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【太陽生命ウィメンズセブンズ】ながと『ユニティ』で復活V。ナナイロ惜しい。接戦相次ぐ
大会MVPに選ばれたのは、ながとの大谷芽生。ファイナルで2トライしたほか、2日間を通して活躍した。(撮影/松本かおり)

【太陽生命ウィメンズセブンズ】ながと『ユニティ』で復活V。ナナイロ惜しい。接戦相次ぐ

田村一博

 夏の夕暮れ前、日中の強い日差しもやや和らいで、ベイサイドのスタジアムは海風が吹き抜けていた。

 7月21日、前日から開かれていた太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2025・第2戦、北九州大会の最終日。ファイナルの舞台で対峙したのは、ながとブルーエンジェルス(以下、NBA)とナナイロプリズム福岡(以下、ナナイロ)だった。

 ナナイロにとっては、初めての優勝を地元開催大会で手にするチャンス。相手は強豪ながら、前日のプールステージでは26-14で勝っている。
 熊谷大会でも同カードで2勝した。今季は相性が良かったから、戴冠の期待を高めてキックオフを待つ人も少なくなかった。

 しかし終わってみれば、頂点に立ったのはNBA。スコアは31-12の完勝だった。
 開始直後の2分に辻﨑由希乃が左サイドで巧みなコース取りで防御を翻弄し、走り切ってトライを奪う。辻﨑はディフェンスでも働き、相手ボールを奪い取ってターンオーバー。味方のトライにつなげるプレーもあった(4分/アナ・ナイマシ)。

昨シーズンは年間王者の、ながとブルーエンジェルス。熊谷大会4位からの今季初V。(撮影/松本かおり)


 19-0で迎えた前半終了間際にも好走から、インゴールにボールを持ち込んで試合を決めるトライを奪いかけたが、相手のタックルを受けてロストボール。本人はうなだれたが、チームは勢いを失うことはなかった。

 後半に入ってトライを重ねたのは大谷芽生だ。
 開始1分にはチームメートとともに圧力をかけ続け、相手がこぼした球を受けてトライラインを越えた。6分にもターンオーバーから攻めた仲間をサポートし、スキを突いて仕留めた。

 後半に入ってナナイロも、レアピ・ウルニサウ、草野可凜のトライで反撃するもプレーがつながらないシーンも多く、差は縮まらなかった。
 大会MVPには2日間を通して強気でプレーしたNBAの大谷が選ばれた。

【写真左上】ファイナルで先制トライなど、チームに勢いを与えた辻﨑由希乃。【写真右上】ファイナルでは激しいブレイクダウンが見られた。【写真左下】ナナイロプリズム福岡、伊礼門千珠。鋭く走った。【写真右下】大会を通してトライを量産したナナイロプリズム福岡のレアピ・ウルニサウ。(撮影/松本かおり)


 熊谷でおこなわれた前回大会(6月21日、22日)では4位と、描いていたようなスタートを切ることができなかった昨季王者。今大会の開幕数日前にはチームを指導してきたロテ・ナイカブラ ヘッドコーチがプライベートな事情で突然チームを離れた。
 しかし、時間をかけて築き上げてきた勝利のDNAは失われていない。平野優芽主将は、「一人ひとりの勝ちたい気持ちが強く、グラウンドに立っている全員がそれぞれ100パーセントの力を出し切ってくれた」と仲間のエフォートに感謝した。

 熊谷大会を終えた後にチーム内から出たのは、ラグビーのプレーそのものより、チームとしてのまとまり、団結が欠けていたのではないかという反省だった。
 それを受けて、地元で短期合宿をおこなった。テーマは「ユニティー/Unity」。全員で三食を共にして、家には寝るのに帰るだけ。練習時間を増やすわけではなく、熊谷大会で感じたことやチームへの思いをそれぞれ話した。一人ひとりもどうしてこのチームでプレーしているのか。腹を割って話し、お互いを知ることでチームの空気は変わった。

 ヘッドコーチの突然の離任に心は乱れたが、全員がいろんな思いを秘めてハードワークはやめなかった。
 主将は、「ロテをリスペクトしていますし、彼のお陰でこのチームがある。そこは何も変わらない。だから、これまで(彼が)やってきてくれたことを体現しようと思いました。みんな、それぞれの思いを持って頑張ってくれたことが結果につながってよかった」と話した。

