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空港に降り立った瞬間はロンドンより寒いと感じたダブリン。勘違いだったかも。
風が吹かなければ、さほど寒くない。雨は毎日降るけど、一日中降ることもない。緑が多い。
いい感じで過ごせるところだ。
11月3日から5日、日本代表はダブリン市内のクラブチームのグラウンドで練習。特に4、5日は2時間ほど体をぶつけ合うトレーニング内容で、ハードな時間を過ごしていた。
7-61と完敗した南アフリカ戦(11月1日)の前は移動などもあり、コンタクトに特化した練習が不足したようだった。アイルランド戦への準備には、その反省も生かされるのだろう。
この3日間、何人かの選手たちに南アフリカ戦での体感や、それを今後にどうつなげていきたいか、話を聞く機会があった。

南アフリカ戦の後半24分から出場したタイトヘッドPRの為房慶次朗は、出場後すぐにタックルした際、センサー搭載のマウスピースが反応、脳震盪の疑いがあるため一時退場となり、プレータイムはわずかだった。また、スクラムを組む機会もなかった。
しかしファーストタックルの際の体感も含め、これまで経験してきたテストマッチの中でも衝撃の強さはいちばん大きかったという。
スクラムも外から見ていて、NO8から最前列までの体重をしっかり使って組む技術が伝わってきた。
スクラムに関しては、相手の重さに負けない組み方の対策をみんなで話し合った。
「きょうの練習でもプレイスバランスと言って、バインドの時に相手にしっかり自分たちの体重をのせることを意識しました。受けたらだめ。自分たちからプレッシャーをかけていかないとバックファイブの重さで押し切られるので」。
そして、そうした方が低くなれる。こだわってきた『ジャパンハイト』、『芝 GO』も生きる。
南アフリカにはリーグワンでプレーしている選手たちもいた。その強さはリーグ内で対戦しているときの「2倍ぐらい強い」ように感じた。
国を背負って戦う責任感や、塊になって挑んでくる勢いがそう感じさせるのだろう。スピアーズのチームメート、マルコム・マークスについても、「いつもはオレンジの姿ばかり見ていますが、緑のジャージーを着ると、もっと強そうに見えた」そうだ。

ただ相手を認め、リスペクトしながらも、自分もそのレベルに到達する意欲を口にする。
ツアーを通してチームに貢献したいし、自分を成長させたい。「昨年のヨーロッパツアーはあまりプレーできなかったので、今回は1試合1試合、自分の持ち味を出していきたいと思っています」。
ツアーを通して、「海外の大きな相手に対し、低いスクラム、低いプレー、低いタックルで対抗したい。リーグワンでは受けることができないプレッシャーを受けながらプレーできるので、成長できると思います」と話し、自分に託される役割を、「フィニッシャーに求められるのは、試合の流れを変えるようなプレーや、インパクトあるプレー。スクラムでも流れを変えられる」と理解する。
フィールドプレーとセットプレーの両面で動き回る。
後半25分から出場のSH福田健太は、鋭いディフェンスの出足で相手を止めるシーンもあるなど、積極的にプレーすることで南アフリカの凄みを多く感じた。
9番としてボールをさばくことはできたものの、ブレイクダウンなどで受けた圧力は相当なものだったと言う。「相手は2人目がすごくはやく、どんな状況でもブレイクダウンで強い圧力をかけてきました。簡単にクリーンボールを出させてくれません」。

パワーがあるのは分かっていた。それをあらためて実感した上で、チームとしての組織力も感じた。
ディフェンスに隙がない。誰かがミスをしてもすぐにカバーに入る。そして一体感。
「キャプテンのコリシは入れ替えでベンチに戻ってからもずっと、プレーしている選手たちに声をかけて応援していました。一人だけでなく、ベンチ全体で。チーム全員で戦っていることが伝わってきました」
世界一チームの強さの一端をそんなところからも感じる一方、自分たちがボールを持ち、フットワークを使って攻めればゲインラインを越えることができた。ただ、モメンタムを生むアタックができたかと思うと強烈なプレッシャーを受ける。
「そんな中で、(いいプレーを)80分やり続けられるようにならないといけない」
この試合で7キャップ目となる福田は国際舞台で経験を積むと、例えば世界一のチームが相手でも、自分が通用する点、差を感じる点が分かることは財産とする。「ただ、いい経験だったな、で終わらせたらそこまで、です」。
ジョーンズHCがキャップ数を重要視するのは、「世界のラグビーが変化していく中で、それに対して自分がどうアダプトしていかないといけないかを得られる」(福田)ことが理由だろう。
福田はこの試合で、自分たちと相手のボックスキックについて違いを感じた。
「(試合後)9番(SH)でミーティングした時、日本はこれまで18〜20メートル(の距離にボールが落ちるよう)にターゲットを定めてボックスキックの練習をして、実際の試合でもそう蹴っていたのですが、南アフリカは15メートルぐらいなんです。日本はウイングがやっと追いつく距離だけど、南アフリカの15メートルだと、競り合った選手がタップしたセカンドボールに対して多くの選手、ブレイクダウンまわりの選手たちまでもがカバーできていたんです」
あらためて得たそんな知見を、今後に活かしていきたい。

