logo
【チーム増える、車いすラグビー】日本選手権予選/高知大会、Freedomが全勝で1位通過。新チームCOASTは初勝利を飾る
池透暢(Freedom)の世界基準のパフォーマンスが光った。(撮影/張 理恵)

【チーム増える、車いすラグビー】日本選手権予選/高知大会、Freedomが全勝で1位通過。新チームCOASTは初勝利を飾る

張 理恵

 熱い思いがコートにひしめく高知予選となった。

 7月5日と6日、「第27回 車いすラグビー日本選手権予選 高知大会」が高知県立障害者スポーツセンター(高知市)で開催された。
 今大会には、Freedom(高知)、AXE(埼玉)、Okinawa Hurricanes(沖縄)、COAST(神奈川・千葉)の4チームが出場し、Freedom(3戦全勝)とAXE(2勝1敗)が本大会への切符を獲得した。

 安定の強さを見せたのは、パリ・パラリンピック日本代表キャプテン、池 透暢がヘッドコーチを兼任するFreedom。日本選手権では第24回大会の初優勝をはじめ、準優勝3回、3位が1回と、国内トップレベルを誇る強豪チームだ。
 今回の予選でFreedomは、池がベンチスタートした第1戦(対COAST)と第2戦(対Okinawa Hurricanes)の第1ピリオドではビハインドを背負うも、徐々に連係が機能し始めると相手をぐんぐん引き離し、3連勝を収めた。

見応えあるバトルを演じたFreedomの白川楓也(左)とCOASTの青木颯志(右)。(撮影/張 理恵)


 なかでも圧巻の立ち上がりから勢いに乗ったのが、AXEとの最終戦。
 日本代表強化指定選手の白川楓也と池のホットラインが炸裂し、第1ピリオドで5点のリード、前半終了時には9点差とAXEを圧倒した。

 池がコートに現れると、テンポも、強度も、次元もたちまち変わる。
 キレのある車いす操作に、コートの4分の3にも達する正確なロングパス…と、世界基準のパフォーマンスが観客の視線を奪った。

 そして、池の頼もしい相棒である白川のプレーも光った。
 絶妙のタイミングでディフェンスを振り切りスタートを切ると、池からのパスをキャッチしてトライへと持ち込む。1on1で抜き去るシーンも多く見られた白川は、司令塔として仲間の動きをコントロールし、チームを勝利へと導いた。

 また、和田将英と畑中功介の奮闘や、角 佳樹の成長がチーム力を押し上げた。
 国内最年長63歳の現役プレーヤー・和田は、ボールを受け取ると果敢にゴールを狙い、池・白川に次ぐ戦力としてコートを走り続けた53歳の畑中は(トライラインに背を向け)バックで鮮やかなトライを決めてみせ、会場を沸かせた。

 さらに、今年4月の「SHIBUYA CUP」(若手の育成を目的とした国際大会)で日本代表デビューを果たした角は、コート上での視野が広がり、パスの判断や、自らスペースへと走り込みゴールにつなげるなど大きな成長を見せた。

 ヘッドコーチの池は、今大会での戦いを振り返り、「(主力となる)ファースト・ラインアップに関しては、攻守ともに良い精度でプレーができた。課題はセカンド、サードラインとメンバーを変えたときに、どれだけ安定したプレーができるか。ただ、大会を通じて尻上がりによくなっていたし、カギを握るメンバーたちが、みんな成長して戦えた」と、手応えを口にした。

 そして本大会に向けては、「(競技をする目的によって)向上心の違いや、体力的な問題もあるが、そこを埋めてこそチーム。もう一度、日本選手権の決勝の舞台に立ちたい、優勝したい。やはりそこには喜びがあるので、どんな形でも選手権の優勝を目指してチームで取り組んでいけたら」と、王座奪還への決意をにじませた。

190センチの長身を活かしたパワーとパスを強みとするコナー・トゥイーディ(右/ AXE)。5年前に車いすラグビーを始める前は、ラグビー(15人制)に励んでいた。(撮影/張 理恵)


◆新しい風、吹く。


 車いすラグビーの国内リーグでは、東京パラリンピック以降、新チームが続々と誕生している。
 2022年には大阪を拠点とするWAVES、昨年には東京にGLANZ、そして今年結成したのが、神奈川と千葉をホームタウンとするCOASTだ。

 AXEに所属していた山口貴久と乗松隆由が中心となり立ち上げたCOAST。チーム代表、アシスタントコーチ、選手を兼任する山口は、結成への思いをこのように語る。

「若手で車いすラグビーをやりたいという人が周りにけっこういたが、やれる環境が少なかった。そういう選手をしっかり育成していく場を作りたかった。それに、地元の神奈川にチームがなかったので、また立ち上げて、神奈川のチームでプレーしたいという思いもあった」(※かつては横浜を拠点とするクラブチーム「横濱義塾」があり、山口も所属)

 そしてヘッドコーチを兼任する乗松は、自らの経験から、競技の普及や発展に対して、ある思いを抱いていた。
「2、3年前から韓国リーグでもプレーするようになり、普及活動ではインドにも行った。そういう中で、アジアの車いすラグビーは日本の一強、日本だけが突出して強いということをあらためて実感させられた。この現状は日本にとってもあまり面白いことではないし、アジアの他の国々のレベルが上がれば、巡り巡って日本にもいい影響が与えられる。アジアの選手を積極的に受け入れ、日本でプレーしてもらい、そこで得た経験を自国に持ち帰って一緒にレベルアップできるようなチームを作りたい、そういう思いが出てきた」
 新たなチーム設立への、山口と乗松の思いが重なり、動き出した。

