伝統の一戦である早明戦。それが大学選手権の決勝でおこなわれるのは6年ぶりだった。
非常に重要なこの一戦は、安定したセットピースを起点に盤面を支配した明大に対し、早大が、優れた個の力とハイボール戦略で活路を見出そうとする試合展開となった。
今年度の大学シーズン最後の80分間を、分析的に振り返っていきたい。
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〈徹底したエリアコントロール〉
明大は、自陣での無用なリスクを避け、キックを主体とした「エリアをコントロールするラグビー」を徹底していた。後述するようにこの試合は一般的な試合展開と比べてもキック回数が多く、回数的にはポゼッションが増えていた。単にエリアを稼ぐだけではなく、キックを使って相手にプレッシャーを与え続けていた。
エリアの取り合いという観点では、明大は非常にいい動きを見せていた。キックを蹴り合うシーンでは10番の伊藤龍之介や15番の古賀龍人がグラウンドの裏に立っていることが多かった。両者はキックでしっかりと距離を取ることができる選手で、日本でもトップレベルの飛距離を見せる早大の服部亮太との蹴り合いでも押し負けることなく、自陣からのキックを高水準で敵陣の中ほどまで蹴り込むことができていた。
単にキックの飛距離という観点のみではなく、相手を背走させることも多かった。
いくら距離が伸びようと、相手が後ろに移動することなくキックを蹴ることができる、または走ることができる状況なら、明大としてはプレッシャーをかけきれない。しかし、キックの飛距離によってレシーブ側が後方に移動せざるを得ない状況を作るなら、相手は前に出る動きを取るのが遅れる。明大は早大にその動きをさせることで、蹴り返すにしても、なかなか距離を出し切れない状況を生んでいた。
また、キック主体の戦略をとったことで明大は、中盤で(シーンによってはゴール前でも)アタックのテンポを無理に上げる必要がなかった。ハーフラインに近いエリアから大きく前に出ることを目指そうとすると、基本的にはアタックのテンポを上げ、空いているスペースを素早く突く必要が出てくる。
しかし、中盤から蹴り込むボックスキックのオプションを多く用いることで、敵陣深いエリアでカオスな状況を作り出すことができる。中盤でのゲインにこだわらないことで一貫性が生まれ、迷ったり混乱することなく中盤での戦略を全うすることができていた。

〈安定したセットピースと接点〉
スコアへの直結度合いという点では次点に回ることになるが、セットピースを高い精度で獲得、さらにラインアウトモールの戦略が良い方向に働いたことで、前進効率の高さに影響していた。モールで一度優位性を確保できれば、パスによるハンドリングエラーをなくした状態で前に出ることができる(モール内でのノックフォワードはあるが)。
ラインアウトもスクラムも基本的には安定しており、セットピースがポゼッションの起点として計算しやすくなっていた。ポゼッションの起点になるセットピースがミスやペナルティで相手にボールを渡すことになると、本来であればチャンスにもなりうるポゼッションを失うことにも繋がりかねない。
ゴール前に行った後、またそれに近いエリアで明大は、ピックゴーを中心にアタックを続けていた。そのピックゴーを使ったキャリーはサポートの質も伴って、安定感があると同時にじわりと前に出る効果を示していた。
それ自体がトライにつながることはなかったが、ピックゴーによって相手を寄せて外展開をしたり、相手を揺さぶることができていた。
〈ポッドを起点としたアタックと展開力〉
明大は3人組のポッドを基本としながら、様々な人数のポッドを組み合わせることで相手ディフェンスの動きを制限していた。ラックから近い位置で強力なポッドを構成し、そこから生じるディフェンスの足を止める効果を最大限に活用していた。
明大の最初のトライを振り返ろう。エッジへ展開したフェイズの次に明大は、ラックからパスを受ける位置、9シェイプに多くのFWの選手を配置していた。私はこれを「マスポッド」と呼んでいる。この多くのFWの選手によって相手ディフェンスの多くが足を止め、移動が制限されることになった。
このポッドから下げるパスを受けた伊藤龍は横へ開くように動きながら相手ディフェンスを外し、主将である12番の平翔太へパスを送った。平はそのまま縦方向にキャリーしながらオフロードパスを送り、サポートについた田代大介のトライが生まれた。
平の強みは、この「縦に強さを発揮できる」という点だ。12番というポジションは接点での強さが求められる。例えば平がこのシーンで相手ディフェンスから逃げるようにキャリーをしていたら、もしかするとトライが生まれていなかったかもしれない。しっかりと縦に走ることができたからこそ、スペースを有効活用することができた。
