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【アルゼンチン 52-17 ウルグアイ】地球の裏側での記者会見でマイクが回ってきた。で、分かったプーマス、後半覚醒の理由
ウルグアイ戦でプーマスの12番としてプレーしたフスト・ピカルド。(Getty Images)

【アルゼンチン 52-17 ウルグアイ】地球の裏側での記者会見でマイクが回ってきた。で、分かったプーマス、後半覚醒の理由

中矢健太

 52-17。アルゼンチンがウルグアイを圧倒した、とスコア上は見えるかもしれない。だが、前半のスコアは12-7。前後半は、まるで異なる40分となった。

 ブエノスアイレス、サンファンに続き、チリやボリビアとの国境にほどなく近い街、サルタで行われたアルゼンチン代表ロス・プーマスの3戦目(7月19日)。相手は近年、着実に力をつけているウルグアイ。南米の国際リーグ、スーペル・ラグビー・アメリカに参戦しているペニャロールというチームは、いわばウルグアイの準代表チームだ。今季は同リーグで優勝を果たしている。

 今回の先発メンバー15人のうち、9人はペニャロール所属。元ウェールズのヘッドコーチであり、過去にB&Iライオンズも率いたウォーレン・ガットランド氏が今年5月、チームのアドバイザーに就任したことでも話題になった。

ハーフタイムには地元サルタ発祥の「ザンバ」という民族舞踊が披露された。(筆者提供)


 前半開始2分、アルゼンチンはラインアウトモールからペナルティトライを奪い、あっさり先制する。同時にウルグアイのFLルーカス・ビアンキがシンビンとなり、一気に流れは傾く。その3分後には、ポスト正面で得たペナルティでゴールを狙わず、タッチに蹴り出した。この試合を圧倒して制する、という意志の表れだった。

 しかし、ここからまったく試合が動かなくなる。アルゼンチンは何度も敵陣22メートル内に攻め込むも、オフロードパスがうまく繋がらなかったり、トライ目前でボールを取りこぼしたりと、なかなか獲りきれない。この日がデビューとなった11番のサンティアゴ・ペルナスは、裏のスペースへと転がった決定的なボールを取り損ね、ボールをボードに投げつけた。フラストレーションが溜まっているのは明らかだった。

 そこに相乗するように、ウルグアイがブレイクダウンに速いプレッシャーをかけ、スティールを連発させる。ただ、そのウルグアイもボールを持てば、なかなかフェーズが続かない。インプレータイムは極端に短く、会場からはため息が漏れるような雰囲気が漂った。

勝利したアルゼンチンにはホッとするような空気が。対してウルグアイは前半が良かっただけに、悔しい敗戦となった。(筆者提供)


 前半終了時のスコアはたった5点差。41分にアルゼンチンの13番マティアス・モローニが相手を弾き飛ばして独走、なんとかリードで折り返した。だが、イングランド戦で浮き上がっていたディシプリンの徹底やブレイクダウンの精度など、同じ課題につまずいているのは間違いなかった。

 すると後半、アルゼンチンはまるで別のチームになったかのように、怒涛のアタッキングラグビーを見せる。1分にウルグアイのスタンドオフ、サンティアゴ・アルバレスがペナルティゴールで2点差に迫ったのも束の間、その3分後にはまたもモローニの美しいカットアウトから23番サンティアゴ・コルデロが押さえる。そこからおよそ5分に1トライのペースでトライを獲り続け、突き放しにかかる。

 後半11分、ここまでの試合にすべて先発出場している5番のペドロ・ルビオロに、危険なヘッドコンタクトによってイエローカードが出された。その後、バンカーシステムでレッドカードに切り替わったことで、残り20分を14人で戦う状況となった。だが、最後まで試合の流れは変わることがなく、その20分間も完全に支配、28点もの追加点を挙げた。前半に目立った6つのペナルティは2つとなり、7回のハンドリングエラーも2回まで抑えた。

