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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑤】アイルランド撃破へ、リーチは勝負どころで投入。サトケン、TKも燃えている。
SHのスターターを務める齋藤直人(左)とフィニッシャーの藤原忍。(撮影/松本かおり)
2025.11.08
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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑤】アイルランド撃破へ、リーチは勝負どころで投入。サトケン、TKも燃えている。

田村一博

 前回の対戦は2021年11月6日。場所は今回と同じダブリンのアヴィヴァスタジアムで5-60と大敗している。
 その時以来のアイルランド代表との対戦(11月8日/12:40キックオフ)を2日後に控え、11月6日(現地時間)、出場予定選手に関する記者会見が開かれた。

 エディー・ジョーンズ ヘッドコーチは会見の冒頭、今回の試合を「楽しみな一戦。ビッグゲーム」と位置付け、ワールドランキング3位との試合に向け、十分にハードなトレーニングを重ねてきたことを現地のアイルランドメディアに伝え、「序盤から自分たちのゲーム運びをして、しっかり挑みたい」と話した。

 11月1日に戦った南アフリカとの試合から先発は3人が変更となった。
 LOジャック・コーネルセンとNO8リーチ マイケルがフィニッシャーとなってベンチスタート。代わりに4番にはエピネリ・ウルイヴァイティが入り、8番はマキシ ファウルアが務める。
 9番のジャージーはトゥールーズ所属で、11月2日に合流した齋藤直人が背負う。南アフリカ戦で先発した藤原忍は21番のジャージーを着る。

チームを前へ進めるボールキャリーが期待されるLOエピネリ・ウルイヴァイティ。(撮影/松本かおり)


 リーチが20番のジャージーを着ることについてジョーンズHCは、アイルランドと対する上でフィジカル的な強さが必要と考えて「大きくて力強いボールキャリアーであるエピネリを起用した」とした。「チームを前に進める」力を期待する。
 その上で試合の終盤に、「ワークレートが高く、経験値豊富なリーチを投入したい」。接戦で勝負どころを迎えることが求められる。

 SHで先発する齋藤については、フランス・トゥールーズ所属で、ヨーロッパのウェットな状況の中でのプレーにも慣れていることを起用理由のひとつに挙げた。また、直近の試合には出場していないものの、良いコンディションにあることも評価した。7月12日のウェールズ代表戦以来の日本代表戦出場。チームに新たなものを付け加えてくれることを期待する。
 藤原については、持ち前のスピードあるプレーが終盤、相手ディフェンスの動きが鈍ってきたときに効果的だと考えている。「世界のトップクラスの選手たちにヒケをとらない素早さは、そんな状況で、チームにより効果的な影響を与えてくれると期待しています」。

 出場すれば初キャップとなる22番の小村真也については、長く痛めていた箇所も整い、「いい判断、いいアタックができる。自分から仕掛けられるところがジャパンのやりたいラグビーに非常に適している」との評価でチャンスを得た。
 パシフィックネーションズカップで4キャップを重ねた廣瀬雄也に関しては、同大会でのパフォーマンスを見ての起用。先発した決勝のフィジー戦のプレーも含め、「今回のベンチ入りに値する選手と判断した」と話した。

仕掛ける力が評価されてベンチ入りの小村真也。(撮影/松本かおり)

 会見に参加した現地メディアからは、11月1日にシカゴ(アメリカ)でオールブラックスと戦い、13-26と敗れたアイルランド代表について、「先日の試合も敗れ、ピーク時より力が落ちているように見えるが、(エディーには)どう見えているか?」との質問が相次いだ。

 それに対しては、長くチームの中心として活躍していたFLピーター・オマーニーやSOジョニー・セクストンらが引退したことを理由のひとつと考えるとし、「世界でもベストな選手たちが抜けると、以前のチームとの差が出るもの。若手が台頭しているとはいっても、同じレベルにはなかなか届かない。アイルランドはいま、そういう時期を過ごしていると思っています」と答えた。
「ただ、そうはいっても強い(実力がある)チーム。多くのレンスターの選手が出場することもあり(先発に9人/23人中14人)、非常に結束が強いでしょう」

 この試合に向け日本代表は、連日ハードなトレーニングをおこない、チーム内のアタック&ディフェンスで激しく体をぶつけ合ってきた。南アフリカ戦前は日本からの移動もあり、コリジョンに注力したトレーニングにあまり時間を割けなかったかもしれない。
 しかし今週は11月5日の練習でも、FWがトライライン前での攻防に多くの時間を割き、攻守両方の選手が衝突してはすぐに起き上がり、すぐに次のプレーに移ることを繰り返していた。
 選手たちは毎日、練習を終えると泥だらけだった。

