昨シーズンは、秋以降の公式戦で1勝1敗だった両者。関東大学対抗戦では早大が勝ち、全国大学選手権の決勝では帝京大が笑った。
11月2日、早大4勝、帝京大3勝1敗で迎えた今シーズンも、昨シーズン同様、強烈な試合を見ることとなった。
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〈アタックの基本構造〉
早大は、9番の糸瀬真周、10番の服部亮太の両者に対し、オプションを準備するようなアタックを見せていた。パスオプションとして複数の選手を走り込ませることにより、両者のパスの距離を活かしたアタックをするイメージだ。
9シェイプと10シェイプに多くのFWを割くような形で、ベースとなるのは1-4-2-1のフォーメーションではないか。エッジ(15メートル付近から外側のエリア)にラックができた時は、基本的にアタックは折り返すことになるが、この折り返しのアタックの多くで4人のポッドが用いられていた。
4人のポッドは人数を割く分、多くのオプションがある。例えばラック側から2人目の選手にパスを出したり、3人目の選手に出してティップオン(ポッド内で細かく繋ぐパス)で端の選手をキャリーさせたり、接点の位置をずらしながらアタックすることができる。
ただ、ベースは1-4-2-1になるとはいえ、一般的な形でもある3人ポッドも使っていた。3人ポッドでもティップオンを活用したりしていたが、接点で優位に立つことができていないこともあり、あくまでもアタックの安定に寄与するような形での活用が多かった。
12番の野中健吾、13番の福島秀法はハーフバックス団をベースにしたアタックの中で、階層構造を作ることに寄与していた。野中はプレイメーカーほど積極的にボールを受けにいかないまでも、早い段階でボールを受けて、スイベルパスをオプションとしてパスワークで崩すことに意識を向けていた。
基本的には階層構造を使うアタックにチャンスを見ることができていた。階層構造では12番の野中を早い段階でのレシーバーとして配置し、10番の服部にできるだけ走るスペースを与えるような構造だ。服部はプレイメーカーでありながら優れたランナーで、階層構造で位置的な優位性を取ることができれば、高い確率で大きなゲインを生み出すことに成功していた。
〈特徴的なゲーム様相〉
早大は、10番のキックをベースにしたエリアマネジメントができていた。服部のキックはとにかく距離が出る。大学レベル、ひいては日本全体のすべてのカテゴリーを見ても、トップ水準でキックが伸びる選手だ。
キックが伸びるということは、それだけでエリアマネジメントを優位に進めることができる。自陣深くからの脱出でもハーフライン付近まで戻すことができたり、中盤で深めに蹴り込むことで相手の蹴り返しを誘導して奥に押し込むこともできる。
ハイパントも対空時間が長いものを蹴り込めていた。ロングキックでも分かるキック力を高さに変換し、本来であればチェイスが間に合わないような距離を、ちょうど間に合うように、ボールの滞空時間を長くすることができていた。
ただ、ハイパントとロングキックの使い分けについては、少しメリハリが甘かったようにも見えた。決して中途半端な距離で蹴ったわけではないが、帝京大側が効果的にリターンできるくらいの距離感りものもあり、相手のリターンにいい動きをされるシーンもあった。
また特徴としては、スクラムで優位に立つことができていたことも挙げていきたい。あらためて後述するが、マイボールでのスクラムは100パーセント、相手ボールでのスクラムに対しては71.4パーセントの成功率を残すことに成功していた。
スクラムのディテールは専門家に譲るが、スクラムで勝つことの意味は大きい。ハンドリングエラーなど、簡単なミスに対して与えられるゲームの再開方法ではあるが、そこでペナルティを取ることができると、お互いのエラーに対して数十メートルのゲインが確約される。容易に敵陣への侵入を可能にする。

〈全体的なマネジメント〉
今回は、細かい動きに併せて、全体的なマネジメントの部分についても触れていきたい。
まずは前半30分、敵陣右側の22メートルライン付近のスクラムでペナルティを獲得した早大は、そこで野中によるペナルティゴールを選択した。野中はキック成功率も高い。安定して3点を確保できることは大きい。
