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テストマッチ並みの激しいフィジカルバトルを制したのはクルセイダーズだった。
赤く染まったスタジアム。準決勝の死闘を乗り越えたクルセイダーズは決勝の舞台でも、その強さを存分に発揮した。プレーオフでの戦いを知り尽くしたチームの勝利への執念、まさに「クルセイダーズのDNA」を見せつけて16-12でチーフスを撃破。2年ぶりに王者に返り咲いた。
選手、コーチ、スタッフ、そしてスタジアムを埋め尽くしたクルセイダーズファンの誰もが「絶対王者」の復活という最高のドラマに酔いしれた夜だった。
◆選手入場時の歓声とブーイング。ファンのクルセイダーズへの想い
6月21日(土)の午後7時5分(現地Z時間)、クライストチャーチは冬の冷え込みを感じさせつつも、夕方には天候が回復。スーパーラグビー・パシフィック決勝にふさわしいコンディションとなった。
昨季の大不振から2年ぶりの王座奪還に燃えるクルセイダーズが、3年連続で決勝に勝ち上がったチーフスを迎えた。チケットは即完売。スタジアムは文字通り「フルハウス」の熱気に包まれた。
チーフスの応援に欠かせない「カウベル」の禁止処置の発表は試合当日まで物議を醸した。これに加え、クルセイダーズはホームアドバンテージを最大限に活かすべく、ゴールポストをチームカラーの赤色に光らせる演出をした。
スタジアムは赤黒のジャージをまとったクルセイダーズファンが大半を占めたが、熱狂的なチーフスのファンも北島からスタジアムに駆け付けた。試合前から両チームの一部のファンによるヤジが飛び交うなど、ピリピリした緊迫感も見られた。

決戦の時間が迫ってきた。クルセイダーズのホームゲームでお馴染みの、騎士がピッチを駆け巡る演出の登場だ。決勝ということもあり、騎士もいつも以上に雄たけびを上げ、観客のテンションを押し上げた。
そして、いよいよ選手入場。盛大なアナウンスとスタンディングオベーションに出迎えられ、先にクルセイダーズの選手が入場すると、スタジアムの熱気は最高潮に達した。気持ちが高ぶる瞬間だ。
続くチーフスの入場時には、前週の準決勝のブルーズ戦でも見られた激しいブーイングが響き渡る。相手チームへのリスペクトという点では疑問も残るこの光景は、この決勝が、単なるラグビーの試合にとどまらないない事を示していた。愛するチームが昨季は9位に沈み、プレーオフ進出すら逃した。「絶対王者」のそんな姿を目の当たりにしたファンの、チームへの並々ならぬ想いと情熱が凝縮された、独特な空気が感じられた。
◆一進一退の攻防、わずか1点差で折り返す。
試合は開始早々の、クルセイダーズWTBセブ・リースの強烈なタックルで幕を開けた。スタジアムがどよめく。チーフスは相手のシンビン(10分間の一時退場)で数的優位に立つと、PRジョージ・ダイアーのトライで先制した(0-7/13分)。
しかし、王座奪還に燃えるクルセイダーズも反撃に出る。ベテランHOコーディー・テイラーがタッチライン沿いを爆走してトライ。10番リヴェス・ライハナが難しいコンバージョンキックを決めて同点に追いつく(7-7/27分)。その後、28分、34分にライハナが2本のペナルティゴール(PG)を成功させ、13-7とリードを広げた。
チーフスも前半終了間際の38分に15番ショーン・スティーヴンソンのトライで食い下がる。しかしマッケンジーのコンバージョンは失敗。クルセイダーズが13-12と僅か1点のリードで折り返した。まさに、一進一退の攻防だった。
◆スクラム、キッキングゲーム、鉄壁の防御でクルセイダーズが王座奪還。
ハーフタイムでの両チームのコメントは対照的だった。
チーフスのクレイトン・マクミランHCがキッキングゲームの課題を挙げる。クルセイダーズのロブ・ペニーHCはチームのポジティブな状態に言及。この差がその後の展開を左右した。
後半はスコアがほとんど動かぬ、緊迫した展開が続いた。
明暗を分けたのはキッキングゲームの差だ。チーフスは54分に逆転のPGのチャンスを得るも、マッケンジーが決めきれない。クルセイダーズは後半唯一の得点となる73分のライハナのPGで16-12と4点差に広げ、チーフスを精神的に追い詰めた。
結果、この4点差を死守したクルセイダーズが勝利をつかんだ。

