
9月、同じようなコメントを2人の選手から聞いた。
1人目は日本代表としてパシフィックネーションズカップ(PNC)に臨んだFL奥井章仁(トヨタヴェルブリッツ)だった。現地6日のアメリカ戦で初キャップを獲得した後、言った。
「バックローはサイズ、大きさが求められるが、そういうものを越えてプレーしている姿を見せたい」
身長は178センチと、リーグワンのFWの中では小柄な部類に入る。国際舞台となればなおさらだ。
それでも、PNCではアメリカ戦と決勝のフィジー戦の2試合に出場。試合に出れば粘り強いタックルで存在感を発揮していた。
サイズが小さいとの自覚は、かつてからあった。一時はフッカーに転向することも頭の片隅をよぎったという。だが、フランカーというポジションで出続けることを決めた。

「誰よりもハードワークして、チームのために体を張って、痛いところ、しんどいところに突っ込んで。そこで頑張っていきたいし、僕にしかない強みを出したい」
大阪桐蔭高、帝京大を経てトヨタに加入した24歳は、苦しいことを楽しめるのだろう。だから、身長の小ささを理由に諦めることはしなかった。
「僕みたいなサイズの選手が代表で頑張り続けることは、僕以外の人を勇気づけられることもあると思っているので」
奥井は10月から始まった代表合宿にも招集され、代表定着への道を一歩ずつ歩んでいる。
もう1人は早稲田大学の副将、田中勇成からだった。
「身長が小さいけれども続けたい」
早大のユニホームには今季からスポンサーロゴが入る。そのお披露目会見の後、記者たちに囲まれ今後について話した時に出てきた言葉だった。
田中のポジションもフランカー。身長は166センチと大学レベルでも小さい。それでも、低さを武器にしたタックルで先発の座をつかんでいる。
今後は、リーグワンでのプレーを希望しているという。

リーグワンを巡っては今年5月、選手登録の規定を見直す議論があった。
選手登録は現在、主に日本代表資格がある「カテゴリA」、日本代表資格を取得できる見込みのある「カテゴリB」、主に他国・地域代表での選出経験のある「カテゴリC」に分かれる。
このうち、2026-27年シーズンからカテゴリAを細分化する。A1には「義務教育期間9年間のうち6年以上で日本滞在」、もしくは「本人、または両親祖父母のうちの1人が、日本生まれ」という条件がつく。A2は日本のチームに4年間、継続的に登録されている選手が当てはまり、日本代表として30試合以上に出場した場合はA1とする例外規定もできる。
カテゴリAは同時に11人以上が試合出場する必要があったが、新制度ではA1で8人以上となる。
規定見直しの背景には、リーグ側の危機感がある。関係者の1人は「(日本出身の選手が)大学卒業後にリーグワンに進むことをためらう、という声もあった」。
現状、海外出身選手が各チームで存在感を発揮している。その中で、さほど体格に恵まれていない日本出身選手が、リーグワンでプレーすることを避ける傾向が一部であるという。
リーグワンの東海林一専務理事は、制度の導入について「若年層の競技者がリーグワンでのプレーを具体的な目標として捉えることで、日本ラグビーの発展に寄与することを目指す」と説明する。
今も新卒一括採用の風潮が根強い日本にあって、大卒後の進路選択は重要だ。試合に出られるか不透明な環境に飛び込むよりも、ラグビーをやめて社会人としての道を歩むという選択をすることは理解できる。私もそのような立場に置かれたら、競技を続けるかはわからない。
一方で、いばらの道を進む者を応援したくなるのも人情だろう。体格という自らの努力で変えることに限界のある要素を受け入れ、何ができるか考えてプレーを続ける選手たち。生まれもったものだけが全てではないのが、スポーツの魅力でもある。

奥井と田中の話を聞いて、少し前にも別の誰かが似たことを言っていたような、と思い出した。音声ファイルを探すとあった。
今年1月5日、東芝ブレイブルーパス東京のCTB眞野泰地だった。身長は172センチ。私とほぼ同じ高さの目線で言った。
「これからちっちゃい大学生、ちっちゃいセンターも(リーグワンに)来てくれると思いますけど、そういう人も輝ける場所じゃないとだめだと思うんで。(海外出身選手に)負けられないというプライドをもってやってます」
その眞野は2024-25シーズンのリーグワンプレーオフ決勝で先発し、チームの2連覇に貢献している。次世代のお手本は確かにいる。
【プロフィール】
藤野隆晃/ふじの・たかあき
朝日新聞スポーツ部記者。1994年4月2日生まれ、埼玉県出身。中学ではサッカー部に所属し、進学した県立川越高校でラグビーを始める。ポジションはウィング。一橋大学卒業後、朝日新聞社に入社し、山口、和歌山、東京で勤務。ラグビー以外にはサッカーやパラスポーツも担当している。今も時々、タッチフットで汗を流す。