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【JAPAN XV 7-71 オーストラリアA】口にしてほしくなかった敗因。
この日の観客は1万105人。試合後、選手たちは感謝の意を伝えた。(撮影/松本かおり)

【JAPAN XV 7-71 オーストラリアA】口にしてほしくなかった敗因。

田村一博

 まだ実績がなくとも、代表指揮官だけには大きな可能性を秘めていると分かる、という観点から選んだ選手がいてもいい。
 そうやって表舞台に出た選手が発奮し、階段を昇り始める。そんな話が大好きなことは先に言っておきたい。

 しかし、そんな流れで選ばれた選手たちで構成したチームは、結果を残さないと誰も納得しない。
 それも、強豪国の準代表チームが相手。滅多に国際試合のないスタジアムに、決して安くないチケット代を払ったファンが約1万人も集まっているのに、7-71のスコアが刻まれるなら不幸になる人たちがたくさん出る。

 結果を残せなかった選手たちへ、抜擢された喜びも吹っ飛ぶ冷たい目が向けられても不思議ではない。そんな視線を受ける当人たちの心は大丈夫か。
 準日本代表のラグビーを楽しみにしていたファンも、感情をどこにぶつけていいのか分からなくなる。
 選考者に向けられる目も懐疑的なものになる。

果敢に攻めるJAPAN XVのWTB植田和磨。(撮影/松本かおり)


 10月18日、大阪・ヨドコウ桜スタジアムでおこなわれたJAPAN XV-オーストラリアAの試合は7-71。日本は1トライだけで、相手は11トライを挙げた。

 リーグワンでの出場試合数は少ないけれど、光るものを持っている選手。大学生だけど、ワンランク上のステージでの経験がある者や、そこを狙っている者たち。
 そんな選手たちと、日本代表の中で中核に届いていない選手たちで構成されたチームは、すでにオーストラリア代表キャップを持っている選手も多数いて、スーパーラグビー経験者ばかりいるチームに一蹴された。

 試合序盤からオーストラリアAが縦横無尽にピッチを駆けたわけではなかった。
 JAPAN XVはキックオフ直後のラインアウトから12フェーズを重ね、ジリジリと敵陣へ入っていった。そして反則を誘う。PK→ラインアウトで攻めるプレー選択をした。
 ただ、そのラインアウトでボールを獲得できず、先行するチャンスを逃した。

 JAPAN XVはこの試合に「全面勝負」のスローガンを掲げ、すべてのプレーでファイトする意志を持って戦いに臨んだ。最初から全開でプレーし、先に得点できればモメンタムはさらに高まっただろう。しかし、そのチャンスを逃した。

ボールをチェイスするJAPAN XVのNO8、サウマキ アマナキ。(撮影/松本かおり)


 結局オーストラリアAの手に渡った先制トライ(6分)は、相手陣ゴール前でのキックのコンテストがきっかけだった。
 JAPAN XVは地面に落ちたボールを拾われて一気にロングゲインを許す。そのまま走り切られることはなかったが、キャリーバック後のスクラムからの攻撃でトライラインを割られた。

 先制はされても、JAPAN XVは気落ちすることなくプレーを続け、前へ出る展開はなおも続いた。
 悔やまれるのは、この日何度もあったボールロストからの切り返しへの対応だ。粘り強く前へ出ては攻められることをくり返した。
 14分の失トライはラインアウト確保後のクラッシュ時にボールを失い、切り返されて、相手にラインアウトを与える。その攻撃からフェーズを重ねられ、FBマック・グリーリーにトライラインを越えられた。

 失った3つめのトライ(17分)も、敵陣深い位置へ蹴り込んだボールを奪われたところから始まり、5人につながれてインゴールへ。さらに3分後、ラインアウトでのターンオーバーから大きく展開され、1次攻撃で左サイドを崩された。
 JAPAN XVは、自分たちが攻めて、攻めて、流れを作りたかった最初の20分に4トライを重ねられ、0-26とされた。

ピッチサイドで戦況を見つめたエディー・ジョーンズ日本代表HC。(撮影/松本かおり)


 22分に矢崎由高のトライ、SO中楠一期のコンバージョンキックで7点を返すも、28分にもトライを奪われて7-33でハーフタイムを迎えた。
 前半最後の失トライは、スクラム、ラインアウトと、セットプレーで反則を重ねて自陣に入られたあとのもの。トライライン直前のラックからSHテディ・ウィルソンに飛び込まれた。

 大差をつけられた前半だったが、JAPAN XVの反撃を信じる人はいただろう。パシフィックネーションズカップ決勝のフィジー代表戦では後半4分までに10-33とされるも、最終的に27-33と追い上げている。その再現を祈った。
 しかし、この日は違った。
 後半に入っても2分、5分、7分とトライを重ねられて、トドメを刺される。
 その後も3トライを奪われて、ビッグスコアが大型ビジョンに刻まれる結末だった。

『RUGBY PASS』の出したスタッツが、この試合の実相を伝える。
 不安定だったJAPAN XVのラインアウトの獲得率は67パーセント(全18回中/相手は13回で100パーセント)。27回のタックルミスがあった(成功率77パーセント/全120タックル中)。オーストラリアAのタックル成功率は172タックルで91パーセント。

