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15人制ラグビーファンにとって馴染みの薄いラグビー・リーグ(13人制)。しかし、そのルールとフィジカルコンタクトの激しさは、オーストラリアやイギリスでは大きな人気を誇る。
今回、北海道・広尾町に南太平洋の強豪、ニウエ代表を迎え、ラグビー・リーグ日本代表が国際試合に挑む(10月19日)。元15人制日本代表主将の菊谷崇さんが解説を務めるこの一戦は、ユニオンとは異なるラグビーの世界を知る絶好の機会だ。
試合に先立ち、13人制ラグビーの魅力と、ニウエ代表戦の見どころを紹介したい。

◆ラグビー・リーグ(13人制)とは? 15人制ラグビーとの違いと魅力。

ラグビー・リーグは、もともとイギリスの北部、マンチェスターなどで始まったスポーツだ。貴族のスポーツとされた15人制ラグビーに対し、労働者の多いマンチェスターにおいて、そのカウンターカルチャーとして始まった。
その後、オーストラリアやニュージーランドに渡り、現在ではNRL(ナショナル・ラグビー・リーグ)がオーストラリアのプロスポーツの盟主の一つとして君臨する。NRLの1試合あたりの平均観客数は2万人を超えており、スーパーラグビー(15人制)の平均を倍近く上回るなど、商業規模は圧倒的だ。
※もし気になる方がいれば、YouTubeの「NRL Grand Final 2025 | Melbourne Storm v Brisbane Broncos | Extended Highlights」などを見てほしい。その盛り上がりがわかるはずだ。
15人制と最も異なるのは、攻撃権が制限されることだ。タックルが成立すると「タックル1」とカウントされ、それが6回続くと相手ボールになる。タックル後、密集(ラックやモール)はできず、「プレイ・ザ・ボール」で再開になる。
タグラグビーやタッチラグビーをしたことのある人は経験があるかもしれないが、それに近いようなボールを置いて後ろに足で転がしてプレー再開になる。

またスクラムで押し合いはなく、ラインアウトも存在しない。外にボールが出た場合は、5メートル地点でタップして再開になる。


ディフェンスのオフサイドラインは、「プレイ・ザ・ボール」の10メートル後方に形成されるため、ボールキャリアは毎度加速した状態で相手の胸元に思いっきり当たりにいく形になる。

また、こういった競技特性の違いが13人制独自のスキルを生み、15人制に影響を与えてきた。オフロード、バウンドを計算したキックやピンポイントのキックパス、ボールに縦回転の軌道をかけるスパイラルパスなどは、いずれも13人制ラグビーで生まれ、のちに15人制ラグビーでも主流になっていったものだ。

ユニオンへの影響は選手を見ても明らかだ。古くはオフロードで名を馳せ、2011年、2015年のワールドカップでニュージーランド代表メンバーでもあり、埼玉ワイルドナイツでもプレーしたSBWことソニー=ビル・ウィリアムズ、フィジー出身でオーストラリア代表ワラビーズでも50キャップ以上を記録しているマリカ・コロインベテも、もともとはリーグの選手だ。
ポジションや役割も15人制と異なる。ラグビーリーグは、フォワード6人、バックス7人で構成される。スクラムでの押し合いがないため、各選手の役割はユニオンとは大きく異なっている。また、フランカー(FL)は存在しない。
フォワードの選手は、スクラムやラインアウトといったセットプレーの専門性は薄れ、ボールキャリーと激しいタックルという汎用的な役割が強く求められる。
【プロップ】(PR)/ユニオンのPRというよりは、パワー系のNO8やロックに近い。スクラムより、ぶちかましとボールキャリーでパワーを発揮する。
【フッカー】(HO)/15人制のHOとは異なり、タックルと同時にスクラムハーフ(SH)のようにプレー・ザ・ボールから球を出し、攻撃のテンポを作る司令塔的な役割を担う。
【セカンドロー】(SR)/ユニオンのLOやFLに似ていて、タックルやボールキャリーにおいて、PRよりスピードや運動量が求められる。
【ロック】(LO)/ユニオンのNO8に近いが、バックスのように外へのボール展開でも中心的な役割を果たす。15人制でいうコンタクトに強い12番タイプの選手がプレーすることもある。

ハーフ団とバックスは、よりスピードとランナーとしての要素が強調される。
【ファイブエイス】(FE)と【ハーフバック】(HB)/この二人が司令塔を担う。FEはユニオンのインサイドセンター(12番)とスタンドオフ(10番)の中間、HBはユニオンのスタンドオフ(10番)に近い役割だ。攻撃時には、どちらかが最初にボールを受けたり、左右に分かれたりしながら、流動的に役割を入れ替え、キックとゲームコントロールを担う。
【フルバック】(FB)、【ウィング】(WTB)、【センター】(CTB)/役割の基本は同じだが、試合のフェーズが速いため、より一層ランナーとしての能力が強調され、トライを取り切るためのスピードとスキルが求められる。
背番号の付け方も異なり、リーグではFBが1番、WTBが2番と5番、CTBが3番と4番、FEが6番、HBが7番となる。
FWは8番から始まり、PRが8番と10番、HOが9番、SRが11番と12番、LOが13番を担当する。
ユニオンでは1番からPRが始まるのとは逆に、リーグではFBから番号が振られるのが特徴である。
◆ニウエ代表戦、日本の現在地と注目選手。
今回の対戦相手となるニウエは南太平洋の島国で、人口わずか約1700人と世界で2番目に人口が少ない国だ。しかし、国民はニュージーランドの市民権を持ち、同国には3万人のニウエ国民がいるとされている。オーストラリアにもニウエ系は多く、チームはNZやオーストラリアにいるニウエ系選手が中心に編成されている。
また、太平洋諸国の国ゆえ、ニウエ版のハカである「Takalo」(タカロ)も披露される予定だ。
身体能力に優れた選手が多く、フィジカルコンタクトで日本代表より体格的に大きな相手となる可能性が高い。このフィジカルの壁を、日本代表がどう乗り越えるかが大きな見どころだ。
日本代表は1993年に協会が発足した。通称「サムライズ」と呼ばれる。初のテストマッチは1998年11月のレバノン戦だ。世界ランキングは30位から40位前後で、ワールドカップ出場経験はまだない。
近年では、エルサルバドル、香港、タイなどと戦ってきた。オーストラリアで盛んな競技ゆえに、オーストラリア在住のエルサルバドル系、タイ系で代表メンバーが組まれている。15人制とは対戦する国々が異なるのも、リーグならではだ。
オーストラリアは日系人も多く、リーグをプレーしている選手も多いことから、代表チームは国内組とオーストラリア組のミックス編成となることが多い。今回は国内組が中心となるが、半数程度が海外出身、または海外にルーツを持つ選手で構成されることが多い。

