまでボールを下げることなくキャリーに持ち込むことができるので、相手のディフェンスの上がりをある程度止めることができる。相手の特攻的な、激しい詰めがある場合はプレッシャーを受けるが、そういったディフェンスをしてくる相手に対しては、ティップオンや裏の選手に下げるスイベルパスが生きてくる。

〈10番起点と外展開〉
 少しずつブレイブルーパスのアタックは変わってきている。モウンガが受ける位置が少しラックから遠のくようになっている。具体的に言うと、10シェイプの裏側といった、「ある程度パスを繋ぐことで到達する位置」に10番が入るようになった。

 モウンガが外側の位置に入ることにより、彼が本来持っているステップワークと勝負のタイミングでのパスワークを、さらに活かすことができる。ブレイブルーパスのアタックの肝になってくるのは「モウンガのところでどれだけブレイクを引き出せるか」。アタックラインの外側という、ディフェンス構造が少し薄くなる位置で10番がアタックに参加できるのは大きな意味を持つ。

 しかし、アタック全体を振り返るとそううまくは運ばなかった。スティーラーズのディフェンスの質も高く、モウンガが前に出ようとするシーンを連動したディフェンスの堅さでシャットアウトしていた。最終的にはブレイブルーパス側に5本のトライが生まれたが、チームとしては本来の攻撃力を活かし切れたわけではないだろう。

ブレイブルーパスは多くのパスを使った。写真はPR木村星南。(撮影/松本かおり)


〈確認された攻撃の課題〉
 いくつか個人的に着目したポイントはある。まず「ポッドで前に出られなかった」点を挙げたい。ブレイブルーパスのアタックの肝は前述したように絶対的なプレイメーカーのコントロールだが、そのためには、ポッドで前に出ることが重要になる。ポッドで押し込まれていると、いくらプレイメーカーがいいパスを供給しても、いいアタックにはつながらない。

 これに関しては、スティーラーズの全体的なディフェンスが良かったと言っていいだろう。ティップオンやスイベルパスといったアタックオプションがある相手に対し、しっかり周囲の選手と連動しながらディフェンスを仕掛けていた。結果としてブレイブルーパスのアタックは、多くの時間で前に出ることができなくなっていた。

 ポッドやそれ以外の選手がディフェンスにプレッシャーを受けていたことにより、オフロードの質も下がっていたように見えた。昨シーズン、リーグで最もオフロードパスを通していたのはブレイブルーパスだったが、今シーズンは必ずしもいいオフロードをできていたわけではない。相手に捕まってプレッシャーを受けながらパスを出すことによって味方がさらにプレッシャーを受け、アタックラインが後退することも多かった。

〈ディフェンス様相〉
 ブレイブルーパスのディフェンスが、そこまで崩れていたとは思えない。タックルも低く鋭く入ることで味方のスティールをアシストしており、全体的な接点も大負けしていたわけではない。

 一方でいくつか気になる点があった。

 まず相手のアタッカーに対するノミネートだ。例えば、ポッドの対面に入った選手のノミネートがブレることがあった。一人の選手に対して過剰にコミットしてしまい、外側の選手がカバーに入らざるをえず、結果としてさらに外方向に数的優位を取られてしまうシーンがあった。

 また、ディフェンス全体の視線は内方向に向いている。相手の動きを見るためには必要な動作ではあるが、そのことによってフラットに走り込んでくる相手を視野に収めることができておらず、かつ内を向き過ぎていることによって位置関係もラックに近い。外方向に不利な状況が生まれることとなった。

 次に、エッジに近い位置でのディフェンスだ。ブレイブルーパスのディフェンスは、外側の選手がややかぶるような動きを見せている。パスコースを切り、かつ相手を内側に押し込むようなディフェンスだ。

 しかし、神戸はこのディフェンスに対してある程度うまく対応していた。アタックラインを深く設定し、ディフェンスの頭を越すようなパスを通すことで、スペースを狙っていた。ディフェンス側としては、ある程度詰めることを前提としている分、外側のスペースが生まれやすい。クロスパントなどでうまく崩されてしまった。