フランスのトゥールーズで2季目を迎えている齋藤直人は、所属チームから離れ、チームがダブリンに到着した11月2日から合流。翌日からの練習に参加した。
南アフリカ戦は映像でチェック済み。日本代表のコーチや仲間から聞いている、この夏以降のシステムの変更などを頭に入れ、自分がチームに加わったときのことをイメージしながら戦況を見つめたという。
8月、9月のパシフィックネーションズカップでの日本代表のパフォーマンスも見た。「(7月に)ウェールズと戦った時よりアタックのバリエーションが増えている」ように見えたという。
フランスにいる間もシステムのアップデート情報などはコーチから届き、「仲のいい(李)承信や(藤原)忍とも連絡をとっていたので、その中で伝わってくるものもありました」
練習の中では「つい自分のチーム(トゥールーズ)のコールなどが出ちゃう」という28歳は、次戦のアイルランド戦までにはオフ・ザ・フィールドの時間も使って、チーム内で共有しておくべきことを細部まで理解しておくと話した。
トゥールーズで経験を積む斎藤は、日本代表が南アフリカ戦で苦しんだ空中戦について、「ヨーロッパではセットプレーと並ぶ重要なバトル」と言い、その中で戦っている者として、「アタックのコントロールでチームに貢献していきたい」とした。

7月のウェールズとの第2戦では、チームが打ち出した蹴る方針を強く意識しすぎて、キッキングと攻めるところのバランスが悪かったと反省する。
「準備が大事」とし、試合までにチーム全体、そして9番、10番、15番で考えを詰めて試合に臨むつもり。
「それでも実際の試合では状況が変わってくると思うので、そこで正しい判断をしながらプレーしたい」と言う。
トゥールーズでは生活のリズムにも慣れ、チームメートとの相互理解が進んだ。1年目に感じたストレスもなくなり、今季はパフォーマンスも高まっているという。
フィジカリティーも高くなり、ディフェンス力も強化。守りの時の「ポジショニングは代表と重なる」など、強豪チームでのナレッジを、赤白ジャージーを着ている時にも発揮できそうだ。
トゥールーズは決め事が少なく、自分たちがモメンタムを生み出せているか、受けているかを全員が感じながらプレーし、ここ、という時に全員が反応。自由な中で連動して動くことで試合を自分たちのものにしているそうだ。
以前の斎藤は、「(アタックの)形がある中で、1回パスをしたら両サイドに誰がいるか、見なくてもわかる(システマチックな)ラグビー」をしていた。しかし現在は、仲間との練習、試合の繰り返し+互いの積極的なコールを使うことで、共通認識を持つ者同士が即興かつ統一感のあるプレーを実現できているという。
日本代表でも同じようにやれたら最高、最強。そんな理想系を求め、今回練習に加わった際も周囲といろんなことを話すようにしている。
「例えばモメンタムを作れていれば相手ディフェンスが下がり、スペースができる。そこにどんどん走り込むことは、(システムがあっても)やっていいはずです。だから練習でも、僕にはスペースが見えていて、他には見えていなかったら、(プレーの切れ間に)こうしたかったと話すし、その逆もある」
24キャップに加え、世界有数のトップクラブのエッセンスを知る男は、チームにいい刺激を与える存在。練習中も、声がよく聞こえる。

キッキングゲームの鍵を握るひとり、SO李承信は南アフリカ戦を振り返り、「ボールをキープしてコンテストキックを蹴ったり、ショートサイドへのアタックでモメンタムを作ってから攻めようと思っていた」が、空中戦で相手に上回られ、フィジカルの強さを受けたことで「うまくいきませんでした」と話す。
ジョーンズHCとのミーティングでは「(状況を見ての)判断はよくなっているが、キックそのものや落とす場所の精度をもっと高めてほしい」と言われたそうだ。
アイルランド戦では試合開始から超速で攻めて流れをつかみ、うまくゲームをコントロールして勝機をつかみたいと話す。
ジョーンズHCがよく「日本国内ではキックを使った試合が少なく、その影響が(代表チームにも)ある」と言うことについては、「僕としては、その通りだな、と。高校時代も自分一人の判断で蹴りたいときに蹴っていました。チームによると思いますが、スティーラーズ自体は、あまりキックに重点を置いていませんし」としながらも、「ヨーロッパは雨が多く、コンディションも違う(からよくキックを使うと思う)ので、キックを使うケースやシーンが多い(ことで、うまい)。だからといって言い訳というか、テストマッチに出る以上アジャストしないといけない」と自分にベクトルを向けた。
「神戸では10番をやる機会が少なくて、キックゲームは苦手意識というか、つかめていないところもあるので、学んでいる途中ですが、失敗を繰り返し、反省しながら、テストマッチでやらないといけないことを学べています。神戸に帰ってからも意識しながらプレーするかどうかで、代表シーズンも変わってくると思います」

全体練習が終わっても、プレースキックを延々と繰り返していた。日本代表は、テストマッチを控えていても練習量を落とさない。
CTBディラン・ライリーは、「ラグビーはタフな競技、やっぱり普段から体を張らないといけない。コーチ陣が土曜日の試合に向けての一番いい準備と思っているのであれば、それを信頼するだけです」と話した。
練習の取材後は、市内のパブ巡りをするのが日課となっている。
食べ物は日本と比べて破格の値段も、ビールだけは日本で飲むギネスビールとあまり変わらないので、食うよりたくさん飲む傾向が強くなってしまっている。