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【竹内柊平を追う/上】自分を信じて10→8→2。清水皓平[九州共立大4年/HO]
バックスの経験を生かして視野を広く持ってプレーする九州共立大の清水皓平。(撮影/松本かおり)

【竹内柊平を追う/上】自分を信じて10→8→2。清水皓平[九州共立大4年/HO]

田村一博

 九州学生リーグが開幕した9月20日。試合会場の福岡県春日市、オクゼン不動産フットボールスタジアムで関係者の方々に会った時に言われた。

「日本代表やトップチームの試合に、このリーグやIPU出身の選手がいると、すごく嬉しいし、励みになるんですよ」
 翌日に予定されていたパシフィックネーションズカップ2025のファイナル、フィジー戦の日本代表メンバーが発表されていた。
 そこには、九州共立大OBの竹内柊平、IPU・環太平洋大学出身のティエナン・コストリーの名前があった。

「第2の竹内柊平を探しにきました」と九州共立大の松本健志監督に話すと、「うちのフロントロー、ロックは、みんないいですよ」と言った後、「竹内みたいになりたくてポジションを変えたという意味ではフッカーの清水かな」と返ってきた。

 試合は終盤に九州共立大が追いつき、PGで勝ち越す好ゲームになった。激戦のあと、なんとか勝利をつかんだ背番号2、清水皓平(副将)と話す。
 175センチ、105キロの4年生は、落ち着いてゲームを振り返り、高みを見る自分の胸の内を話した。リーグワンでのプレーを望んでいる。

自分たちの強い姿勢をキープして押した九州共立大のスクラム。中央が清水。(撮影/松本かおり)

 SH深浦晴のトライで先制したものの、前半を5-14とリードされ、後半序盤には5-17まで差を広げられる展開。
 しかし九州共立大は後半15分前後から落ち着いて差を詰めた。2つのトライ(1ゴール成功)で後半33分までに17-17と追いつくと、後半39分にPGで勝ち越してファイナルスコアを刻んだ。

 先発フロントローの中で唯一の4年生の清水は、「ずっとスクラム、フォワードの強みにこだわって練習をしてきました。それを苦しい場面で出せた。それはチームにとっても、自分にとっても良かったです」と話し、終盤のパフォーマンスを今後も継続して出していきたいと先を見つめた。

 多くのスクラムをコントロールしたが、ファーストスクラムでは相手に前に出られた。
「やられても試合の中で修正する、ということを菅平(の合宿)でも意識しました。その修正力も出せました」

 細部を語る。
「相手がバインドのときにちょっと下がる。そこに付き合わず、自分たちの強い姿勢を守りました。シンク(沈み)し、相手に体重をかけるのではなく、足を詰めました」
 膝を使い、「地道に進んでいくように修正しました」という。

 自身が決めた後半14分のトライについては、「4年生の意地」と表現した。
 残り30分を切って、12点のビハインド。「スコアと時間を見て、絶対に取り切らなきゃいけない、取り切るしかないぞ、と。ゴール前には自信があったし、(そこでスコアするのが)自分の仕事なので、チームのためにも必ずやり切るつもりでした」。

 昨季はリーグ戦で5戦全勝したものの、順位決定戦決勝で福岡工業大に14-15で敗れて全国大学選手権出場を逃した。
 日本文理大はリーグ戦で4位、順位決定戦で3位。その相手との2度の対戦では41-5、55-26と勝ち、今春の練習試合でも勝利していたから、今回戦う前の下馬評では九州共立大有利が多くの人の予想だった。

九州共立大も日本文理大も、一人ひとりの選手たちが強みを出して熱戦となった。【写真左上】日本文理大のHO林田治樹主将。【写真上中央】ハードなボールキャリーを見せた日本文理大FLクリストファー・モリ。【写真右上】九州共立大の控え部員たちは大声で応援し続けた。【写真中段】キックチャージにいく九州共立大FL柴田航世。【写真左下】ハードタックルと正確なキックで活躍した九州共立大CTBモへノア シアオシ。【写真右下】最後まで競る好ゲームとなった。(撮影/松本かおり)