注目の一戦となったAXE対COASTは手に汗握る展開となった。(撮影/張 理恵)


 結成から3か月。今回の予選には、日本代表強化指定選手でありAXEから共に移籍した青木颯志、車いすツインバスケットボール(※)との二刀流を目指す3選手、そして韓国から2名の、8人で選手登録。(※重度障がいのある選手がプレーできるように日本で考案されたバスケットボール競技)
 いざ、初の公式戦に挑んだ。

 初戦のFreedom戦では、序盤で最大6点のリードを奪い存在感を示すも、44-59と大敗。
 それでも、乗松にとっては心に刻まれる、大事な試合となった。
「4月に始動して、チームのロゴを作ったり、人を集めたり、ウェアを決めたり、練習を組んだり。大変ではあったが、この初遠征、初の公式試合を終えたら、何かひとつ、チームとして大きなマイルストーンを達成できるのではと思い大会に臨んだ。負けてはしまったが、みんなで予定を合わせてここに来て、試合することができて感無量。ああ、やっとチームができたんだって感じられました」

 続く2戦目の相手はAXE。大きな注目を浴びた。
 COASTは、昨シーズンまでAXEでプレーしていた山口、乗松、青木、そして韓国代表のイ・ソンヒをスタメンに起用。ティップオフを控えたコートでは、両チームが笑顔で握手を交わす場面も見られた。

◆『COAST』に込められた意味。


 試合は一進一退の攻防戦となり、第1ピリオドは3つのターンオーバーを奪ったCOASTが12-11とリード。第2ピリオドでは互角の戦いが続き、23-23の同点で前半を折り返した。
 しかし後半、COASTは勢いに乗りかけたところでミスを連発。さらには、AXEに新加入した、SHIBUYA CUPオーストラリア代表、コナー・トゥイーディの体格を活かしたパワフルなプレーに苦戦を強いられる。必死にくらいつくも、第3、第4の各ピリオドで4連続得点を許し、41-47と負けを喫した。

 試合後、がっくりと肩を落とした20歳の青木は「レベル的には同じくらいだったし、自分がいたチームだったので勝ちたかった。チームにいい流れがあったのに、そこでプレーが雑になってしまい、自分の頼りなさが出た」と、悔しさをにじませた。

公式戦で初勝利を収めたCOAST。会場から大きな拍手が送られた。(撮影/張 理恵)


 一方、AXEの羽賀理之は「戦況がどうなるか分からない中、負けたら実質プレーオフという状況もあったので、勝ち切れてよかった。勝因としては、突破力があってパスも出せるトゥイーディの存在が大きい。相手のミスにも助けられた」と『因縁』の一戦を振り返った。

 そうして迎えた大会2日目の最終戦。パリ・パラリンピック金メダリストの若山英史と、日本代表強化指定選手の壁谷知茂を擁するOkinawa Hurricanesに対し、アグレッシブに攻め続けたCOASTは、第3ピリオドで相手をわずか3得点に抑える好守備も見せ、50-33で圧勝。公式戦で初勝利を収め、笑顔と喜びに包まれた。

 COAST代表の山口は「とてもいい試合ができたので、これを経験としてもっと強くなりたい。日本選手権出場が今シーズンの目標」と、プレーオフへの意気込みを語った。
 そして、ポイントゲッターとして勝利に大きく貢献したイ・ソンヒは「新しいチームで初勝利をともにすることができてうれしい。日本は高いレベルのラグビーをしているので学ぶことも多い。ここで学んだことを韓国に還元していきたい」と笑顔を見せた。

 チーム立ち上げメンバーの山口と乗松、ふたりとも海岸に近い場所に住んでいることから、名付けたという『COAST』。ただそこに、もうひとつ、意味を込めた。

「バスケのNBAをよく見るが、なかでも好きなのが『コースト・トゥ・コースト(Coast to Coast)』というプレー。ディフェンス・リバウンドを取った選手がそのままボールを運んでゴールを決めるというプレーだが、そういうふうに、コートの端から端まで走り切って、誰もがトライを決める意識を持つチームにしたい。そういう思いも込めてCOASTにした」(乗松)
 アジアの未来をも見据えるCOASTが、どんなラグビーを見せていくのか、楽しみだ。

Okinawa Hurricanesは全敗に終わるも、壁谷知茂(中央)は若手の成長を称えた。(右・COASTの山口貴久、左・乗松隆由)。(撮影/張 理恵)


 3会場でおこなわれた車いすラグビー日本選手権予選は、これで1次予選が終了し、各会場の上位2チーム、計6チームが本大会への出場権を獲得した。
 9月には北海道で残り2枠をかけたプレーオフが開催され、COASTとOkinawa Hurricanesを含む5チームがしのぎを削る。

 また、10月には1次予選で1位通過した3チームが出場する埼玉大会、11月には2位同士による神奈川大会が予定されており、本大会の前哨戦として注目される。
各チームがどんな道のりを経て日本選手権にたどり着くのか。頂上決戦まで、あと5か月だ。


【試合結果】
◆大会1日目
AXE ○ 55 – 33 ● Okinawa Hurricanes
Freedom ○ 59 – 44 ● COAST
AXE ○ 47 – 41 ● COAST
Freedom ○ 53 – 44 ● Okinawa Hurricanes

◆大会2日目
Okinawa Hurricanes ● 33 – 50 ○ COAST
Freedom ○ 54 – 48 ● AXE

ALL ARTICLES
記事一覧はこちら