展開力という点では、後半に生まれた大川虎拓郎のトライまでの一連の流れも美しかった。平が縦に走り込んで東海隼へオフロードパスを繋ぎ、ビッグゲインからキャリーした柴田竜成からポップパスが味方に渡った。その後の展開で大川のトライが生まれた。
相手ディフェンスがFWになってミスマッチが生まれているエリアに対して平が走り込み、東がいいサポートコースでビッグゲインを作り出した。パスを受けてキャリーした柴田がポップパスをすることでラックからのタイムロスを最低限にとどめ、伊藤龍が大きく展開。一連の流れは、100点と言える精度だった。
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それでは明大のスタッツを見ていこう。
ポゼッションは53回と、非常に多かった。早大と合わせると96回のポゼッションとなり、80分間の平均値で言うと、少しポゼッションが多めだった。キック回数が多かったことも影響しているだろう。
53回のポゼッションのうち、敵陣22メートル内に入ることができたのは7回と、一般的な水準と比べるとかなり少ない。両チームがキック主体の戦略で試合を進め、それでいて中盤のディフェンスが堅く、ラインブレイクが少なかったことも影響していそうだ。
ベーシックスタッツを見ると、比率的にはキャリーが多いという結果になっている。そこまで極端ではないが、ゴール前でピックゴーといった「パスを介さないキャリー」が多かったことが理由として考えられる。
スタッツの中ではキックの回数が極めて多い。キックが多くなるリーグワンであっても30回を超えることは非常に稀で、そう考えると41回というキック回数がどれほど多いか分かるだろう。間違いなくキック主体の戦略によるもので、お互いの蹴り合いが多く発生することで、キックの回数が増えていた。
ネガティブなアウトカムでは、ターンオーバーが12回、反則がペナルティとフリーキックを合わせて10回という結果だった。そこまで極端に悪い数値ではないが、よりいい試合を作り上げるためにはもう少し減らしていきたいところだ。
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〈司令塔主体のアタックの停滞〉
早大のアタックの舵を取るのは、10番の服部亮太と15番の矢崎由高だ。日本全体を見てもトップ水準のキック力と走力を持つ服部と、日本代表のキャップホルダーであり、優れたランニングスキルを持つ矢崎のコンビネーションは、どのチームに対しても極めて効果的な働きを見せてきた。
しかし、チームの柱となる選手の影響力が強いほど、その選手が狙って圧力をかけられた時などに弱さが露呈することになる。明大は、両者に対してもプレッシャーをかけることを徹底していたが、それと同様に「10番/15番からのアタックオプションにプレッシャーをかける」ということにこだわっていた。
パスオプションに対してプレッシャーを受けると、服部も矢崎も自分で場面を打開する必要が出てくる。両者ともにスキルは非常に高いため、ある程度は打開することができていたが、サポートの選手と連係のズレが生まれたり、服部や矢崎が孤立したり、プレッシャーを受ける場面が散見された。
また特徴的だったのは、ハイパント主体のキックゲームと、それを再獲得した後の動きだ。早大は自陣の浅い位置(ハーフライン付近)から敵陣の中盤(敵陣22メートルの少し手前)くらいまでの地域でアタックを継続してうまく崩せないと、服部からハイパントキックを蹴り込むことを徹底していた。
このハイパントに対して、早大の選手はいい働きを見せた。キャッチして前進したり、相手にプレッシャーをかけることでハンドリングエラーを誘ったり、ポゼッションの再獲得をすることができていた。数値的には蹴り込んだハイパントキックの55パーセントで再獲得、またはスクラムの獲得としていた。
しかし課題となったのは、ハイパントを獲得した「次のフェイズ」だ。このチャンスに対し、服部がうまく参加することができていなかった。ハイパントの再獲得ができた状況で、相手ディフェンスはそのキャッチが起きた場所に少なからず集まることになる。大きく展開も狙える。チャンスになる場面だ。
しかし、こういった場面で服部の到着は遅れた。SHの糸瀬真周は服部を探すことをビッグゲイン後の最初のタスクにしており、服部を探しながら次のプレー判断をすることになる。このタイムロスによってプレッシャーを受けたり、服部がいる遠い、後方への大きなパスにより、明大のディフェンスが整うことになった。

〈アンストラクチャー局面でのディフェンス〉
早大のディフェンスは、キックオフリターンやターンオーバー後など、陣形が整わない瞬間のディフェンスに脆さがあった。セットの遅れ、ミスマッチ、個人の判断ミスなどで、明大に容易なビッグゲインを許すことがあった。
明大の3つのトライのうち、2本目、3本目のトライは、その顕著な例だったように思う。前者は少し特殊なパターンではあったが、パスミスが起きることで擬似的なアンストラクチャーが発生した。選手の思考が一瞬止まり、「誰が誰を抑えるか」という点が不明瞭となり、優れた走力を持つ伊藤龍にラインブレイクされた。
