
ニュージーランド(以下、NZ)の名門チーム「カンタベリー代表」で活躍する日本人女性がいる。
𠮷田琳恒(よしだ・りこう)。
2022年に16歳(高校1年)でNZに渡り、クライストチャーチのラグビー強豪校のクライストチャーチ・ガールズ・ハイスクール(以下、ガールズハイ)に入学。そこから𠮷田のNZラグビーの挑戦が始まった。
高校3年間でラグビーを磨き、現在はカンタベリー大学に通う19歳。ポジションはCTB。現地では『Riko』の愛称で親しまれている。
◆楕円球との出会い。
父がラグビーをしていた影響で、兄・新(あらた)と共に茅ヶ崎ラグビースクール(神奈川県)に通い始めたのは、わずか3歳の時だった。
「無理やりやらされたので、最初は嫌々でした」笑いながら当時を振り返る。しかしいまや、現地選手でさえ代表入りが難しいカンタベリー代表の一員としてプレーする存在に成長した。
◆あこがれの選手を追ってNZの強豪校へ。
𠮷田がNZに渡ったきっかけは、憧れの選手、FLジョージャ・ミラーの存在だ。セブンズの大スターで、イングランドで開催された先の15人制ワールドカップでもブラックファーンズのメンバーとして驚異的なボールキャリーで世界を沸かせた。

「ミラーが通っていたガールズハイに入りたい」との強い思いが、渡航の気持ちを後押しした。
「あんなに凄い選手になっても謙虚で、常に上を目指す姿に感動する」と語り、ミラーの話をする時は表情が和らぐ。
ミラーは17歳の時にカンタベリー代表で1シーズンプレーしており、𠮷田は「ミラーがプレーしたカンタベリー代表で自分もプレーしていることが、とても嬉しい」と誇らしげに話す。
2022年にガールズハイに入学した𠮷田は、高校2、3年時(2023、2024年)に南島代表になり、Top4(全国大会)に出場。個人として、高校2年生でカンタベリーU18 代表、高校3年生では、大人に交じって最年少で堂々のカンタベリー代表に選ばれる快挙を果たす。
さらに18歳でNZ・U20ディベロップメントキャンプのメンバーにも選出され、高校生ながらNZ国内で実力を認められた。
2025年もカンタベリー代表、そしてNZ・U20ディベロップメントキャンプのメンバーに再び名前が挙がった。「NZラグビー協会から認められたことは、素直に嬉しい。しっかり見てくれて感謝しています」と語り、モチベーションを高めている。
◆カンタベリー代表で学ぶ「ナレッジ」。
2024年8月10日、NZ女子州代表選手権FPC(ファラ・パーマー・カップ)でカウンティーズ・マヌカウ戦に出場。高校3年にして赤黒のジャージでデビュー。同年は6試合に出場した。
迎えた2年目の今年は、プレーに余裕が出てきた。主にCTB(13番)で先発、時々WTBでも出場する。
カンタベリー代表のメンバーには、NZ代表(ブラックファーンズ)経験者を始めブラックファーンズXV、スーパーラグビーの選手が何人かいる。そんなレベルの高い環境の中にいる𠮷田は「スピード、フィジカル、スキルなど学ぶものが多い。そしてラグビーのナレッジ(knowledge)、IQが高い」と語る。
今年はリーダーミーティングにも参加し、「ディフェンスに力を入れ、状況判断が良くなった」と自身の成長を実感している。

𠮷田の強みは、正確なプレーに加え、高いスキルと状況判断の良さ。巧みなランニングスキルでスペースに走り込み、ディフェンスを引き付けつつ、外側のWTBに確実にボールをつなぐ。その安定感は、まさに「THE 13番」と呼ぶにふさわしい。
男女を問わず日本人選手の課題となることが多いフィジカル面でも、タックル、ブレイクダウンと、しっかり身体を張れる。「カンタベリーアカデミーで、専門的に(トレーニングについて)指導されるので、フィジカルのレベルもだんだん上がってきたと感じている」と語り、NZのしっかりしたシステムの中で自身の成長に手応えを感じているようだ。
※【カンタベリーのアカデミー】カンタベリー代表とは別の制度のハイパフォーマンスのグループで、年間を通してジムやスキルのトレーニングをおこない、選手の強化を図る仕組みになっている。
◆FPC準決勝でカンタベリーのキャップを贈られる。
FPC準決勝(9月27日)、カンタベリーの本拠地ラグビー・パークでおこなわれたマナワツ戦に𠮷田は13番で先発出場した。試合は、後半途中まで22-22と緊迫した展開に。最終的にカンタベリーが39-22で制し、9年連続で決勝進出を決めた。
試合後、𠮷田は通算12試合出場選手に贈られる「キャップ」を授与された。試合中の精悍な顔つきから一転、嬉しそうな笑みを浮かべた。

レベルの高い環境にいることに関し、「ラグビー選手として、特に女性アスリートとして、外国で頑張るというのが難しいと思う」、「日本人女性でスーパーラグビーやFPC(NZ国内州代表選手権)でプレーするのは特別なこと。これからが楽しみです」と意欲を示す。昨年の齊藤聖奈(チーフス)、永田虹歩(ブルーズ)に続き、𠮷田のスーパーラグビーデビューも十分に期待できる。
試合後のインタビューの途中、子どもたちにサインをねだられた。 子どもたちに話しかけながらサインをする姿から、すっかり現地になじんでいると分かる。
◆カンタベリー、3年ぶりの王座奪還へ。
今後について尋ねると、「まずは来週(10月4日)のFPC決勝で勝ちたい」と決戦に向けて意気込む。
カンタベリーは2017年から9年連続で決勝に進出。2022年の優勝以降は2年連続準優勝と悔しい結果が続いている。今年の決勝の相手は、昨年25-27で敗れたワイカト。まさにリベンジマッチだ。3年ぶりの王座奪還を狙う。
まだ19歳の𠮷田琳恒。名門カンタベリー代表での経験を積み重ねながら、スーパーラグビーを狙う日本人女性として異国で堂々と戦う。
𠮷田の挑戦は続く。