 しかし、予想外の苦戦。慌ててもおかしくなかった。清水も「全然予想していなかったです」と正直に言う。
「ただ、ハーフタイムでしっかり話したことで自分たちの問題点を改善できました。後半も相手ペースの時間帯がありましたが、自分たちのペースでゲームメイクできるようになっていきました」

 力は自分たちが上、という意識も邪魔をしたかもしれない。
「(劣勢の間は)自分たちの力を2割、3割しか出せていなかったので押し込まれたし、簡単に(トライを)取ろうとしてミスも出た。なので、やってきたことだけをやろう、と声を掛け合いました」

 ラストシーズンを「悔いなく、チームでラグビーを楽しむ」と言う最上級生は、今季からHOとして試合に出ている。
 昨年まではNO8でチームの勝利に貢献していたが、卒業後も「もっと上のレベルでプレーを続けたい」と考え、ポジションを最前列に移した。
「将来を考えると、ナンバーエイトだとサイズを求められるし、大きな外国人選手との争いになると思ったので転向を決めました」

 小5の時、太宰府少年ラグビークラブに入った。それまでサッカーをしていたけれど、当時は体が大きかったからフィジカル面の強さを活かせるスポーツをやりたいと思い、楕円球を追い始めた。

 九州産業大学付属九州産業高校に進学してからは、初心者が多いチーム事情もあり、SOやCTBでプレーした。ラグビー経験者として、周囲よりパス、キャッチがうまかったからだ。

 九州共立大に進学してFWへ復帰。NO8としてレギュラーポジションもつかんだ。
 せっかく定位置を手に入れていたのに転向。引き続き試合に出られるわけでもないのに決断したのは、「自分なら頑張れる。自分ならやり切れる気持ちが強かったからです。2年生の頃から練習ではちょくちょく(フッカーを)して準備はしていたので、あとはやる切るだけ。チャレンジしようと決めました」

「今日の終盤のパフォーマンスを続けていかないと」と清水。(撮影/松本かおり)


 正直、4年間の途中で上を目指す気持ちが緩んだ時期もあった。しかし、上級生たちが卒業して責任感が増す。自分にも厳しい目を向けるようになった。
 ウエートトレに励み、「ブロンコテスト(フィットネステスト)も毎回自己ベストを出すことを目指しました」
 その視線の先にはOBで、日本代表やリーグワンで活躍する、竹内柊平先輩の存在があった。

「(竹内先輩は)菅平合宿の前にも共立に来てくれて、いろいろ教えてくれました。僕はフッカーの経験が浅いので、他の選手より基本スキルがまだ(足りない)。そういう状況でどう対応すべきか。(瞬時に)体を固めて(強く)動くとか、相手に付き合わず自分の強い姿勢を貫くとか、そういったことを教えてくれました」

 バックス時代の経験を生かし、周囲を感じ、前を見てプレーする強みを持っている。日本文理大戦でラインブレイクしたのも、「スペースが見えたので走りました」。
「あそこ、タックルを受けた後に(竹内先輩のように)すぐに立ち上がり、もう一度走ろうかとも思いましたが、雨も降っていたので(ミスを)びびってやめたんです」
 しかし、できるだけ前に進もうとする意識を常に持ってプレーすることこそ、憧れの人に近づくために必要なこと。「自分ならやれる、と信じてやり切ります」と意志は固い。

 卒業後の進路はまだ決まっていない。リーグワンでプレーしたい。
「そのためにも、自分の強さと共立の強さを見せるシーズンにしたいと思います」の思いが結実したら、そのあとに続く後輩たちも次々と現れるだろう。
 地方に光をあてる存在に自分もなる。




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