 JAPAN XVはターンオーバーで16回相手にボールを渡した。ラインブレイクを13回許し、つながれたオフロードパスは18回。スクラム成功率は80パーセントだった。

 黄色いジャージーの優勢を伝える数字が並ぶ一方で、テリトリーは61パーセントと39パーセントとJAPAN XVが上回り、ポゼッションもそれぞれ52パーセントと48パーセント。オーストラリアAのトライは一気に攻め切ったものが多かったと分かる。

JAPAN XVの若いフロントロー。世界の壁を知った。(撮影/松本かおり)


 奥井章仁主将は、「最初の5歩」に注力して前へ圧力をかけるディフェンスをやり切れなかったと言い、結果、ブレイクダウンで素早くボールを出され、自分たちのポジショニングが遅れたと振り返った。
 結果、ダブルタックルも徹底できず。「遂行力とやり切るところが足りなかった」。

 チーム唯一のトライを奪ったFB矢崎は、プレーするカテゴリーを問わず、「求められているプレーをすることにフォーカスしている」と自身のスタンスを語り、「トライを取れたこと自体はよかったし自信にはなりますが、あのプレーでチームがやりたいことをやれたか、というとハテナ」と話した。

 攻めている状況からボールを相手に渡し、そこから一気に攻め切られる。トランジションの局面への対応の差がでたことについては、「(国際レベルでは)攻守の切り替えがはやいのは当たり前で、日本が遅い。切り替えを高いスタンダードでやり続けないといけない」とした。

 矢崎は試合前も試合中もハドルの中で発言し続けていたことについて、「その時々、自分たちがやらないといけないことを伝えました」。全員が、チームや自分が良くなると思う発言を積極的にすることを望む。
「全面勝負をテーマにしていた(試合です)。もっともっとプライドを持って(相手以上に)ハードワークしないと(いけなかった)」

 試合の前日、オーストラリアAの指揮を執るサイモン・クロン ヘッドコーチ(以下、HC)は、「国際レベルを初めて経験する若い選手がいる一方で、オーストラリア代表の経験を持つ選手たちが、チームの文化と強度を保ってくれている」と話した。
 そのバランスが取れたチームの大勝に、試合後の同HCは、「トランジションでのプレーがうまくいった。ゴールライン前のディフェンス、セットプレーも」と選手たちを評価した。

JAPAN XVを率いたFL奥井章仁主将。(撮影/松本かおり)


 この日のメンバーは9人のキャップホルダーも含んでいて、次週、日本代表と戦うオーストラリア代表を兼ねている選手もいた。
 SOでプレーしたベン・ドナルドソンもすでに20キャップの実績を持つ。試合前は、「プロ選手として、プレーする場がスーパーラグビーやA代表、代表に関係なく、試合後にはレビューされ、次にどの試合でプレーするか決まる。なので、常に目の前の試合で良いパフォーマンスをすることに集中している」と淡々と話していた。

 主将を務めたHOのマット・フェスラー(キャップ15)は、今季は怪我でピッチに立てる時間が短く、復帰への道の途中、プレータイムを増やしていると話し、自分の現在地を理解してプレーしていた。
 試合でもセットプレーでFWをリードし、HCからの評価も高かった。

 この日のJAPAN XVの先発フロントロー、古畑翔、平生翔大、木原三四郎のリーグワン2024-25の出場試合数は3人合計で7戦だけ。5番の山本秀も2試合の出場というフロントファイブだった。
 その選手たちの宮崎合宿での真摯な姿を見た。実戦形式の練習の中でのパフォーマンスも。そして、オーストラリアA戦の敗戦の理由がそこに集約されているわけでもない。

 ただ、2年後にワールドカップを控えているチームの準代表として、この日の選考はふさわしかったのか。その答は結果に表れている。
 大敗でもそれぞれの選手たちの糧にはなるだろうが、リーグワンで活躍している選手たちが歯痒い思いをしていることも想像に難くない。

オーストラリアAのNO8ピート・サムがサイドアタックを仕掛ける。(撮影/松本かおり)


 JAPAN XVのHCを務めたニール・ハットリー(日本代表コーチングコーディネーター)は、選手たちの準備期間や試合中の姿勢を愛で、何度もあったインゴールでのアンプレアブルの結末について、「あとはフィニッシュするだけのところまでいけていた」と評価した。
 そして、「相手には多くのワラビーズ(代表チーム)経験者がいて、選手たちはスーパーラグビー(AUS)が終わったばかりで仕上がっていました。しかし、こちらは大学生の合流は最近で、短い準備期間しかなかった」と言った。出場した選手の多くは、10月初旬から合宿に参加しているのに。

 選手の格で勝負は決まらない。だけど、経験値はものをいう。試合までのスケジュールは、ずっと前から決まっていた。そんないろんな要素の中でチームと選手の成長を実現し、世界と伍して停滞気味の集団を上昇させるのが指導人の役目。
 聞きたくない言葉だった。


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