後者はラインアウトでミスが生まれ、ターンオーバーというアンストラクチャーな状況が生まれたことによって生まれたトライだった。
最初のフェイズ自体は明大がラックを作ることになったが、その次のフェイズにおいて、セットピースからのターンオーバーが理由でFWの選手とBKの選手がディフェンスラインで混ざっており、明大の平にミスマッチのスペースを突かれ、大きなゲインを許した。
〈スコアのプレッシャーによる戦略の転換〉
早大は、スコアを取りたい場面で取り切れないシーンが目立った。特に影響が顕著だったのが前半26分のペナルティゴールを狙ったシーンではないだろうか。
前半26分、比較的中央に近い位置で獲得できたペナルティで、早大はペナルティゴールを狙う。しかし、そのキックは外れ、7-3というスコアを動かすことができなかった。
そのPGが入っていれば7-6となり、戦略的にも、心理的にも大きな意味を持った。
また、後半にもトライを奪われて19点のビハインドになったことも大きかっただろう。残り時間は20分残っていたが、19点差は基本的には3トライ以上、かつゴールキックを高い精度で成功させないと上回ることができない得点差。その点差に陥ったことにより、本来早大が狙っていたハイパントを中心としたキック中心の戦略を転換せざるを得なかった。
19点差は大きく、心理的にもプレッシャーを受けていたことが見て取れる。無理な姿勢でのオフロードパスといったリスクの高いプレー選択が増え、結果的にその動きの中でハンドリングエラーが増えた。思ったようにアタックを継続することができていなかった。
全体的に個々の判断とスキルに依存したアタックになる傾向も強くなり、アタックの狙いや方向性が、選手間でばらついているようにも見えた。
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早大についてもスタッツを確認していきたい。
ポゼッションは明大の回数に比べて少ない43回だった。キック主体の蹴り合いになったとはいえ相手との10回の差により、チャンスを作る可能性がある攻撃回数自体が減ってしまったかもしれない。
敵陣22メートル内に入る回数自体も4回と極めて少ない結果となった。その中でトライを一つとっていることを考えると、効率はいいが、勝てないという結果となった。
22メートル内への進入回数自体を増やせればトライを増やすことができた計算になるが、キック主体での戦略だけでなく、相手に圧力をかけてペナルティを奪うような、能動的にポゼッションを奪い取ることも必要だったかもしれない。
ベーシックスタッツを見てみると、パスに比重を置いたアタックをしていることが分かる。ただ、欄外の情報ではあるが、この比率は必ずしも試合の中で一貫していたわけではない。後半にかけて、より一層パスを繋ぐシーンが増えていた。つまり「パスを使って崩しにかからなければいけなくなった」ということを指している可能性がある。
ネガティブな結果では、間違いなく18回のターンオーバーが目立っている。集計上ラインアウトロストもこちらに含めているが、それにしても多い数値だ。特に後半は13回のターンオーバーが起きており、攻めなければいけないシーンで攻め切れなかったことを示している。
それに合わせて、セットピースの不安定さも見ていきたい。セットピースはアタックの起点となる重要な土台となる部分だ。最低でも80パーセントをキープしていきたい部分であり、ここでプレッシャーを受けることで、ポゼッションの差異が生まれただろうか。
◆まとめ。
あえて対比させるとしたら、明大が戦略を全うして構造的に優位性を生かして戦い抜いたことに対し、早大は優れた個の存在が相手に抑え込まれ、戦略が後手に回ったと言える。
明大は、おそらく戦略を全うした。エリア戦略、崩しと、多くの場面で効果的なラグビーをすることができた。今シーズンは関東大学リーグ戦初戦で筑波大に敗れていた。しかし、そこから巻き返して素晴らしいチームを作り上げた。
この試合で、今年度の大学シーズンは終わった。どの試合も面白く、予想ができないシーズンだった。4年生はこれで卒業していくことになるが、先日終了した花園に出ていたような高校生たちも来季は参加することになる。さらなる熱戦を期待したい。
※当初、『早大は今年度の秋以降のシーズン、4点差以上ついた状況から巻き返して勝利した試合というものが存在しない。巻き返して勝利を収めた試合は最大でも途中経過で3点差以内のものだった。「点差が開いた後の巻き返しに慣れていなかった」と言えるかもしれない』としていましたが、大学選手権準決勝の帝京大戦の前半に7-14とリードされた時間帯がありました。上記部分を削除しました。お詫びして訂正いたします。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
