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【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/ 大東文化大×東海大】パス回数で上回った大東大。東海大はFWでドローに持ち込む。
1番の小田桐祭が前へ出る(写真)。前半、先にペースをつかんだのは大東大(前半33-14)。19点を先行した。(撮影/松本かおり)

【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/ 大東文化大×東海大】パス回数で上回った大東大。東海大はFWでドローに持ち込む。

今本貴士

 前節までの4試合を苦戦しながらも制してきた大東文化大学と、前節に東洋大学に敗れて連覇に黄色信号が灯りはじめた東海大学、両校の試合は戦前の予想を裏切らない熱戦となった。
 今回も激しい試合展開となった内容を、質的・量的に振り返っていきたい。



◆大東文化大学のラグビー。



 大東文化大学のラグビーは、留学生も多いことからパンチのあるアタックが特徴だ。前節までの4試合では、その激しさがディフェンスでも見られた。
 東海も同じようなスタイルのチーム。激しいコンタクトシーンが増えることは想像に難くなかった。

◆質的に大東文化大学のラグビーを見る。

 大東文化のラグビーを、まずはアタックの観点から見ていきたい。
 特徴的なのはFWの配置で、一般的には外側のエリアに1人ずつ、中央付近に3人のポッドという集団を2つ置く1-3-3-1といった配置や、外側2つが2人のポッドになる1-3-2-2あたりが一般的な形となる。

 しかし大東文化は、あえて言及するのであれば、1-4-2-1に近いような配置を好んでいたように見えた。
 言い換えると、中央エリアに6人を固め、間合いに応じて4人と2人に分ける=スプリットするといった形をとっているようだった。
 4人のポッドが必ずしもSHからダイレクトにボールを受けるわけではないようだった。しかし4人の集団でキャリーを図るため、中央エリアではラックに安定感が出ていた。

 また、ポッドと呼ばれる集団の中での細かいパスワークも光っていた。
 バックファイブ(LO・FL・NO8)の選手はパスワークも巧みで、東海のディフェンスラインの幅が少し開いているようなシーンでパスを刻むことで前進を図っていた。
 かなり近い距離でのパス交換であるため対応もそう難しくはないが、東海のライン幅の広さに対して大東文化の選手が良いアングルで走り込んでいた。そのため、比較的効果的な前進ができていたように思う。

 アタックラインは、「厚さよりも幅」という見方もできるかもしれない。
 複数箇所で階層構造を複雑に練り上げているような印象もなく、フロントラインが一線となり、バックラインも同じく一線になるような形に見えた。
 そのため、どこかで一度裏に立つ選手に下げるようなパス=スイベルパスを挟むと一気に前の選手の選択肢がなくなるような形になっていたのは一長一短か。

 また、アタック全体のイメージとしても、ある程度の安定感は担保されていたように見える。
 特に優れたランナーでもある両WTB、大方維織と神田永遠が獲得したビッグゲインのあとの動きに統一感があり、SHの足立祥英の素早いコントロールにチーム全体で反応することができていた。

 ディフェンス面は後半にかけて失速してしまった様相もあるが、比較的高水準のディフェンスを見ることができたと思う。
 激しく詰めるような動きこそないもののしっかりと前に出ていた。少しずれが生じても、一連の戻る動きの中で十分にカバーができていたように感じた。
 特に12番ハニテリ・ヴァイレアと13番、橋本颯太の両CTBによるディフェンスレンジは広く、激しさと精度、速さと低さを両立した出色のプレーを見せた。

 一方、やや決め打ちでディフェンスラインを敷くような動きも散見された。ボールとラックを注視しながら移動していたようなシーンもあったように見えた。
 また相手のアタックラインに対し、じわりと前へ詰めるディフェンスが多いため、後半になってフラット気味のアタックを繰り出してきた東海のアタックに、少しずつ後手に回ってしまっていたような印象がある。

 セットピースや規律が少し不安定だったのも今後に向けての改善材料となるか。
 特にスクラムに関して(細かい言及は避けるが)東海に組み負けてしまうシーンも多かった。結果、相手にペナルティやスムーズなアタックを献上するようなシーンが徐々に増えていた。
 後半にかけて全体的に規律も悪くなった。それも、スコアで追いつかれる結果になった。

好走を見せた大東大WTB神田永遠。(撮影/松本かおり)

◆数値で大東文化大学のラグビーを見る。

 図らずもボールキャリー数は東海と同じ数値。ボールを持っていた時間はほぼ同じようなものと推察することができる。
 その中で、それぞれのチームのラグビー像に差が出た理由を探すと、「パス回数」に特徴的な数値が見られる。

 大東文化は104回のキャリーに対して167回のパスをしており、1回のキャリーに対しておおよそ1.5回のパスが生まれている。
 後半にかけてパス比率はやや落ちた。結果、全体的には大東文化側のそれは一般的な水準に落ち着いた。

 キャリー回数を細かく見ると、中央エリア(15mライン~15mライン間)でのキャリーが比率的には多い。
 9シェイプがもちろん大きな割合を占めているのだが、104回と言うキャリーに対して中央付近でのキャリーが32回。一般的な比率に対して少し多いような印象だ。
 パス回数自体はある程度の多さとなっていることから、「ボールを動かしてはいるが、アタック自体の幅はそう広いものではない」という表現をすることもできる。