【写真右上】この試合のMOMのライハナ(右)と10番育成に貢献したオコナー(左)
【写真左下】ラインアウトでクルセイダーズに対抗したチーフスのLO陣。トゥポー・ヴァアイ(中央)とナイトア・アクオイ(右)
【写真右下】表彰式を呆然と見つめるチーフスSOマッケンジー
クルセイダーズの勝因は鉄壁のディフェンス。そして、試合を大きく左右したのはスクラムとキッキングゲームだった。73分のPGも、精度の高いキックでプレッシャーをかけて相手のミスを誘い、そこからスクラムで反則を得た。PGで3点を追加。まさに、シナリオ通りの試合運びだった。
チーフスはハーフタイムに出たキックの精度に関する懸念を後半も修正できず、クルセイダーズの巧みなキッキングゲームにより、後半は自陣に釘付けにされた。
クルセイダーズの15番ウィル・ジョーダンの安定感のあるキック処理と、特にWTBリースのワークレートの高さは際立っていた。開始早々のビッグタックルだけでなく、献身的にキックチェイスを繰り返し、極めつけは、ピンチの場面でのジャッカル(スティール)も光った。
そして忘れていけないのが司令塔ライハナの働きだ。巧みなキックで常にエリアマネージメントを優位に進め、試合を完全にコントロール。活躍が認められてマン・オブ・ザ・マッチにも選出された。
クルセイダーズにとっては、見事な王座奪還だった。
◆昨年の脱落から見事復活。再び黄金時代を築くのか
途中出場のクルセイダーズSH、カイル・プレストンがボールを蹴りだすと共にフルタイムの笛が鳴り響いた。その瞬間、クルセイダーズの選手たちは歓声の雄叫びをあげ、抱き合う。まさにスタジアムが熱狂の渦に包まれた瞬間だった。
一方のチーフスは3年連続、決勝で涙を飲んだ。選手たちは呆然と立ち尽くした。勝者と敗者、二つの異なるドラマがピッチ上にあった。
試合直後のインタビューでチーフスのキャプテン、ルーク・ジェイコブソンは。「タフだった。私たちが敵陣に入った時、本当に良い攻撃ができたと感じたが、十分なプレーではなかった」と敗戦を悔やみ、クルセイダーズのエリアマネージメントの巧さを認めた。
この敗戦により、今季でチームを去るクレイトン・マクミランHCの最後を花道で飾ることは叶わなかった。
2017~2023年まで7連覇を達成しながらも、2024年度の昨季はプレーオフ進出を逃す(レギュラーシーズン9位)大不調に陥ったクルセイダーズ。その悔しさをバネにつかんだ優勝は、格別だったに違いない。優勝の瞬間選手たちの喜びようは、その苦難を乗り越えた証に見えた。
優勝トロフィーを掲げる主将のハヴィリと仲間たち、そして昨年メディアの標的にされていたペニーHCがチームの仲間と共に歌い、踊る姿が印象的だった。

ペニーHCは試合直後のインタビューで「まぎれもなく、大喜びしているよ」と率直な感想を口にし、チーム全体への感謝と共に、キャプテンのハヴィリを始め、テイラー、ジョーダン、そしてスコット・バレットなどのリーダーグループの多大な貢献を絶賛した。
今季レギュラシーズンでチーフスに2度も負けていた。そのため下馬評ではチーフ有利と言われていた。しかし、ルセイダーズはプレーオフにしっかりとピークを合わせ、本来の強さを取り戻した。
スーパーラグビーで15回目(2020,2021年のスーパーラグビー・アオテアロアを含む)の頂点に輝き、ホームでのプレーオフ連勝記録も32に伸ばした。一年の休暇(不調)を経てクルセイダーズの黄金時代が再び継続する可能性も感じられた。
激戦の準決勝、そして点差以上に力の差を感じた決勝を見ているとそんな気になる。
絶対王者の復活に、スタジアムは熱気に包まれた。トロフィーを取り戻した選手たち同様、ファンも笑顔で溢れていた。
「クルセイダーズ、コール」が止まなかった。気温0度に近く冷え込んだクライストチャーチのスタジアムだったけれど、ファンは選手たちからずっと離れなかった。