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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/埼玉パナソニックワイルドナイツ×トヨタヴェルブリッツ】苦戦した勝者、道筋が見えた敗者。
プレッシャーを受けながらも前に出るワイルドナイツCTB谷山隼大。(撮影/松本かおり)

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/埼玉パナソニックワイルドナイツ×トヨタヴェルブリッツ】苦戦した勝者、道筋が見えた敗者。

今本貴士

 両チームが良いプレーを見せ、それでいて改善点も多く見えた試合だったように感じた。
 ワイルドナイツは全勝で第8節を迎え、ヴェルブリッツは開幕節の1勝のみだった。ただ、その勝率の差を感じさせないような試合だったように思う。
 2月14日におこなわれた両チームの対戦は、26-20でワイルドナイツが勝利を手にした。

◆埼玉パナソニックワイルドナイツのラグビー様相。


〈アタックの基本構造〉
 ワイルドナイツのアタックは、そこまで特別なフローを持っているわけではない。9シェイプを適宜当てて、相手のディフェンスラインが崩れたと感じたら展開する。シンプルなフローだ。

 その中で特徴的な動きもあった。12番がポッドの近くの隠れるような位置に入り、回り込むようにポッドの裏でボールを受け、展開を図る動きだ。今回の試合では直接的な利益は少なかったが、これまでの試合でも多くのシーンで見られている。

 ワイルドナイツは凝った構造的なアタックをするわけではない。私が階層構造と呼んでいる表と裏、フロントラインとバックラインを使ったアタックは、あまり複雑なものではなかった。一つの構造を作ってあとは個々のスキルやランニングコースで相手のウィークポイントに対して仕掛ける動きを見せる。その精度は一定の効果が期待できた。

〈キック戦略の様相〉
 キック戦略の割合は少なかったものの、相手のディフェンスラインの裏に小さく転がすキックは効果があった。特に最初のヴィンス・アソのトライにつながった山沢拓也のキックの精度は高かった。その前のポゼッションでも裏を狙うキックを見せており、ここではゴール前という裏のカバーが減るシーンにおいて、エンドラインを切らないちょうどいい距離感のキックを蹴ってトライを演出した。

 キックのコントロールで効果的な働きを見せていたのは、15番の野口竜司だ。特に脱出のキックに関する精度が非常に高く、自陣深くからハーフラインを超えるようなキックを蹴り、相手のテリトリー配分にプレッシャーをかけていた。また、10番の山沢拓や14番の竹山晃暉らキックのスペシャリストが裏に配置されていたことも、キック戦略の厚みに貢献していた。

走るワイルドナイツの3番、リサラ・フィナウとサポートする1番の稲垣啓太。(撮影/松本かおり)


〈攻撃の課題〉
 まず、ブレイクダウンの不安定さが見られた。接点自体で押し込まれたシーンはあまり多くないが、ラックへのサポートに入った選手がうまくコミットできず、ブレイクダウンに仕掛けてくるヴェルブリッツの選手に越え切られ、ラックでターンオーバーされたり、ペナルティにつながっていた。敵陣でのアタックの重要なシーンや、自陣での安定させたいフェイズでも同様の現象が見られ、アタックの不安定さにつながった。

 また、接点周りのプレーの軽さも目立つ。もちろん相手の強烈なプレッシャーによる影響もあるのだが、相手にコンタクトしながらのオフロードやギリギリのパスが乱れ、チャンスを掴む寸前でのミスが目立った。

 ラインアウトにも少し修正を加えていきたい。厳しく取られた可能性もあるが、要所でのノットストレートが痛い。トライにつながりやすいアタックの起点だ。安定した確保に向けて調整が必要だろう。

〈守備面でのチェックポイント〉
 守備面では、ラックに比較的近い位置での相手のアタックに苦戦した。相手のFWによる集団戦、ポッドを使ったアタックやダイレクトにボールを持ち出すピックゴーにより、ディフェンスラインを下げられてしまった。後退しながらのディフェンスとなり、同じ選択肢でさらにラインを下げられる悪循環が起きていた。

 この一連のディフェンスシーンでは、ポッドに対して、内側の選手の押し上げが甘いシーンも見られた。ヴェルブリッツはポッドを使ったアタックの中で、内側の味方選手に返すパスを多用する。ワイルドナイツのディフェンスがこの内返しのパスに対してプレッシャーをかけ切ることができず、かなり前に出られていた。