◆コベルコ神戸スティーラーズのラグビー様相。


〈アタック様相〉
 基本的に、アタックのテンポを良い状態でキープしながら攻めることができていたように映った。
 SHの表と裏、上村樹輝と日和佐篤はどちらも球捌きのいい選手だ。ラックのサポートに入った選手が高い精度で相手を越え切ることができていたので、ボールの周りにしっかりと空間がある状態でキープをすることができていた。その結果SHのボール出しが容易になり、いいテンポを継続することができていた。

 パスワークに関しても悪くない動きを見せていた。シャドーと呼ばれる、ボールを持っている選手の内側、影になるような位置に選手を配置し、そのオプションを相手に見せる。そのことによって相手ディフェンスの足をとめ、外方向への展開をスムーズにしていた。

 ブレイブルーパスと同じように、ポッドを使う時は少しボールを下げる傾向にあるが、キャリーを狙うようなシチュエーションでフラットにボールを動かし始めるため、結果的にはあまりアタックラインを下げられることなく攻めることができていた。

 また、セットピースからのクロスパントで松永貫汰のトライが2回生まれた。アタックの効率性を示すいい例となった。チームとして奪った5つのトライのうち、多くがセットピースから最初のフェイズでトライにつながっている。しかも、必ずしもゴールに近い位置だけではなく、中盤からのトライも含まれていた。

 効率よくトライを取ることができるメリットとしては、ミスが起きる可能性をある程度下げることができる点だ。もちろん一発で取り切ろうと複雑な動きをすることでミスが起きることもあるが、基本的にはフェイズを重ねるごとにミスが起きる確率は高くなる。どんなチームであれ、永遠にミスなくアタックをすることはできない。

キックパスを受けて2トライを挙げたスティーラーズのWTB松永貫汰。(撮影/松本かおり)


〈攻撃面での課題〉
 おそらく課題も多く見られたことと思うが、個人的には3つのポイントをピックアップしたい。

 まずは敵陣深いエリアでのペナルティだ。基本的に、敵陣へ攻め込んでいる時のペナルティは痛い。本来であれば、その地域までボールを持ち込んだことによる心理的な勢いを活用していきたいところだが、ペナルティが起きると勢いが止まってしまうことにもつながる。ハンドリングエラーでチャンスが切れるシーンはあまり多くなかっただけに、要所でのペナルティは防いでいきたかった。

 2点目は終盤にかけての中途半端なキックだ。基本方針としてはキックの蹴り合いでエリアをコントロールしているように見えるが、キックの蹴り合い、いわゆるキックテニスが起きている状態で、時折中途半端な距離感のキックが見られた。競り合うには長すぎ、エリアを取るには短すぎる、そんなキックによって相手の自由なキックリターンを許していた。

 最後にセットプレー、特にラインアウトでのミスが痛かった。必ずしもゴール前に限った話ではないが、何度かノットストレートでターンオーバーを引き起こすシーンが見られた。前述のようにラインアウトはアタックをしていく上で重要な起点だ。精度を上げていきたい。

〈ディフェンス様相〉
 基本的なディフェンスの堅さは担保されていたように見える。しっかり体を当てることで相手の前進を止め、それでいて中程度のペースで前に出る。相手のアタックラインを悪くない位置で止めることができていた。

 特にいい動きだったのが、相手の10シェイプや、プレイメーカー周りのアタックオプションへのプレッシャーだ。相手の階層構造に対して表のブロッカーを潜るように、裏のアタックラインへプレッシャーをかけた。その結果として外方向に数的不利な状態が生まれるが、相手のパスオプションを切るようにプレッシャーをかけているので、相手は内方向に切り込む。さらにディフェンスが厚い位置に追い込めていた。

 中盤以降は、妙な詰め方をするケースがあった。チームとしての約束事として動いているようには見えないので、おそらく個人の判断レベルでの詰め方だったのだろう。ブレイブルーパスはハンドリングスキルに長けたチームなので、その詰めに対してパスワークで外し、外方向の数的優位をうまく活用していた。