主将を務めるのは、CTB/FBのトラビス・ドゥルーリー(Travis Drury)。本場オーストラリアで大学代表経験を持っている選手で、早稲田大学大学院への留学をきっかけに日本に渡った。5年の居住条件を満たし、2022年に念願の代表デビュー。今回で4年連続選出となったチームの要である。

初選出のメンバーも、7人ほどいる。そのうちの2人の選手について紹介したい。
1人目は、ジオ・ロウ(Geo Lauw)。南アフリカ出身で、183cm、90kgとユニオンでは比較的大型なCTB。母国では若くしてヨハネスブルグのゴールデンライオンズU19チームでプレーするなど、ジュニア世代から才能を発揮してきた。

ユニオン(15人制)では主にスクラムハーフ(SH)とスタンドオフ(SO)を担ってきたユーティリティバックスだ。日本に来日したのは、父親が1995年に兄の空手世界選手権に同行した際に受けた日本文化と技術への感銘が大きい。
当時から父親が日本を高く評価していたことに加え、2015年ワールドカップで日本代表が南アフリカを破ったことが大きかった。
その試合を見て、急速にラグビーが成長している国でキャリアを追求したいという強い野心を持った。それが来日の理由だ。
彼も5年の居住条件を満たし、念願の日本代表ジャージに袖を通すことになった。
2人目は、竹内仁之輔。法政大学ラグビー部で副将を務めていた2nd Rowの選手である。大学卒業後に一旦一般就職し、ラグビーからは離れていた。だが、大学時代の同期の誘いをきっかけにラグビー・リーグを始め、今回めでたく初選出となった。
リーグへ転向した理由について、「プレーのかっこよさとダイナミックさに惹かれたのと、単純に周りと違うことをやってみたかった」という。彼のように、新しいチャレンジとして13人制の世界に足を踏み入れる選手が増えていることも、日本ラグビー・リーグの広がりを感じさせる。
私自身も2022年より代表でプレーしており、今回で4キャップ目となる。2nd Rowとしてプレーする予定だ。

◆試合の放映とフェスティバル情報。
試合は広尾町コミュニティグリーンパークで開催され、10月19日(日)の10時に開場、入場は無料だ。
現地では、ラグビー日本代表×ニウエ代表の熱戦だけでなく、「スポーツ体験爆上げ祭2025」として、グルメ屋台の出店など家族や友人と一日中楽しめる企画が盛りだくさんだ。
本試合・イベントの統括を務めるのは、日本ラグビーリーグ協会CEOの小西周氏。ヘッドコーチは、本場オーストラリアでもプレー経験を持つ中嶋恭一郎氏が務める。
試合は13時キックオフ。試合の様子は、協会公式YouTube内で放送される予定。遠方の方も、現地の熱気を感じられるチャンスがある。
13人制ラグビーの迫力、南太平洋の強豪との国際試合、そして地域コミュニティの祭典──ラグビーの魅力を丸ごと味わえる一日になること間違いなしだ。
◆まとめ。
私自身、アメリカのMLRの下部リーグでプレーしていた。しかし社会人になってから、コンサルでの厳しい仕事環境と、当時の所属チームのようなしっかりとした環境でのプレーを両立させるのは難しいと思っていた。
一方で、どこか心の中に、「限られた時間の中で思いっきりプレーする機会も持ちたい」という希望も持っていた。そんな中で出会ったのが、ラグビー・リーグ(13人制)だった。
フィジカルの強度、スピード感、そして一瞬の判断と体のぶつけ合いで勝負が決まるシンプルさ──フォワードとしての自分にはぴったりだった。
アメリカでの経験を通じて、グローバルな環境でラグビーをする楽しさを知っていたことも大きい。国籍や文化を超えて、同じグラウンドで一体になる感覚。その「グローバルな熱狂」が、ラグビー・リーグの世界にもあった。
日本ではまだ13人制ラグビーの選手も環境も多くはない。これまでプレーしてきた先輩たちが、私たちを可愛がってくれたことで、なんとか紡ぎ上げられてきたものだ。
だからこそ、この記事や代表戦をきっかけに、少しでもこの競技に興味を持ってくれる人、挑戦してみたいと思う人が増えてほしい。
そして、ぜひ日本代表「サムライズ」を応援してもらえたら嬉しい。