 また、ポジショニング以外にもそもそものタックルミスの影響があった。成功率にも一定量関わってくるところだが、相手選手を最後まで掴むことができず、相手のボディコントロールで振り切られたり、接点で弾かれることによって前進を止めきれぬシーンが散見された。
 終盤にかけて修正も見られたが、一貫性を保っていきたい。

◆トヨタヴェルブリッツのラグビー様相。


〈キーとなったキック戦略〉
 ヴェルブリッツは、おそらくリーグでも屈指のボックスキックを多用するチームだ。ラックからSHがボールを蹴り上げることを指すボックスキックの頻度が非常に多く、自陣からだけではなく、中盤でも選択肢として残していた。かなり高い意識を持っていると推測できる。
 14番の高橋汰地のハイボールの競り合いが非常にレベルが高いため、再獲得を計算に入れながらキックをコントロールすることができていた。

 また、10番の松田力也からのキックオプションも多かった。前半は風上に立っていたこともあってキックで距離をとりながら相手が蹴り出すことを誘導することができており、悪くないキックゲームに持ち込めていた。

一方で、相手のキックに対する蹴り返しの部分では、中途半端なキックも目立つ。エリアを取るには短く、競り合うには遠すぎる距離感のキックが何度か見られた。そういったシーンでは相手に安定したボール確保を許し、結果、試合をコントロールされた。いい出口にはつながっていなかった。

〈アタックの基本構造とセットピース〉
 この試合でのヴェルブリッツは、とにかく多くの9シェイプ、ラックからFWがボールを受けるタイプのキャリーが目立った。後半にSOが小村真也に変わってからはプレイメーカーを介するアタックも増えたが、ベースになるのは9シェイプと推測できる。

 9シェイプではポッドの中でパスを動かす戦術が効果的に働いており、接点をずらしながら前に出ることに成功していた。中でも4番のヒンガノ・ロロヘアや6番の青木恵斗は接点に強く、相手を弾いて大きく前に出ることができていた。

 しかし、キーになるシーンではパスミスやキャッチミスも目立った。ポッド内のパスの特性上、相手にかなり接近しながらパスを出す必要があり、相手のプレッシャーを受けてのミスも見られた。

 ゴール前では基本的に同じアタック方向、順目に連続して9シェイプやピックゴーを使っていくことが多い。ラックに近い位置であればパスで深さを出す必要がないため、相手ディフェンスと相撲のような立ち合いに持ち込むことができる。その土俵であればヴェルブリッツの選手の良さが際立つため、ゲインラインを上げながらアタックを続けることができていた。

後半6分、ラックからサイドを走り、FL青木恵斗にパスをつなぐヴェルブリッツのSHアーロン・スミス。(撮影/松本かおり)


 そうやって相手ディフェンスの足を止めることでラックを徐々に動かし、相手ディフェンスが前に出られなくなったところでSHのアーロン・スミスが持ち出すのが必殺の型だ。それに対する周囲の反応もよく、受け身の1対1となった攻防の中でオフロードを繋ぎ、後半最初の奥井章仁のトライにつなげた。

 セットピースでは、ラインアウトモールはある程度有効活用することができていたように思う。前進効率もよく、相手をモールに巻き込むことができた。
 また、その周辺で突破力のある11番のマーク・テレアや2番の彦坂圭克、判断のいいSHのスミスなどを活かすこともできていた。

〈守備の特徴と課題〉
 守備は全体的に悪くなかった。接点の激しさがあり、相手のアタックラインに対してしっかりディフェンス側から仕掛けることができていた。ブレイクダウンに対するプレッシャーも激しく、ターンオーバーやペナルティを誘発していた。

 一方で、ラック際のディフェンスが少し不安定だった。おそらく、チームとしての意識の中での優先順位として、ラックへのプレッシャーをかけることへの順位が高い。その結果として、ターンオーバーやスティールなどを狙えていたのも事実だ。

 しかしその意識の結果、ラックの周辺に人数が集まってしまった。プレッシャーをかける選手と、かけようとする選手で役割が被ってしまい、姿勢が崩れてディフェンスに参加できない状態となり、ラックに近い選手のポジショニングが乱れていた。

 その結果、ラック近くのディフェンスが薄くなり、少し外側にポジショニングしていた選手が内方向へカバーせざるを得ないシーンがあった。接点で前に出られてオフロードを許したり、外の選手がラックに巻き込まれることによって外のディフェンスが薄くなる出口につながっていた。

