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【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/ 青学大×筑波大】ラック近くを攻め、圧力をかけ続け、31年ぶりの勝利つかんだ青山学院。
攻守にいい働きを見せた青山学院大松﨑天晴。(撮影/松本かおり)

【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/ 青学大×筑波大】ラック近くを攻め、圧力をかけ続け、31年ぶりの勝利つかんだ青山学院。

今本貴士

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 前節の立教大戦で、苦しい展開ながらなんとか勝利を収めた筑波大学(29-23)。青山学院大は前節まで苦しい試合が続いていたが(17-73 明大、5-40 帝京大)、方向性に自信をつけていた。雨模様の中おこなわれた両校の対決は、激戦となった。
 その模様を量的、質的に振り返る。

【青山学院大学のラグビー】

 試合を振り返ると、青山学院がこの試合に向けてどれだけ戦略を練り上げてきたか想像するのは難しくない。
 図らずも雨中戦となったが、その要素以上に、筑波側に強烈なプレッシャーをかけ続けた80分だった。

◆質的に青山学院大学のラグビーを見る

 今回のキーマンとして、個人的には6番FLに入った松﨑天晴、15番FBに入った井上晴生の両名を挙げたい。両名とも1年生。東福岡高校の一員として花園準優勝を果たしたメンバーだ。
 春季大会からメンバー入りを果たすこともあった。この日、青山学院大学の勝因の中核を担っていたように感じた。

 松﨑は何よりもそのハードワークで輝いていた。
 ラインアウトからの1stフェイズでのコンタクトやディフェンスシーンでの的確かつ激しいタックルなど、優れたパフォーマンスシーンを上げるのはそう難しくはない。
 要所要所でチームを締め、また盛り上げる姿に感銘を受けた。

 井上はロングレンジのキックで筑波大とのキックゲームを制していた。
 雨天という影響もあり、筑波大にはキック処理のミスが目立った。雨中での100点満点の試合運びに貢献した。

 チーム全体の様相としては、複雑な攻守のシステムがあったようには感じられない。
 アタックでは接点で激しく勝負しながら、ラックに近いエリアに対して効果的にボールを運んでいた。ラインの整備が遅れていた筑波大のディフェンスに対し、パス回数を抑えながら前進を繰り返した。
 雨で滑るボールを大きく動かすことなく前進を図ることができたのも、試合を優位に運ぶことができた要因のひとつか。

 青山学院大のキックを積極的に使う姿勢は、ハイボール処理の部分で不安を抱えていた筑波大側の選手に特に刺さったと言える。
 明確に両校の選手が激しく競り合うようなシーンこそ少なかったものの、天候も相まって筑波大側が何度もボールをファンブルしていた。
 前述した井上のキックレンジの広さや、SO青沼の的確なキックの判断も、かなり効果的に働いていた。

 ディフェンス面では目立って特徴的なシーンは見られなかったように思う。
 ただ、激しく前に出ることは少なかったが、前に出た時はきっちり相手を倒し切ることができていた。青山学院大の選手の練度が見て取れる。
 特に終盤に生まれた13番、榎本拓真の思い切りのいい詰めからのタックルは、試合のハイライトにもなりうる素晴らしさだった。相手を一発で倒し切った。

ブレイクダウンで圧力をかける青山学院大。(撮影/松本かおり)

◆数値で青山学院大学のラグビーを見る

 アタックの数値的に筑波大に押し勝ったといった要素はあまり見られない。キャリーやパス回数といった数値も似た水準で、ラインブレイクも同水準だ。
 あえて言うなら、ディフェンス突破数がやや少ない点だろうか。筑波大のタックル水準も高く、相手を大きく外し、前進を図ることができたシーンは見られなかった。

 キャリーを細かく見ていくと、全69回のキャリーのうち23回がポッド(主にFWによって構成される集団)によるキャリーとなっている。
 内訳として9シェイプ(SHからのパスを受ける位置関係)が14回、10シェイプ(主にSOからのパスを受ける位置関係)が9回となっており、差はあるが、ある程度FWを使ったアタックを意識していたことが見えてくる。

 特徴的なパスの様相としては、いわゆる「スイベルパス」と呼ばれるFWのポッドから裏にいる選手へ下げるパスがほとんど見られなかったことが挙げられる(前後半合わせて一度のみ)。
 試合を見ていた印象でも、表と裏の2つのアタックラインを準備するような階層構造はあまり見られず、SHやSOからボールを動かしながらも、単独のフェイズで大きく外まで回すようなシーンはなかった。

 差が出た部分は、ハンドリングエラーの少なさやブレイクダウンでのターンオーバーなどが挙げられる。
 ブレイクダウンにはかなり積極的に仕掛ける様子が見受けられた。結果的に、ブレイクダウンで4回のジャッカル成功を見せている(他にブレイクダウンへのプレッシャーによるペナルティ獲得も見られた)。

 ディフェンスに関しては、悪くはないが改善の余地ありといったところだろうか。
 ラインブレイクされたのは自チームがブレイクできた数と同水準ではあるが、ディフェンス突破数でダブルスコアをつけられている。タックルを外されるシーンも散見されていた。
 ただ要所要所で決めるタックルの質は高く、相手に効果的にプレッシャーを与えていたように思う。

 セットピースは比較的苦労した部分ではないかと思う。
 成功率も高いとは言えない数値を示しており、特にスクラムではかなりプレッシャーをかけられていた。
 一方で筑波ボールのラインアウトに対してプレッシャーをかけているシーンもあり、特徴的な選手の配置によって精神的な負荷をかけることができたように見えた。