パシフィックネーションズカップでのパフォーマンスが評価された廣瀬雄也。(撮影/松本かおり)


 2時間強の練習の前もあとも、ラインアウトスローの練習に長く時間を割いていたHO佐藤健次に試合4日前に話を聞いた。南アフリカ戦で初めて日本代表の先発の座を得た。後半25分までプレー。高さ、重さ、パワーのある世界一チームのFW相手にラインアウト、スクラムで苦しめられたものの、実際に体をぶつけて得たものは大きかったようだ。
 得意のボールキャリーでは前進したシーンが何度もあった。再び先発するアイルランド戦では、南アフリカ戦で得た体感と知見を使ってプレーする。

「ボール半個」のズレを見逃さない南アフリカ相手にラインアウトで苦しんだ面もあったが、佐藤はイメージ通り確保した局面や、ノットストレートは少なかったことを手応えに前を向いている。
 アイルランド戦に向けて、スローイングとリフトの精度はそのまま、単調だったテンポや確保するエリアを見直してアイルランドに挑むイメージを口にした。

 熱心なスローイングの練習は、「本数ではなく、使うサインをイメージしながら投げたいボールを納得するまで投げる」という。試合が近づいてくるとゲームライクでエリアを移動しながらの10本など、スロー数を絞って集中力を高めることもする。リーグワンでの緊張感あるシーンやテストマッチの経験を積んで、自分でも向上していることを感じている。

2戦連続で2番のジャージーを着る佐藤健次。(撮影/松本かおり)


 代表活動を離れても努力は続く。パシフィックネーションズカップ後にワイルドナイツに戻った際は、代表経験者の堀江翔太コーチやHO坂手淳史からアドバイスを受け、「うまくいかなかった時に、どこをどうすればいいのか分かるようになってきた」。
 アンテナも張っている。ロッカーが隣のWTB竹山晃暉からキック処理の時には「自分とボールのことだけ(に集中して、周囲を意識せず取りに行く)」と聞き、スローイングも「自分とジャンパーに集中する」ことに。そんな考え方もあって、南アフリカ戦では相手の高さはさほど気にならなかった。

 成長のために学ぼうとするのも大事だけど、各試合でベストを尽くすことこそ大事で、それこそが自分を前進させることにつながると思っている。
 南アフリカと組んだスクラムでは、自分たちのまとまりも重要も、それによって前に出ることを忘れてはいけないと気づいた。ブレイクダウンでは、相手の執拗なプレッシャーに日本が多くの人数を要することになり、それが原因で用意していたストラクチャーが乱れたりした。
 初めて先発出場した試合で大敗したのは悔しいが、得られるものが多かったのは事実。「キャップ数が少ないからできない、ではなく、すぐにでも気づいたことをやれるようにしていきたい」と、チームへの貢献を第一に実行力を上げていくつもりだ。

 世界一が相手でも、持ち味のステップワーク、相手をよく見て動くスキルを使って前へ出られることは何度もあった。しかし、「もう少し立っていればターンオーバーされなかったプレーもあったし、判断が遅れてブレイクダウンへのサポートが遅れたシーンもあった。ディフェンスも課題がある」と進化の足を止めない。
 プレータイムの増加とともに、責任と進化の機会も増えることを実感する日々。アイルランド戦では、世界王者に通用した自分の強みはそのまま、「より一貫性のあるプレーを」と気を引き締める。

いろんなものが緑の国


 南アフリカ戦後、「自分たちが組みたいスクラムを組んだが、それでもプレッシャーを受けてペナルティを取られた」と話していた竹内柊平(PR)は、アイルランド戦の3日前の練習後、自分たちを蹴散らした相手について、「間違いなく世界一でした」と、あらためて言った。

 その根拠を「コネクション」とし、「自分たち(日本)が強みとしているそこでも上回られたのが悔しい」と言った。
 竹内は、自分たちよりランキングが低いチームの中にも日本よりパワーやスピードが上のチームはあるが、それをコネクションの強さや密度で上回ってきたのが赤白のジャージーと考えている。
 その結果13位にいるし、これまでいくつものアップセットを起こし、今季もウェールズに勝ち、フィジーに迫ることができた。