◆マッチスタッツを確認する。




 それではまずマッチスタッツを見ていこう。

 ポゼッションとテリトリーはブレイブルーパスが圧倒しているといっていい。差が10パーセントを超えるとかなり大きな差となる。特に最後の10分間に関しては、ブレイブルーパスが79パーセントを支配していた。ただ、そのポゼッションを生かし切ることができなかった。

 敵陣22メートル内への侵入回数に対するトライ効率でいうと、こちらもブレイブルーパスが大きく上回っていた。侵入回数7回に対して5回のトライと、変換効率は71.4パーセントだ。平均値が40パーセントと考えると、大きく上振れしている。ブレイブルーパスとしてはもう少し侵入の試行回数を増やしていきたかった。

 キャリーやパスといったベーシックなスタッツを見ていこう。
 ブレイブルーパスはパスの比率が高い。パス数をキャリー数で割った時の平均値は1.4だが、それと比べると16パーセントほどパス比率が多い。スティーラーズもそれに似た数値をとっているが、こちらは8パーセントほど。ブレイブルーパスがかなりパスを多く用いていたことがわかる。

 キック回数に関してはブレイブルーパスがチーム平均程度、スティーラーズがチーム平均からの上振れという結果になった。確かにスティーラーズはこの試合で多くのキックを用いていた。キックテニスだけではなく小さく転がすようなキックや、ハイボールもうまく活用していた。

 ブレイブルーパスにとって致命傷となったのは、ターンオーバーロストの回数かもしれない。リーグ平均の回数よりも8回ほど多い結果だ。スティーラーズは平均値よりも4回少ない。簡単なミスが多かったわけではなかったと思うが、ターンオーバーロストが多いと、勝ち筋は掴みづらい。

◆プレイングネットワークを考察する。




 まずはブレイブルーパスから見ていきたい。

 まずは10シェイプからだ。リーグワンの中でも突出したレベルで10シェイプが多い。必ずしもモウンガが関与しているわけではないが、13番のマイケル・コリンズや15番の松永拓朗など、キーになる選手が好んで10シェイプを使っていた。その結果として9シェイプが相対的に少ない数値となっている。

 BKへの展開はある程度動きが絞られているように見える。10シェイプを好んで用いるため、モウンガ以外の選手による展開はそこまで多くない。むしろ、10シェイプ周りにプレッシャーをかける相手のディフェンススタイルにより、望まないキャリーに持ち込まれていたとも言える。

 また、少し気になる点としてはボックスキックが見られなかった点だろうか。近年のリーグワンでもボックスキックの多さはかなり目立つ。そんな中、ボックスキックではなく展開志向のラグビーに特化しているのは珍しいかもしれない。




 スティーラーズのデータも見ていきたい。

 目立つのが、ネットワークの単純性だ。各選手のロールがかなり絞られ、複数のタスクをこなしている選手が少ない。また、ポゼッションが少なく、キック回数が多いことにより、そもそもBKの選手に渡っているボールの回数が少ない。もっと展開するアタックオプションもあるのか不明だが、攻撃力をすべて活かし切れたとは言えないかもしれない。

 ポゼッションとキャリー数の減少により、9シェイプや10シェイプのオプションも減少している。しかし、アタックの効果としては、大きな意味を持つオプションだったように思う。ポッドで前に出られることでSHの球捌きのよさ、10番の李承信の展開力にもつながっていた。

◆まとめ。


 ブレイブルーパスは10番起点のアタックをベースにしながら、細かいパスオプションで前進を図るようなスタイルを見せていた。
 しかし、ディフェンス面では前半にあまりにも失点し過ぎた。20点差を逆転すること自体はそう珍しくないスコアフローではあるが、必ずしも勝利につながるわけではない。まずは自分たちのスコアで盤面を動かしていきたいところだ。

 スティーラーズは序盤、100点に近いアタックを見せた。中盤から終盤にかけてのアタックの水準も、相手に圧力をかけるに十分だった。
 しかし課題となるのは、間違いなく規律・ディシプリンだろう。13人、14人の(数的不利の)状態での失点は最低限に収めることができていたが、必ずしも同じことができるとは限らない。リーダー陣を中心に、修正を図りたい。


【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。






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