![【女子日本代表 32-19 スペイン代表】トイレの貼り紙、実現へ。小牧日菜多[PR]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/07/KM3_2153_2.jpg)
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ひ弱なサクラはいなくなった。
7月19日、ミクニワールドスタジアムでおこなわれたスペイン代表戦で、女子日本代表、サクラフィフティーンが32-19と勝利した。
前半20分までに10-0とするも、後半に入って流れを失い、残り15分を切るまでに13-19とリードを許した。
しかし、そこから3トライを重ねて逆転した。

相手より多い運動量で走り勝つのは、日本ラグビーの伝統だ。そこを高め続けてきたのも、サイズの差を覆して勝利を得た勝因だった。
しかし、この日は強化を図ってきたフォワードが試合を決めた。スクラム、ラインアウトが安定し、モールで前に出た。奪った5トライすべてをフロントローが挙げた。
前半8分、17分のトライは、プロップ、1番の小牧日菜多(ひなた/東京山九フェニックス)がボールをトライラインの向こう側に置いた。
先制トライは相手ゴール前、左サイドのラインアウトから。モールを組んだ後、何度か近場を攻めた。小牧も低くボールキャリーし、ディフェンダーの足元を突破した。
2つ目のトライは、スペイン陣に入っての、安定したスクラムが起点となった。
バックスがゴール前に近づく。相手との組み合いから頭を上げて、すぐに攻撃に加わった。味方が何度かくさびを打ち込んだ後、SH阿部恵と連動して前に出ながらボールを受けた小牧は相手選手のタックルを受けながらも5点を追加した。

後半36分までピッチに立った。
13-19とリードされていた後半24分頃には相手のトライラインドロップアウトのボールを受けた後の攻撃の途中、山本実との連係から防御間を突破して30メートル近く走る。敵陣深くに入り込み、その後、チームがトライを重ねる流れを作った。
2トライを奪い、いいスクラムも組めたのだから、試合後の小牧の表情は晴々としていた。
「(自分のは)全員で取ったトライです。みんながいるべきところに、いるべきタイミングでいたから、私が取れました」
直近のアジアチャンピオンシップの2試合(2025年5月)には先発出場も、世界の上位国との試合に出るのは久しぶりだった(2024年9月のイタリア戦以来)。
「このチャンスを待っていました。(なかなか出られない)その時間は苦しかった」と振り返る。
今回のスペイン戦での先発が決まり、「自分を体現する時間がほしいと試合を待っていたので、自分らしく楽しんで戦おう」とのマインドセットで戦いに臨んだ。
ピッチに立てない間も、いつ声をかけられてもいい準備を繰り返していたから、「自信を持って試合に臨めました」。
この1年で、「試合に出られていた頃より、体だけでなく、心も強くなれた気がしています」と言った。
試合から遠ざかった期間、「同じように出られない人や、怪我でここにいることができない人たちの思いや努力を知って、学びがありました」と振り返る。
「自分のためだけでなく、チーム、チームを支えている人たちみんなのために戦いたいと思いました」

今年4月、アメリカ代表から39-33と歴史的勝利を挙げた試合では、23人の登録メンバーに入りながら出場機会がなかった。喜ぶ仲間の笑顔がまぶしかった。
「自分がこのチームにもたらしているものは何もないとは思いませんでしたが、(やってきたことを自分で)体現するチャンスを貰えなかったのが悔しかった」
でも、「一緒にチームを作ってきた思いはあったので、悔しさより、嬉しさのほうが大きかった」とも言う。
そんな心の動きも、自分を人間的に大きくしてくれたのだと思う。
レスリー・マッケンジー ヘッドコーチには、「ラインアウトのモールディフェンスとスクラムのディフェンスは、相手が日本に勝つためにフォーカスしてくるところ。そこで戦える選手を使う」と言われているから、その要求に応えられるようにレベルアップを図っている。
加藤幸子、峰愛美、吉田菜美らライバルたちと、毎回の練習で切磋琢磨し、「競争の中で高め合えていると思います」という。
「それぞれが強みを出す中で、私はチームが求めるスクラム、モールには当然フォーカスしながら、ボールキャリーとタックルでいちばん輝きたいですね」

前回大会に続いての、2回目のワールドカップ(以下、W杯)出場の夢を実現させたい。戦いの地、イングランドへ向かえる選手たちが決まるのはもうすぐ。
「きょうはスクラムでペナルティを1つも取られなかったのはよかった」と笑顔を見せる24歳は、「まず次のスペイン戦が大事」と気持ちを引き締めていた。
2022年にニュージーランドで開催された前回W杯では、わずかな時間しかピッチに立てなかった。同じポジションには、キャプテンの南早紀がいたこともある。「その背中が大きく見えていた」と回想する。
帰国して、自室のトイレの扉の裏、便座にすわっていちばん目に入る場所に「ワールドカップ ベスト8、1番を着る」と書いた紙を貼った。
「毎日それを見てきました」と話す顔がかわいらしかった。
約1か月後に迫った大舞台に、いまからワクワクしているのだろう。