メンバーの気持ちを束ねて前に進めた平野優芽主将。(写真/松本かおり)


 今季に入って分が悪かったナナイロとの対戦にも不安はなかった。
「(今大会の)初日のパフォーマンスはあまり良くなかったのですが、2日目はTKMに苦しみながらも勝ち、前回大会優勝のパールズにも自信を持って臨み、勝った。決勝にも、自分たちに対しての自信を持って戦えました。前日ナナイロに負けた試合も、それぞれの努力、ハードワークは見えていので、ミスさえなくせば、と思っていました」

 その点については、決勝で先制トライを挙げた辻﨑も「昨日は昨日、と思っていました」と言った。
 今大会で自身が高いパフォーマンスを見せることができた理由については、「前大会では、自分が自分が、というところがありましたが、今回は余裕をもって、周りを見てプレーできた。結果、アジリティーや状況判断ができました」とした。

「私は小さいミスに気を取られがち。全部100点にしないといけないと思ってしまう」と自己分析し、インゴールでのボールをロストしたことにも触れ、「ハドルでみんなが、大丈夫だよ、取り返せばいいよ、と言ってくれたので切り替えられた」と仲間の存在を誇った。

 村杉徐司監督は今大会で、フォワードに勢いをつけたくて大谷をフッカーで起用し、辻﨑をバックスにしたことで攻撃にタメが生まれたと話した。
 一人ひとりが目の前の状況を見て判断し、強くプレーすることも奏功したと振り返った。

「チームに貢献できたところはあると思いますが、(自分の出来が)すごく良かった、ということはなかったと思います。次の大会で、さらにいいプレーをしたい」というMVPの大谷は、フッカーでの起用に、こう心掛けてプレーした。

「キックオフの獲得や、取れなかったとしても、そこでのタックルがチームで試合の流れが決まるので、自分の(強みである)強気なプレーでチームにいい流れを持ってこられるように、と意識しました」

 キャプテンが言うように、グラウンドに立つ全員がそれぞれの役割を遂行してつかんだ勝利だった。

地元での優勝まであと1勝だったナナイロプリズム福岡。(撮影/松本かおり)


 地元大会での優勝を逃したナナイロの精神的支柱である中村知春は、周囲のサポートに応えるためにも「めっちゃ勝ちたかった」としょぼくれた表情を見せた。

 前回大会、そして前日と勝った相手に敗れた。
「悔しいですが、(やはりNBAは強い。それだけに)倒しがいがありますね」
 そして、「だから、この大会はおもしろい」と続けた。

 勢いよく勝ち上がったけれど、最後まで勝ち切るのは簡単ではない。日本代表経験者も多いが、若い選手も台頭しているチームだ。「新しい種類の空回りがあったかも」と感じた。
「まだ経験できていないことが多いチームなので、一人ひとりが頑張りすぎたり、ボールを持ちすぎたり、行きすぎてしまったところがあった。ありがたい経験ができたと思って、次にまた頑張ります」

 前回大会覇者のPEARLSの各試合では、対戦するチームのチャレンジ精神が伝わってきた。接戦も多かった。
 悲願の4強入りを果たした自衛隊体育学校PTSのパフォーマンスからは迷いのなさが感じられ、2大会ぶりにこの舞台に立った北海道バーバリアンズも5位と奮闘した。
 8時30分に第1試合キックオフ。暑熱対策として正午過ぎからの約3時間のインターバルを経て、15時に競技再開と長い一日も、観客は、それぞれの試合を思い思いの応援スタイルで楽しんでいた。
 今季はサクラセブンズの選手たちもそれぞれの所属チームでプレーしており、楽しめる要素が詰まっている。

【写真左上】3位となったPEARLSのサラ・ヒリニ(左)。ニュージーランド代表で培ってきたことをチームに伝えている。【写真右上】健闘した自衛隊体育学校PTS。シンプルに意思統一されていた。【写真左下】各チームも暑熱対策。【写真右下】暑い中、熱心な応援が続いた。(撮影/松本かおり)
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