 しかし南アフリカと戦って感じたのは、パワーやスピード、セットプレーの強さで上回っている相手が、一人ひとり、より密接につながってプレーしていたことだ。
 竹内は「2年後に倒さないといけない相手なのですが」と前置きして、「1人がみんなのためにめちゃくちゃファイトするところ」という。
「ラックでも、もう完全にジャパンボールというような状況でも、がむしゃらにファイトしてくる。そうなるとジャパンもめくられないように人数を追加しないといけないから、南アフリカの他の14人はラクになり、こちらは苦しくなる。それを毎回繰り返すんです」

「コネクションをより密にしないと」と竹内柊平。(撮影/松本かおり)


 複数の仲間が、リーグワンでプレーしている南アフリカ代表選手のこの試合のパフォーマンスについて、普段のリーグ戦の数倍の強さのように感じる、と表現した。
「それ、南アフリカはチームの15人、23人全員がチームのために常に100パーセントでやり続けるから、リーグワンでのプレーと同じでも(全体から受ける圧力が)そう感じるのだと思います」

 竹内はそんな相手に対し、「自分が最初にコネクションを切るようなプレーをしてしまった」と悔やむ。
 前半29分(スコアは0-19)、敵陣22メートルライン手前付近で得たPK機。自身の判断で速攻を仕掛け、タックルを受けてノックフォワード。好機を逃した。
「自分に落胆しました。自分の仕事であるセットプレーのところで負けてしまって、それが本当に悔しかった」

 一人ひとりが南アフリカ代表を自分のチームと誇りを持って思い、仲間と家族のように結びつき、誰もが100パーセントのエフォートで戦い抜く。「だから世界一」。
 自分たちも、今回のツアーの中でそうなりたい、ならないといけないと竹内は思っている。

 アイルランド戦までの数日で劇的な変化は起こせないかもしれないが、まずは自分が「フルエフォートで、自分の仕事を遂行します」。
 自分の考えが正しいかどうかは別として、そんな姿勢を見てくれた若い選手たちが何かを感じ、その結果、共感が広がっていけばチームの結束は高まり、欲している結果をつかめると信じて緑の国の代表チームへ挑む。

メンバー発表記者会見でのワーナー・ディアンズ主将(左)とエディー・ジョーンズHC。ディアンズ主将は海外メディアに日本人選手のサポートについて質問を受けて、チームメートの多くの名前を挙げて協力体制ができていることを伝えた。そして、仲間のことを日本人かどうかとか考えないと答えた。(撮影/松本かおり)


【2025年11月8日 vsアイルランド/日本代表メンバー】
①小林賢太(東京サントリーサンゴリアス/早大/181、113/26/6)
②佐藤健次(埼玉パナソニックワイルドナイツ/早大/177、108/22/6)
③竹内柊平(東京サントリーサンゴリアス/九州共立大/183、115/27/21)
④エピネリ・ウルイヴァイティ(三菱重工相模原ダイナボアーズ/ラトゥ カダヴレヴスクール, FIJ/196、122/29/8)
⑤ワーナー・ディアンズ◎(東芝ブレイブルーパス東京/流経大柏/201、117/23/29)
⑥ベン・ガンター(埼玉パナソニックワイルドナイツ/ブリスベンボーイズカレッジ/195、120/28/16)
⑦下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス/早大/188、105/26/20)
⑧マキシ ファウルア(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/天理大/187、112/28/21)
⑨齋藤直人(スタッド・トゥールーザン, FRA/早大/165、73/28/25)
⑩李 承信○(コベルコ神戸スティーラーズ/大阪朝高/176、86/24/26)
⑪長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ/早大/179、90/25/23)
⑫チャーリー・ローレンス(三菱重工相模原ダイナボアーズ/ハミルトンボーイズ高/170、89/27/6)
⑬ディラン・ライリー○(埼玉パナソニックワイルドナイツ/ボンド大/187、102/28/35)
⑭石田吉平(横浜キヤノンイーグルス/明大/167、75/25/7)
⑮矢崎由高(早大3年/桐蔭学園/180、86/21/7)

⑯平生翔大(東京サントリーサンゴリアス/関西学大/174、103/23/1)
⑰祝原涼介(横浜キヤノンイーグルス/明大/184、115/29/4)
⑱為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/明大/180、108/24/17)
⑲ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ/クインズランド大/195、110/31/26)
⑳リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京/東海大/189、113/37/91)
㉑藤原 忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/天理大/171、76/26/18)
㉒小村真也(トヨタヴェルヴリッツ/帝京大/180、92/23/-)
㉓廣瀬雄也(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/明大/182、94/24/4)

※カッコ内は所属チーム、出身校、身長・体重、年齢、キャップ数の順。◎はゲームキャプテン、○はゲームバイスキャプテン


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