 パスの中で特徴的な要素を挙げるとすると、スイベルパスと呼ばれるものが多かった。キャリアーが真横ではなく、真後ろに近い位置に対して下げるようなパスだ。
 試合全体で12回という回数を示しており、こちらも一般的な水準に比べると少し多い。
 複雑な階層構造こそ少なかったものの、9シェイプと呼ばれるFWの小集団からスイベルパスを使ってアタックを下げることで、アタックの厚みを出そうとしていたように見えた。

 タックル成功率は、試合中に得られたイメージより少なくない感覚を受ける。
 この結果を試合様相から捉えると、「1つのシーンで複数回外されることもあるが、致命傷には至っていない」と言うとらえ方もできる。
 もちろんタックルがそもそも届いていないシーンもあったが、ある程度はワークレートでカバーできていたような印象もある。後半にかけて規律や精度の水準が下がり始めてからは、ディフェンスに苦労していたように感じた。

◆東海大学のラグビー。



 激しいコンタクトを得意とするFWと、決定力のあるBKが揃っているチームが東海であり、毎年優れた留学生がそれにエッセンスとして加わる形になっている。
 チームを動かしていた武藤ゆらぎ(横浜E)がチームを離れ、中軸になる選手の変化の時を迎えた今シーズンは、全体的にチャレンジングな試合が多い。

◆質的に東海大学のラグビーを見る。

 東海大学のラグビーは基本的にFWが激しいコンタクトを担い、相手を集めながらギャップを突くような形が多い。
 その前提がある上で今回の試合を見ると、中央付近で大きく崩すようなシーンはあまりなかったのではないか。

 ボールキャリーでは、6番の大森光や8番のカストン・フォヌアが激しいコンタクトを見せており、ディフェンスを何度も突破するシーンを見せていた。
 そこから明確にリズムを上げられたことこそ少なかったものの、接点の部分で大きく勝ち越すことができていたように見えた。

 BKの中では岡村優太と中川湧眞に注目したい。
 両選手ともにスピードとキレを兼ね備えた選手だ。ビッグゲインこそ少なかったが、中盤を越えたあたりから外側のエリアでくさびを打つように、相手ディフェンスラインに突き刺さっていた。

 アタックラインの構成としては、大まかには1-3-3-1と見える。
 ラックが中央エリアにできた時など、アタックラインが2つに分かれたときには構成が変わっていたが、そういった際にはスイベルパスなどの表裏を使うようなアタックを見せていた。
 3人のポッドが基準となっているが、ラックができた時のワークレートも高く、望ましい形である「キャリアー1人+2人」でラックを完結させるシーンが多かった。

東海大のNO8カストン・フォヌア。2トライを奪った。(撮影/松本かおり)

 後半終盤のピックゴー中心のアタックを除くと、全体的に幅を出すようなキャリーが目立っていた。
 特に前半に見せていたような、ラックから次のキャリーまでが距離感のあるアタックが特徴的だった。ラック間の移動に癖のある大東文化のディフェンスを、ある程度は効果的に動かすことができていた。

 ディフェンス面でのイメージとしては、もちろん後半の失点を抑えられたような様相もあるが改善の要素は残っているのではないか。
 接点の部分で負けていないため致命的なシーンはなかったが、ディフェンスラインが波を打っているような動きをしており、一人ひとりの間隔も開き気味のシーンも多かった。結果、ギャップを埋める動きが遅れるシーンもあった。

◆数値で東海大学のラグビーを見る。

 大東文化の項でも述べたようにボールキャリー回数自体にチーム間の差はなく、特徴的な要素としてはパス回数が挙げられる。
 後半の最終盤は、ラックサイドを連続で攻撃した。そのため、パス回数を少なく、キャリーを重ねるシーンがかさんだ様相もあるが、昨シーズンまでのアタック様相と比べると、9シェイプを多く用いている印象だ。

 9シェイプの占める比率としては、104回のキャリーのうち28回だった。
 後半のFW戦を除けば多くの割合を占めており、パス回数を重ねずにアタックをしようとしていた。
 中央エリアでのキャリーも多く、結果的にはかなり中央寄りのアタックをしていたと言える。

 一方で、相手ディフェンスを打開することができたシーンの多くがエッジと呼ばれる15mラインよりも外側のエリアだった。シーンに応じた適切なアタックができていたとは言えない可能性もある。
 バックスラインに回ったボールがアタックライン内で回っている回数も少ない。大東文化の傾向と比べると、あまりボールを回すようなアタックをしていなかったと言うこともできる。

 また、大東文化と比べると「スイベルパス」が少ない印象だ。
 昨シーズンは10シェイプ(SOからFWの小集団がパスを受ける形)を好んでいた。その傾向から考えると大きな変化だ。
 バックスラインがダイレクトにボールを受けるシーンも試合合計で12回ほど。数値的に、バックスラインをあまり活用しなった印象だ。

◆まとめ。

 今回の試合は、前評判に違わず競り合った展開となった。
 FWの激しさ、強さに定評のある両チームだが、数値的に見ると違いが見える。

 大東文化は残りの試合を勝ち切れば優勝となり、東海も他のカード次第では優勝の目も見えてくる。
 関東ラグビーは対抗戦だけじゃない、というものをしっかりと見せる試合だった。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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