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【筑波大 28-24 明大】SH高橋主将→WTB濱島で決めた劇的逆転勝ち。LO白丸智乃祐[3年]、FWの積み重ねを語る。
昨季は全国大学選手権出場を逃した筑波大。高橋佑太朗主将は1月に練習開始、チームを牽引してきた。(撮影/松本かおり)

【筑波大 28-24 明大】SH高橋主将→WTB濱島で決めた劇的逆転勝ち。LO白丸智乃祐[3年]、FWの積み重ねを語る。

田村一博

 記録シートには後半45分と記された。
 背番号14の濱島遼がトライラインを越え、21-24が26-24に。SO楢本幹志朗のコンバージョンキックも決まり、ファイナルスコアの28-24が刻まれた。

 2025年9月14日に茨城・ケーズデンキスタジアム水戸でおこなわれた関東大学対抗戦Aの第1節で、筑波大が明大に勝った。
 関東大学対抗戦の同カードで筑波大が勝ったのは50-10と圧倒した2013年以来、12年ぶりのことだった(翌年度の全国大学選手権セカンドステージでも筑波大が43-7と勝っている)。

WTB濱島遼の逆転トライ。この日の観客数は1566。(撮影/松本かおり)
劇的トライを挙げた濱島のもとに仲間たちが駆け寄った。(撮影/松本かおり)


 今回の勝利は、もつれた末に手にした。明大に先制されたものの(前半19分)、26分、34分にトライを重ねて14-7として前半を終える。
 後半に入るとシーソーゲームとなった。

 10分、16分と明大にトライを許して逆転される(14-17)。35分にFL中森真翔がトライ、SO楢本がゴールキックを決めて21-17とリードするも、それでは終わらなかった。

 後半36分のスクラムでコラプシングを取られ、PKで攻め込まれる。ラインアウト後、ふたたび反則。PK→ラインアウトからの攻撃で、途中出場のLO物部耀大朗に防御を破られ、インゴールに入られた。SO伊藤龍之介のゴールキックも成功し、21-24とされた。

 そこから冒頭のシーンを迎えたのだから、筑波大はラストシーンを集中力高く戦った。
 残り2分というレフリーからの声を聞いた後、リスタートのキックオフ。そのボールは確保できなかったが、相手キックのレシーブから左サイドを攻めて敵陣侵入、そしてPKを得た。
 さらに前進。ラインアウトからFW、BK一体となった攻撃を10フェーズ重ねた後、SH高橋佑太朗主将のラストパスがWTB濱島に通った。

【写真左上】後半16分、明大SO伊藤龍之介がトライ、14-17とした。(撮影/松本かおり、以下同)
【写真左中】明大は後半40分にLO物部耀大朗のトライで逆転(Gも決まり21-24)するも……。
【写真左下】この日、明大のゲームキャプテンを務めたFL利川桐生。
【写真中上】筑波大はスクラムでも奮闘。
【写真中下】接点でも積み上げてきたものを出した筑波大。
【写真右】勝利の瞬間拳を天に突き上げた筑波大SO楢本幹志朗。


 嶋﨑達也監督は、昨季全国大学選手権出場を逃した後のチームの姿勢を見てきた。高橋主将を中心に一貫して努力を積み重ねたことを評価し、「やってきたことを出し切ってくれたゲーム。実力は明治に届くと信じていました。最後によく頑張った」と選手たちを労った。

 夏合宿での明大との練習試合では、Aチームのメンバーで戦った前半を0-22と圧倒された(最終スコアは31-22で勝利)。高橋主将は合宿終了後、そのスコアを毎日掲げて「ひっくり返そう」と練習したことを話した。
「それが、前半から相手に接点でプレッシャーをかけることにつながったと思います。全員がやってきたことを体現できました」

 勝因を問われた嶋﨑監督は、「セットプレー」を挙げた。
「そこは負けないと思っていたし、(実際)対等以上だったと思います。そこを基盤に戦えました」
 シーズン全体を睨み、枝葉は戦っていく途中にもつけられるが、それも、土台や幹となる部分、地の力をどうつけるかが大事と考え、地道に積み上げてきた。この日は、「戦える自信を持って臨めた試合でした」という。

 実際、筑波大FWは、ラインアウトやスクラムで十分に戦えた。明大は看板のFWが優位に立てず、本来の迫力を欠く。
 紫紺のジャージーは、特にラインアウトで苦しむ。マイボールをうまく確保できないシーンが多く、勢いを生み出せなかった。

