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小雨降る中で練習する選手たちの中にリーチ マイケルの姿がない。日本時間の11月12日の午前10時30分にチームからの離脱が発表された。
離脱前日、本人と話す機会があった。若い選手たちの結束と、「ここにいたい、勝ちたい、という気持ちを強く感じる」と目を細めていた。
精神的支柱が帰国し、一人ひとりの「やらなきゃ」の気持ちは強まっているだろう。ウェールズ戦は4日後に迫っている。
11月11日、日本代表はいつも通り、大学のグラウンドで午前中に体をぶつけ合ったり、ユニットの確認をしたり。午後はジムセッションをおこなったようだ。
空は曇天。ときどき小雨が降る。グラウンドは芝も、柔らかくて踏ん張るとぬるっといく。
ウェールズ入りして3日目、まだ青空を見ていない。イギリスの冬は気が滅入る、は本当だなあ。
日本代表練習場への最寄駅からの途中には、小さな川があったり、落ち葉道があったり、のんびりした風景。それはそれでいいのだが、日光を浴びることができないのがなあ。靴も汚れる。


トレーニング後、今回の欧州ツアー中に初キャップを獲得した小村真也、平生翔大(ひらお・しょうだい)に話を聞いた。
アイルランド戦の後半からピッチへ。SOの位置に立った小村は「緊張しました。チームも自分も思った形でゲームを終われなかったので、反省の初キャップでした」と話した。
「いままでに感じたことのない緊張感でした。大学やリーグワンとは違うプレッシャーを感じました」
2025年2月、帝京大からトヨタヴェルブリッツにアーリーエントリーで加わり、リーグワン2024-25に9試合出場。JAPAN XVでNZU戦や香港代表戦、オーストラリアA戦に出場し、この日を迎えた。
アイルランド戦は後半20分過ぎから3トライを重ねられる展開となり、後半18分からプレーした小村は「自分の強みはアタックなのですが、(相手のモメンタムを受けて)それをほとんど出せませんでした」と言う。
苦い初キャップを踏まえ、次戦以降にチャンスを得た時には「強みを出せるように、どんどんボールを動かしてゲームを変えられるようにしたいです」。
短時間ながら、ワールドランキング3位の相手と対峙して強さを体感した。
例えば、同じように途中出場のSOサム・プレンダーガスト。「ゲームを変えるプレーができる。自分もああならないと。表裏を使って攻めてきたし、(各選手とも)全員が(体を)スクエアに仕掛けてきた」。
経験してみないと分からないことを自分の未来につなぐ。

日本代表は成長できる場所。その中で自分を高め、はやくチームに影響を与えられる選手になりたい。
「ここにいる全員がレベルが高いので、スピード、フィジカル面、考え方など、これまで経験できなかったレベルの中で、毎回の練習でも成長できていると思います」
9番、10番が集まり、話を詰めるミーティングもすごくためになる。「(齋藤)直人さん、(藤原)忍さん、(李)承信さんに、いろいろ教わっています」。
15番でもプレーできるのは、自分のアピールポイントのひとつ。「どちらでもプレーできるように準備していたら、試合に出られる可能性も増え、結果、成長できると思っています」と話す。
ニュージーランドのハミルトンボーイズ高校出身。そういう背景もあり、若いうちに海外クラブでプレーしたい希望を持つ。これまでは南半球を考えていたが、初めてヨーロッパに来てみて、「こっちのラグビーの方がテストマッチ(でするラグビー)に近いと感じています」。
フランス・トゥールーズ所属の齋藤にいろんな話を聞いている。
雨が多く、グラウンド状態も悪いのはニュージーランドと似ていると、親近感がある。
その中で、高いレベルのアタッキングスタイルを披露するには経験が必要だ。海外選手の映像もよく見る。

SOとしてダン・カーターに憧れたり、クウェイド・クーパーやリッチー・モウンガなど攻撃的10番が好きだった。
いま注視しているのはフランス代表、トゥールーズで活躍するトマ・ラモス。「エディーさん(ジョーンズHC)にも見るといいと言われていますし、同じチームの直人さんにもラモスについて聞いたりしています」。
高校時代に得た知見をベースにした英会話は堪能。大学でも留学生とよく話し、外国人スタッフ、選手の多いヴェルブリッツの環境も生かして語学力を伸ばしている。
それは日本代表でも変わらず、ジョーンズHCとの面談なども通訳を介してではなく、直接おこなっているそうだ。
初キャップからキャリアを重ねる準備を、細部から積み上げる。
南アフリカ戦で初キャップ、アイルランド戦で2キャップ目と、ラグビーマンなら誰もが羨むような国際キャリアをスタートさせた平生は、2試合を振り返り、「自分の強みを出せたところもあったし、まだまだのところも見つかった」と真摯に答えた。
「もっと上で戦えるようになっていきたい」思いが強くなった。
「ボールキャリーは、フットワークを使いながら前に出られました。ディフェンスも体を強く当てることはできた。南アフリカ戦は(後半25分からの出場で)スクラムは1本だけでしたが、ジャパンハイトで組めるとやれました」。

アイルランド戦でも、「スタートのメンバーからいいフィードバックをもらい、修正しながらスクラムを組んだので、終盤は安定させられたと思います(後半27分から出場)」。
もちろん試合の最初からや、接戦のうちに出場していたら相手のプレッシャーは違うものになる。しかし、「自信になりました」と前向きに前進していくつもりだ。
最高の相手にキャップを重ね始められた環境に「こんなこと、なかなかないですよね。感謝しながら上へ、と思っています。毎日小さい積み重ねをしていきたい」と話す。日本代表の空気が好きだ。
「同世代もいれば、キャップをたくさん持っている方もいます。成長できる場所。パシフィックネーションズカップも試合には出られませんでしたが、チームファーストの行動をする中で、自分の成長も感じられました」
2025年2月に関西学院大からアーリーエントリーで東京サントリーサンゴリアスに加わった。リーグワン2024-25には4月27日のヴェルブリッツ戦に途中出場しただけ。SNSなどには、リーグワンでの出場も僅かな選手が日本代表ってどうよ、の意見も散見される。
そんな事実を目にして本人は、「いろんな声があるのは分かっています。しっかりしたパフォーマンスを出すことだけに集中します。そのために、毎日準備を積み重ねます」。
謙虚な胸の奥底に「(辛辣な言葉に)負けない。燃えます」との思いを持って、前進することだけを考えている。
最近、エネルギーをもらうことがあった。母校の関西学院高等部が兵庫県予選で強豪・報徳学園を29-7と破り、5大会ぶりの花園出場を果たしたのだ。前回出場は、自分たちが高校3年の時だった。

「昨年教育実習(保健体育)に行った時に担当した学年が、キャプテンなど、今年の3年生で思い入れも強い代でした」
監督にもお祝いの連絡を入れた。
「高等部は自分が成長させてもらった場所です。本当に嬉しかった。僕も、ジャパンやリーグワンで頑張って、高等部生にいいものを返せるようにしたい。(自分の)活躍が夢や希望を与えることになったらいいし、お互いに刺激し合う関係性でいたいです」
高校3年時に自分たちが勝った報徳学園には、いま日本代表で一緒に活動している植田和磨がいた。昨年は、その植田がいた近大に敗れて関西学院大は全国大学選手権出場が成らず、シーズンを終えた。
「(植田とは)縁を感じます」と言い、良かったことばかりではない自分の歩んできた道のすべてが、現在に結びついていると考えている。
ウェールズ戦に出場できたら、今度こそ勝利の瞬間にピッチに立っていたい。
結果を残せば、すべての人たちを笑顔にできる。