【筑波大学のラグビー】

 筑波大学は、大学レベルでは屈指のアタック爆発力を誇るチームであると思っている。
 勤勉なFWと攻撃力の高いBKが繰り出す柔軟なアタックで、上位校に勝ってきた歴史がある。
 一方、今回の試合ではその爆発力は見られなかった。自分たちのエラーとの戦いに終始していたような印象を受けた。

◆質的に筑波大学のラグビーを見る

 言い訳にすることはできないと思うが、雨天というコンディションは、前節で苦労したハンドリングという観点でも重い枷(かせ)になったように感じる。
 今回の試合で生まれた青山学院大のスコアのほとんどは、「筑波側の意図しないポゼッションロスト」から生まれた。ハンドリングエラーによって生じたスクラムや、ペナルティから生じたラインアウトからスコアを奪われた。

 また、試合を通じて、雑とも言えるプレー印象が拭えなかったのも敗戦の要因としては大きい。
 ある程度は天候を意識したゲーム運びをしていたようには見えたが、細かいところではラインアウトからのフィード(ラインアウトからSHへのボールデリバリー)の部分や、アタックでトライを狙いに行くラストパスにミスや不安定なプレーが目立っていた。

 連続してラックを作るアタックシーンも散見されたが、厳密なポジショニングを必要とするアタックをしているイメージはあまり感じられない。
 FWの選手もポッドと呼ばれるFWを基準とした集団を複数箇所に作る形はあまり見られておらず、細かく表裏を作るような階層構造に対して、1人ずつFWの選手を配置するようなアタックが見られていた。

ラインブレイクから奪ったトライもあった筑波大。しかし、勝利に届かず。写真はSO楢本幹志朗。(撮影/松本かおり)

 また、天候の影響かパスも比較的刻んでいるような印象も受けた。
 順目(同方向のアタックライン)に人数を回すというよりは、選手に対して大まかにレーンを設定するような配置が見られた。外側のエリアにも一定人数が残っている様子が見られた。
 15mほどの幅を5人ほどで攻めようとするフェイズもあり、決定的なシーンには繋がらなかったが、グラウンドを広く使おうとするイメージの片鱗は見えたように思う。

 キックシーンでは全体的に劣勢な状況が多く、キック処理時の落球も多かった。
 SOの楢本幹志朗がキックゲームの主力を担っているが、今回の試合では相手のメインキッカーからの伸びるキックに翻弄された。落球やキックミスも重んでしまった結果、エリア取りに苦労した印象が残っている。

 ディフェンスに関しては良い部分と悪い部分の両面が目立っていたように感じた。
 筑波は接点やブレイクダウンで激しさを見せるのが継承されている伝統であると思うが、激しさを発揮したシーンと相手に乗り越えられるシーンの両面が見られた。
 今回特に苦労していたように見えたのは、相手の連続アタックに対するラックに近いエリアのディフェンスだ。SHからの1パスで大きく崩されるシーンが目立っていた。
 傾向としては、空間を埋めずに流れで両サイドに広がるような動きをしていた。青山学院大の(おそらく)スカウティングがはまっていたように思う。

◆数値で筑波大学のラグビーを見る

 全般的な数値としては青山学院大と同水準で、特筆すべき点としてはディフェンス突破数の多さとタックル成功率の高さが挙げられるだろう。
 青山学院大のやりたいラグビーに終始付き合った印象もあるだろうが、数値的に極端な差はなかった。

 キャリーに関しては筑波大の標準的な水準の範囲に落ち着いているように思う。
 ポゼッションに関してはやや青山学院大に上回られているが、キャリーとパスの比率を見ると、限られた機会の中で、筑波大の方がボールを動かしたと言うことができる数値だ。
 普段との違いを考えた場合、おそらくSOを経由する10シェイプが比較的少なかったと言える。一方でSHからのパスを直接受ける9シェイプも多用していたわけではない。イメージしていたようなアタック傾向に整えていくことができなかった可能性もある。

 パス回数を見ると、ラックからは18回が9シェイプへ、17回がSO役へのパスとなっている。この数値からは「BKへの展開もある程度意識したアタックをしようとしていた」ということが考えられる。
 バックスライン内でのパスワークも20回強生まれており、細かくパスを繋ぐシーンは多くなかったが、外方向へのアタックを志向していたことも想像もできる。

タックル水準は試合展開と見比べるとかなり高い水準にあると言える。タックルを明確に外されたシーンも少なく、大きく崩されたシーンもそう多くはなかった。
 一方でサインプレー、用意された動きで取り切られたり、ゴール前でFWに粘り勝ちされたりと、タックルの成否に関わらないところでの失点が目立った。
 特にラックに近いエリアを攻略されているような印象が強く、今後の課題と言える。

 セットピースに関しては、ラインアウトで苦戦し、スクラムで安定感を見せたと言える。
 成功率としては両方とも相手を上回ったが、ラインアウトではチャンスで安定した確保ができなかった。セットピースからスコアにつなげる遂行力が低かった。
 スクラムではペナルティを獲得したりゲームを良い方向に運ぶシーンも見られた。さらなる改善をしていきたい部分になるだろう。

【まとめ】
 青山学院大が筑波大に勝利したのは記録によると1993年以来、実に31年ぶりだという。青山学院大がこの試合にかける熱量を遺憾なく発揮したと思う。

 正確な実力比較に関しては判断が難しいところだ。筑波大は、自分たちのエラーで勝利から遠ざかったという印象が強い。雨天という難しい環境ではあったが、上位を目指すチームにとって、様々な反省が残る試合展開だった。

 この試合結果によって、関東大学対抗戦は4位争いが熾烈になった。青山学院大は主に前年度下位チーム、筑波大は上位チームとの対戦が残っている。ここからの両校の試合に注目していきたい。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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