強烈なタックルを見せる筑波大LO白丸智乃祐。(撮影/松本かおり)


 この日、その領域で貢献度の高い働きを見せたのが、LOの白丸智乃祐(しろまる・とものすけ)だった。
「筑波はラインアウトを強みにしているチーム。どの試合でも、そこが自分たちの心の拠り所になれるように高めたい」と言う3年生は、先頭に立って相手にプレッシャーをかけ続けた。

 この日は「明治のラインアウトを研究してきたので、試合前から自信がありました」という。
「どういう傾向があるのか、自分の目で見て準備をしてきました。相手が結構その通りにプレーしてきた」
 自分担当のラインアウトディフェンスで成果が出たから「気持ちよかったです」と表情を崩す。

 明大の特徴や試合の中での選択を細部まで見てきた日々がある。相手ボールのラインアウトで、それぞれのプレーヤーがどう動くか把握していた。「それをチームの中で共有してプレーしました」。
 スローイングの位置やジャンパーの確定など、「はったり(予測したり)、動きを読むのが得意」だ。それを声に出して味方に伝えることは、相手の決断に迷いを生じさせた。

「明治は、ラインアウトの時に(プレー選択の)時間がかかるようになっていました」
 相手がプレッシャーを感じていると思えば、逆にこちらは勢いが出る。FWが強みのチームに対し、その武器を封じて勝つ展開は「いい収穫」になった。

185センチ、107キロとサイズに恵まれる3年生の白丸。2004年12月14日生まれの20歳。小学生の時に諫早クルセイダーズでタグラグビーに興じ、中学時、長与ヤングラガーズでラグビーを始める。長崎北陽台高校では3年連続で花園に出場し、3年時は主将。高校日本代表にも選ばれる。2024年にはJAPAN XVのパシフィックチャレンジメンバーに選出された。(撮影/松本かおり)


 ディテールにこだわり、時間をかけて積み上げてきた「筑波スクラム」も奮闘した。相手にプレッシャーをかけるシーンがあった。
 日本代表の竹内柊平が来て、教えてくれたことも自分たち用にカスタマイズして活かす。そんな積み重ねがあるから、「夏ぐらいからどんな相手にもプレッシャーをかけられるようになってきていたので、きょうも自信がありました」(白丸)。

 185センチ、107キロの体躯を誇る白丸は長崎北陽台出身。小学校時代、諫早でタグラグビーに興じたのがラグビーへの入り口となった。中学時代から、北陽台と筑波大のラグビーに憧れていた。描いていた道の上を歩み、いまここにいる。

 高校時代は主将を務め、高校日本代表にも選ばれた。「チームのプレースタイルが好き」、「教員になりたいし、一人暮らしもしたい」という理由で筑波大を目指した。
「選手が自分で考えてプレーする。そして決まりがない。北陽台も似た感じなので(志しました)」
 一人暮らしは、「自分で料理を作ったりするのも好きで」。大きな体でキッチンに立つ姿を想像すると、なんだかかわいらしい。

 昨季の筑波大は初戦で慶大に勝った(34-12)ものの、その後失速。関東大学対抗戦で3勝4敗、6位となり、全国大学選手権出場を逃したから今回の明大撃破にも気持ちを引き締める。
「慢心せず、一戦一戦相手の研究をして戦い、筑波の良さを出せるように取り組んでいきたいです」

最終的には教員となる夢を叶えたいが、プロセスは思案中の白丸。ラグビーをもっと突き詰めたい気持ちもある。(撮影/松本かおり)


 このチームは1月から始動した。午前6時30分からウエートトレや朝練をおこない、ミーティングも増やした。以前と行動を変えることで成長できると信じた。
 量を増やすだけでなくクォリティーも高めた。例えばラインアウトなら、「一つひとつの練習を突き詰め、こだわる。一回一回、ちゃんとできたか、どこが悪いか話し合います」。

 そんな丁寧な時間を過ごしてきたから、残り時間がほとんどない中で明大に逆転されても慌てなかった。「(そこまで)アタックしたらスコアできていたので、諦めずにプレーしました。全員が同じビジョンを持って動けたと思います」。

 同期(3年生)の人数は他の学年より少ないが、「臆することなく自分たちからアクションを起こしていこう」と頼もしい。
「4年生の陰に隠れていた時期もありましたが、夏ぐらいから(同期同士で)自分たちから行動してチームを支えていこうと言っています」

 次戦、慶大戦は9月28日(秩父宮ラグビー場)。日々こだわって練習を重ね、させに進化してその日のキックオフを迎えたい。




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