◆マッチスタッツを考察する。




 それではまず、マッチスタッツを見ていきたい。

 ポゼッションとテリトリーはほぼ同水準だ。戦略的には少し様相が違う面もあったが、キックの数は近い回数を取り、ペナルティの数もほぼ同数と、ポゼッションとテリトリーのコントロールは互角と言える。

 敵陣22メートル内への侵入回数は、ワイルドナイツが11回、ヴェルブリッツが8回となる。前者はその中で4つのトライ、後者は2つのトライを奪っている。リーグ平均のトライ獲得率は40パーセントほどなので、ワイルドナイツが平均程度、ヴェルブリッツが下振れといった数値となった。ヴェルブリッツはターンオーバーロストこそ少なかったものの、キーになるシーンでのミスやペナルティが痛かった。

 キャリーとパスの比率は、どちらもリーグワンの平均値より7〜8パーセントほど少ない値を取っている。つまり、どちらのチームも「リーグの平均よりパスが少ない=パス回数が減る9シェイプを多く用いている」と予測できる。

 ターンオーバーに関して、欄外ではあるがターンオーバー獲得数でヴェルブリッツがワイルドナイツの倍の数値を見せている(8回対4回)。ヴェルブリッツの方がターンオーバーロストの回数が少ないとあれば、本来ならチャンスにできる回数も相手より多かったはずだ。
 しかしながら得点を重ねることができなかった。それが敗因の一つとなった可能性が高い。

◆プレイングネットワークを考察する。




 次に、ワイルドナイツのネットワーク図を見ていこう。

 突出した数値はなく、どの数値もバランスよく並んでいるような印象だ。あえて言及すれば9シェイプの回数が少し多い比率を占めているとも言える。接点を中心としたバトルに持ち込もうとしていた可能性は高い。

 BKの選手への投げ分けも、特徴的な数値ではない。最近の各チームの傾向として、5人以上の選手へ投げ分けることが多い。4人以下のチームの方が少ないほどだ。
 ただ、過去に取ったデータではワイルドナイツはBKの選手全員への投げ分けもしている。このデータをさらに積み重ねていくと、チーム傾向が固まっていくかもしれない。



 ヴェルブリッツのネットワークからは、3点ピックアップしたい。

 まず、ボックスキックが多いことだ。個人で測定している限りでは、チームで10回を超えるボックスキックを蹴るのはそう多くない(各節1チームあるかどうか)。そのため、14回という特徴的な数値をとっているヴェルブリッツは、明らかにボックスキックを戦略の主軸にしているとわかる。

 次に9シェイプの多さだ。58回が9シェイプに渡っているというのは、ポゼッションで大きく上回っていない場合、非常に珍しい値となる(厳密な計測はしていないが、30〜40回あたりが平均値になりそうだ)。そのため、こちらも戦略的に9シェイプを多く用いていると考えられ、選手たちのスキルセットも合わさって効果的なアタックにつながっていた。

 最後にBKのアタックオプションの単純化だ。ご覧の通り、多くの選手がラックから直接ボールを受けた時はキャリーオプションを選ぶことが多く、パスで展開するというシーンは多くない。これは、前述した9シェイプでの接近戦を狙ったのと同様に、BKからも肉弾戦を仕掛けたということにもつながる。むしろ展開するようなアタックをするときはアタックラインを前に出せないことが多く、プレッシャーを受けていた。

◆まとめ。


 ワイルドナイツは前節までと変わらず、接点ベースで苦戦をしていたように思う。
 ワイルドなナイツの持ち味は堅いディフェンスであり、今回の試合でも相手を2トライに抑えることには成功している。一方で、ディフェンス全体の精度は、おそらくさほど高くはないのではないか。

 攻撃面ではワイルドナイツ対策の進んだ各チームのディフェンスに対して攻撃力を極端に落とすことなくアタックをすることができているので、今後はディフェンスの精度向上に注力していきたいところだ。

 ヴェルブリッツは、今回の試合では勝ってもおかしくない流れに持ち込むことができていた。展開をベースにしておらず、接点ベースで前方向のベクトルを強くしたアタックとチームカラー、タレントが噛み合っており、トップチーム相手にも一定量の効果を示した。
 ただ、スコア的には競り合っていたが、トライ数の差で逃げ切られた。ディフェンスの調整を進めたい。


【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。






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