しかし、早大はPGでの得点後のリスタートのキックオフボールを確保することができずターンオーバーされる。そのまま帝京大にビッグゲインをされて、次のフェイズでのトライを許した。3点を確保した直後に5点を奪われ、そこまでの点差も合わせて6点のビハインドとなった。
あくまで結果論であることは承知の上だ。ただ、3点を確保することに対するリスクについて考えなければならない。
スコアを獲得した後の再開は必ず中央からの相手のリスタートになる。そこからどれくらい蹴り込まれるかにもよるが、多くの場合は自陣深くからの脱出になる。ターンオーバーなどから相手のポゼッションになることも十分に考えられる。
次に前半の最終盤、40分付近で早大ボールになったスクラムからの一連の流れだ。結果的にはインプレーとなったボールを獲得した帝京大がアタックを継続し、最終的にはペナルティを獲得してPGで3点を追加し、前半終了となった。
このシーン、厳密には時間が残っていたのかもしれない。ラストワンプレーではなかったのであれば、インプレーに残すキックを蹴ったことも納得だ。ただ、ここで蹴り出すことができれば違った展開になっていた可能性がある。
早大は、筑波大との試合でもインプレーに残すようなプレイングを見せていた。狙ってインプレーに残したのかもしれない。
ただ、インプレーに残すのはリスクも伴うプレイングだ。粘られればトライを奪われるリスクも、ペナルティを犯す危険性もあった。特に、この試合ではペナルティが重なっており、最終的にはリスクの高い選択となった。
時間帯のこともあり、リスクを考慮した判断が求められるシーンだった。
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それでは今回もアタックのスタッツをチェックしていきたい。
まずはベーシックスタッツからだ。64回のキャリーに対して126回のパスが生まれている。キャリーに対するパスの比率は1.97と、かなりパス優位のアタックをしている。階層構造だけではなく、大きく展開するようなシーンも多く見られており、パスを使った崩しを意識していたことは間違いない。
キックに対するキャリーの比率は2.78で、かなり蹴り込んでいることがわかる。素早くポゼッションを手放し、エリアコントロールを主としてゲームを動かしていた。
ポゼッションは全体で39回、比率で言うと34.5パーセントのポゼッション獲得となった。この数値の試合への影響は大きかったかもしれない。
ベーシックスタッツで見ると、キックの回数自体は帝京大と同程度も、39回のポゼッションに対して23回のキックによるポゼッションの展開があったなら、純粋にアタックに活用できたポゼッションは、そう多くはない。
一つのポゼッションの平均時間は17.4秒と、かなり短かった。帝京大の平均ポゼッションに比べて10秒以上短い。
1回のポゼッションの中では平均キャリー数が1.64回。ポジティブに捉えればボールを持つフェイズと、キックを蹴るフェイズにメリハリがあった。一方で、粘ったアタックができなかったという見方もできる。
ネガティブなアウトカムとしては、ターンオーバーが14回、反則が12回となっており、相手にポゼッションを奪われるシーンも多かった。ペナルティに関しては相手が自陣に侵入してくる要因にもなっており、できる限り減らしていきたい。
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〈アタックの基本構造〉
帝京大のアタックは、10番の本橋尭也と12番の大町佳生を軸とした構造的なものを見せていた。本橋が最初のレシーバーになって、柔軟なプレイングでゲームをコントロールしていた。
本橋の特徴はプレーに余裕があることだ。当然のことではあるが、余裕があれば、精度の高い判断を下すことができる可能性が高まる。
本橋のプレイングを見ると、あまり焦りを感じない。自ら急加速で走り込んだり、ランニングを見せる様子は見られない。相手との距離感を生かしながら、パス、キャリー、キックの選択肢を最後まで残すような動きだ。その余裕によって、展開も接近戦も、どちらもバランスよくこなすことができる。
大町は、12番としてのロールをこなしながらも展開に関わっていた。ラックやセットピースからのファーストレシーバーとなり、自身のキャリーで持ち込んだり、裏に立つ本橋に下げるようにパスをすることで、本橋に余裕を持たせていた。
