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【Just TALK】「僕じゃなくても、誰でも走れます」。森山飛翔[帝京大3年]
機動力もパワーもあり。9月27日の日体大戦ではトライも挙げた(撮影/松本かおり)

【Just TALK】「僕じゃなくても、誰でも走れます」。森山飛翔[帝京大3年]

向 風見也

 9月27日、森山飛翔(つばさ)が躍動した。

「…いえいえ」

 謙遜する帝京大3年の右プロップは同日、東京・秩父宮ラグビー場での関東大学対抗戦A・第2節に出ていた。日体大とぶつかった。

 前半11分。ハーフ線付近の中央左寄りの位置でスクラムを押した。

 味方が好配球、好走で敵陣ゴール前右まで攻め込んだところで、左へ連なる攻撃ラインの深い位置へ森山がポジショニング。対面の死角で、スタンドオフの本橋尭也からボールをもらった。

 加速した。前方に2人のタックラーが待ち構えていたところ、1人目をハンドオフでいなし、2人目を蹴散らした。さらなる追っ手にも当たり負けせず、トライラインを割った。13分、12-0。

 その後も接点周辺でのタフな突進、ランナーへの援護を重ねた。

 さらにわかりやすくスタンドを沸かせたのは、40-0で迎えた36分頃だ。

2004年4月7日生まれ。180センチ、112キロ。あおぞら少年少女ラグビーチーム(小5〜)→藤森中→京都成章→帝京大医療技術学部3年。2024年には日本代表にも選ばれる。高校日本代表、JAPAN XVの経験も。(撮影/松本かおり)


 敵陣10メートルライン付近左中間で、不揃いな防御網の切れ目へ駆け込んだ。絶妙なためを作った本橋から、ゴールラインとほぼ平行なパスを得た。低重心の快走。22メートル線を越えた。

 ステップとポップパスでチャンスを広げ、39分までにトライライン近くの相手ボールスクラムを押し返すなどして47-0と点差を広げた。

 件のパフォーマンスについて問われ、まずは「いえいえ」とのみ応じたのだ。

——今回の働きについて。

「きょうは(展開上)タックルをする機会が少なくてディフェンスのレビューはないのですけど、アタックのところではもういっこ、自分からヒットしていければ、もっといいプレーができたと思います」

——ご自身のトライシーンのように、相手をしなやかにかわす場面も印象的でしたが。

「スペースがあったので。自分の結果というより、チームがスペースを作ってくれたおかげです」

——パスの出し手である本橋選手は、出身の京都成章高時代にはともに共同主将を務めていました。

「仲、いいんで」

 身長180センチ、体重112キロ。肩幅と腰回りが大きいのに引き締まった印象も与える。縁の下を支える働き場を全うしながら、明確なインパクトを残せるのが強みだ。

 この午後は113-7で2連勝を決めた。

 コンディション面の配慮から後半11分に交替を命じられた本人は、大学選手権5連覇を狙うクラブ(過去にはV9も達成)の主軸として自覚を語る。昨春選出の日本代表についての質問へも応じた。

——春から夏にかけ、どんな段階を踏んでいますか。

「スクラムはだんだんチームとしてまとまって押せるようになりました。いい成長ができています。ディフェンスでも——きょうは機会がなかったですが——タックルの繋がりがよくなっています。ここを、早稲田、明治(上位との対戦)に合わせて、高めていきたいです」

——今季は青木恵斗前主将、本橋拓馬前副将といった、ルーキーイヤーから活躍した上級生フォワードが抜けています。

「たぶん、僕もこれからリーダーになっていかないといけない存在です。チームとして、いっこ、エナジーに欠けるところがあるので、そこは自分がリードしたいです。もういっこ、フォワードとして前に出られたら帝京は強い」

——「エナジーに欠ける」。どこでそう感じますか。

「去年はフォワード戦でも、スクラムでも、ディフェンスでも前に出られていたからフォワードが元気になることが多かったけど、今年はバックスに助けてもらうことが多い。どんどんフォワードからも仕掛けていきたいです」

国際舞台で戦える3番を目指す。(撮影/松本かおり)


——いまは大学シーンを盛り上げていますが、いずれは国際舞台への挑戦も期待されます。

「パシフィックネーションズカップ(日本代表が8~9月に参戦して準優勝)を見ていると、竹内(柊平=ジャパンの右プロップ)さんが多くのいいキャリー、タックルをしていました。自分もそこを目標にしつつ、どういう選手になるかをしっかり考えながら、世界で戦えるような選手になれればと思います」

——「どういう選手になるか」。現時点で目指す像は。

「3番らしくない3番をテーマにしています。ワークレートを上げて、タックルして、キャリーして、スクラムでも勝つ選手になりたいです」

——例えば、在学中に再び日本代表に選ばれそうな感触はありますか。

「…それはわからないですね。でも、僕が思うにジャパンというのは、日本で一番強い選手がいくべきところ。そこに僕はまだ到達していないです。外国人が相手となると、セットプレーの安定、コンタクトの強度も足りていない。帝京にいて幸せなことは、チームに留学生がいることです。ここで、どんどん自分で積極的にやっていきたいです」

 驚くべきデータがある。

『ラグビーマガジン 10月号別冊付録 全国主要大学チーム 2025年度 写真名鑑』において、自己申告と見られる「森山飛翔」の「50m走のタイム」の記録が、何と2024年度の小学生3年生男子の平均(スポーツ庁調べ)とそう変わらない「10.0」だったのだ。

「…はい。それくらいです。だいたい」

——本当は、もっと速いのではないですか。

「もしかしたら、速くなるのかもしれないです」

 数字をファンタジーにくるんで微笑み、こうも述べた。

——では、試合でいい走りができるのはなぜでしょうか。

「チームとしての枠組みに入れているからです。(注目された場面も)僕じゃなくても、誰でも走れます。皆がチームでどういうアタックをしなければいけないかがわかっているから、それがいいランに繋がっているのだと思います」

自然体のムードメーカー。(撮影/松本かおり)


——「枠組み」に沿って動きながら、攻略すべき空間が見える。

「見せてもらっている、という感じです。尭也がうまいので。あいつが仕掛けてくれたところで、空いているところへ走るだけ。見せてもらっているだけです」

 高校から一緒だった前出の本橋は、森山へ繰り出した複数のパスについて「いつもいてほしいところに彼(森山)がいてくれる。あとはそこに放り込むだけ。そういうシーンは練習でもよくあります」。受け手とほぼ真逆の感想を述べた。

 さらには、同志のムードメーカーぶりも紹介した。

「ユーモアのある人。高校の時よりも、また面白くなったのかなと。楽しんでいる印象が強いです。苦しい練習の時でも彼の『うわーっ』という声出しで笑う雰囲気になり、少し楽になる部分もあります」



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