試合後には残ったサポーターたちがチャントを歌って飛び跳ねていた。(筆者提供)


 ハーフタイムで、いったい何を変えたのか。
 試合後の記者会見は、10分という限られた時間の都合上、現地と対戦国のメディアしか質問できない暗黙の空気があった。しかし、この日はアルゼンチンのメディアマネージャーがこそっとマイクを私に渡してくれた。
 勝手な解釈だが、この1か月の間、チームをずっと追いかけ各地を転々とした私のことを気遣ってくれたのだろう。思い切って、フェリペ・コンテポーミHCに英語で質問をぶつけた。

 かつてプーマスのキャプテンも務め、サポーターの支持も高い名将はゆっくりと語った。

この日やっと笑顔が見えたアルゼンチンのフェリペ・コンテポーミHC。(筆者提供)


「ロッカールームでは、コンタクト、ブレイクダウンで勝つことについて話しました。それは、前半にウルグアイが私たちに対してやったことです。やはり、どのようなゲームでも優位にプレーするには、絶対にコンタクト、ブレイクダウンで勝つ必要があります。後半、選手たちはそれを実行しましたし、20分以上も一人少ない状況だったにもかかわらず、優位に試合を進められました。うまくできた部分だと思います。

 ラグビーはシンプルなゲームです。あるいは、思っているよりもずっとシンプルなものだと思います。私たちはチームのシステムを守り、前に出るラグビーをしようと立ち返りました」

 自分たちがやりたいこと、その原点に帰った。フリアン・モントーヤ主将も同様だった。

「ウルグアイがタフで、粘り強く、よく準備されたチームであることは分かっていました。フェリペが言ったように、前後半でまったく異なる内容になったと思います。後半は、コンタクトとブレイクダウンで優位に立つことができました。その点では後半を高く評価しますし、それを80分間、一貫して継続しなければならないことも理解しています。また、今日デビューした選手たちがよくやってくれたことにも拍手を送りたいです。スタジアムまで私たちを応援しに来てくれたサポーターにも感謝します」

イングランドとの第1戦でデビューを果たしたFBベンハミン・エリサルデ(写真上)と、このウルグアイ戦がデビューとなったCTBファウスティーノ・サンチェス・バラロロ(写真下)。結果はともあれ、プーマスにとって充実のシリーズとなった。(筆者提供)


 8月16日にはザ・ラグビー・チャンピオンシップが開幕し、初戦はコルドバでオールブラックスを迎える。主にヨーロッパのクラブに所属している選手たちに休暇を与え、経験の浅い選手を起用したこの3連戦について、コンテポーミHCは振り返った。

「(休養を与えている選手たちについて)この点については、はっきりさせておきたいと思います。ローテーションを求めているとか、特別なチャンスを与えたいとか、そういう訳ではありません。ヨーロッパでプレーしている選手に休養を与えているのは、彼らの健康のためです。休養をとらなければ、12か月もの間、休みなく試合に出続けることもあり得るからです。

 この3週間は、まさにチャレンジでした。アルゼンチン国内でプレーしている多くの若い選手と、ベテランの経験豊富な選手たち。彼らをうまく融合できるか、どのような形でチームを作り上げるか、全員で努力しました。その点でこの3週間はとても良かったと思います。なぜなら、多くの選手が私たちのフィロソフィーやトレーニングに順応してくれたからです。そして、プーマスのメンバーになるためには何が必要か、理解してくれました。

 若い選手たちのスタンダートは確実に上がりました。今後はそれを念頭に置いてトレーニングしてくれると思います」

 1勝2敗。イングランドには敗れたが、このシリーズで9人もの選手がテストマッチデビューを果たした。選手にとっても、プーマスにとっても、間違いなく今後の糧となった3週間だった。

プーマスの選手たちを一目見ようと、試合後は多くのサポーターが通用口に集った


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