ポッドの形としては、1-3-3-1をベースに中盤でバリエーションを作るような形だ。中盤に3-2-1の3段階のポッドを作ることで細かい階層構造を作り、細かいズレを作っていた。

一方で、ポッド自体を効果的に使うことはできていなかったように見えた。早大のディフェンスの質により、接点であまり前に出ることができていなかった。結果、リズムは全体的に少しゆったりとしたペースとなり、フェイズごとの動きで相手のギャップを狙い、崩そうとする様子が見られた。
また、帝京大の良さとして、エッジに強いランナーがいることが挙げられる。生田弦己、佐藤楓斗、吉田有佑、吉田琉生が並び、単なるランナーとしての走力に併せて体の強さも兼ね備えている。お陰でFWを必ずしもエッジに配置する必要がなくなり、FWの選手で中盤を厚くしたり、エッジにいるBKだけでアタックを安定して完結させることもできていた。
〈特徴的なゲーム様相〉
帝京大は、オフロードパスを効果的に用いていたように見えた。留学生であるフィシプナ・アントニオや、BKで言うと本橋など、オフロードを安定的に活用することができる選手が揃っている。
帝京大は相手の微妙なディフェンスのギャップを有効活用していた。早大のディフェンスは、極端に激しく前に出るようなディフェンスではなく、内側で生じた接点に対する近くの選手の連動が切れるシーンが散見された。そんな状況の中で、接点から繋ぐ帝京大のアタックに対してすれ違うようなシーンが起きていた。
ディフェンスも、いい安定感を見せていた。特にFW陣の接点、ブレイクダウンでの貢献は大きく、早大が本来望んでいたテンポの早いアタックを、ブレイクダウンで仕掛けることによって阻んでいた。結果として、早大のアタックは単発なものになる傾向があり、アタック全体の脅威度を下げた。
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それでは帝京大についても、データを確認していきたい。
まずはベーシックスタッツからだ。キャリーが134回、パスが211回、キックが25回となっている。キャリーは早稲田大学の倍近い数となっており、支配的に試合を進めていたことがわかる。
キャリーに対するパスの比率は1.57と一般的な水準に落ち着いている。9シェイプを多用し、パスの少ない中でのキャリーも比較的見られていた結果だ。
ポゼッションは44回と、早大と比べて少し多い数値だ。その中で敵陣22m内への侵入回数は13回と、3.4回のポゼッションにつき1回の侵入回数となる。
それに対し早大は7.8回のポゼッションごと。数値的には倍以上の効率で敵陣深くまで入ることができていたと言える。その侵入回数に対して3トライにとどまったことが、あえて言うなら反省材料として挙げられるだろうか。
ポゼッション率は65.5パーセントと、極めて支配的に試合を進めていたことがわかる。60パーセントあれば十分支配的と言えるが、それ以上の数値。ポゼッション数自体が圧倒的に多かったわけではないが、1回のポゼッションあたりの平均時間は29.2秒と、平均的な水準(W杯では24秒)に比べても長い時間動かしていた。
ラインブレイクの効率自体は12回のキャリーで1回程度のペースになっており、9回に1回のペースでブレイクを起こしていた早大に比べると控えめな指標にはなる。
しかし、早大にはペナルティが多かった。帝京大はその機会にキックを蹴り込み、敵陣深いエリアの侵入やトライ奪取を実現していた。
ターンオーバーは13回、ペナルティやフリーキックは合わせて6回と、早大に比べると相手にボールを渡すようなシーンも少なかった。
ただ、敵陣深い位置でターンオーバーをされたり、帝京大目線で見るとチャンスを逸したようなシーンも散見されており、丁寧にボールを動かしていきたい。
◆まとめ。
早大としては全勝をキープしたいところだったが、帝京大の試合運びによって敗戦を喫することになった。この試合は、勝った側の特定の戦術が効果的にハマったと言うより、試合運びが勝利に影響した面が大きかったように思う。
どちらのチームも特色のあるSOを擁し、攻撃的な試合運びをする両校。「試合は上手い方が勝つ」ということを実感した。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
